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130 ファンクラブ

 今日は森に行かずカイナンガの模擬戦の日で、いつも通り朝から一対一や複数戦をやっていた。

 そうして昼になって、食堂に向かう。


「地力の差がなんともならん」

「連携して攻撃を当てても、平気な顔していますからね」


 悔しそうにクロージさんが言い、ギルドメンバーが同意する。

 木製武器だし、レベル差があるしで、当たっても軽くはたかれた程度だ。その程度の痛みならこれまでの経験もあって動じることもない。


「大ダンジョンにはまだ行けそうにないんですか?」


 俺が聞くと、彼らは頷く。


「もう少し待ってくれと言われている。遠い場所にあるから、準備が必要だとは思うがなんとなくそれ以外にも理由はありそうだ」

「理由ですか」

「姐さんの様子がどうもおかしくてな。なにか悩みがあるらしい。それが原因で遠征が中断しているのだろう」

「その悩みに予想はついているんです?」

「わからん。ギルドの運営が悪くなったとかではないはずだ。俺たちの働きは以前と変わらない、収入に変化はないだろう。新しい施設を作ったわけでもないし急に経営悪化などなりはしないだろう。事務の者たちも金の問題とは言っていないしな」


 なぜなんだろうと言いながら食堂に入り、昼食を受け取る。

 それを食べながら周囲の会話を聞いていると、気になる話題が聞こえてきた。


「昨日さ、森で変なものを見たんだ」

「ああ、別の奴から聞いたよ。なんか大きな影がいたんだって?」

「そうそう。最初熊かなと思ってほかの奴と討伐のために近づいたら、真っ黒で音もなく暴れている影だった」

「それは暴れてどうしたんだ?」

「どうもしてないな。周囲に被害はでてなかったし。見ていたらスーっと消えていったんだ」


 昼にも影が出てきたってことでいいんだよな?

 

「その影ってなんなのか予想つくか?」

「さっぱりだ。モンスターか魔法なんじゃないかって思うが」


 魔法だとするとなんのためにやっているんだろう。練習だというならわざわざ森でやる必要はないと思うし、狩りに使うなら以前から目撃されているだろうし。わざと目撃されるためにやっているなら、夜中にやる意味はないはず。

 話していた二人もなんだったんだろうかと首を傾げている。

 気になった話題はそれくらいで、昼食と食休みを終えて模擬戦を再開する。

 そうして夕方になりカイナンガから出る。

 帰り道、このまま宿に帰るか、どこかに寄って夕食を食べるかと考えながら歩いていると。複数の男女に囲まれる。年齢は十代から五十代と幅広く、鍛えている人もいればそうでない人もいる。

 世間話のために囲んだとは思えない、穏やかならざる表情だ。

 やや緊張しつつ口を開く。


「なにか用事ですか」

「お前に言いたいことがある! だがその前に自己紹介をしておこう。それで用件はわかるだろうしな」


 彼らは横断幕を広げ、手ぬぐいも広げる。

 そこには『リオ・ファンクラブ』『リオ・LOVE』といった文字が描かれていた。

 それらを掲げる彼らの表情は誇らしげなものだ。


「……噂のファンクラブか。それがなんの用事ですか」


 いやまあなんとなく用件はわかるけれども。リオに近づくのは止めろとかそんな感じじゃないかな。


「最近リオちゃんに近づきすぎる! もう少し控えてもらおう!」

「近づくのはやめろって言われると思ったんだけど」

「リオちゃんが嫌がっている様子はないから、そういったことを外部の俺たちが言うことはできん!」

「あ、そうですか」


 思った以上にマナーがいいファンクラブだったわ。


「近づくのを控えてほしいといっても、孤児院からの依頼で行っているわけだしね」

「その依頼は君ではないと無理なのかね」

「無理ですね。といっても何年もやるような依頼じゃないんで、長くてもあと二ヶ月に届かないくらいで終わりますよ」


 森に変化も出てきたことだし、いよいよ強敵出現も近いと思うんだ。それが終わればミストーレに帰るわけだし、そこでリオとはお別れだ。


「そこまで長くはないのだな。しかし、うーむ」

「なにか都合が悪い?」

「過激派が我慢できるかと思ってな」

「過激派とかあるんすか」

「一口にファンクラブといっても派閥はいろいろとあるのだよ。我らのような遠くから眺めている穏健派。リオちゃんが穏やかに暮らせるように問題を解決しようとする積極派。もっとリオちゃんに近づきたい接触派。リオちゃんに対して独占欲を抱いたことでファンクラブから追い出された過激派」


 前三つはリオの生活の邪魔にならないよう、できるだけ姿は見せない方針らしい。でも過激派はリオの都合よりも、自身の欲を優先していてたびたび問題行動を起こしているそうだ。

 その過激派をほかの三つの派閥が見張ることで、被害を押さえているということだった。


「被害を押さえているなら問題ないのでは?」

「これまでは特別近くにいる者が限られていたから押さえることができていた。孤児院や仕事先の者たちだな。しかしお前さんはこれまでの付き合いなどなく、急に現れて近くにいる頻度が多い。それは以前からいた過激派にとっては羨ましいことなんだ。あいつがいいなら俺たちだってと考え出しているだろう」


 あー、なるほど。これまで我慢できていたけど俺が来たことで我慢できる範囲を超えちゃったか。


「どういった行動にでるか予測つきます? 襲撃とかなら反撃しますけど」

「さすがに襲撃はないな。冒険者ということはわかっているだろうから、力でどうこうは無理だとわかるはずだ。悪い噂を流したり、証拠を残さないような嫌がらせか?」

「この町に長く滞在するわけじゃないから噂くらいなら無視すればいいと思うけど、嫌がらせはどんなことをしてくるんだろ。物を盗まれたりは困るんですけど」

「物を盗むのは難しいんじゃないか? お前さんから直接盗むのは無理だろうし、だとしたら荷物を置いている宿を狙うことになる。宿に入り込んで盗むとか、それは宿の責任を問われることだし、役所も動くことになる。事態が大きくなるのは向こうも避けるはずだ」


 そこらへんはまずいとわかっているのに、問題行動を起こすんだなぁ。


「だとするとなにをしてくるんだろう」

「ばれないように石を投げつけたり、店員に過激派がいれば注文をわざと間違えたりとか」


 石もいやらしいけど、注文をわざと間違えられたら許せん。食べたいものを食べられないってことじゃないか。


「面倒だな、あらかじめ兵に事情を伝えておいて、反撃の許可をもらっておこうかな」

「被害が出ていないなら許可はくれないと思うんだが」

「じゃあ一度でも被害がでたら届け出ることにするよ」

「そうか。ちなみに反撃ってどんなことをするんだ」

「石を投げられたら石を投げ返すし、注文を間違えられたら店主と交渉してそいつの給料分から代金を差し引いてもらうとかだな」

「注文の間違いはともかく石は危なくないか? ほかの人にも当たるだろうし」

「そうなったら投げた奴が悪いってことで諦めてもらう」


 まあ人が多かったら投げるふりだけですますけど。関係ない人を怪我させるわけにいかないし。こう言っておけば本気と思ってくれるだろう。

 ファンクラブの面々は焦ったように表情を変える。


「言い聞かせるから投げ返すのはやめてくれ。冒険者が投げると一般人は大怪我ですまないかもしれないんだ」

「大丈夫。コントロールには自信がある」

「いやほんとやめてくれ!」

「でも我慢すると向こうは調子に乗るんじゃないのか? 一度調子に乗ったら自分たちは正しいって思い込みそうだけど」


 正義は我にありと信じて、暴走とかされたらたまったもんじゃない。


「こっちでなんか押さえ込む。約束する。だから無関係の住民を巻き込むのは勘弁してくれ」

「一応その言葉を心に置くけども、あまり馬鹿をやるとこっちだって我慢できずに対応するからな」

「わかった」


 なんか立場が逆転したな。最初は向こうが要求を突きつけてきたのに。今はこっちの要求を聞いている。

 これでこっちに被害がでないと助かるんだけど。


「そういやロイヤルガードとやらは俺の接触になんにも言ってないのか? あれもファンクラブみたいなものじゃないのか」

「ロイヤルガードはファンクラブとは違った立ち位置だ。あの人たちもリオちゃんを好きだけど、俺たちのように外部の人間じゃなくて、身近な人間で構成されている。日常生活の手助けや厄介なファンの対応をするのが、ロイヤルガードたちなんだ」


 幼馴染のサーランをはじめとした身近な人たちがロイヤルガードと呼ばれてるそうだ。


「ロイヤルガードたちが君に接触して警告していないのなら、彼らに害のある存在とは思われていないってことだ。このことも過激派を説得する材料になるだろう。ロイヤルガードたちは害があるとみなしたらわりと厳しい対応をする」

「ロイヤルガードはリオの私生活を守る人たちってことか」

「そうだな」


 いろいろと守られてんな、リオは。そこらの金持ちより厳重な警備だろ。

 自然とそうなったのか、過去なにかあって守りを固めたのか。

 ファンクラブたちと別れて宿に戻る。部屋に向かおうとしたら従業員に呼び止められた。


「あ、お客さん。手紙を預かっていますよ」

「手紙? 誰からかわかりますかね」

「ビッグフォレストからの使いだと名乗っていましたよ」


 あそこから手紙をもらうような付き合いはないんだけど。

 丸められて紐で閉じられた紙を受け取って、中身を確かめる。ざっと眺めて俺でも読める内容だとわかる。

 内容は、依頼したいことがあるのでギルドに来てほしいというものだった。

 時間指定はないし、明日でもかまわないんだろう。

 部屋に戻り、手紙をテーブルに置く。

 食事をとったあとに、体をふいて、鎧の点検やギターの練習をして床に就く。

 翌朝、手紙をもってビッグフォレストに向かう。

 

「おはようございます。昨日こういう手紙を受け取ったんですが」


 手紙を差し出すと、受付は確認しますと言って手紙を受け取って内容を確かめていく。

 

「依頼を希望した担当の者を呼んできますので、少々お待ちください」


 受付はその場から離れて、俺も近くの長椅子に座って待つ。

 十分ほどで受付は四十歳を過ぎた職員を伴って戻ってきた。


「お待たせしました」

「ようこそ、ビッグフォレストへ。手紙を出したグイズと申します。個室へ案内します」


 グイズさんに先導されて、個室に入る。


「早速、依頼について話してもよろしいでしょうか」


 頷くとグイズさんは話し始める。


「依頼したいのは護衛です。この町ではなくよその町で強い冒険者を求めている人がいまして、強いと噂になっているあなたに依頼をださせていただきました。期間はひとまず一ヶ月。その後は働きぶりで更新という話です」

「よその町で一ヶ月ですか。都合に合わないので断ります」

「拘束される依頼ですし報酬は高めに設定されています。加えて今後のためになるかもしれない伝手を得られることを考えるとお得な依頼となっていると思うのですが」

「お金はさほど困っていませんし、あと二ヶ月もすればここを離れるので伝手を得ても無駄になりそうです。今回の依頼は縁がなかったということで」

「そうですか残念です」


 断られることも想定していたようで、そこまで残念そうではない。


「ここに腰を落ち着けるかもと思って依頼したのですが、離れるのですね」

「ええ、本来は大ダンジョンでの活動がメインなので」

「そこまでの実力は大ダンジョンで培ったのですね」


 なるほどと職員は頷いている。


「こちらからも聞きたいんですが、俺が強いと噂になっているんですか? そこまで派手に動いた覚えはないんですけど」

「年末に強い剣士を倒したと聞いてますよ。使っている武具がこの町では上位のものだったり、狩りで得た獲物の切り口から強いと感じた人もいるようです」

「なるほど、そういった線からですか」


 そこまで大きな町じゃないし、ちょっとした噂も広がりやすかったのかもな。

 

「あとは定期的にリオさんとあっているため注目度が上がっているようです」

「孤児院に用事で行っているだけなんだけど」

「毎回手料理をもらっていると噂になっていますが」

「まあ、もらってはいるな。報酬としてもらっているだけで、好意からとかじゃないぞ」

「どうして孤児院に通っているかわからないので、周囲から見ていると報酬とはわからないと思いますよ」


 贔屓されているように見えちゃうか。過激派を刺激することになってそうだな。

 報酬を別のものに変更したら過激派も少しは落ち着くかもしれない。でも美味しい料理を逃すつもりはないため、過激派には諦めてもらおう。

 依頼に関しての話は終わり、職員とわかれてギルドから出る。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ビッグフォレストの依頼もデッサを遠ざけたい思惑が透けて見えるなぁ アイドル活動をしているわけでもないのにこの人気! リオが女性だったら傾国と呼ばれたかもしれない?
[一言] 冒険者にちょっかい出せるほどの奴がいればいい見せしめになるんですけどねえ
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