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185 遊黄竜事件 7

 あちこちを見ながらゆっくりと歩いていると、俺にも人やモンスターがいた形跡を見つけることができた。

 歩き出して三十分を経過した頃、立ち止まっている冒険者たちを見つけることができた。見覚えがあるから、俺たちとは別の船に乗ってきた人たちだろう。


「おーい」


 ルーバスさんが手を振り声をかけると、あちらも手を振り返してくる。

 なにか見つかったかと聞かれて、ガイセンさんは頷く。


「そっちも気付いているかもしれないけど、この森から出られない」

「ああ、それは少し歩いて気付いた」

「うちはそこの少年だけが森から出られたんで、いろいろと試してみて船にこの事態を伝えたんだが、そっちは誰か森から出ることができたか?」


 出ることができたのかと向こうの五人は驚きを見せる。


「こっちは誰も出られなかった。どんなことを試したんだ?」


 ルーバスさんが担がれ運ばれたことを話す。


「どうにか島から出ても動けないままという可能性があるのか。厄介だな。原因は森の奥なんだろうな」

「ああ、俺たちもそう思う。これまででなにか原因に繋がるヒントなんかを見つけることはできただろうか」

「これといったものはみつかっていない。ただなにかが暴れたような痕跡はあった。飛び散った血なんかもあって、戦闘は確実にあったんだろう」

「どれくらいの規模の戦闘だった?」

「木が倒れていたりしたから、通常よりも激しいものだったと思われる」


 レベル十五にもなると武器を使えば木を倒すことは簡単だけど、わざわざ戦闘中に倒すことはない。

 それくらい余波の大きな戦闘だったということなんだろう。


「俺たちは人を探して、島の状況や戦闘について聞くつもりだ。そっちはどうする」


 そう聞かれてガイセンさんは俺たちを見る。

 ひとまずこのまま一周でいいかと聞かれて、俺たちは頷いた。


「奥に向かうのはまだ早いと考えて、情報収集のために弧を描くように移動していた。それを続行するつもりだ」

「そうか。できればまた情報を交換したい。戦闘があったところを待ち合わせ場所にしたいんだが」

「かまわないぞ」


 場所を教えてもらい彼らと別れて、戦闘跡地を目指す。

 十分ほど進むと木が倒れ、地面が荒れた場所がみつかった。

 聞いたように幹や茂みなどに血が付着している。

 調べてみたところ、車のタイヤより若干細い木は武器で斬ったわけではなく、力任せに殴って折れたようだった。


「このサイズの木を殴って折ったとなると、先に来ていた冒険者たちでは無理だと思うんだが」

「モンスターか魔物の仕業だろうな」

「一応魔法でも可能ではあるよ」


 ガイセンたちが木を見ながら話し合う。

 俺とラオナーズさんはほかにもなにかないかと周囲を見る。

 

「これは移動した跡かしら」


 ラオナーズさんが地面を指差す。

 そこにはなにかを引きずったような線が残っていて、別れた五人がいた方向へと続いていた。


「あの五人もこれを見つけて、この方角に向かったということですかね」

「たぶんね。この痕跡はあの五人に任せていいと思う」


 そうですねと頷いてガイセンさんたちに痕跡について知らせる。

 三人も同意見で、俺たちは引き続き移動することにした。

 さらに一時間以上歩いて、スタート地点と思われるところに戻ってくる。

 人やモンスターはみつからなかったけど、戦闘跡はいくつかみつかった。

 相打ちで死んだから双方ともに見つからないのだろうかと話しつつ、合流場所の戦闘跡地に向かう。

 あの五人はまだ来ていないのか誰もおらず、そこで三十分ほど待っていると二人だけ姿を見せる。


「ああ、よかった。ちゃんといた」

「そっちは二人だけなのか?」


 襲撃でもされたのかとガイセンさんは心配そうだ。


「進展があって、向こうに残っているんだ」

「なにがあったんだ」

「人がいた。先に調査に来た人たちだ」

「生き残っていたのか! モンスターと相打ちになったと思っていたぞ」


 無事だったことと情報源がいたこと、その両方に俺たちは喜ぶ。


「案内はどうする? まだ調べたいならここで別れるけど」

「行こう。こっちは特に情報は集まらなかったんだ」

「わかった。ついてきてくれ」

 

 二人に先導されて、森を進む。俺たちが移動してきた範囲よりも内側に向かうようだ。

 到着したそこにはちょっとした洞窟があった。雨風を避けられるそこで、横たわって眠っている人たちがいる。洞窟のそばには疲れ切った表情の人たちが地面に座り込んでいる。

 ここに留まっていた三人は、ポーションを使って怪我人の治療をしている。

 怪我人たちは痛みがなくなったことに感謝しているけど、表情は暗いままだ。

 ほかには転がっている骨が見えて、一瞬人骨かと思ったけど動物のものらしかった。


「どういった状況なの?」


 ミミスさんが聞く。


「戦闘の生き残りらしい。モンスターと魔物、その両方と戦ったようだ」

「魔物がいるのね」


 ミミスさんたち三人の雰囲気が一瞬鋭いものになった。

 魔物がいるかもとは話していたけど、確定して気が引き締まったんだろうか。


「いるのは確実だ。森の中央辺りで儀式を行っているそうだ。先に調査に来た人たちも森から出られないと気づいて、脱出のため調査を続行した。そのときに儀式を行っている魔物を見つけて、それを止めれば脱出できると考えて戦闘を行ったらしい。でも魔物に蹴散らされて、モンスターにも襲われ、怪我人を抱えてここに避難し途方に暮れていたという流れだ」

「なるほどね。どういった魔物だったのか聞いた?」

「鳥の魔物だと言っていた」


 鳥の魔物というと大会の最後に出てきた奴のことを思い出す。たしかホーラーって名前だっけ。

 詳しい外見を聞く。


「鶏の頭部と足を持った人型の魔物だ」


 鶏ならホーラーじゃないな。

 あと戦闘跡地の倒れた木は殴ったんじゃなくて蹴り倒されたかもしれないな。戦闘になったら蹴りに要注意だろう。


「それ一体だけかしら」

「複数いたとは聞いていない」

「その魔物はわざわざ竜の上でなんの儀式をしていたのでしょうね」


 ラオナーズさんが首を傾げながら言う。


「人を逃がさないため、いえそんなものではないでしょうね。人の来ない竜の上でやる意味がない。なにかの目的があってこんな場所で儀式をしていて、それが原因で竜が暴れている。儀式は竜にとっても負担になるものなんでしょう」

「竜の力を利用してなんらかの魔法か魔術を使おうとしているとか、ですかね」

 

 俺の思い付きに魔法使い二人は考え込む。


「それが当たっているならかなり規模の大きなものでしょう」

「そうですね。竜の力を使えるなら一国を超える広さに効果を及ぼせそうです」

「なにをしようとしているかはわからないが、ろくなことじゃないのはたしかだ。止めないと駄目だろう。そして止めれば脱出できるはずだ」


 ガイセンさんの発言に俺たちは頷く。

 いや出られない原因が魔物だとはいえないんだけど、今のところ目立っているものが魔物だからそこをどうにかするしか思いつかない。


「ほかの調査班にも知らせた方がいいだろう。まずは合流して、全員で挑むべきだ。魔物だけじゃなくモンスターもいるだろうしな」

「そうだな。早速行くか。あんたらはここであいつらの看病を頼む」


 ルーバスさんがここを見つけた冒険者に頼むと頷きが帰ってくる。

 さあ出発だと思っていたら、ガイセンさんが俺に声をかけてきた。

 

「デッサ、お前だけ単独行動を頼みたい」

「なにをすればいいんでしょ」

「俺たちは森から出られないが、お前ならできる。ほかにも脱出できている奴がいるかもしれないから、そいつらを探して状況を説明してやってくれ」

「わかりました」


 歩き回ってモンスターと遭遇しなかったから、外側なら一人でも大丈夫と判断し頼んできたのだろう。

 ガイセンさんたちを見送り、俺も出発しようと思い歩き出そうとして止まる。

 クワイスからの頼まれごとを思い出したのだ。

 忘れる前に確認しておこうと、座り込んでいる人に話しかける。


「すみません。ジャロスという冒険者はここにいますか」

「ジャロス? いるが、怪我して寝込んでいるぞ」

「生きているんですか」

「なんとか。なぜジャロスについて聞くんだ」

「息子さんから探してほしいと頼まれたんですよ」

「ああ、帰ることができないから家族が心配したんだな。俺の家族も心配しているだろうな」


 溜息を一つ吐いて男はついてこいと立ち上がる。

 洞窟に入り、この男だと教えてもらう。

 案内してくれた男はすぐに出ていった。


「クワイスに少しだけ似てるような」

「うぅ、クワイス?」


 目を閉じていた男がクワイスの名前に反応して、目を開けた。


「ジャロスで合ってますよね」

「そうだが、お前は?」

「調査に来た冒険者の一人ですよ」

「こんな場所に来るなんてついてないな。二度と帰れないぞ」


 ほかの人のようにこの人も諦めたような表情だ。

 クワイスが無茶したというのにこの人は駄目だな。敬語を使う気が失せる。


「あんたはそれでいいのか? ここで家族に会えずに一生を終えたいのか?」

「そんなわけあるか。でもな魔物に勝てるわけないだろう」

「たしかに魔物は強い。でも殺せるぞ」

「実際にあいつと戦ったことがないからそんなことを言えるんだ」


 戦いを思い出したようで、表情が歪む。


「ここの奴じゃないが、戦ったことはある。証拠はだせないから信じられないかもしれないけど」

「……」


 信じられないと表情に出ていた。


「こんなんじゃクワイスが浮かばれないな」

「クワイスに会ったのか」

「会ったし、あんたを探すため無茶をしていた。調査隊に加わろうと、ギルドが出した依頼で北の山に行ってモンスターに追いかけ回されていた。死にに行くようなことは感心しないけど、あんたのために危険な場所に行くことも厭わない気概だけは認められる」

「あいつが? 戦いの心得なんぞないのに」


 ジャロスの声がわずかに震えた。息子の行動と気持ちが嬉しかったんだろう。


「それだけあんたのことが大切だってことだろ。それなのにあんたは家族のもとに帰ることを諦めているんだから、クワイスの思いは無駄でしかなかったんだな」


 そう言うとジャロスは歯を食いしばる。仰向けのまま自身の顔を両手で叩く。そしてゆっくりと体を起こした。


「あいつが会いたいと願ってくれていた。息子が頑張ったのに、父親の俺が諦めたらかっこ悪いだろ! 俺だってまた会いたい。寝ていられるかっ」

「帰るチャンスはある。俺たちは人を集めて、魔物に挑むつもりだ。それに協力してくれる人が多ければなんとかなる可能性は上がるはずだ」

「本当だな? 希望はあるんだな?」

「断言はできないけど、やらずに諦めたくない」


 やれると言い切りたいんだけどね。魔物がどれくらい強いのかわからないし、そこは無理だ。


「俺は頼まれごとがあるし行く。動くときまで体を休めるかほかの人の説得でもしておいて」

「ああ、任せておけ」


 洞窟から離れて、森の外へと向かう。

 森の境目に到着して、そこから一周するために歩く。

 一周するのに二時間半くらい。その間に遊黄竜が体を動かし、何度か地震のように地面が揺れた。

 森の外に人はいなかった。上陸した人は皆、森から出られなくなっているらしい。

 人探しを終えて、海を眺めて昼食をとったあと洞窟に戻る。

 ガイセンさんたちはほかの調査隊との接触に成功したのか、出たときと比べて人が多い。

 そしてジャロスさんが説得したのか、暗い表情の人の数が減っている。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 先に調査に来た人たちがまだ生きていたのは嬉しいですが魔物がいるのは嬉しくないですねー どの程度の魔物なんだろなあ
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