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197 魔力循環説明会 3

 ファードさんは革の手袋をしていて、俺には模擬戦のため木剣を渡されている。

 ファードさんの隣に俺がいることで戸惑いの視線が注がれた。年齢的にいえばようやく一人前になった頃合いだろうし、手本になると言われても疑ってしまうのだろう。


「この二人は現時点で三往復を戦闘で使いこなすことができます」


 冒険者たちがざわついた。そのうちの一人が疑問の声をあげる。


「ファードはわかる。長く鍛えているから、三往復までいけると言われて納得だ。しかし少年の方は本当なのか?」

「疑問はもっともです。先ほど体調不良の話をしたとき例外と言ったのを覚えていますでしょうか。その例外が彼になります。付け加えるならこの二人が魔力循環の発端です。デッサが発案し、ファードが開発。形になった魔力循環がそこから広まっていきました」

「開発に携わったから、負担が軽くなったのか?」


 その質問に職員は違いますと首を振った。


「体質的なものです。今のところ飛び抜けているのがデッサで、騎士に二名だけ該当する人がいます。この中にももしかするといるかもしれませんが、どっちみち鍛錬は必要になるので使いこなしたいのならば鍛錬を続けてください」


 職員が話している間に、俺たちは向かい合って立つ。


「それでは三往復をお願いします」


 注目が集まるなか、指示に従って魔力循環三往復を発動させる。

 ファードさんが滑らかに発動させて、俺はそれに遅れて発動させる。


「それじゃ始めるか。ハイポーションを準備してある。思いっきりきていいぞ」

「本気でやるなら俺がボコボコにされて終わりじゃないですか」

「動きを見せるためだから長く続くように手加減するさ」


 ファードさんは「はよこい」と手のひらを上に向けて、招くように指を動かす。

 ファードさんが強いのは皆最初からわかっていて、俺が動き回った方が三往復でどれくらい身体能力が上昇しているのかわかりやすいということだろう。


「それじゃ遠慮なく」


 踏み込む足に力を入れて、地面を蹴る。

 速いと誰かが言うのが聞こえてきた。

 とりあえず袈裟斬りだ。それを手のひらで受け流される。

 すぐに受け流された方向から振り上げる。同じように手で受け流された。

 ファードさんの足がかすかに動き、蹴ろうとしたのが見えたから退く。

 手の届かない距離まで下がった俺に、ファードさんが感心した表情を向ける。


「これは見えるようになったか」

「手加減されているからですね。本気だったら気付いていませんでしたよ」

「完全に手を抜いているわけでもないのだがな。ほれどんどんいこう」


 次はとにかく手数を増やしてみようかな。

 ファードさんへとまた接近して、剣での攻撃と左手での殴り、蹴りを混ぜていく。体力の配分は考えず、全て出すつもりで攻撃していく。

 それをファードさんは回避と防御を混ぜて対応していく。これまでのように手で受けられる以外に、腕や肘や膝や脛といった体のあちこちを使って受け止められる。

 同じ三往復だし、経験や技量の差が明確にでるよな。

 攻撃は当たりはするものの有効打と思えるものはなく、攻撃が途切れたところで腕を掴まれて投げ飛ばされた。上手く投げてくれたおかげで、くるりと空中で回転しちゃんと着地できた。

 俺は肩で息をしながら、まだまだ余裕のあるファードさんに話しかける。


「まだ続けます?」

「もう少しやっておこう」

「りょーかいですっ」


 深呼吸して息を整えて、今度はファードさんの周りを走る。今度はなるべく死角となるようなところから一撃離脱でいこうと思う。

 ファードさんの背後に来てから急接近してそばを走り抜け、武器を振るう。

 所詮は浅知恵ということか、しっかりと避けられ、それを何度か繰り返したとき反撃を受ける。


「ぐはっ」


 胸にカウンターを受けて吹っ飛ばされて地面を転がった。

 ある程度の痛みはあるけどポーションやハイポーションのお世話になるほどじゃない。怪我よりも体力の消耗の方が大きい。

 けほけほと咳き込みつつ、土汚れを落としながら立ち上がる。

 もう終わりということか、ファードさんは魔力循環を解除していて、俺も解除する。

 ファードさんは職員に終わったと手を振って合図を出した。


「終了です。三往復を使えたら、あそこまで動けるようになるということですね。これからは自由時間です。また魔力循環に挑戦してもいいし、近くにいる頂点会の面々にコツを聞いてもいいし、模擬戦を挑んでも大丈夫です」

「模擬戦の相手はファード殿やデッサでもいいのだろうか」


 職員はどうなのだろうと視線を向けてくる。


「大丈夫だ。ただし魔力循環を使った模擬戦はかぎりがある、普通の模擬戦も体力の消耗があるから何度もやるのは無理だろう」

「ということらしいです」


 いい機会だとちょっとした歓声が上がる。ファードさんに挑戦できるから嬉しいみたいだ。

 自由時間が始まり、いきなり模擬戦が始まることはなく、まずは魔力循環について知ろうと頂点会に質問している様子が見える。どんな鍛錬をすれば、どれくらいで負担が軽減されるのかといった質問が聞こえてきた。

 魔力循環で受けた負担の回復も兼ねて、質問で時間を潰しているみたいだった。

 彼らが話し合っている間にハスファが体調の確認にやってくる。


「怪我はありませんか?」

「ないよ。軽い打ち身くらいじゃないかな」

「わりと盛大にふっとんだと思うのですが、頑丈なのね」


 メインスも近づいてきてペチペチと腕を叩いてくる。


「頑丈だからってのもあるし、ファードさんが本気じゃなかったからですね。本気で殴られたら確実にひびは入っていましたよ」

 

 追撃とかされなかったし、ずいぶんと手を抜かれていたと思う。


「ファード殿が鎧で守られた部分を狙ったというのもダメージが少ない理由でしょう」


 護衛が付け加えてくる。


「それでも大ダンジョンで五十階手前くらいの強さの人間があの攻撃を受けたら軽いダメージではすまなかったはずです。それくらいの威力を伴ったカウンターでした」

「そんな攻撃を受けて軽いですませるんですから、かなり頑丈ということですね」


 まだペチペチと叩きながらメインスは言う。

 三十分ほど座学みたいな時間が過ぎて、模擬戦が始まりだす。

 ファードさんに集中するだろうと思って、椅子に座っていようかなと思っていると俺にも人が集まってきた。


「俺と模擬戦ですか? 特に得られるものはないと思いますよ」

「ゴーアヘッドだと名前が知られているが、お前さんがどれくらいの実力なのか実際は知らないからな。情報収集も兼ねているんだ」

「そうそう。六十階を越えたんだろう? どれくらいの強さがあればあそこらへんを一人でうろつけるのか知りたくもあるんだ」

「なるほど」


 俺の強さが指針になるんだなー。


「わかりました。魔力循環ありですか? それともなしで?」

「まずは素の実力でお願いしたい。常に魔力循環を使ってうろついているわけじゃないんだろう?」

「そうですね。魔力循環はいざというときに使うくらいです」


 模擬戦を望む人と向かい合って、武器を構える。相手は百五十センチほどの棒を使っていた。たぶん普段は槍を使っているんじゃないかなと思えた。

 ほかの冒険者に開始の合図を出してもらって、模擬戦を始める。

 デーレンさんをはじめとして何度か槍の使い手とは戦っていて、不慣れということはない。

 さらに相手の技量はデーレンさんと同等か少し下。苦戦らしい苦戦はせずに勝つことができた。

 少し攻防を繰り返し、間合いのうちに入って腹に軽く剣を当てた。

 実力的にはカイナンガの人たちより確実に上で、六十階に通っているタナトスの人たちよりは若干下といった感じだろう。タナトスの人たちも魔力循環を使いこなせるし、実際に戦ったら余裕をもって勝てると思う。


「これくらいの実力なんだな。三往復を使えばさらに上か」

「次は俺だ。休憩は必要か?」

「いえ、もう一戦くらいならすぐに大丈夫ですよ」


 片手剣と盾を使う人とも模擬戦をして、これにも勝つことができた。


「ありがとな。お前さんは若いが、いつからダンジョンに通っているんだ?」

「一年前です」

「その前から鍛錬はしていたのか?」

「いえ、素人からのスタートでした。ダンジョンに通いながら鍛えたんですよ」

「一年でそこまでか。なにかコツとかあったりするのだろうか」

「コツはないです。護符とか魔力活性を使って、先へ先へと無茶を繰り返した感じですね。友人には何度も呆れられました。あと身体能力を上げるためだけにダンジョンに通っていたので、技術は疎かにしていましたし、依頼を受けて伝手や実績を得ることもしてません」


 一人で行動している奴はやっぱり違うなとどこかから聞こえてきた。

 仕方なかったんや。生きるためにはそうしないと駄目だったんや。


「鍛えることのみに集中したら、そこまでいけるということか」

「普通の冒険者は引退後も考えないといけないし、そうそうできることじゃないですね」

「君は引退後を考えていないのか?」

「事情があってこんなことになってまして。そんな事情がなければごく普通の冒険者として活動してましたよ、たぶん」


 生贄になってなかったら村で過ごしていただろうし、冒険者自体になってなかった。


「事情があってもそんな生活を続けられるもんかね?」

「運もあったんじゃないですかね。実際ピンチに陥って、助けられたってことが何度か」

「運が悪いとすでに死んでいたか。運を持ちながら無茶を繰り返してようやくとなると、かなり厳しい道だなぁ。駆け出しが同じことをやったら死ぬ可能性が高いな」


 でしょうねと頷く。周りも同意するように頷いていた。

 

「同じことをしようとしたら止めますよ。馬鹿やるんじゃない自殺するつもりかと」


 実際にやった人物からの言葉だから説得力はあると思われる。


「俺も止めるなぁ」

「強くなるにはとアドバイスを求められたら、デッサならどう答える?」

「地味に思えても、こつこつやっていけと言います。あと魔力活性をしっかり鍛えていけとも言いますね。しっかり鍛えた手本がファードさんですし。俺のやり方はギャンブルです。そしてギャンブルは負ける人が多いものですからね」

「駆け出しとかまだ人生を賭ける必要がない奴が多いだろうし、勧められないよな。ファードさんが多くの者にとって手本になるというのは頷ける。努力は実るということを体現した人だ」

「俺もそう思います」


 話していると模擬戦の挑戦者が現れる。通常の状態は見物していたみたいで、魔力循環一往復だとどこまで動きが変わるのか知りたいということだった。

 希望に従い、魔力循環を使ってから模擬戦を行う。

 昼になり模擬戦は一時中断になる。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] デッサだけでは説得力は低かったでしょうしファードさんだけでも長年の経験による強さにしか見えなかったでしょうから人に見せるにはいい模擬戦ですよね
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