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135 準備開始 1

 今日も森で影の探索だと予定を立てて宿から出る。すると森方面の町の入口で兵が騒がしくしていて、それを気にしつつも町から出て歩いていると冒険者たちが集まっていた。

 いつもはこんなことはないので、明らかに異常事態だ。

 これはいよいよ強敵のおでましか。


「すみません、なんでここに集まっているんですか」


 三十歳を過ぎた冒険者に声をかける。


「ん? なにか森で異変が起きているようだ。朝早くに行った奴が森のあちこちが荒れているのを見たらしい」

「昨日も森に行ったんですけど、荒らすようなモンスターとかはいなかったんですけどね」

「理由はまだわかってない。ただ今も森になにかがいるみたいだな。少し前に森の近くに行った奴が木の倒れる音を聞いたようだ」

「今後、町としてはどう動くんでしょう?」


 兵に任せるとか言われると、こっそり倒しに行くことになる。

 森にいる奴がリューミアイオールの言っていた強敵だろうし。


「今は勝手に森に行くなと指示が出ているよ。俺たちが入れない間に、正体を探るため身軽な兵や冒険者を森に送り込むんじゃないかな。情報を得た後は森を見張りつつ、森にいるなにかへの対策を練って、討伐になるはず」


 最後にたぶんと付け加えた。

 今は入るなって言われているのか。素直に従っておこう。明るいうちに行こうとしても目立つしな。

 勝手に行くと揉めそうだから、許可をもらって入れたらいいんだけど。


「調査に立候補したいんですけど、兵に頼めばいいんですかね?」

「それでいいとは思うが、なにがいるのかわからないから危険だぞ? 若いうちからあまり危険に飛び込むようなまねはしない方がいいと思うが。名を売るにしても別の機会を待った方がいいぞ」

「これでも鍛えているんで逃げるくらいはできますよー。普段は大ダンジョンで戦っていますから」

「ここらへんのモンスターより強いやつらと戦っているということか」

 

 それなら大丈夫かもしれないなと頷く。


「なにがあっても自己責任ということは理解しておけよ」

「ええ、ダンジョンではそれが当たり前ですから」


 冒険者たちの集まりから離れて、兵たちがいる町に戻る。

 町の入口で話し合っている兵に声をかける。


「すみません、ちょっといいですか」

「なんだ? 森についての話だったらこの先にいる冒険者に聞いてほしいのだが」

「彼らから話を聞いてこっちに来ました。調査が行われるかもということで、それに参加したいんですよ」

「君のような若者をなにがあるかわからない今の森に連れて行くのはどうかと思うのだが」


 ここでも実力不足と思われたか。カイナンガに問い合わせてもらえば、そこらへんは解決できるだろうと提案しようとしたら、近くにいた別の兵が話しかけてくる。


「たしか君、年末に暴れていた剣士を倒した冒険者じゃないか?」

「はい。その通りです」

「調査組に彼をいれよう。俺たちよりも強いぞ」

「強いのか?」

「ああ、俺たちが複数で囲んでも手出しできなかった剣士を倒したんだ。年末に兵が何人も怪我しただろ。あのときの話だよ」

「あのときのか。こんなに若いのにすごいな。上に話を通しておこう。出発は昼過ぎになると思うから、昼食後ここに来てくれ。上から断られたら運が悪かったと諦めてほしい」

「わかりました」


 断られたら夜にこっそりと行くしかないかな。

 兵から離れて町に入る。町の中はこれまでと変わらない様子だ。まだ森の異変について情報が広がっていないのだろう。

 向かうのはカイナンガ、そして道具屋と教会だ。お金を下ろして、護符とハイポーションを買ってこないといけない。ミストーレから持ってきたものは期限が切れちゃったからな。

 カイナンガの敷地に入ると、ここも騒がしかった。あちこち走り回って準備を整えているみたいだ。

 そんな様子を横目に事務所に入る。


「すみませーん、お金を下ろしたいんですけど」


 忙しそうな事務員に声をかける。

 少々お待ちくださいと返事があり、三分ほどで職員がやってくる。


「お待たせしました。お金を下ろしたいということですが、いくらですか?」

「預けてあるもの全部」

「……問題はないんですが、なぜこの時期にお金を下ろすのでしょう」

「森が騒がしいでしょ? その準備にハイポーションとか買おうと思ってまして」

「ああ、そういうことですか。危険を避けるため町から離れるためかと思ってしまいました」


 ちょっと気になる発言だな。


「危険といえるほどに、カイナンガは森の状態を把握しているんですか?」


 兵たちも冒険者たちも森になにかがいるという情報を出しただけだった。慌ただしそうではあったけど、逃げ出さないといけないほどに危険とまでは認識していなかった。

 俺の指摘に職員はしまったと表情を変化させた。


「申し訳ありませんが、ギルド長から口止めされていまして。話すと余計な混乱を巻き起こすかもしれないとのことです」

「わかった。聞かないよ」

「ありがとうございます」


 ほっとした様子で職員は頭を下げた。

 ミーゼさんは森になにかがいるって知っていたってことだよな。


「ミーゼさんは今なにをしているんですか?」

「森で起きているかもしれないことについて話すんだって言って、町長のところへ行っています」

「そっか」


 職員から金貨を受け取り、カイナンガから出る。

 道具屋と教会でこの町での最高ランクの護符とハイポーション二本を買って、宿に戻る。

 昼までは時間があるので、荷物をまとめる。

 この戦いが終われば、あとは帰るだけだからいつでも移動できるようにしておく。

 この町で増えたものといったらギターくらいだから、荷物の整理は楽だった。

 暇つぶしにギターを触り、昼食を食べて、持っていく物の再確認をしてから宿を出る。

 町の入口では相変わらず兵たちが集まっている。


「こんにちは。昼くらいに森の調査に出発するだろうと聞いてきたんですが」

「調査隊は向こうにいるが、参加するのかい?」

「同行許可の有無が昼に出ていると、午前中に聞いたんです」

「ちょっとついてきてくれ。上司に聞かないとわからない」


 兵と一緒に調査隊のいるところへ移動する。

 調査隊は兵と冒険者を合わせて三十人ほどだ。その中にカイナンガの知人もいた。ゴルホさんだ。模擬戦のときに使うものよりも短めな槍を持っている。


「隊長、調査隊参加希望の冒険者がきています。同行許可が出ているか聞きたいそうです」


 隊長はこっちに顔を向けて、名前を聞いてくる。


「デッサと言います」

「ああ、君がデッサか。許可は出ているよ。彼らと一緒に待機してくれ」

「わかりました」


 ゴルホのところに行き、話しかける。


「どうもー、カイナンガからの参加者はゴルホさんだけですか?」

「もう一人いるぞ。カイナンガの中で俺とそいつが斥候の技術が高いんだ。デッサはどうして調査に参加しようと思ったんだい」

「森の中の様子が知りたくて。荒れているとは聞きましたが、実際に自分の目で見たかったんです」

「そうなんだ。こちらとしては実力者が一緒だと心強いよ」

「ゴルホ、その子強いのか?」


 近くにいた冒険者が話しかけてくる。ゴルホさんの知人なんだろう。


「強いよ。カイナンガの上位五人と同時に戦っても勝つくらいには」

「嘘だろ?」


 会話が聞こえていた周囲の冒険者からも視線が集まる。


「ほんと。実際に一人対複数の模擬戦を何度もやって、一度も勝てていない」

「ビッグフォレストの上位陣でもそれは無理だろ。ということは現状この町でトップの強さということか」

「森の中のなにかと戦うことになるなら、確実に主戦力だろうな」

「そいつ、よそものだよな。戦ってくれるのか? 強いモンスターだったらこの町なんか知ったことかと逃げるんじゃないのか?」

「知人もいるんで一度も戦わずに逃げるってことはしませんよ」


 逃げたら試練放棄で死ぬことになるから、逃げられないしね。


「まあ、調査結果次第では戦わずにすむかもしれないし、俺たちはしっかりと情報を持ち帰ろう」


 ゴルホさんがそう言うと、そうだなと冒険者たちは頷く。

 そのまま待つこと十五分ほどで、兵から声をかけられる。


「出発する。歩きながら森の中での行動を話すぞ」


 兵たちが歩き出し、俺たちは彼らについていく。

 兵の説明によると調査は五班に分かれて行うそうだ。五つにわけた冒険者たちの中に、兵たちが一人ずつ入っていく。

 目的は調査であり、戦闘ではない。情報を持ち帰ることが最優先。

 当然森を荒らしているなにかの情報が最優先だが、そのほかにも怪しいものがないか調べてほしいとのことだった。

 緊急事態と兵が判断したら笛を鳴らすので、かすかにでも聞こえたらすぐに退いてくれと言い、どのような音色が吹いてみせてくれた。

 ピーッと鳴るホイッスルとは違って、キーッとやや耳に気持ち悪さを与えるような音だ。この音ならばほかの音と聞き間違いはしないだろう。

 

「到着だ。名前を呼んでいくから、指示した場所に移動してくれ」


 森の近くに到着し、兵が振り分けていく。

 今は森にいるなにかは動いていないようで、木々の倒れる音などは聞こえてこない。

 俺の名前を呼ばれて、一緒になる人たちに挨拶する。


「呼ばれていないものはいないか? いないな。では兵の案内にしたがって移動し、森に入ってくれ。もう一度言うが、戦闘ではなく調査が目的だ。情報を持ち帰ることが最優先だ」


 出発するという兵のあとをついていく。

 十分ほどで森に入っていく班がある。俺たちはまだ進むようで三十分ほど歩いて森に入ることになる。

 それぞれ虫よけの薬を使い、準備が整ったのを見た兵が森に足を踏み入れる。

 俺たちが入ったところはいつもの森の風景だった。不自然に倒れた木々はなく、動物や虫の鳴き声が小さいくらいか。

 同行している冒険者たちも今のところは異常を感じていないようだ。

 なにかを見落とすことのないように慎重に進んでいく。

 そうして一時間、森にいるなにかによって荒らされた現場以外の成果はなく歩いていると、先の方から音がした。笛の合図ではなく、木が倒れる音だ。


「より慎重に進むぞ」


 兵が言い、皆が頷く。

 足音を忍ばせてゆっくり進んでいると、誰かの話し声が聞こえてきた。


「退くぞ! 情報は得た!」

「了解!」

「怪我人を背負え! 時間稼ぎは俺たちがする!」


 その会話のすぐあとに笛の音が響く。

 俺たちと一緒にいた兵が即撤退を決めた。


「俺は向こうの手助けに行っていいですか? 時間稼ぎの人数は多い方がいいと思うんです」


 手助けは本当だけど、それ以上にどれだけ強いのかの確認もしたい。


「……いいだろう。だが無茶はするなよ」

「了解です」


 兵たちは去っていき、俺は声の方向へと走る。走りながら魔力循環を一往復する。

 時間稼ぎの手伝いに来たと大声で言いながら近づくと、怪我人を背負った冒険者たちが頼んだと言って去っていく。

 すぐに時間稼ぎをしていた兵と冒険者の様子が見える。

 冒険者は弓を使い、兵は槍を使って距離をとりながら攻撃していた。


「かなり手強いぞ!」

「俺たちもやられかねん! 近づきすぎるなよ!」


 互いへと注意の言葉を送っている二人が相手をしているのは、リスの頭部を持った人型の魔物だ。かなりの巨体で、三メートルを超えているだろう。体毛に覆われた体はたくましい筋肉が隠れている。

 封印の影響なのかわからないけど、ファルマジスたちのように言葉を発してはいない。咆哮のような声を出しているだけだ。

 威圧感はファルマジスやカルシーンより大人しいものだった。

感想と誤字脱字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 町の面々と一緒に討伐できるのなら手数って点では助かりそうですが実力はデッサ以下ですからねえ 期待しすぎるのも危なそうですね
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