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207 転移の柱 4

 パルジームさんを先頭にして進む。七十階はモンスターが俺たちに集まって減っていたからか、遭遇することはなかった。

 七十一階に下りて、周囲を見渡す。


「特に変化はないかな」

「そうだな」


 隣にいるホルストさんも周囲を見渡し同意する。

 パルジームさんから先に進もうと声をかけられ、七十二階へと続く坂道を目指す。

 十分ほど歩いてパルジームさんが足を止め、耳を澄ますような仕草を見せた。

 ターゴさんがどうしたのかと聞く。 


「遠くにだがランスビートルがいそうだ」

「ランスビートルは七十三階のモンスターでしょ? 二階分先のモンスターも出るってことかしら」

「かもしれん。聞き間違いの可能性もあるからまだ断言はしないでおく」


 そう言ってパルジームさんはまた歩き出す。

 パルジームさんの言葉は嘘ではなかった。七十一階のダンジョン内を飛ぶ、ランスビートルがいたのだ。

 一階分だけではなく、二階分先のモンスターも出てくるようになったのかと思いつつ、七十二階に通じる坂道に到着したとき、その考えは間違っていたとわかった。

 坂道を飛んで移動してきたランスビートルと遭遇したのだ。

 それはホルストさんと協力して倒せた。


「七十一階で生まれたわけじゃなくて、下から上がってきていたんですね」


 違う階のモンスターがいる理由は、わかればあっけないものだった。

 でもずっとモンスターはその階層で生まれてくるものと考えていたから、普通に移動してきたのではなく生まれきていたのだと思い込んでいた。


「七十階に出たイグズベアも上がってきたということなんでしょうね。私も生まれたのだと勘違いしていたわ」

「次々と生まれてきてうろつくわけじゃないのは助かる話ですけど、強いモンスターが移動して浅い階層で暴れる可能性もでてきましたね」

「そうね。無制限に移動されると困ることになるわ。移動が可能ならダンジョンから出ることも可能かもしれないし、これまで以上に監視を厳しくしないといけないかもしれない」


 今頃、一階や二階のモンスターが町に出ているかもしれない。

 あそこらへんのモンスターは冒険者じゃなくても倒せるけど、いきなりモンスターが出てくると混乱は起きそうだ。


「この異変が今後ずっと続くなら、ダンジョンを進む難度は上がるわ。これまでの経験と知識が役立たずになるかもしれないと思うと、頭が痛くなってくるわね」

「今はファードさんたちと合流することだけを考えよう。先のことは後回しだ」


 パルジームさんはそう言って、より注意して七十二階に移動しようと付け加え坂道を進む。

 七十二階も上下階のモンスターが入り混じった状態だった。

 一体だけだがレッサーデーモンの姿もあった。顔がなく全身黒タイツのような姿で、こっちを見るとすぐに炎の玉を飛ばしてきた。その威力は三十階辺りに出てきて同じように魔法を使ってきたグレートインプとは比較にならないほどのものだ。

 七十二階を移動し、七十三階に到着する。

 俺にとっては初めての階層だ。ランスビートルとは戦って、勝てるのはわかっているけど、それでも初めての階はちょっと緊張する。


「ここにいるといいんですけどね。ここ以降は今の俺には厳しくなっていきますし」

「俺もそう願っているよ」


 パルジームさんはそう答えつつ周辺に意識を向ける。


「なにか聞こえるかしら」

「いや人の話し声といったものは聞こえないな。移動の前に言っておくことがある。この階は注意点がある」


 初めて来た俺のための説明だろう。

 

「ここはランスビートルの巣といってもいい場所で、彼らの出す魔力減衰の気体が常に漂っている。魔法も魔力活性も効果が減るということを念頭に置いておくように」

「わかりました」

「質問をいいだろうか」


 ホルストさんが聞き、パルジームさんは頷いて先を促す。


「魔力減衰はモンスターにも効果が適用されるんだろうか? レッサーデーモンが出てくるだろうし、あいつらの魔法も弱体化する?」

「わからんとしかいいようがない。俺がダンジョンに挑んでいたとき、ここにはレッサーデーモンは出てこなかった。楽観するよりも、減らないと警戒しておいた方がいいと思うぞ」


 了解したとホルストさんは納得した。

 注意点を受けて、七十三階を進む。すると霧のようなものが出ていて、その霧の中に人影が見えた。

 小声であの影は人間のものか、パルジームさんに聞く。


「違うと思う。あの霧は七十五階に出てくるファントムタートルのものだ。幻影を見せる煙を背にある穴から出すモンスターだ」


 ゲームだと命中率を下げてくる煙を出すモンスターだ。それがこっちでは幻を見せるというふうに変わったのか。

 あ、でも説明にも幻影で騙してくると書かれていたな。


「あの煙って魔力を帯びているんでしょうかね。だとするとランスビートルの出すもので効果が減じてないということでしょうか」

「魔力によるものだと思う。モンスター同士ならランスビートルの出すものは無視できると思った方がいいみたいだな」

「ということはこっちの魔力は押さえつけられて、幻も見せられて、その煙の向こうから奇襲してくる可能性があるということか」


 嫌そうにホルストさんが言う。

 たしかにその組み合わせは厄介でしかないな。


「劣化転移板が破損して、そんな状況なら足止めもされるわね。いやまあ違ったトラブルで足止めされている可能性もあるけどね」


 そう言ってターゴさんは溜息を吐いた。

 あの煙は避けて進むことにして七十四階へ繋がる坂道を目指す。

 ファントムタートルは多く移動してきていないようで、煙で閉ざされた通路は多くなかった。

 休憩がてら、七十四階への坂道の前で止まる。


「さてと、とりあえず目標である七十三階は見て回った。ここまですべて見て回ったわけではないが、ファードさんたちはいないと思う。いるとしたら先だ」

「先に進むかどうか、決めましょうということね。私としては進みたいけど、二人に無理はさせられないわ」


 ターゴさんもファードさんが心配ではあるものの、言葉通り無理させるのも悪いと思っているようで悩ましいといった表情だ。


「俺は七十四階までなら大丈夫。ここまで戦闘を避ける方針だったから余裕はある。だが七十五階はかなり厳しいとも言わせてもらう。ここまでの経験上、七十七階辺りのモンスターも出てくるだろう。もしかするとそれ以降のモンスターも。モンスターが入り混じった状態でそれらを相手できる自信はない」


 ホルストさんに同意だと俺も続く。


「魔力循環三往復を使えば、一度や二度は格上相手でもなんとかなりますが、逆に言えばそれだけしか対応できない。余裕をもって歩き回ることができるのは七十四階までだと俺も思います」

「わかった。七十四階の探索で切り上げよう。俺自身も厳しくなる頃合いだろう」


 三人が七十四階までと判断し、ターゴさんも異論はないようだ。

 十分に休憩し、出発する。

 七十四階はレッサーデーモンがメインで出てくる階だけあって、あちこちにいた。

 見つけたあれらはこちらに気付いた様子はなく、むしろなにかに気を取られた様子で同じ方向に向かっている。

 その先になにかあるのは確実で、レッサーデーモンが向かった方角にファードさんたちがいるのだろうかと俺たちもそちらに向かう。

 ついでに気を取られているのだからと、奇襲でレッサーデーモンを倒していく。

 

「方角的に七十五階の坂道に向かっていると思うが、ターゴはどう思う?」

「私もそう思う。七十五階に注目を集めるなにかがある。一番の可能性はファードさんたちで、二番目はこの異変の元凶かしらね」

「……七十五階に進んでみたい。奥には行かず、坂道付近を調べるだけだ。だが無理だというなら諦める」


 パルジームさんは俺とホルストさんに聞いてきた。七十四階で切り上げると決めていたことを破るということで申し訳なさそうだ。

 ホルストさんは少しだけ考え込んで答えを返す。


「このまま帰還するのは俺もどうかと思う。危険と判断したら即座に退いてくれると約束してもらえるなら」

「俺も本当に坂道周辺だけだと約束してもらえるなら」


 俺たちの返事に、パルジームさんとターゴさんは詫びと感謝を伝えてくる。

 奇襲を続けながら七十五階に続く坂道の近くまでくる。

 そこでは先に進むのが難しそうな光景が広がっていた。


「階下へと魔法を放ち続けていますね」


 集まったレッサーデーモンたちが、炎やら氷やらを七十五階へと撃ち続けていた。

 レッサーデーモンの数は六十体近く。

 あの魔法の隙間を通って七十四階に上がってくるのは不可能だろうと思わせる光景だった。

 ホルストさんがどうするとパルジームさんに聞く。


「さすがにあれだけの数を相手するのはきついぞ」

「そうだな」


 苦々しそうに答えた。

 さすがに突っ込むとは言えないわな。

 パルジームさんは目を閉じて集中する様子を見せる。

 その邪魔をしないように小声で、ターゴさんに話しかける。

 

「ターゴさんは魔力充填といった新技術も併用して、いっきに倒せる魔法はもっていないんですか?」

「何度かレッサーデーモンと戦ったことを踏まえて予想すると、あの場にいる全部にある程度のダメージは与えられるけど倒すにはいたらないわ。体力の半分くらいのダメージを与えるとかそんな結果になりそう」

「それで逃げてくれればいいんですけどね」

「ダンジョンのモンスターはそうそう逃げないからねぇ」


 パルジームさんが頷いて目を開く。


「おそらくだが、坂道の近くに誰かがいる。魔法などの音に混じって、金属の音が聞こえた。ここらの階に金属音を出すモンスターはいなかったはずだ」


 俺たち三人はこれまでに戦ったモンスターを思い返し、たしかにと頷く。


「でももっと先の方のモンスターが来て金属音を出しているかもしれませんよ」

「それに該当しそうなのは七十九階の黒サソリなんだが、出す音の高さというのか甲高さが違うように思えた」

「それでパルジームはどうしたいの」

「ひとあてして蹴散らして、坂道周辺を確認したあと撤退という流れでいきたい。最初にターゴの魔法、そのあとに魔力循環を使って暴れてもらう。この一戦に全力を尽くして、確認したあと劣化転移板を使う。これは俺の希望であって、七十四階に入る前に言ったように現時点で危険と判断して帰還という判断もありだ。俺は戦えないから、実際に戦う三人の判断を優先しよう」


 悩みどころだな。ファードさんが気になるから一回戦うだけなら俺はあり。

 魔力循環三往復と魔法耐性の護符を使えば、怪我はするだろうけどこの場はなんとかなると思う。

 それを伝えるとホルストさんもやるとのってきた。


「感謝する。すぐに劣化転移板を使えるように準備しておくから、少しでも無理だと思ったらこっちに走ってきてくれ」


 頷いて、戦いの準備を始める。

 ターゴさんは使う魔法の説明をしたあと、集中を始めた。

 使うのはプラーラさんが使っているような風の刃をいくつも飛ばすものだそうだ。

 ターゴさんの準備が整ったら、俺たちも魔力循環と護符を使用する手筈になっている。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 七十五階への攻撃が続いているってことは少し無理をしてでもここまで来て正解だった可能性が高そうですねー
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