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198 魔力循環説明会 4

 準備された昼食はバーベキューとミネストローネっぽいスープとパンと果物だ。

 良い材料と腕の良い料理人を準備したみたいで、良い匂いを漂わせていた。

 肉と野菜の刺さった串を三本とスープと林檎を受け取り、そこらへんに座って食べようと思っているとメインスが手招きしていた。


「……まあいいか」


 少しだけスルーしようかなと思ったけど、一緒に食べることにしてメインスたちのいるテーブルに向かう。

 ハスファは串一本とスープと果物で、メインスは俺と同じものにパンもついてあった。


「お疲れ様です。若いのに鍛え上げていてすごいですね」

「どういたしまして」

「本当に強くなっていましたね。私が見たことがある戦いはベルンさんとのもので、正直あのイメージがいつまでも抜けていなかったのですが」


 そっか、ハスファが見たことある俺の戦闘ってあれだけだったか。シーミンと模擬戦したときとはいなかったし、今日も最初は負けてたしな。


「戦いだけなら一般的な冒険者を超えるくらいにはなってるよ。いつまでもぼろ負けしているわけじゃない。だから少しは安心してほしい」

「そうですね。話を聞くだけではなく自分の目で見て、少しは安心できるようになりました」

「あまり苦労をかけては駄目ですよ」

「ハスファを振り回しているあんたが言えたことじゃないでしょうに」

「おほほほ」


 笑って誤魔化すかー。悪質というわけじゃないからまだ見逃せる。周囲の人たちも似たような考えなんだろう。


「やりすぎだと思ったら止めますからね」

「二人から嫌われたくないので気をつけますわ」


 頷いたメインスから、昼食が冷める前に食べることを勧められ、溜息を一つ吐いて食べ出す。

 持ってきたものを食べて一息ついたのを見てメインスが話しかけてくる。


「午後からも動くのでしょう? それだけで足りるのかしら」

「あまり食べ過ぎても動くのが辛くなるだけですから。良く動いた分は夜にたらふく食べることにします。そっちは動いていないのに、俺よりも多めで体重は大丈夫なんですか?」

「夜に運動するから大丈夫よ」


 そうなのかとハスファに視線を送る。頷きが返ってきた。


「食べるのが好きなようで、いつもたくさん食べて、その分庭で体を動かしていますよ。食事が趣味というのはデッサさんと同じですね」

「そうそう、趣味が同じということでお勧めのお店を聞きたかったの」

「本山のある町で高くて良いものを食べているでしょうから、俺のお勧めは合わないんじゃないですかね」

「高ければいいってものじゃないわ! 高級食材を使えばそれだけで美味しくなるって勘違いした店での食事は最悪よ。料理人の腕と工夫と季節にあった食材が合わさって、美味しいものが出来上がる。私が食べることが好きだからって、そんな店に案内されたら食材を馬鹿にされた気分になって不快でしかないわ。逆に変装して町を歩き、限られた予算で創意工夫を凝らした料理を出す食堂を見つけたときは最高の気分ね!」

 

 拳を握りしめて熱弁された。もしかして素が出た?


「メインス様、仕事中です」


 護衛に注意されて、咳払いして居住まいを正す。


「失礼しました。そういうわけで高くなくても問題ありませんわ」

「よくわかりました」


 俺がこれまで行った店を話しているうちに昼休憩が終わった。

 昼を過ぎても行われた模擬戦は全勝することができた。でもカイナンガのときほど圧勝ではなかった。実力者そろいなので当然だろう。それでも一年で実力者に勝ちを得られるところまで来ている。

 ファードさんが手本になるように、俺も鍛えることのみに集中すればここまでになるという見本とみなされたようだった。

 時間が流れていき、まだ夕方ではないけどそろそろ締めの雰囲気が漂い出した頃、ベルンが近づいてきた。


「よう。元気そうだな。ハスファも元気そうだ」

「そっちもね。ハスファは大変だけど元気だな、うん」


 ベルンは不思議そうに首を傾げる。


「お偉いさんに振り回されているから苦労しているようだよ。それよりも、ずいぶんと腕を上げたみたいだな」


 感じられる雰囲気が一年前とは大違いだ。


「お前には負ける。ずいぶんと差をつけられたもんだ」

「前も言ったけど、依頼を受けずにダンジョンに通ってばかりだからなー」

「それだけじゃないだろ。さらに強くなるために魔力循環といったものを作り出した。強くなるということを本気で追い求めた証拠だ」

「勘違いしているみたいだから訂正するけど、魔力循環に関しては、ファードさんとの会話が切っ掛けで強さを求めてというわけじゃない。強くなることに本気という部分は当たっているけど」

「そうだったか。まあ、本気という部分は当たっているなら、そう外れた考えじゃないだろ」


 そう言いながらベルンは木剣を構える。


「一戦願おうか。魔力がまだ足りるなら魔力循環二往復の状態で」

「できるけど、正直勝負にならないぞ?」

「それでいい。いずれ習得する二往復がどういったものか体験しておきたい」

「俺たちも加わらせてもらおう。一対複数ならいくらか差も縮まるだろ」


 ベルンの仲間たちが武器を手に近づいてきた。

 彼らが望むならということで魔力循環二往復を使い、模擬戦を始める。

 宣言通り長くはかからず決着がつく。気の合う仲間の連携は厄介だけど、二往復状態の俺を倒すには力不足だったのだ。

 左腕を盾として全員の攻撃を受けて、お返しに全員の武器を叩き落としたことで決着となった。

 使われた武器が木製ということや魔力活性の特性が頑丈だから、盾にした左腕に異常はない。


「これが二往復の力か」


 武器落としのときに手が痺れたのか、ベルンは右手を閉じたり開いたりしている。


「なんの負担もない状態というのも付け加えといて。二往復できるようなったからといって、すぐに同じように動くのは無理」

「一往復を経験したことでそれは理解できる。まずはなんの問題もなく、一往復を使えるようになることが課題だな」

「半年くらいだっけ、それくらいで負担がなくなるとか」

「それは聞いた。しかし戦士タイプがこれを習得すると魔法使いとの差が広がるな」

「魔法使いの方も遠からず指導があると思うよ」

「どうしてそう言える?」

「魔法使いの新しい技術開発にも関わったから。関わったのは最初だけなんだけど、ファードさんから進展は聞いた」

「いろいろやってんな」

「ファードさんや知り合いと話していたら、そういう方向に繋がったってだけ」


 話していると鐘が鳴る。そして職員が終了を告げてくる。


「そろそろ解散なので、模擬戦を終了してください」


 模擬戦をしていた人たちも切り上げて、話している職員のもとへと集まる。


「解散前に再度通達です。魔力循環の情報は伏せてください。そして今後のことでお知らせすることがあります。ギルド主催で模擬戦を開くことはありませんが、魔力循環でなにか質問があれば頂点会で受け付けると言ってもらっています。魔力循環の練度を知りたい場合など訪れると対応してもらえることでしょう」

「デッサの方に行くのはありなのか?」


 職員がこっちを見てくる。それに首を横に振った。


「なしだそうです。魔力循環の鍛え方に違いがあるため、相談しても参考にならないでしょうし、頂点会の方に行くことを私どももお勧めします」


 体質とか竜の血とかをもとに話しても、なんの参考にもならんだろ。

 職員の言うように、方向性が同じで地道に鍛えた頂点会の方がためになる話を聞けるはずだ。

 職員からの話は終わって、解散となる。


「じゃあまたいつか」


 そう言ってベルンは仲間と一緒に町へと帰っていく。

 同じようにほかの冒険者たちも町へと帰っていく。


「デッサ、片付けを手伝ってくれ」


 グルウさんに声をかけられる。

 わかりましたと返し、テーブルなどを荷車に載せていく。

 模擬戦の終わりには職員たちで片付けだしていたから、そう時間はかからずに終わる。

 馬に繋がれた荷車が動き出したのを見ていると、職員に呼ばれる。

 お疲れさまでしたと挨拶のあと、報酬の入った封筒を渡され、それをポケットに入れた。


「帰りましょう」


 メインスたちが近寄ってきて声をかけてくる。


「まだ帰らないのかなと思ってたんですが、俺を待っていたんですか」

「ええ、交流の機会が少ないのでその機会があるならしっかりと確保しておきたいのですよ」

「神託のせいって言うと怒るかもしれませんが、行動が制限されて大変ですね。神託に関わりあるから俺と交流するんでしょ?」

「以前も言いましたが恩を売るというのは嘘ではありません。しかし個人的にも興味があって交流していますからね。神託に個人が示されるなんて珍しいことなのです。それだけでも興味を引くのに十分です」

「珍しいんです?」

「どこかの町ではやり病が起きていて、多数の人間たちが病に倒れているといった感じで不特定多数を示すことはあっても、個人を指定するなんて初めて聞きました」

「歴史上で初めてなんですかね」

「勇者の証明がされていたという記録はありますね」


 魔王が暴れている時代に、勇者に該当しそうな人物が教会に案内されて、神託用の部屋に入り神様から証明してもらったそうだ。


「それはこちらから神託を求めて応えてもらったものであって、神様からの神託に個人指定されているのは初めてじゃないでしょうか」

「勇者が生まれないからそんなことになってそうだ」

「かもしれませんね」

「勇者って実在していたんですか?」


 ハスファが聞いてくる。


「していた。今はいない。勇者が使っていた武具も行方知れず。一つは俺が壊したんだけど」

「壊したんですか!?」


 メインスが驚いた様子で言ってくる。


「神託関連でシムコルダーがあった村に行ってきたんですよ。シムコルダーはモンスターに奪われて、その力を利用されていたんです。村長から壊してくれと頼まれて、モンスターごとやりました」

「シムコルダーの残骸はどうしました?」

「素材として使うためもらいました。村長も回収してきてくれとは言わなかったので」


 首にぶら下げている巾着から黒竜真珠を取り出す。


「これができあがったものです。毒とかにある程度の耐性を得られるものになりました」


 メインスとハスファと護衛の視線が黒竜真珠に集中する。

 それを巾着に戻して、教会は勇者の武具の行方を把握していなかったのか聞く。


「剣と鎧は知っているわ。今は人の手を離れて洞窟の奥に封印されています。シムコルダーはモンスターに奪われて行方知れずになっていたんですね」

「もともと安置されていたところから遠く離されたわけじゃなかったけど、教会は見失ったんですか」

「勇者という存在がじょじょに軽視されていったことで、武具の追跡もいい加減になったんだと思います」


 英雄の言葉もじょじょに忘れ去られていったわけだし、活躍しなかった勇者はなおさらだよな。

 話しているうちに町の入口に到着する。


「私たちは教会に帰ります。今度ハスファについて行って宿に遊びに行きますね」


 さらっと言いたいことを言って、メインスはハスファたちを伴って去っていった。

 歓迎の準備は……しないでいいか。お偉いさんを迎え入れるような格じゃないのはハスファから聞いて知っているだろ。

 いつくるかもわからないから、ハスファのついでに受け入れるとかそんな感じにしておこう。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] シムコルダーの件は本当に驚いてそうですねー 他の武具も出来れば集めたいもんですが教会が手伝ってくれたりはしないんかな
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