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17 出会い 5

 ダッセルさんたちに教えてもらったマッサージ店を目指して、それらしきところを見つける。

 表通りにあるしっかりとした店構えだ。

 そこに入って店員に客と思われたが、ここに来た事情を話すと納得したように頷く。


「あのお二人からの紹介なら、まあいいでしょう。独立したのはガルビオという十九歳の男です。場所はここから離れた住宅街です」


 ここのように目立った場所にあるわけじゃないそうだ。駆け出しが表通りに店をもてないよな。

 今は小さな一軒家を借りて、そこで寝泊まりしながら店としても使っているそうだ。

 その店員に礼を言い、教えてもらった家を目指す。

 一応看板が出ているらしいので、それを目印にして探すと一時間ほどで見つかった。周辺は住宅ばかりで、ここにあると知らなければ足を運ぶ客はいないだろう。


「こーんにちはー」


 来客を知らせる鐘はないし、客はこちらにといった案内板もないので声をかける。

 すると一分ほどで玄関が開く。

 二十歳くらいの男が出てきた。風貌は茶の短髪、赤目といった店員に聞いたものと一致する。


「なにか用事か?」

「ここでマッサージをやっていると聞いて、話を聞きたいんだが」

「わかった。中に入ってくれ」


 招かれ、作業場として使われている部屋に通される。

 向かい合うように椅子に座る。


「それで話を聞きたいということだが、どういったことを聞きたいんだ?」

「俺は冒険者の駆け出しなんだ。そういった相手の手頃な値段でマッサージを行えるかどうかを聞きたい」


 やれるぞと即答される。


「がっつりやると採算が合わないから、ある程度手を抜いてやることになる。例えばこの砂時計の砂が落ちて、もう一回ひっくり返した砂が落ちた時間で、体全体をほどほどに解して小銀貨二枚だな」


 ガルビオはいくつかある砂時計の一つをとる。

 前世で見た五分間の砂時計よりも大きいな。たぶん十分間くらいだろう。二十分間で小銀貨二枚。たまにやるなら高くはないか。


「腕とか足とか一ヶ所に集中するなら、同じ時間と値段でほどほどよりはしっかりやるぞ」

「施術前にどこが一番疲労しているとか診断してくれるならそれもいいな。自分で把握してやってほしい場所より、プロが判断して先にマッサージした方がいいところってありそうだし」

「師匠ならそういった判断はできそうだが、俺はまだ診断の方は自信ないな。今後の努力次第だろう」

「そうか。まあ今日は全体をやってもらって、ここが自分に合うか合わないか確かめようと思っていたから、診断はなくていい」


 小銀貨を二枚取り出して渡す。

 ガルビオは受け取った小銀貨をポケットに入れて立ち上がる。


「じゃあさっそくやるか。ではお客様、ベッドへ。うつ伏せになってください」


 口調を改めて、ベッドへと促す。


「服はこのままいいのか?」

「今日は軽くだから、そのままでよろしいですよ」


 それじゃそのままうつ伏せに。顔は枕に置いて、両腕は顔の近くへ。

 体勢が整うと、ガルビオは背中からやっていくと言って、指で押していく。

 砂時計の砂が半分落ちるくらいの時間を背中と腰に使い、残り半分を足に使う。

 砂が落ち切ると砂時計をひっくり返して、頭部と首と肩をもみほぐしていく。砂が残り半分になると腕を揉んで終わりになった。

 

「終わりました。今のところ特別ここが問題だろうと思えるところはありませんでした」

「気持ちよかったけど、疲れが取れたのかはよくわからないな」

「それは明日の朝になったらわかることだと思いますよ。動きのキレが少し違っていたりするので」

「そんなものか。とりあえず数日したらまた来てみよう」


 ガルビオの診断と同じく、今日のところはおかしいとか痛いと思ったことはなかった。


「ありがとうございます。商売はここまでとして、ついでだから少し相談に乗ってほしい」

「俺にわかる範囲なら別にいいけど、俺に商売とかマッサージの助言はできないからな」

「とりあえず聞いてくれ」


 はいはいと答えつつ椅子に座る。


「相談ってのはどうやったら女性客を増やせるかということなんだが」

「客自体を増やしたいんじゃなくて女性客だけ?」

「ああ、俺がマッサージ師を目指したのはなんの問題もなく女に触れられると思ったからだ」


 どうして俺にぶっちゃけたのか。客に言うことではないと思うんだけど。


「なんで俺に聞くんだよ」

「ここで開店して初めての男性客だからな」

「初めてってことは女性客が来ているんじゃないか」

「年配だったり、おば様方がな! 俺はもっと若い人に触りたいんだ! もっと若い人を呼べる方法はなにかないかと常々考えているっ。しかし一人では限界がある」

「オープンスケベだな、あんたは」

「スケベでなにが悪い! しっかりと目的をもって熱心に修行したおかげで弟子の中で一番早く独立を許されたんだぞ」


 目的をもって動くことを悪いとは言わないけど、その目的はさすがに師匠の人も戸惑うんじゃねえかな。


「ちなみに師匠のパラッカさんはそれを知ってんの?」

「知らないはずだ。話したことはない。ただ態度とか視線でばれていてもおかしくはないな」

「それで独立を許したということは、客にセクハラはしないとあんたを信じたのかねぇ」


 もしくはさっさと放り出して関係を切りたかったか。


「偶然おっぱいに触れるのはありだよな?」

「悪気なく一度だけなら許す人もいそうだけど、何度も偶然が続くとそれは駄目だな。偶然が続いた時点でそれはもうわざとだ」

「うっ駄目か」

「それで悪い評判が流れて困るのはあんただしな。客がまったく来なくなって店を畳むことになるんじゃないか。そんな人物に店を出すことを許可したパラッカさんにも責任が問われるかもしれない」

「さすがに師匠に迷惑はかけられないな。まっとうにやって本当に偶然触れられることを期待するか」


 諦めないんだなぁ。現実でスケベなハプニングなんて起きるものなんだろうか? 今生でも前世でもそんなことはなかったが。


「あれだ、若い客を呼ぶ話に戻そう」

「うーん……美容関係に力を入れるしか思いつかないな。でもそれはあんたもわかってそうだが」

「師匠のところでも聞いた話だし、それは俺もわかっている。でもその方針だと若い客じゃなくて、肌を気にした年齢のおば様方が集まっていたんだ」

「若いとそこらへん気にしないって話は聞いたことあるな。ほかに若者が気にしそうなことは……」


 なにかあるかと少し考えてみて、化粧はどうだろうかと思いついた。

 若い頃から化粧に関心を持つ子はいるらしい。でも化粧品を売るのはマッサージ師がやる仕事じゃないよな。


「なにか思いついたのか?」

「化粧品なら若い子でも関心があるだろうって思ったんだが、マッサージ師が化粧品を扱うのかというと疑問だったんだ」

「化粧か、師匠の店でも扱っていたぞ」

「扱ってたのか」

「おしろいや口紅じゃないけどな。肌の健康を保つためのクリームとかそういったものだ」

「ああ、基礎化粧品っていわれるやつかー」


 それならマッサージ師が顔のマッサージをするときに使ったりしそうだ。


「基礎化粧品って呼び方は初めて聞いた。お前の故郷とかだとその方面に力を入れていた店があったのか?」

「詳しくは知らないがあったんだろう。覚えているかぎりだと、肌は若い頃からの手入れが大事で、しっかり手入れしていれば年をとっても良い肌を保てるとかなんとか」

「若い頃からの手入れって部分を宣伝に使えば、若い女がくるかもしれないな」


 希望が見えたとガルビオは表情を明るくした。


「かもしれないけど、そこらへんの化粧品や手入れの知識と技術は持っているんだろうな? いい加減なことをすれば逆に肌が荒れて恨みを買いそうだ」

「要研究だな。師匠からはそこらへんの知識や技術は教わっていないし。まだ客が少ない時期で助かった。空いている時間を研究に費やせる。まずは師匠に話を聞きに行ってみるか」


 マッサージ師という本職を忘れて研究しないだろうな?


「ほどほどにな。本業放り出すと食っていけないぞ」

「わかっているさ。店を維持しないと意味がない。研究したものを使う場所をなくすのは本末転倒だ。いい助言をもらえた礼に次回のマッサージは半額にしてやろう」

「研究に没頭してその礼のことを忘れていたりしないだろうな」

「さすがにそういったことはメモに残しておくさ」


 マッサージも相談も終わったので、店を出ることにする。

 ガルビオにまたなと見送られて、表通りに向かって歩く。

 昼には少し早いが、見かけた食堂に入ろうか。

 昼食を終えて、町をぶらぶらとしてどこになにがあるか再確認していく。夕食後に風呂に入りたいと銭湯も探しておく。

 時間が少し流れて町の人たちも昼食を終えた頃に、教会へと向かう。

 なにか書くものが必要だったかもしれないと思いつつ教会の敷地内に入る。

 文字教室として使われるという空き室に入ると、シスターたちが掃除をしていた。

 その中にハスファもいる。俺に気付いて、近づいてくる。


「こんにちは、文字教室の参加ですか」

「こんにちは。参加であっているけど、少し早かったみたいだな」

「そうですね。もう少しすれば終わるので聖堂で待っていただければ」

「わかったよ。ああ、そうだ。シーミンに会ってきた。家とか好物を教えてくれてありがとう」


 頭を軽く下げると、ハスファは微笑んで礼は及ばないと返してくる。

 掃除の邪魔にならないように空き室から出る前に、なにか書くものが必要だったか聞く。

 それは文字教室側が用意するということだった。

 聖堂の長椅子に座って待つこと十五分ほどで掃除が終わる。その間に文字教室に参加すると思われる人たちが聖堂に入ってきていた。

 ハスファたちシスターが空き室から出てきて、文字教室の開始がそろそろだと告げる。

 ぞろぞろと待っていた者たちが移動していき、俺も行こうと思っていたとき聖堂の入口から大きな声が聞こえてきた。


「ハスファさん、こんにちは! 今日も素晴らしい!」


 なんだろうかと振り向くと、聖堂の入口で俺より少し年上の青年がハスファの両手を握っていた。

 あの青年の着ているものの質と作りがいい気がする。金をもっているんだろうな。


「まさに神が与えたもうた豊かな代物を拝むことができて、俺は感動している」


 言葉だけだとよく意味がわからないが、あの青年の視線はハスファの胸にいっている。普通にセクハラだな?

 ハスファも心底困った表情で、手を放したそうにしているが、力の差でできないでいる。

 近くにいるシスターも放してほしいと言っているが、あの青年の興味はハスファだけに向いているようで、耳に届いていないみたいだ。

 このままスルーってのは気の毒だし、声をかけてみようか。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 欲望が原動力かあ おば様方で満足しておけばそのうちおば様の口コミで若い女性も来るようになるかもですが 果たしてその時に暴走せずにいられるのかねえ
[一言] ハスファにセクハラかましている男は身内が権力者とかなのかな?周りが止めているのにセクハラ続行って普通の人は出来ないでしょ…… こういうヤツは逆らえない立場のバケモノから言い寄られてそのままゴ…
[一言] とりあえず自分の友人知人の女性には紹介したく無いよなww
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