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141 戦い終えて 2

 執務室の前には警備の兵がいる。彼に用件を伝えると、俺について話を聞いていたようで、中に通してくれた。

 部屋の中にはフランクさん、会議で見かけた文官、さらに見覚えのない人がいる。


「おはよう。疲れはとれたかね」

「おはようございます。ほとんど取れました。今日一日大人しくしていれば元通りです」

「それはよかった。椅子に座るといい」

「フランク殿、彼が話に出た?」

「ああ、その通りだ」


 部下ではないのかな? 様付けじゃなくて殿ってつけているし。

 そういった疑問が表情に出たようで、フランクさんが紹介しようと話す。

 

「彼は領主様の直属の部下でロッド殿だ。魔物討伐を終えたと連絡したら、詳細を聞くために昨夜到着したんだ」

「ああ、夜に馬車の音が聞こえましたが、ロッドさんが到着したからでしたか」

「シャンガラから連絡がきたとき、領主様は支援要請と思っていたのだが、解決という連絡にとても驚かれてな。なにがあったのか聞いてきてくれと命じられた。そして私が急いで向こうを出発し、昨夜到着したというわけだ」

「そうでしたか。でも報告は昨日やっていますから、俺から話すことはもうありませんよ?」

「なにがあったのかは聞いたが、君からも直接話を聞きたいと思って、フランク殿に頼んだのだよ」

「わかりました。それでなにを聞きたいのでしょうか」


 森の近くに到着し魔物を待っていたときから戦闘の終了までと言うので、魔力循環は奥の手と誤魔化してそれ以外は隠さずに話していく。


「ありがとう。しかし本当によく倒せたものだ」

「封印の影響か弱体化していましたからね。以前戦った魔物と違ってすごく強いモンスターといった、まだ俺の手に負える強さでした」

「以前も魔物と?」

「町長にはすでに話しましたが、戦闘経験があります。そのときは手も足もでずに大怪我を負わされましたね」

「その経験があったから鍛えたのかね?」


 フランクさんが聞いてくる。


「いいえ、その前から鍛えていましたよ。そのときの強さは今より少し弱いくらいでしたね」

「君をそのようにする魔物か。今回の魔物がそうでなくて本当によかった」

「その魔物はどうなったのかな」

「俺より強い人たちが戦い、その中の一人が片腕を潰して大ダメージを与えて引き分けに持ち込み、追い払いました」

「君より強い者がいて、それでも倒せなかったのか」


 ロッドさんは驚愕の表情を隠さず溜息を吐いた。魔物の強さに頭を悩ませた感じかな。


「今回の戦いでは奥の手を使ったそうだが、それはどのようなものなのか教えてもらうことはできるのだろうか」

「俺からは言えません」

「流派の秘奥とかそういったものだからかね?」

 

 いいえと首を振る。


「いずれ北方の国が発表すると聞いています。だから俺が勝手に話すことはできません」


 国がらみじゃなくても、開発者のファードさんに話す許可をもらえないからと断っていただろう。


「国から発表されるということは、国家ぐるみで開発されたものなのか」

「もとは個人が開発したものですが、それを国が買い取った形と思ってください。俺はその開発に関わったので使えるんですよ」

「国の名は? ぜひとも知っておきたい」

「セルフッドです」


 二人とも知っているのだろう、頷いた。


「あそこか、遠いな。しかし情報収集を怠ることはできん」

「領主様から陛下へと今回の話が伝われば、情報収集に力を入れてくださるのではないか」

「そうだな。必ず伝わるようにしよう。しかし話だけでは納得できないかもしれないな。デッサよ、王都に同行してはくれないか。君という実力者がいれば納得できるだろう」

「あ、それは無理ですね。あと三日くらいでこの町を出て行きますんで」

「ここらで探しものがあるとか言っていなかったか?」

「魔物を倒したことで、すでに目的は果たしました」

「魔物を探していたのか。どうして君は倒そうとしたのか、どこで魔物について知ったのか聞きたい」


 どうしてか、どこでかも、答えたところで信じてもらえるわけがない。

 リューミアイオールに教えられて送り込まれたとか、ほら話にもならない。

 そうなるとどう答えたものか……。


「答えられないことなのか?」

「いえ……そうですね、秘の一族というものを知っていますか?」


 聞いてはみたものの、知っていたらこっちが驚きだ。

 案の定知らないと否定の言葉が返ってきた。


「まあ無理もありません。彼らは表には極力でない一族。どこかで魔物のような災害としかいえない存在が動いたときに、解決のため動く存在」


 ミストーレから遠い場所だし、また秘の一族を騙っても大丈夫だろ。確認が難しいはずだ。


「彼らは英雄がいた時代から、力を備え、知識を蓄えてきました。それらによって今回動くことができたのです。そして用件が済んだので、またどこぞへと去り、また危機が生じるまで潜み、危機に対応できるように力を蓄えることでしょう」

「本当にそのような一族が存在するなら、国と協力した方がいいと思うのだが」


 細かい設定は考えていないから突っ込まれると困る。


「国と関わっては、彼らは国に縛られることになります。それぞれの思惑や利権に組み込まれ、彼らの始祖の望みを果たせなくなります。英雄のおかげで平穏が得られました。その尊い平穏を守ることこそ、始祖の願い、希望、約束。その思いを彼ら一族は背負っているのです」

「それが君に課せられているものか」

「はい。といっても俺は一族の人間に助けられ、恩返しに手伝っているだけにすぎません。本来は助けられる側の人間。ゆえに彼らの全貌は俺もわからないのです」


 納得した様子ではないけど、追及は止まった。

 かわりにフランクさんたちは心配そうに俺を見てくる。


「恩返しといっても魔物と何度も戦うのは大変だろうに」

「命を助けられましたからね、その恩は大きい。彼らの知恵のおかげで助けられることもありますしね」

「そうか。こちらも助けられた側だ。あれこれ言うのは止めておこう。しかし三日後なら報酬は急いで準備しなければならないな。品物を準備するには時間が足りないから、金貨での支払いになる」


 それで問題ないかと聞かれて頷く。


「討伐と魔晶の塊を合わせて金貨七百枚を払おう」

「かなりの高額ですね」


 たしかクリーエを助けた礼として、その金額に近い額を支払おうとか言っていたか。


「そうかね? むしろ時間があるならもっと多くの金額を支払えたぞ。避難した住民たちにかけた費用や各ギルドへの支払い、そういったもので緊急事態に使えるお金が減っているからな。そこからデッサへの報酬もでる。しかし時間があるなら領主様から補填が期待できる。補填されたお金から報酬に上乗せできた」

「なるほど。まあ個人で考えたら金貨七百枚はかなりの高額ですから不満なんてありませんよ」


 高額で思い出したけど、帰ったら国から魔力循環のお金ももらえるんだよな。もしかすると貯蓄が金貨千枚に近いことになるかも。

 そんなにあっても使い道が武具しかない。いや野宿用の魔法道具を買えば、ダンジョン内でも安全に寝泊まりできるかもしれない。

 ミストーレに戻ったら探して回ろう。

 フランクさんは部下に命じて、報酬を準備するように指示を出す。

 部下が執務室を出ていき、報酬が届くまでの話題として、秘の一族の今後について聞かれる。


「今後ですか。予定は聞いていないので、会いに行く必要がありますね」

「急ぎの用事がないということは、今回のようなどこかで封印が解けるといった事態は起きていないということか」

「うーん、おそらくとしか言えませんね。ただ……」


 魔物が動きを見せていることは、一応言っておいた方がいいか。


「なにかあるのかね」

「魔物が組織的な行動を起こしているかもしれません。以前戦った魔物が別の魔物の指示で動いているようなことを言っていたんです」

「そんなことが。そのときの魔物が引き分けになったものなのか?」

「はい」


 カルシーンという名と見た目と戦い方、そして人間を見るために魔法で人に変装していたことを話す。


「人に変装? そんなことまでしてくるのか」

「どうして人の観察なんかしたんだろうか」

「それは聞いてみましたが、答えてはくれませんでした」

「当然だろうな。変装している魔物を見抜く方法はあるのかね」

「今のところはありませんね。いずれ判別方法が生まれるかもしれませんが」


 俺には思いつかないから、国がどうにかするといいな。


「蓄えている知識でどうにかできないのだろうか」

「俺の知るかぎりでは人に変装したなんてことは初めてですし、さすがに即座の対処は無理じゃないでしょうか。むしろ人間で変装を得意とする人に、変装の際の注意点とか聞いたら見抜く参考になるかもしれません」

「それも領主様に伝えておこう。そのカルシーンという魔物以外にも戦った経験があるそうだが、そっちはどんな奴なんだ?」

「スケルトンの魔物でしたね。そいつはすでに死んでいるので注意する必要はありませんよ」

「倒したのか」

「洞窟を壊して、それに巻き込んだ形ですね。真っ向勝負では負けました。あと俺一人でやったわけでありませんよ」

「魔物を倒すのに洞窟一つか。安いのか高いのか」

「廃坑みたいなものでしたし、安いんじゃないですかね。山師が見たらまた別の感想を持ったかもしれませんね」


 そんな廃坑になにをしに行ったのか聞かれ、宝探しに行って盗賊が隠した宝を見つけたと話すと、珍しいこともあるものだと驚かれた。

 話し終える頃に、報酬が届く。

 百枚入りの小袋が七つ、テーブルに置かれる。それに加えて空の大きな袋も置かれた。持って帰るときにまとめて入れていけということなのだろう。

 それをもらい、執務室から出る。そして客室に戻り、武具を着込んで、屋敷からも出る。

 宿に戻ると避難した従業員は戻ってきていなかった。でも冒険者の客はいて、食堂で酒を飲みながら話していた。

 会話を聞き流しつつ部屋に戻り、荷物を置く。武具も外して、剣と財布だけを持って宿を出る。大金を置きっぱなしは少し不安だけど、持ち歩くのも邪魔でしかない。

 その足でカイナンガに向かい、事務所に入る。戦いの前とうってかわって落ち着いた雰囲気の中、暇そうな職員に声をかける。


「おはようございます。ミーゼさんはいますか?」

「おはようございます。いますよ。今日は休暇にしているから自室で過ごしているかと」

「挨拶に来たと伝言をお願いします」


 わかりましたと言って職員は小走りで事務所を出ていった。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ニル「デッサが秘の一族の協力者?……妙だな」
[一言] 秘の一族再びw 正直に答えても嘘にしか聞こえないですもんねー
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