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180 遊黄竜事件 2

 埠頭の間近ではないけど、わりと近い位置にある酒場に到着する。

 埠頭ではざっぱんざっぱんと波が押し寄せ、水しぶきが派手に散っている様子が見えた。

 酒場は午前中だというのに人の気配が多い。

 

「なんだ? ガキが来るところじゃないぞ」


 足を踏み入れるとすぐに声をかけられる。

 注目が集まったが、すぐに興味をなくしたように散った。無気力に近い状態で、やる気が感じられないな。

 遊黄竜という強大な存在に、なにをしても無駄だと諦めてしまったのか?


「酒は飲めない。沖のあれに関して話を聞きたいから来たんだ」


 いっせいに客たちの顔が顰められた。


「酒が不味くなることを言うんじゃねえよ」


 怒りはしないが、不機嫌にはなったようだ。

 この調子だと船を出してくれる人はいないだろうなぁ。

 でも一応聞いてみるか。殴られないように警戒して続ける。


「調査に行きたいんだけど、船は出せる?」

「忠告しておく、それ以上は続けるな。酔っ払いどもが暴れるぞ。あれが起こす波のせいで、友人や知人が死んじまった奴らもいるんだ」

「それは申し訳ない」


 無神経ってのは俺もわかるし、これ以上ここで情報収集はしない方がいいな。


「ここ以外に船乗りが集まるところってある? そっちで話を聞こうと思うんだけど」

「冒険者のようだし船乗りの集まりじゃなくて、冒険者の集まるギルドなら話を聞けるだろ。そっちに行け」

「ありがとうございます。そっちに行ってみる」


 軽く頭を下げて酒場から出る。

 道行く人たちにこの町で一番のギルドについて聞いてみる。

 夜明け港というギルドが一番らしいので、その場所を聞いて向かう。

 夜明けの港の建物はさほど大きくはなかった。コンビニよりも広い敷地の二階建てだ。

 中に入るとここも活気はなかった。それでも港の仕事のみというわけではないから、働いている人の姿はちゃんとある。

 受付に行き、調査に来たことを告げる。


「調査ですか」

「ええ、まずは遊黄竜の様子だったり、先に調査に向かった人たちについて聞きたいです」

「それを聞いてどうするつもりですか」

「俺が行くときの参考にしようかと」


 疑うような視線を向けられた。


「上陸するにしても船がなければ無理ですが、あては?」

「ありませんね。船乗りたちの集まる酒場を見てきましたけど、やる気が感じられずどうしようか悩んでいるところです」

「でしょうね。彼らはこの一ヶ月でどうしようもないほど打ちのめされましたから」


 受付は溜息を一つ吐いて、話し出す。


「あれがここの近くに来た当初は暴れるような様子はなかったんです。皆も珍しがって見物客が埠頭に並び、船に乗って見物する人もいました」


 安全に竜を見られるなら、俺も同じ行動するだろうな。


「しかし日暮れ頃になると、遊黄竜はその場に留まり暴れ始めました」

「近づいて余計なことをした人がいたりしなかったんですか」

「さすがに竜にちょっかいをかけるのは町長たちが止めてましたから遠目に見るだけでした。船が横付けされたという証言や離れたところから攻撃した人がいたという証言も出てきませんでしたね」

「人間がやらかしたわけではなさそうですね」

「そうだと思います。この町で誰かが乗り込んだのではなく、別のところで乗り込んでここに来たタイミングでやらかしたという可能性もあるんですけどね」

「あー、その可能性もあるんだ」


 時間差でやらかした可能性もあるんだな。

 人間の仕業という可能性はまだ捨てきれないか。


「遊黄竜が暴れ出し、魚が近海から逃げたり、大きな波で船にダメージが入りだして、放置してはいけないと判断した町長と私たちは調査依頼を出しました。そうして集まった冒険者たちを船乗りたちが運び、遊黄竜に上陸したそうです」

「船乗りたちは船で待機していたんですか?」

「はい。横付けしたままだと転覆するかもと判断したらしく、船に残り少し距離をとったそうです。上陸した冒険者の数は三十人。向こうでなにがあるのかわからないので、実力者が選ばれました」

「ちなみにどれくらいの強さの人たちだったんでしょうか」

「大ダンジョンで五十七階という人が一番でした」


 レベルにすると高くて十五辺りかな。シャンガラとは違ってちゃんと実力者が送り込まれたみたいだ。国内に大ダンジョンがあるから、レベルの高い人材が得られやすいのかもしれない。


「その人が突出していて、四十階辺りが半分以上といった感じですね」

「それらが全員帰ってこなかった」

「はい。船乗りたちは数日間食料の補充などを交代しつつ、いつでも横付けできる位置に待機していたのですが、誰一人として姿を見せることはなかった」


 実力者がそろって帰還せずか。港の戦力的にも大きなダメージを受けてそうだ。


「船乗りたちは遊黄竜をどう見たのでしょう。なんらかの異変を感じたとか言っていましたか」

「雰囲気についてなにか言ってはいなかったと思います。暴れていること自体が異常ですし、普段から見慣れているものでもありません」

「そりゃそうですね。だったら雰囲気とかではなく、視覚的な情報はなにかありましたか。モンスターの姿が見えたり、特徴的な建物があったり」

「見た目は森、砂浜はなく皮膚の上に土があり、木と草が生えている。森から鳥の鳴き声は聞こえてきたものの、モンスターの姿も動物の姿も見えなかったということです」

「鳥の鳴き声が聞こえたってことだから、生物はゼロってわけじゃなさそうですね。姿が見えないだけで動物やモンスターがいてもおかしくない」

「そう思います。あと竜の背という特殊環境なので、通常の森に行くつもりだと危険かもしれないと冒険者が帰ってこないことから推測されました」


 ゲームにも遊黄竜の背に行くというイベントはなかったし、そこがどうなっているのかわからない。


「よその土地で特殊な環境といったらどんなものがあると思いますか。参考になるといいんですが」

「参考にするなら森の特殊環境でしょうね……南のバス森林は入れないってだけで特殊とは言えない気もしますし、グルムザインの森が近いのかもしれませんね。強大な存在がいる森なので」


 ゲームだとそこまで特殊環境じゃなかったような気がする。


「どんなところなんでしょうか」

「植物系のモンスターであふれた森と聞いていますね。通常の森とは比べものにならないくらいモンスターが集まっているそうです」


 モンスターが出るのは当たり前のことだと一瞬思ったけど、ゲームの知識に引っ張られているのにすぐに気付く。

 普通の森にもモンスターは出るけど、そこまで多いわけじゃない。ゲームほどの頻度でエンカウントはしなかったのだ。

 グルムザインのいる森はゲーム並のエンカウント率なのかもしれない。


「ということは遊黄竜の背もたくさんモンスターと遭遇することになるってことですかね」

「かもしれませんね。ですがモンスターが多いなら船からも見えたはずなんですよ。量よりも質なのかも」


 少数の強いモンスターに調査隊は全滅。レベル十五で殺されたってことは魔物に近いモンスターがいたのでは? もしくは魔物そのもの。

 真剣に考え込む俺を見て受付は確定情報ではないと付け加えた。


「今話したのは推測したことであって、情報は入ってきていません。だから別の理由で全滅した可能性もあります。考えすぎても無駄になるだけですよ」

「ああ、そうでしたね」


 たしかに帰還者ゼロなんだから、断定しちゃ駄目だ。


「ここまでが出せる情報ですね」

「そうですか。死者がでたと聞いていますが」

「私たちで確認できている範囲では、大きく揺れた船から落ちて怪我をした人はいますが、死者はゼロですよ」


 帰ってこない冒険者たちはすでに死んでいると考えている人がいるらしい。


「これらを聞いてもまだ調査に行く気はありますか」

「あります」


 即答に職員は目を丸くする。


「危ないし行く手段もないとなれば諦める人がほとんどだと思うのですけどね」


 普通はそうなんだろう。俺は行かないと死ぬから諦められないだけだ。

 職員は周囲を警戒するように見渡して続ける。


「そういった人に秘密の依頼があります」

「秘密? なにか利用してポイ捨てしようとしてません?」

「違いますよ。本気で行く気のある人のみに教える依頼です。弱い人を送り出しても無駄ということで、実力を測る依頼でもあります。もっとも実力を重視ではなく、やる気を重視しているんですが。実力があってもやる気がない人を無理に送り出したところで成果は期待できませんからね。最低限の実力を測る依頼ですね。不安があるなら上司を連れて来て、証言してもらってもいいですよ」


 ついでにとここの長と領主がサインをした依頼書も見せてくれる。

 見た感じしっかりと作られた依頼書に見える。上司を呼ぶと断言したことからも信じられるかな。それに領主のサインを偽造なんてしたら問題にもなるだろうし。


「それなら納得かな」

「依頼内容を聞きますか?」

「聞きます。依頼を達成したら遊黄竜に行けるということなんですよね」

「はい。もう一度調査員を送ってみようという話になっていまして、人が集まれば実行されるという感じですね。秘密と言ったように誰かに話すことは禁じます。話せば依頼を達成しても調査員からは外されます」

「なぜもう一度ということになったのか理由は聞かせてもらえるんでしょうか」


 受付は頷いて、周囲をもう一度確認する。

 離れたところに人はいるが、こちらに注意は向けていないようで、それを確認できた受付は俺へと視線を戻す。


「町長が領主様へ、領主様から王都へと連絡がとれています。そして騎士団や腕利きの冒険者が集められ、こちらに向かう手筈になっています。それをただ待つのではなく、少しでも情報を手に入れておきたいと領主様は考えて、もう一度だけ調査隊を派遣することになったのです」


 すでに国は動いていたんだな。

 おかげで素人が作るパラシュートを準備せずにすみそうだ。


「なるほど。それで依頼内容はどういったものですか?」

「この町から北に行ったところに山があります。そこは遊黄竜の森ほどではないですが、危険の多い場所です。そこから二種類の素材を採取してきてもらいたいという依頼ですね、ちなみに到着は今からだと明日の午前中といったところでしょう」


 なにをとってくればいいのかという質問をするとすぐに返答がある。

 バートラッカーという木から樹液の採取。サファベリーを採取。この二つだそうだ。

 バートラッカーは漆の一種で、船に塗って頑丈にするために必要だそうだ。サファベリーは魔術の媒介の一つとして使うらしい。


「なんの魔術を使うんです?」

「水の操作です。それを使って船の操作性を上げたり、波から受ける船体ダメージを減らします」


 そういったものがあったんだなー。

 それぞれの形状や生えている場所を聞いたあと、どんなモンスターが生息しているのかを聞く。


「モンスターはたまに入れ替わることがあるので、違ったものが出ていても驚かないでください」

「わかりました」

「最近あそこにいるのはシールドコング、ロングテール、動き星花、ブラッドワスプの四種類です」

「大ダンジョンでいうと危険度は四十階くらいですか」

「ええ、それくらいですね」


 戦意の高い五十センチ超えの蜂ブラッドワスプが四十階辺り、その下に頑丈な腕を持つシールドコング、とても長い尾を持つ猿のロングテール、体温を上昇させる花粉を撒き散らす動き星花という順だ。

 注意すべきは花粉くらいだろう。それも毒に対する薬を事前に飲んで置けば大丈夫だ。


「この町に動き星花用の薬は売ってますか」

「あれがどういったものか、ちゃんと知っているんですね。ここで扱っていますよ。依頼を受けるなら無料配布します。樹液を入れて保管する器も渡します。集めたサファベリーを凍らせて保存するための護符もですね」

「ではそれらをください。さっそく行ってきます」

「準備するので少々お待ちください」


 受付は上司らしき人間に話しかけて、さらに別のところへと歩いていく。

 十分もかからずに戻ってきた受付は必要とされる品をカウンターに並べて、説明していきながら布袋に入れる。


「ガツソルという村へ向かう馬車に乗れば目的地に到着します。昼食は買っておいた方がいいでしょう。依頼を達成したら馬車代や宿泊費はこちらから報酬と一緒にだします」

「わかりました。しかし若いってことで力不足だと止めないんですね」

「ある程度は実力を見抜く目はありますから。若さに見合わぬ強さを持っていることはわかります」


 立ち振る舞いや武具の質とかでわかるのかなと思いつつ袋を受け取った。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] どうやらスカイダイビングはせずに済みそうですかね 試しの依頼の難易度も問題なくこなせそうですし真っ当なルートで行くことになるかな
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