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168 ギルドの長たち

 ニルたちとの話し合いを終えて、町をぶらつく。

 これからダンジョンに行くと、帰るのが夜遅くになるのは確定しているから休みにすることにした。

 従業員たちのおやつをついでに買って帰るかと周囲を眺めつつ歩く。

 相変わらず多くの人でにぎわっている町だ。これまで行ったどの町よりも賑わいが大きい。行ったことのない王都と比べて賑やかさはどうなのだろうと感想を抱く。

 虫追いから帰ってきたらしい土や草で服を汚した子供たちが袋を持って歩いている姿も見える。

 そういった風景を見ていると、ファードさんが歩いている姿を見つけた。向こうも俺に気付いたようで、軽く手を振ってくる。


「こんにちは」

「ああ、こんにちは。散歩の途中かい」

「用事を終わらせて、散歩しながら従業員たちへのお土産を探しているところでした。ファードさんは買い物かなにかですか」

「わしはこれから会議だ。ついでだ、一緒にこないかね」

「会議にですか? 無関係な俺が行っても意味がないと思いますけど」

「一度顔を見たいといっていたから、ちょうどいいのだよ」

「誰ですか、そんなことを言っているのは」


 俺の顔なんぞ見てどうするんだか。


「ゴーアヘッドとカンパニアのギルド長だ」

「三大ギルドの集まりに俺が参加って」

「本格的な話し合いというわけでもない。月一の報告会という軽いものだ。少し話して帰ってもいいぞ。なんなら土産をこちらから準備しよう。行くのは以前連れて行ったあの高級料理店だ」


 あそこのお土産か。期待できるから心が揺れる。セッターたちの勉強にもなるだろうし、腕を上げたら俺のご飯の質も上がる可能性がある。


「行きます」

「うむ、では行こう。ついでにこの前話し忘れたことを話しながらな」


 歩きながらなにを話していなかったのか聞き返す。


「発案した受け流しがあっただろう? あれが一応形になったんだ」

「ありましたね。自分の鍛錬に集中していて忘れていました。同時進行で練習していたんですか」

「カルシーンとの戦いのあとじっくりと練習できる時間があったからな」

「形になったということは使い物になるということですか」

「なるにはなるが、習得難易度は魔力循環よりも上だな。あれは経験がものをいう技術だ。感覚のみで扱うと無防備に攻撃を受けるだけになる」


 ミナといったギルドメンバーにも使い方を教えたが、誰一人として成功する兆しすら見せなかったらしい。


「ナルス殿といった戦闘経験豊富な者たちならば何ヶ月かの練習で扱えるようになるだろう」

「俺には無理そうですね」


 ナルスさんが例に挙げられるってことは、本当に莫大な戦闘経験が必要とされる技術だったんだな。


「魔力循環とは求められるものが別物だからな、お前さんでも習得はかなりの時間を要するだろう」


 具体的な使用方法やコツなんかを聞きながら、高級料理店に到着する。

 中に入ると店員から二人のギルド長はすでに到着していると伝えられる。その従業員にファードさんはお土産を頼む。


「どのようなお土産をご希望でしょうか」

「デッサ、なにがどれくらい必要だ?」

「おやつとしてつまめるようなものをお願いしたいです」


 従業員たちの人数も告げると、カナッペを準備しますと従業員は返答する。

 礼を言ってから、ギルド長たちが待つ個室へ移動する。

 ノックもせずに入る。中には二人の男女がいた。男の方は四十台半ばで温和そうな雰囲気だ。女の方は三十代前半で鋭い目つきだ。

 二人はちらりと俺を見たあと、ファードさんに挨拶する。

 ファードさんも挨拶を返し、椅子に座る。俺はファードさんの隣でいいか。


「その子は? 初めて見る顔だね」


 女の方が問いかけてくる。


「二人とも一度顔を見たいと言っていたデッサだ」


 その返事に二人が俺を見て頷いた。


「たしかにギルド員から聞いていた容姿だ。初めましてジニスタルドだ」

「ええ、こうして近くで見れば報告で聞いていた容姿に似ているとわかるわ。初めましてミラスよ」

「初めまして。ギルドのトップが俺のことを把握していたんですか?」


 ファードさんが話題に出したことがあるんだろうか。


「君は目立つから職員が何度も話題に出していたんだよ。一人で行動しているだけでも目立つし、タナトスの一族とも交流がある。ダンジョンを進む速度も早い。最初に話題に上がったのはガードタートルのときかな。倒し方に気付いて稼いでいただろう?」

「あのときですか。わかるものなんですね」

「あの強さで稼げる方法なんて限られているしね」

「私はファード殿が話題に出したとき初めて名前を聞いたわね。そのときは気にするものではないと流した。その後、大会の祝勝会でニルドーフ様と交流していたと情報を得て、注目する人物に格上げしたわ」

「うーん、たしかに交流はありますけど、冒険者としてのニルと接していますから王族とは別物ですよ?」

「それでも交流しているのは事実。それだけで注目する理由になるわ。それに魔力循環や劣化転移板なんてものの発案者でもある。その発想力は金儲けに繋がると見ているし、そういった部分でも注目するのに十分な理由がある」

「そんなものですか」


 神託といい、ギルド長たちといい、注目されると鍛錬に支障がでないか心配だ。


「ファード殿だけに儲け話をするんじゃなく、うちでもなにかアイデアを出さない? 損はさせないわよ」

「そうポンポンとアイデアなんて出ませんよ。魔力循環とかは自分に必要なものだったわけですし」 

「だったら今なにか自分に必要なものはない? それが儲け話に繋がりそうだけど」

「……特には思いつきませんね。あ、すでにあるかもしれませんがほしいものはありましたね」

「なにかしら」

「ダンジョンで寝泊まりするとき幻をかぶせて安全を確保する魔法道具があるじゃないですか、あれは固定しないといけないけど移動中も使えたらいいのになと思ったんですが」


 ミラスさんは期待外れといった表情になる。


「それはほかの冒険者からも求める声が出ているわ。どこかで開発もされているだろうけど、表に出てくることはなさそうよ」

「どうしてでしょうか」

「犯罪にも使えるから。盗人たちに夜闇の中を幻もまとって移動されたら、さらに発見しづらくなるわ」

「納得です……じゃあ逆に発見しやすくなる道具ってあるんでしょうか」


 少しばかり考えたミラスさんは首を横に振る。


「……そういったものは聞いたことないわね。なにかアイデアあるのかしら」

「一度見つけた泥棒を見失わないように、光る液体を詰めたボールをぶつけるとかそういった感じですかね。服にそういった光るものがついてたら隠れるのも一苦労だと思います。昼間でもそういった染料がついた人は目立ちそうです」


 ようはコンビニとかに置かれているカラーボールだ。

 ミラスさんは感心したように笑みを浮かべた。


「いいじゃない。兵や自警団にとって、あれば嬉しい道具だと思うわ。広く長く売れる品になるでしょうね」


 開発などどうするのかミラスさんは嬉しげに考え出した。

 そのミラスさんにジニスタルドさんが声をかける。


「アイデアの礼はちゃんとするようにね」

「当然じゃない。そういったことをないがしろにすれば、どこで足元をすくわれるかわかったものじゃないわ。お礼はなにがいい? お金? 品物? 情報でもいいわよ」

「そうですね……知っているかもしれませんが冒険者用の宿を所持しています。そこで使えそうな疲れを癒すのに優れた道具や家具ってどんなものがあるのか聞いてみたいですね。ある程度値段がはるものなら、自分用にだけ購入するのもありですし」

「そっちがどんなものを揃えているかわからないからすぐには答えられないわね。後日そこらへんの情報を書いた書類を宿に届けるって感じでどうかしら」

「それでお願いします」

「わかった。ただそれだけだとこっちが得しすぎるから、購入するとき割引できるように手配してあげる」

「いいんですか?」

「割引しても、こっちの方が儲けが大きいわ」


 売れることを前提に話が進んでない? 開発できるとはかぎらないと指摘する。


「ざっと考えてみたけど可能よ。暗闇でも光る塗料は存在している。それをもとに作っていけばいい」

「そういったものがすでにあるなら、誰かが似たようなものを作っていてもおかしくないと思うんですが」

「夜盗対策に使うという発想がでなかったとしか言えないわね。未来には出たかもしれない」


 誰かが将来発案したものを先取りしちゃったかな。俺もただ思いついたことを言っているだけだし勘弁してもらおう。

 ミラスさんは再びカラーボール(仮)について考え出す。

 ジニスタルドさんが声をかけてくる。


「俺からも質問をいいかな」

「はい、どうぞ」

「無理をしていないか聞きたい。うちを利用してまだ一年も経過していないのに、その強さは異常だと言っていい。ゴーアヘッドに最初来たときは普通の駆け出しだったと話を聞いている。去年の大会では魔物に重いダメージを負わされたとも聞いている。ちゃんと疲労やダメージは抜いているのかい」

「ポーションの使用を惜しまず、マッサージを受けたりしてできるだけ疲労やダメージには対応していますよ。本人的には大丈夫だと思っています。医者じゃないので、大丈夫と思っているだけでダメージが蓄積していることに気付いていないだけかもしれませんが」

「わしから見て、深刻な後遺症はないと思える」


 ファードさんがフォローしてくれる。


「少しばかり納得いかないというか。その活動速度でどうして健康でいられるのか疑問だ」

「わしとしては若さゆえの無茶だと思う。若い頃と年を取ったときの回復力の差は歴然だ。デッサが十五年後に同じ無茶をしようとしても無理だろうな」

「ああ、若いからってのもあるか」


 ジニスタルドさんがしみじみと頷く。

 そんなに回復力に差が出るんだろうか。前世でもそういった話を聞いたことはあるけど、実感としてはないなぁ。

 そんな俺を見てジニスタルドさんは苦笑する。


「年をとってみればわかるよ。風邪をひいても回復に時間がかかったり、徹夜が厳しくなったり、若い頃は平気だったことが徐々にできなくなる。体は大事にすることだ。若い頃の無茶が年をとって現れることもあるからね。ギルドで療養地なんかも紹介しているから、気が向いたら行ってみるといい」

「覚えておきます」


 行ってみたいけど時間がないからな。リューミアイオールの出す試練で転移したとき、そういった場所が近くにあればいいんだけど。


「あ、そうだ。ついでだから聞いておこう。デッサ、ゴーアヘッドに所属する気はあるかな」

「今のところはないですね」

「そうか。将来所属する可能性があるなら良しとしておこう」


 返答が予想できていたようで、あっさりと引いた。

 そのあとは武具や道具の購入はどこでしているのかといったことを話したり、それらのお勧めの店を教えてもらっているうちに、お土産が届く。

 ケーキのように厚紙の箱に入れられたカナッペを受け取る。


「お土産も届きましたし、そろそろ帰っても大丈夫ですかね?」

「ああ、顔合わせという目的は果たしたし大丈夫だろう」

「俺も大丈夫だよ」

「今日は良いアイデアをありがとう」


 また会おうという三人の言葉を背に個室から出る。ジニスタルドさんは会うかもしれないけど、滅多に行かないカンパニアのミラスさんとは会えないんじゃないかな。

 三人はこれから本格的な報告会だそうだ。

 店員に見送られて、店から出る。

 おやつとして渡すため、まっすぐルポゼに帰る。

 ホールの掃除をしていた従業員におかえりなさいと声をかけられた。


「ただいま。お土産があるから、一人一つずつ食べるようにって伝えてくれるか。すごく美味いものだけど人の分をとるなよとも伝えてくれ」

「そんなに美味しいのですか?」

「貴族が使うような高級店のものだ。あちこち食べた歩いた俺が一番美味いと思う店だよ」

「わざわざそんなところのものを買ってきたんですか?」

「もらいもの。ちょっとそこに行く用事があったんだ」


 楽しみだと言いながら従業員は掃除道具を端に置いて、知らせに行く。

 俺はキッチンに向かう。


「セッター、フリンク。夕食の準備しているところ悪いが、食べてもらいたいものがある」

「オーナー? なんですか」


 夕食の準備をしていた二人の手が止まる。


「高級料理店のお土産だ。味わって今後の参考にしてもらいたい。再現しろとは言わないが、ここまでのものがあると勉強になるだろ」

「ちょっとまってください、手が離せないんで。フリンク、先に食べてこい」


 材料を切っているセッターが補佐している料理人に指示を出す。

 箱を開けて、近づいてきたフリンクに一つだけ取らせる。

 フリンクはまず手に取ったカナッペを見て、なにが使われているのか確かめていく。

 匂いも確かめて、一口で食べる。咀嚼して目を丸くする。


「すごく美味しいですね! 悔しいことに今の俺だと感想はこれしかだせません」

「俺も似たようなもんだよ」

「フリンク、交代してくれ」

「わかりました!」


 切り終えた材料を大鍋に入れてかき混ぜるのを交代し、セッターが近づいてくる。

 カナッペを見ただけでセッターは目を見張る。


「食材を切る技術も優れたものがありますね。いただきます」


 フリンクと同じようにいろいろと確認したあとでセッターはカナッペを頬張った。

 真剣な表情で、じっくりと時間をかけて味わっていく。


「もっと食べてみたいですが、ほかの従業員のものですよね?」

「ああ、食べたら恨まれるぞ」

「残念です。ですが勉強になりました。とても良いものをありがとうございました」

「これでさらに腕が上がるなら嬉しいが、期待してもいいのかな」

「必ず努力します」

「その言葉だけでも楽しみが増えるってもんだ」


 箱を持って事務所に向かう。

 そこにいた者たちに一人一つだと言ってから、俺も一つ手にとって口に入れる。

 ルーヘンやレスタといった従業員たちも次々に手に取っていく。


「うわ!? 美味しいっ」

「ほんとに。ここまで美味しいものは初めてかもしれない」

「オーナー、どこで買ってきたものなんですか? 私でも買いにいけます?」


 高級料理店のものだから買うのは無理だろうと返す。

 残念だと肩を落とす従業員が多数だった。


「俺も気軽に行きたいけど、行けないだろうな。連れて行ってもらえているだけだし」

「これを作った店より美味しい料理を出す店はあるんですかね」

「王都に行けばあるかもしれない」


 あの店で食事をしたニルたちの感想がなかなかのものという感じだったし、同等かそれ以上の店はあるとわかる。

 ちょっとした休憩を終えて、従業員たちは仕事に戻っていく。

 俺もシーミンとハスファに帰還を知らせるためまたルポゼを出た。

感想ありがとうございます

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[一言] 有力者との顔繋ぎがドンドン進んでいってるなー デッサも危惧してますが鍛錬に支障が出たら困りますねえ
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