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209 転移の柱 6

 帰り支度をしていると、ファードさんからの使いがやってくる。帰る前に顔を出してほしいということだった。

 まとめた荷物を持って、ファードさんたちが使っている大テントに入る。


「来たか。まずは警戒と掃討戦ご苦労だった。報酬は受け取ったか?」

「はい、受け取ってます」


 警戒などのほかに、ファードさんたちの救出でも報酬が出ていて、劣化転移板と金貨十枚が渡されていた。


「では本題に入ろう」


 そう言ってファードさんはA4サイズの分厚い封筒を差し出してくる。

 受け取ったそれの裏表を見てもなにも書かれていない。


「それをタナトスの一族に渡してほしい。今回の詳細が書かれている。あそこはダンジョン内の見回りをしているからな。詳細を知っておいた方がいいだろう」

「こういうのは役所が届けるものでは?」

「仲良くやっている冒険者がいるからと担当が自腹で報酬を準備して、依頼を出したんだ」


 それでいいのか。いやまあ、タナトスの人たちも役所の人から嫌がられながら説明を受けるよりはましなのかな。


「この内容は俺が知ってもいいんですか?」

「大丈夫だ。聞きたいならここで説明するぞ」


 お願いしますと頭を下げる。

 ファードさんは、魔教信者を兵が拘束したところから話し始める。

 

「その信者が逃げ出して、時間が少し経過した深夜にダンジョンに接近した」

「逃げちゃったんですか」

「捕まるときに属性道具を飲み込んでいたようでな、牢屋に入れられているときに吐き出したらしい。ほかの信者が騒いでそちらに気を取られている間に、魔法を使って穴を開けて逃げたということだそうだ」

「さすがに飲み込んでいたら取り上げることはできませんか。魔教信者はなんでダンジョンに近づいたんでしょ」

「なにを考えていたのかわからん。ほかの魔教信者は牢屋で死んでいたから、そちらから聞くことも無理であったよ。彼はダンジョンに入り、魔法を使ったようで粉微塵になり、その血肉がダンジョンに吸い込まれた。その後ダンジョンで地震が起きて、各階で異常がおきた。こういう流れだ」

「……」


 ゲームのイベントでそういった現象を見たことがあったか思い出してみたけど、該当する記憶はなかった。


「その人が今回の原因、ですかね」

「断定はできないが、それ以外に特に異常はなかったからな」

「人為的にこんなようなことを起こせるとしたら、また起きるかもしれませんね」

「そうだな。魔教信者がダンジョンに入ろうとしたら止めたいが、見た目で信者なのか判断つかないし、どうすれば止められるのか」


 悩ましいと首を振る。

 ダンジョンに入ろうとしている人たちをいちいち確認すると時間がかかりすぎるし、冒険者たちからも不満がでるだろう。

 俺もいい考えは浮かばない。あ、あと魔教信者だけが今回のようなことを起こせるとはかぎらない。ほかの奴らもその手段を得ていたら……大変としか言いようがないな。

 原因やら再犯防止はとりあえずおいといて、別のことも尋ねる。


「ここら辺りだけじゃなく、低い階でもモンスターの移動はありました?」

「あったみたいだな。役所やギルドに何件も報告が入っているそうだ」

「死者も出ましたか?」

「少数出たと聞いている。多くの冒険者は驚きながらも対応できたが、やはり驚いて生じた隙を突かれた者はいるみたいだ」

「ダンジョンで死者が出るのは珍しいことではないとはいえ、異変がもっと続いていたら増加していた可能性があるかもしれませんね」

「ああ、落ち着いてくれて助かった。とはいえ油断はできないが。しばらくはここを維持して観察することになっている。あまり冒険者がやってこないから、モンスターの変化がわかりやすいからな」

「今後もここに転移して、先の階層に挑戦してもいいですか?」

「かまわんよ。ただダンジョン内に変化があれば報告はしてほしい」

「もちろんです。ちなみにタナトスがここまで転移で来たいと言った場合は使えるんでしょうか」


 彼らも鍛錬の機会は逃さない方がいいと思うんだ。


「タナトスはここらで戦えるのか?」

「六十五階までは来ていますし、魔力循環を使えば六十九階とかに挑戦できると思いますよ」

「ではそのことを転送屋に話しておくとするよ」


 話すことはこれくらいかな。

 ファードさんたちに別れを告げて、転送屋の職員に地上まで送ってもらう。

 ルポゼに帰り、ロゾットさんと留守中の出来事を聞いたり、溜まっている書類を片付けた。

 夕食は外で食べることを伝えて、タナトスに渡す書類を持ってルポゼを出る。

 

「あら、こんにちは。いつもより遅めね」


 いつものようにシーミンの母親が出迎えてくれる。


「こんにちは。ダンジョンから帰ってきたばかりなんです。今日はシーミンだけではなく、タナトスの上位陣にお話しがあってきました」

「お話? わかったわ、とりあえず中へどうぞ。それにしてもダンジョンというと異変があったと聞いているわ。大丈夫だったの?」

「俺は大丈夫でしたが、いろいろと大変だったみたいです。それに関した話をしたいんですよ。これも役所から預かっています」


 書類をシーミンの母親に渡す。


「それの中身の詳細は知りませんが、今回の騒動に関したものだと聞いています。役人からの依頼で俺が届けることになりました」


 そうなった経緯を予想できたのか、シーミンの母親は苦笑して頷いた。

 リビングに通されて、椅子に座る。

 

「主だったメンバーを呼んでくるから少し待っててちょうだいな」


 テーブルに書類を置き、去っていく。

 少しばかり時間が流れ、一緒にダンジョンに泊まり込んだメンバーと年長者たちが集まった。

 シーミンもいて、隣に座っている。

 

「それではまずは私が読ませてもらうよ」


 最年長のお爺さんが封筒を開く。

 読み終わった書類を隣に渡して、次々と読み進めていく。

 その間にシーミンは俺に話しかけてくる。


「頂点会とダンジョンに泊まり込んでいたみたいだけど、今回の騒動は大丈夫だった?」

「俺はそこまで苦労しなかったよ。大変だったのはファードさんといった頂点会の上位メンバーだ」

「その人たちはどんなめにあったの」


 奇襲と劣化転移板の破損とレッサーデーモンの集中砲火という流れについて話すと、うわぁと悲惨さに引いた表情となった。


「モンスターが組むとそんなことになるのね」

「五十七階のロックドールと身代わり亀みたいに組むやつらもいるけど、そいつらはそこにいるとわかっているからまだ楽。今回のように想定していない事態になると、ダンジョンの難易度が上がるよな」

「そうね。単純に遠距離攻撃のモンスターと近距離攻撃のモンスターが組むだけでも大変だってわかるわ。頂点会でそうなったんだから、一般的な冒険者が七十階以降の調査に出ていたら壊滅していたわね」

「だろうね」

「それで異変はまだ続いているのかしら」

「ひとまずは治まったと判断された。でも念のため七十階の転移区画を維持して観察するみたいだよ。俺としては簡単に七十階に行けて助かる話だ」

「私も利用したいけど、力が足りなさすぎる」

「さすがに俺も止めるよ。ただここの上位陣は使えるように話は通してありますから、希望するなら転移しても大丈夫だそうです」


 俺とシーミンの会話に耳を傾けていた大人たちに向けて言う。


「七十階を楽に行き来できるのは助かる話だが、私たちの実力でやっていけるだろうか」

「先に進まず六十九階とか六十八階で戦うならやれると思いますよ、魔力循環があるんですし。万が一のため劣化転移板を持っていけばさらに安心でしょう」


 それならなんとかなりそうだと大人たちは頷く。


「デッサは今回の鍛練でどこまで行けるようになった?」

「七十五階までは行ったけど、それはファードさんたちの捜索でほかの人と組んで行ったからなー。戦うだけなら七十五階でもなんとかなる。そこに行くまでの消耗とか考えるとまだ早いと思う。一度行ったし、そう遠からず行けるかなって結論」


 今回の鍛練でそこそこ経験値は稼いでいるしね。徐々に成長限界が近づいてるような気もしている。

 おそらくレベルは十九手前まで来ていると思う。


「やっぱり早い」

「頑張ってるからなー」


 今回の騒動のことから鍛錬にどういった人が来ていたかという話に変わっていき、大人たちはその間に書類を読み終わる。


「待たせたな」

「いえいえ、それで内容はどんな感じのものだったのか聞いて大丈夫でしょうか」

「かまわんよ。君の話していたものを詳細にした感じだ。騒動が起きた原因の推測、どの階層のモンスターの組み合わせが厄介だったか、どこで死人が出たかというものだ。そして今後我らが見回りをするときに、異変が起きていないか確認してほしいということも書かれていた」

「なるほど」

「そのことに関して、了承したと役所に伝えてほしいのだがかまわないかな」

「はい、大丈夫です」

「あとは過去似たようなことが起きたかうちの記録を探ってほしいということも書かれていた。私が覚えているかぎりではないと思うが、一度皆で調べてみようと思う。そのことについても伝えてほしい」


 再度了承したと頷く。

 

「それでは用件はすんだので、そろそろおいとまさせていただきます」

「夕食がまだならうちで食べていかない?」


 シーミンの母親が夕飯に誘ってくる。


「ダンジョンから帰ってきたばかりで、がっつりと食べたいんで今日のところは遠慮しておきます。また今度お土産を持ってくるので、そのときごちそうになります」


 シーミンとその母親に玄関先まで見送られて、タナトスの家から離れる。

 役所はまだ開いている時間だろうから、さっさとタナトスからの返事を伝えて、美味しい肉料理を出す店に行こうと歩みを早めた。


 二日経過してハスファとメインスがやってきたときに、ダンジョンの話を聞かれた。

 町長から報告が入ってきているそうだけど、直接体験した者からも聞きたかったそうだ。

 神殿の関係者もダンジョンに入っているから、そっちから聞けばいいと思ったけど、七十階までは行っていないので、そこの状況を知りたかったらしい。

 騒動の話に関連して、死者について二人から聞くことになった。

 この二日で、今回の騒動での死者が増えていたようだった。移動したモンスターがまだ残っていて、想定外の戦いになったせいで死者が増加したようだ。

 一番死者が出たのは十五階から二十五階の浅い階だそうだ。一人前手前のダンジョンに慣れ始めた若い冒険者たちが、不意をつかれて犠牲になったみたいだった。

 駆け出しはまだまだ警戒心が高く、対応できた者が多かった。一人前や熟練の冒険者も一定の警戒心を抱いていたため対応できた者が多かった。気の緩みがでてくる時期の冒険者が多く死者を出す結果となった。

 これを糧にして生き残った者たちは、ダンジョンは怖いところだと後輩たちに伝えていくことになるのだろう。


 ダンジョンに異変があって日数が経過すると、各地の大ダンジョンでも起きていたとメインスから教えてもらえた。

 魔教がなぜそんなことをしたのかはわからないが、偶然や勢いのみの行動ではないと思われた。

 五つの大ダンジョンで、ほぼ同じタイミングでやらかしたことでなんらかの意図を持っていたと各国首脳は考えたようだった。

 各地で警戒を高めたおかげか、同じような異変が起こることはなく時間が流れていく。

 ミストーレでは強者のさらなる強化を進める方針が実現化されて、秋の大会が開かれるだいぶ前にロッデスといった強者が集まってきていた。

 そういった者たちも七十階への転移を利用しているためか、七十階周辺のモンスターの数は減少傾向であり、特に見張りを立てずとも手前の階にある転移の柱のように壊されるようなことはない。

 大会が終わるまではこの状態が続きそうだとファードさんが言っていた。

 これを機に、七十階前後で戦う冒険者が増えて、転移が安定してくれれば助かるとも言っていた。

 俺としても移動が短縮できてありがたいから、このまま転移の安定化を期待したいところだ。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 犠牲者はやはりそれなりの数が出ちゃいましたかー ダンジョンの常識が破壊されて不意を突かれてはどうしようもないですわな
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