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204 転移の柱 1

 ニルがルポゼを拠点にして、日数が過ぎる。

 鍛錬したいという発言に偽りなく、ダンジョンに通う日々だった。

 俺のようにペースを上げて戦っているようで、ディアノさんが疲れた様子なのが印象的だった。

 ディアノさんの疲労が溜まると彼女が休んでいる間に、ニルたちはかなり余裕のある階層に行きシールなしで戦っていた。

 一撃で倒せるモンスターでも、与えてくる浸食ダメージはきついようで、二時間ほどで宿に帰ってきてぐったりとしていたらしい。

 そんな様子を見ながら七十二階に進み焔猫を倒していると、頂点会から手紙が届いた。

 それを読んで、ロゾットさんにまたダンジョンに泊まり込むという話をしていると、マッサージから帰ってきたニルたちが通りがかった。


「ダンジョンに泊まり込むって聞こえたけど」

「うん、以前ファードさんたちと一緒にダンジョンに行こうって約束をしたんだ。それでそろそろ転移の柱を持ってダンジョンに入るからどうだって誘われたんだ」

「たしか七十階辺りに転移の柱を置くってやつだっけ」

「そうそう」

「常時置けるようになるのはいつだろうね」

「冒険者の地力が上がったら自然とそうなるだろうけど、まだ先のことかな」


魔王が復活して力を求める人が増えたら、その時期が早まるかもしれないけど。

 

「ニルは今何階だっけ」

「五十五階。まだダンジョンの行き来に不便は感じない階層だよ」

「ちょっと羨ましいな。七十階は移動だけでも時間を取られてね」

「たしかに六十階からの移動は大変だろうね。俺も六十階を越えていたら参加したかったんだけどね」


 気を付けて行ってきなよと言われて、頷きを帰す。

 翌日、打ち合わせのため頂点会に向かう。

 いつもなら鍛錬風景が見られる鍛錬場に、たくさんの荷物が置かれていた。

 荷物の点検をしているミナを見つけたから、声をかける。


「おはよう。出発の誘いをかけられたんだ。その返事をしにきてファードさんに会いたいけど、どこにいるの?」

「おはよ。爺ちゃんなら事務室じゃないかな」

「ありがと。それにしても荷物が多いね」

「転移の柱を守るためダンジョン内に拠点を作るからね。毎回こんなものよ」

「転移の柱があるなら食料の心配とかはいらないと思うけど、なにを持ち込むんだ」

「転移の柱があっても転送屋が常駐するわけじゃないから、食料も一応持っていくわよ。転送屋がいない間に柱が壊されたことがあったらしくて、食料を皆でわけて六十階まで移動したらしいわ」

「守れないこともあるんだ」

「そのときは色々と不運が重なったみたい。そういったことがないように対策をとってからは壊されるようなことはなくなった。でも念のためにいろいろな物資を持ち込むことにしたそうよ」


 なるほどなー。

 仕事の邪魔をしないようにミナから離れて、建物に入る。

 事務室に入ると、事務員らしき人と話しているファードさんがいた。

 ファードさんは俺に気付いて手招きする。


「おはようございます」

「おはよう」

「お誘いありがとうございます。一緒に行こうと思うのですが、こっちで準備するものはなにかあります?」

「ないが、いくらか費用を出してもらいたい」


 いくら必要なのか聞くと、金貨二枚だった。

 その内訳は食料やポーションや寝床を作る資材というもの以外に、転移の柱にかかる費用だった。

 転移の柱は使い潰すことになるから、転送屋にいくらか支払う必要があるんだそうだ。

 転移の柱を壊されず常に置けるようになれば、転送屋だけが維持費を出す。転移のお金で維持費などが賄えるそうだ。


「出発する日に渡すってことでいいですかね。それとも早めがいいですか」

「出発日で問題ない」

「ではそうします。一緒に行くにあたってなにか注意することとかはあります?」

「七十階につくまでは団体行動になるから、勝手な行動は慎んでほしい。戦いの素人も連れて行くことになるんだ、勝手な行動はそういった素人を殺すことになる」

「どうして素人を連れて行くんですか」

「転移の柱を発動させるのに、転送屋を連れて行く必要があるんだよ」

「ああ、そういうことですか」


 そりゃ連れて行かないと駄目だ。転移の柱は必須のものだから、使いたいなら転送屋も同じように必要になるのは当然だわ。


「あとは頂点会以外の冒険者がついてくることもある。いつもは先に進みづらくて六十五階くらいまでしか行かない者も、もっと奥に行けるからな。今回はいつもより多そうだ。町長から上位層の冒険者に鍛錬を励むように要請がきたんだ。話を聞くと、国からそういった働きかけがあったそうだ」


 ニルが言っていた魔王関連での行動だな。


「どうして国がそんな指示を出すのか、不思議に思ってさらに理由を聞くと、魔王復活に備えてと言っていたよ」

「やっぱりそれが理由ですか。ほかの人たちにも魔王の話はしたんでしょうかね」

「口止めした上で話しただろうな」

「どれくらい信じたでしょうか。信じられないという人が多そうですけど」

「噂話じゃなくて、国からの話だからな。それに大会で魔物が暴れた件もある。全部は信じずともまた魔物が出現したときのため鍛えようと考える者はいるだろうな」

「この前魔力循環の移動で集まった人たちがまた来そうですかね?」

「あのとき見た顔ぶれも来るだろう。これまで転移の柱を設置したときも何度か参加しているしな」


 参加者の中には、もともと魔力活性を鍛えていた人もいるだろうから、二往復を扱えるようになっている人もいそうだな。

 あとは出発日と集合時間と滞在日数を聞いて、頂点会から出てマッサージを受けるといったいつも休日を過ごす。

 出発日までには小さな出来事があった。それは捕まっていた魔教の一人が逃げたというニュースだ。残りはニルたちから聞いたように死んだらしい。

 そして出発日が来て、ロゾットさんたちに留守にすると伝えてから頂点会に向かう。

 鍛錬場に集めていた荷物を転送屋に運ぶのだ。ほとんど運ばれているようだけど、当日運ぶものもあるそうで、それの手伝いだ。

 顔見知りの頂点会のメンバーに挨拶して、食べ物の入った木箱を荷車に載せて運ぶ。

 ほかにも手伝いをしている人がいるから、この一回だけで終わりそうだ。

 荷物はいつも使っている転移する屋内じゃなくて、建物の裏手にある小さな庭に運ぶ。そこから六十階へ参加者が転移されていく。ここに集めた物資のほとんどは七十階に転移の柱が立てられると運び込むようだ。

 俺も一緒に転移してもらい、六十一階に向かう坂を目指す。その近くにある広間が集合地点になっているのだ。

 そこにはいつもはいない数の冒険者たちであふれていた。ざっと五十人は超えていそうだった。さすがにこれだけの数の冒険者がいるとモンスターも警戒するようで、ここに近づいてくる気配もない。

 頂点会の若手が参加者確認のため、持ち込まれたテーブルで書類を見ていた。


「おはようございます。参加者です」

「はい、デッサですねー。確認終わりでーす。出発まで待っててくださーい。あ、あと移動中は殿に加わってほしいです」

「りょーかい」


 若手は俺の顔を知っているので名乗らずともよく、出席の印を入れて確認終わりとなった。追加のお知らせも軽いものだ。

 顔見知りに挨拶して時間を潰していると、カンカンと硬いものを叩く音が響く。

 その発生源を見ると、ミナが金属製の筒を籠手で叩いてた。

 そのそばにファードさんがいる。


「そろそろ出発するぞ。移動は大きく四つにわける。斥候組と護衛組二つと殿だ。やってもらいたい役割は事前に報告しているから、その報告を受けていない者は、荷物の護衛を担当してくれ。もうそろそろ先に行った斥候組の一部が戻ってくる。その報告を受けて出発だ」


 冒険者たちが威勢よく返事をして、出発を待つ。

 五分もせずに二人の冒険者たちが六十一階から戻ってくる。

 二人から報告を受けて頷いたファードさんが出発を告げる。

 先に転送屋の護衛組が六十一階に進み、それを追って荷物の護衛組も進む。

 その場に残ったのは俺を含めて十人だ。その中にグルウさんがいる。


「グルウさん、殿の出発は何分後なんですか」

「そう時間はかけない。この砂時計の砂が落ち切ったら出発だ」


 今もさらさらと砂が落ちている砂時計をこっちに見せてくる。十分とかそこらの時間で落ち切ると思われる。


「いつもより人が多いって聞いたんだけど、いつもはどれくらいの人数なんです?」

「今回は七十人くらい、いつもは四十人を少し超えるくらいかな」

「三十人の増加ですか、以前魔力循環の指導会に参加した人全員が来たわけじゃないんだ」

「全員は無理だろう。あのときは将来性を買われて参加した人もいた。そういった人は七十階はまだ無理だ。俺とミナもな」

「あれ、二人とも七十階は無理?」

「魔力循環の鍛練で進むペースを遅らせていたからね。今は六十四階だよ」

「なるほどー」


 効率的な習得方法はなかったし、時間かけているのも仕方ないことなんだろうね。


「今回の泊まり込みはいい機会だから、頂点会の若手と一緒に拠点になる七十階から六十八階辺りまで移動して、魔力循環を頻繁に使って地力を上げるつもりだ。魔力循環を使えば戦えそうだから」

「頑張ってください」

「今後慌ただしくなりそうだから、頑張るよ。そういや魔力充填の最終調整を今回やるんだって、聞いてる?」


 聞いていないと首を横に振る。魔法関連は放置してたし。


「その調整がすめば発表できるって感じですかね」

「そうなんだろう」

「スムーズにいって、冒険者の力になったらいいんですけどねぇ」

「エイジアさんが上機嫌だったし、問題は粗方片付いて仕上げの時期なんだと思うよ」


 そりゃよかった。

 話しているうちに砂が落ち切った。

 グルウさんが出発を告げて皆で六十一階に進む。

 斥候組や護衛組が蹴散らしたおかげか、モンスターの数は少なかった。

 襲ってきたモンスターも一蹴して、六十二階へと続く坂道に到着する。

 そこには護衛組が待機していた。


「先に行った人たちに問題は起きていないみたいですね」

「そうだね。この調子で七十階まで行ってほしいもんだよ」


 俺たちが到着して三分ほどで護衛組が出発した。俺たちもまた少し待機して合流して出発を繰り返す。

 移動しながらグルウさんと話し、今日は移動と陣地設営だけで終わる予定と聞いた。

 話すのは六十五階までで、それ以降はグルウさんの警戒度が上がって会話は合流したときくらいだった。

 そうして七十階に到着し、一番大きな広間に陣地を作る。


「荷物護衛組は設営の手伝い。斥候と殿組は通路の警戒だ」


 ファードさんが指示を出してくる。

 この広間に繋がる通路は三つ。斥候組の半分が七十階の探索に出て、残る斥候組が一つの通路を警戒しているので、俺たち殿組は二手に分かれて警戒する。

 赤銅ムカデの相手をしつつ、設営を眺める。

 テントが立てられるのと同時に、転移の柱が立てられていた。ダンジョンの転送区画でよく見る文字の刻まれた柱が四本立った。

 ここまで守られてきた転送屋の従業員が、四本の柱に触れて詠唱のように口を動かしている。するとほのかに柱が光る。それで作業が終わりというわけではないようで、四本の柱で区切られたエリアに入って棒を使い、地面になにかを描いている。さらにワインボトルに入った液体を地面に注いでいく。そこまで終わって、四本の柱に触れると終わったようで、作業を見守っていたファードさんに話しかけていた。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 人類側も魔王復活に向けて徐々に準備が進んでいってるなあ デッサの成長含めて間に合うといいんですが
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