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201 売り込み 3

 食堂から出ていくメインスを見送り、ハスファがちょいちょいと俺の袖を引っ張る。


「もしかして詐欺に繋がる話なんでしょうか?」

「俺とロゾットさんはその可能性があると思っているよ。開店したばかりのところを狙った詐欺があるらしい」

「まあ詐欺じゃなくてもこの質だと買うのはなしでしょうな」


 そう言うセッターさんに、ですねと頷きを返す。

 メインスたちが戻ってくる前にささっとサラダが作られて渡される。


「先に味見してようかね」


 ちょいっとチックリーフを一枚とって、器をハスファに方に向ける。ハスファも一枚つまんで口に運ぶ。

 食べなれてないから珍しいけど、特別美味しいわけでもなかった。


「美味しくないとは言いませんけど、美味と賞賛はできませんね」

「そうだね」

「ただいまー。あ、もうできてる」


 器をメインスに渡すと、メインスは一つつまんで、護衛に器を差し出す。

 護衛が食べて飲み込んだのを見て、メインスはどうだろうかと聞く。


「食べ慣れた味だと思われます。私たちが使う食堂で出されるものと同じではないでしょうか」

「これは品質が良いと紹介されたようだけど?」

「これが高品質ということはありえませんね」

「ありがとう。外に戻っていいわ」

「その前にメインス様。我が国の人間が品質を偽り売っているとしたら問題でしょう。この品質が良いものと誤解をされては、頑張ってくれている農家の名を貶めることにもなりかねません。対処されますか?」

「ひとまずその商人に話を聞くのは確実。単独犯なのか、組織的なものなのか探りたいわね」


 こういった会話を聞き、セッターさんたちはメインスを不思議そうな目で見ている。

 どういった身分なのかと思っているんだろう。

 護衛は去っていき、メインスはセッターさんに顔を向ける。


「リリッキの方も食べてみたいけど、完成はいつになるかしら」


 セッターさんは困惑した表情で時間を答える。

 完成までもうしばらく時間が必要ということで、俺の部屋で時間を潰すことになる。

 完成したら部屋に持ってきてくれと頼んで、食堂を出るとアーデアが入ってくるところが見えた。


「私は彼女と話してきます。相談に乗っているんです」

「うん、わかった。私はデッサと話しているわ」


 ハスファはアーデアと話し出し、少し離れたところで二人を見ながらメインスと話すことになる。


「彼女とハスファはどういった関係なの?」

「ハスファが言ったように相談に乗っている。それとコミュニケーションの練習相手になっている。アーデアは恥ずかしがりやみたいで、誰かと話したり接したりが苦手だそうだ」

「シスターが相談にのることは珍しいことじゃなんだけど、教会でやるものじゃない?」

「あの二人が最初に出会ったのがここで、アーデアが人の多い教会よりはここの方がいいってさ」

「なるほどね」

「教会関係者としてはハスファに協力しようとか思わないの?」

「アーデアだっけ? あの子は知らない人が増えたら困るでしょ。慣れた相手で練習した方がいいわ。それに商人について聞きたいことがあるし」


 どういった容姿で身なりはどうか、どこに泊まっているかなど聞かれて答えていく。

 

「護衛と話していた会話からすると、教会として捕まえる感じ?」

「うちの国の問題かもしれないしね。この国の人間がうちのブランドを偽って売ってても問題あるし、放置はできないわ。今度仕入れるかどうか商人が聞きにきたら、拘束してもらえないかしら」

「逮捕や拘束って個人が勝手にやっていいものだっけ」


 この国の法律はよく知らないし、捕まえた結果こっちも捕まるとか嫌だぞ。

 

「教会から町長には話を通しておくからやっていいわよ。今回限りだけどね」

「わかってる。以後逮捕権を与えるとか言われても困るし。もしも商人が詐欺師確定したら、メインスは一緒に本山に帰んの?」

「帰らないわよ。本山からついてきた護衛の一部を帰して、そこに冒険者を雇って連行という形になるわね」

「俺に会うっていう目的は果たしたわけだし、そろそろ帰ってもいいと思うんだけど」

「目的はそれ一つだけではないわよ。だからまだまだ滞在するわ」

「本山での仕事が溜まってそうだ」

「そこらへんは大丈夫。ほかの人たちに回されるから」


 本山の仕事よりも優先される目的ってなんだろ。俺に無関係だといいなー。


「あの二人の会話もう少し続きそうだし、あなたの部屋を見てみたい」

「特別なものなんてないぞ」

「私にとっては特別なところよ? 興味の尽きない人の部屋がどうなっているのか見てみたいわ」


 どんな部屋を想像しているんだか。寝起きして、物を置いておく普通の部屋だ。

 それでも見たいということで、ハスファに一声かけて部屋に移動する。

 物珍しげにメインスは部屋を見渡す。


「私の部屋とも違うし、教会の知り合いの部屋とも違うわね。冒険者はこんな部屋になるということかしら。よくよく考えたら異性の部屋に入るの初めてじゃないかしら。きゃー、なにされちゃうのかしら」

「最後が棒読みだし、自分から来といてなに言ってんだ」


 ペロリと舌を出して笑うメインス。


「冗談よ。少しだけ緊張していてそれを解すためのね」

「緊張はしてたんだ」

「そりゃね。兄のような人はいるけど、その人の私室に入ったこともないし。あら、ギターがあるわ。これも冒険の道具?」

「それは趣味で使っているもので、遠出とかには持って行かないよ」


 興味を示しているみたいだから、ギターを手に取って賑やかな曲を弾いていく。

 拍手のあとに別のも聞きたいと言ってきたから、二曲続けて別のものを弾く。

 終わったタイミングで、扉がノックされてハスファが入ってきた。グラタンを二つ載せたトレーを持っている。


「完成したということで持ってきました」

「早速食べましょ」


 テーブルに置いて、それぞれフォークを手にグラタンをとる。

 リリッキのほかにベーコンと玉ねぎが入ったグラタンで、出来立てだと示すように湯気が上がっている。

 それに息を吹きかけ冷まして食べる。

 チックリーフより美味しいとは思うけど、絶品じゃない。セッターの腕で美味しく思えているだけの普通の質だと思う。


「こっちも私が本山で食べたものより質が劣るわ」

「美味しいとは思いますけど、ちょっと高めの食堂ででてきそうな感じですね」


 二人とも似たような感想だった。


「チックリーフもリリッキも商人が言っていた質じゃないのは確定か」

「これを高値で売ろうとしたら詐欺で確定ね。ほかの店にも被害が出ていないか捕まえて確認しないと。いつかはバレるのにどうして悪さをするのかしらね」

「ばれる前に逃げ切ることができると思っているからかな」

「今度は逃げきれないと思い知らせないと」


 高い地位の人間に目をつけられたし、そこらの詐欺師ならこれで終わりだろう。

 そして二日後、俺がダンジョンに行っている間に商人が来たらしい。ロゾットさんはその場で捕まえるようなことはなく、俺が立ちあえる時間を指定し、夕方以降にまた来ることになっていると知らされた。

 

「オーナー、例の商人が来ました」

「あいよ」


 部屋でハスファと話しているとレスタが扉の向こうから声をかけてきた。

 

「宿泊している冒険者たちにも連絡を頼む」

「はい」


 商人が捕まったと知った商人の仲間が取り返そうと宿にやってくる可能性もあり、宿泊している冒険者たちに宿の防衛依頼を出したのだ。

 レスタがすぐに客室の扉をノックしているのを見ながら事務室に向かう。ハスファはこのまま部屋で待機してもらった。

 そこには商人がいて、ロゾットさんが対応していた。

 商人はこちらを見て立ち上がり、挨拶してくる。それに返しながらいっきに近距離まで近づくと背後に回って、商人の腕を捻り上げる。


「な、なにをするんですか!?」

「町と教会から捕縛許可が出ているんだ。おとなしくしてくれ」

「なぜ!? 捕まるようなことをした覚えはありません」

「それは町の兵や教会の兵の取り調べで話してくれ。俺があんたの話を聞くことはない。ロゾット、準備していたロープを頼む」

「はいっ」


 すぐにロゾットさんが動き、部屋隅に置いてあったロープを使い、商人の手足を縛る。


「きつめでいいからしっかりと縛るように」


 商人はもがいて大声で助けを求めていたが、一般人では冒険者の拘束から逃げることはできなかった。

 これなら俺が離れてももがくだけしかできないだろう。

 捕まえたことを知らせるため教会に行ってくるかと思っていると、外から物音が聞こえてきた。


「もう商人の仲間が動いたかな? ロゾットさんはここでじっとしてて。俺は外を見てくる。商人の助けが入ってきたら、さっさと逃げていいよ」

「お気をつけて」


 商人は「俺はここにいるぞ」と声を出している。それを背に裏口から庭に出る。

 そこでは武器だけで防具のない宿泊客たちが見知らぬ誰かを地面に押さえつけていた。

 

「あ、オーナー。不審者を捕まえたよ。話に聞いていた商人の仲間じゃないかな」

「ありがとうございます。ロープを持ってきます」

「いや、いらないよ。こうすればいい」


 宿泊客たちが押さえている者たちの手足を動かすと、ごきんと音を立てた。

 押さえられている者たちが目を見開き、悲鳴を上げる。


「折った?」

「外したんだよ。これで逃げられないだろ。このあとはどうなっているんだい」


 熟練の冒険者はああいったことも軽くこなすんだなー。


「教会から兵を連れて来て引き取ってもらおうと思ってました」

「そうかい、じゃあこのまま見張っておくよ。行っといで」


 わかりましたと返して、ハスファと一緒に教会に向かう。

 聖堂に入り、俺は聖堂で待機。ハスファはメインスに伝えてくると小走りで奥に向かっていった。

 十分ほどでハスファはメインスたちと一緒に戻ってくる。


「捕まえたそうですね」

「はい。冒険者たちにも協力してもらい、拘束しています」


 俺が答えるとメインスは連れてきた護衛と兵たちに振り返る。


「聞きましたね? これから容疑者を連行します」


 護衛たちの返事を聞いて、皆でルポゼに向かう。

 戻ってきても骨を外された者たちは庭に転がったままだった。

 彼らを兵たちは拘束し、屋内にいる商人も連れ出されてくる。うるさかったのか猿ぐつわを噛まされていた。


「連れて行ってください。そしてしっかりと情報を聞き出してください」

「はっ」


 兵たちは教会に帰っていく。


「私たちは町長のところに行ってきます。ないとは思いますが、のちほど兵が聴取に来るかもしれません。そして拘束に協力していただいた冒険者たちも感謝いたします」


 少し離れたところでこちらを見ていた宿泊客たちにメインスは頭を下げた。

 行きましょうと護衛に声をかけて、メインスは去っていく。


「今日は終始公の立場だったな」

「いつもああなら助かるんですけど」


 溜息を吐くハスファを教会まで送っていく。

 送り届けたのは、ここで捕まった以外に商人の仲間がいるかもしれず、ハスファを誘拐されるかもと思ったからだ。その考えは当たっていたっぽい。こっちに敵意のようなものが注がれていた。それに気付かないふりをして教会前に到着しハスファと別れる。

 気付かないふりのまま、寄り道といった演技でルポゼへの帰り道をそれて、人通りの少ない道へと進む。

 角を曲がってすぐにできるだけ音を立てずに建物の屋根へと上がる。

 早足で三人の男たちが俺が曲がった角へと入ってきて、どこに行ったと話しながらそのまま進む。


(俺の気配に気づかないってことは手練れではなさそうだ)


 魔力活性を使いながら三人の背後に着地して殴りかかる。


「お、お前!?」「気づかれていたのか!?」


 一人が倒れて、残る二人が驚いているうちに追撃する。

 強くないということもあって、三人とも碌な抵抗もできずに倒れた。

 

「教会に届けたらいいかな」


 三人の武器を回収し、襟首を掴んで引きずる。

 そのまま道を歩いていると、なんだなんだと注目が集まった。

 その騒ぎを聞きつけたか兵たちもやってくる。


「そこの君! どうして三人を引きずっているんだい」

「襲われたんですよ。返り討ちにして教会に連れて行っている途中です」

「どうして教会に? そこは兵に渡すところじゃないか?」

「教会に同じように捕まっている奴らがいて、それらの仲間だと思うんですよね」

「教会というと……あ、昨日そんな話を聞いていたな。たしか詐欺の疑いがあるとか」

「それですね。勘違いの可能性もありますが、騒ぎのあとに尾行されたんで無関係ではないと思うんですよ。ちゃんと教会に連れて行くか見届けますか?」

「そうさせてもらおう」


 俺の言うことが嘘かもしれないし、このまま別れるってのはないよな。

 俺としても変に疑いをもたれるより、しっかり確認してくれる方がいい。

 兵たちに掴んでいた男たちを渡して、一緒に教会に向かう。

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― 新着の感想 ―
[一言] この程度の詐欺で宿の周りに仲間を配置していて、でも、そんなに強くもないと、ちょっとチグハグな感じですね
[一言] 詳しい事情はまだ分かりませんがまともな商人じゃなかったのだけは確かかなあ
[一言] 一瞬で逃げ出す&周囲に不自然に仲間を配置している辺り詐欺で間違いないんだろうね。
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