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13 出会い 1

 デッサが成長を実感した頃、センドルたちは以前挑めなかった小ダンジョンに挑むため町を出ていた。次の成長のためコア破壊が必要だったのだ。

 今度の小ダンジョンは山の中腹にあり、そこの入口でセンドルたちは休憩しながら、今頃デッサはどうしているのかと話す。


「彼と別れて八日くらいか。一階二階は抜けて、三階で戦っているくらいかな」


 センドルの予想に三人は頷いた。


「勧めた武具を買ったならそこまで順調に行けるだろう」

「噛みネズミとの戦いに慣れるように言っておいたから、そこで経験を積んでいる頃じゃないかしらね」

「そうですねー。でも仲間ができていたらお金稼ぎのため先に進んでいるかもー」


 デッサ自身はお金に余裕があるが、仲間はそうではないかもしれない。彼らに付き合って先に進んだ可能性もあり得るとプラーラが指摘する。


「ハードホッパーの動きは教えたから、無防備に突進を受けることはないと思うが」


 少し心配そうに言うセンドルに、カイトーイも頷く。


「でもどれくらい速いかは実際に見てみないとわからないし、一度くらいは攻撃を受けたかもしれんな」

「まあ仲間がいればの話よ。一人なら三階で戦っているでしょ」


 心配する必要もないかもとレミアが言う。


「今四階に行っても与えるダメージが少なくて苦労するでしょうしねー。一度引き返して誰かに相談するでしょー」


 四人はデッサが護符について知らないと思っているので、そのまま戦うと思っている。

 それに彼らの常識では、カニシン堂の店員と同じくハードホッパーに護符を使うのはもったいないので使うという考えが出てこない。

 

「俺たちが町に帰ったくらいで四階に挑むペースかな」

「それくらいが順調なペースだろうな」

「それ以上だと無茶をしていると思うわ」

「怪我なくやっていてほしいものですねー」


 デッサが五階に挑もうとしているとはまったく思わずに、デッサの無事を四人は祈る。

 センドルたちは一般的な冒険者だ。その彼らが思うペースよりも早く進んでいるということは、リューミアイオールが提案した常人より早い成長をしているということだ。

 デッサ自身にはその自覚はないが、すでに常人と違った成長を始めていた。

 

 ◇

 

 噛みネズミを一撃で倒せるようになったから、さらに深く進むことにしよう

 これからは青銅の剣をメインとして使っていくが、木剣も予備として持っていく。

 一度だけ二刀流がいけるか試してみたものの、慣れていない戦い方では違和感があって片手剣のみに戻した。自分にはこれがあっているのだという感じで、片手剣がしっくりくる。

 五階への坂道まで戦闘を避けてさくさくと進み、五階に下りる。

 下った先にはこれまで見なかったものがあった。

 表面に文字が刻まれた四本の柱だ。なんだろうなと柱に近づいて眺めていると、四本の柱に囲まれた空間に人が現れた。

 現れた十一人のうち、十人が五階の奥へと進んでいく。

 残った一人の男が俺に気付いて声をかけてくる。


「帰りの冒険者かい?」


 そうじゃないと首を振る。


「もしかして転送屋?」


 そういや転送屋を使えばよかったわ。いつも使ってなかったから一階から歩いてきてしまった。


「そうだ。その様子からすると転移を初めて見たのか」

「初めてだよ。下の階層にもこういった四本の柱があって、そこで送り迎えできるようになっているのか?」

「ああ、五階刻みで転移を補佐する柱が建てられている。送るときは地上の転移屋からいつでもいける。帰りは決まった時間かこうして送り届けたタイミングで帰ることができるようになっているのさ」

「なるほどなぁ。お金はいくら?」

「深くなるほど高くなっていく。ただしここだけは特別価格なんだ。ここだと小銀貨一枚。それを転移する人数で割って支払う。十階は一人大銅貨五枚」


 大銅貨一枚とって一人を転移しないのは、わざとだそうだ。

 こうした価格にすると大人数が集まってきやすいので、大人数を転移する練習に使える。

 五階なら出てくるモンスターも弱いので、見習いの練習にうってつけの場所なんだそうだ。

 そういったことを話して転送屋は地上へと転移で帰っていった。


「俺も探索を始めよう」


 一体でいる跳ね鳥を求めて、五階へと踏み出す。

 跳ね鳥は二体以上でいることが多いようで、一体のみというのはなかなか見つからない。

 それでもなんとか見つけた跳ね鳥と戦ってみたところ、複数の噛みネズミと戦うよりは動きが単純で少し苦労したというだけで勝つことができた。

 一戦に二十分以上かけたけど、観察も兼ねていたから次からは戦闘時間は短くなる。

 

「噛みネズミと戦う時間をとっておいてよかった。センドルさんたちには感謝だな」


 魔晶の欠片を拾って、剣を壁に立てかけて少し休憩する。

 まだ少しだけ青銅の剣は重く感じる。跳ね鳥を倒してちょうどよい重さにまでなってくれたらいいな。

 十分ほど休憩して、次の跳ね鳥を求めて歩き出す。

 二十分ほど歩き回って、たまに冒険者たちを見かけたりして、見つけた跳ね鳥と戦う。

 五分経過して順調に戦えていると思っていたとき、近くにある曲がり角から複数の話し声が聞こえてきた。小さな声だし離れたところに冒険者たちがいるんだろう。

 そっちに気を取られると跳ね鳥からの攻撃を受けかねないので、できるだけ気にしないようにしていると、どんどん声は大きくなる。

 その口調は慌てた感じだった。

 すぐに三人の冒険者たちが姿を見せて、駆け抜けていく。


「誰かいたぞ!?」「気のせいだ」「いや誰かいたわよ」「じゃあ引き返せってのか!?」


 離れていく彼らからそんな会話が聞こえてきた。


「まさか」


 会話の内容から複数のモンスターに追われているのかと思う。

 俺も逃げなければと思ったとたん、戦っていた跳ね鳥が攻撃をしかけてくる。


「くそっ。相手している暇はないかもしれないのに!」


 跳ね鳥に隙を見せないように回避しながらじりじりと下がるつもりでいたら、曲がり角から跳ね鳥たちが姿を見せた。

 あの三人を追ってきたものだろう。

 その気はなかったかもしれないけど、擦りつけられた形だ。

 今の俺だと跳ね鳥複数は無理だ。怪我は覚悟して背を見せ逃げる。


「がっ!?」


 逃げようとした俺の背に跳ね鳥がぶつかってくる。

 片足を上げていた状態で運悪くタイミングが合い、強く押されて体勢を崩されて転ぶ。


(っ!?)


 すごく嫌な予感がして、立ち上がらずに真横に転がる。

 俺がいたところへと三体の跳ね鳥が勢いよく落下して蹴爪を突き出していた。


「危ねえ!?」


 追撃を受けてはたまらないから急いで立ち上がる。

 八体の跳ね鳥たちは俺を逃がす気がないのか、俺が立ち上がる間に囲むような位置に移動していた。


「まずいまずいまずい」


 呟きながらどこから逃げられるか探す。

 向こうも囲むだけではない。次々と攻撃をしかけてくる。

 それを必死に避ける。今の俺は無様といえる動きをしているだろう。笑う奴がいるなら笑え、こっちは生き残るために必死なんだ。

 攻撃はできずに、なんとかかする程度で跳ね鳥に対処していると、少しだけわかったことがある。

 俺と戦っていた奴もだけど、ほかにも動きが鈍い奴がいる。あの三人組がダメージを与えていたんだろう。


(一番動きが鈍い奴を攻撃して倒せば、そこを突破して逃げられるかもしれない)


 一番ダメージを受けている奴はどれだ。

 少しずつダメージを負いつつ探してみつけた。動きがほかのより鈍く、体毛もぼろぼろのあいつだ。

 運がいいのか、四階へと繋がる坂道がある方向にいる。あれを攻撃して、そのまま駆け抜ければ助かるはずっ。

 魔力活性と護符を使った一番威力のでる攻撃でぶっとばす。

 それを確実に当てるためタイミングを計る。ポーションも飲んでダメージも癒す。


「ここだ!」


 急いで護符を破って、死にたくないと強く思って魔力活性を使う。

 標的にした跳ね鳥へと青銅の剣を振り下ろす。


(当たった!)


 胸の奥に広がる歓喜に支配されて気を抜かないように我慢し、そのまま包囲を抜けるため足を動かす。

 しかし倒れた跳ね鳥が最後の粘りを見せてくる。

 足にぶつかってくるつもりだったのだろう。地面を蹴って転がってきたのだが、タイミングがずれてぶつかることはなかった。けれども俺が足を下ろすところへとちょうど転がり込んできて、俺はその跳ね鳥を踏みつけてしまった。

 ずるりと滑る。

 

(しまった!?)


 体勢を立て直したかったが、どうにもならず片手と片膝を地面につく。

 転ぶことはなかったけど隙だらけだ。そしてその隙を跳ね鳥たちが逃すことはなかった。

 次々と跳ね鳥たちが襲いかかってくる。

 更新した防具のおかげで傷は少ない。しかし痛みと衝撃までは消せない。どんどん体に衝撃が蓄積されて、体力を削っていく。蹴りや嘴による痛みと浸食による痛みが、じりじりと迫る死の接近を実感させる。

 

「死んでたまるか!」


 叫ぶように言って、残り少ない体力を使って武器を滅茶苦茶に振り回す。

 技術のなにもない攻撃だったが当たってダメージを与えることはできた。跳ね鳥の攻撃頻度を減らすこともできた。

 しかしできたのはそこまでだ。体力が尽きて、剣を振り回すことが難しくなる。

 残った七匹の跳ね鳥が襲いかかってきて、立つこともできずにうずくまる。

 耐えてどうにかなるわけではないが、少しでも守りを固めて迫る死を遠ざけたかった。

 十秒二十秒と耐え続けて、どれくらい時間がたったのかわからなかったそんなとき、声が聞こえてきた。


「生きてるの?」


 女の声だ。


「ぁ」


 小さく声を漏らすのが精一杯で、聞き覚えのない声の主がなにか言っているのを聞きつつ、助かったのだろうと思って気を失った。

 

 ◇


 シーミンがその場に遭遇したのは偶然だった。

 仕事のためダンジョンに入る準備を整えたシーミンは、仕事着である白のコートを着て、専用の武器である大鎌を持って家族と家を出た。道行く人にあからさまに避けられながら道を歩く。

 浸食を防ぐための魔法をかけてもらったあと転送屋に入り、そこの店員にも言葉少なく対応されて、それぞれ目的の階へと移動する。

 シーミンは十階に移動して、そこからダンジョン内を見て回り、地上を目指して歩く。

 家族の協力もあって十階くらいなら一人で歩き回ることが可能なのだ。

 ダンジョン内で出会った冒険者たちは、シーミンを見ると顔を引きつらせて道を引き返したり、道の端へと寄って避けていく。

 それに関してシーミンは特に思うことはない。何度もあったことであり慣れたのだ。

 今日は戦闘以外は何事もなく家に帰ることができそうだと思いつつ、五階まで到着する。

 襲いかかってくる跳ね鳥を蹴散らし、五階を見て回る。


「あれは」


 角を曲がった先に跳ね鳥が群がっているのを見つけた。

 仕事をしなければならないのかと小さく溜息を吐いて、跳ね鳥たちに近づき、大鎌を振って倒していく。

 全ての跳ね鳥を魔晶の欠片にかえて、その場に残ったのは少しだけ年下の男だった。

 身元を確認できるものを持っているかと思いつつ、近寄ると男の体がわずかに震えているのがわかった。


「生きてるの?」


 思わず声をかけると、男は小さく声を出した。


「ポーションは持ってる?」


 さらに声をかけたが反応がなく、男の肩に触れて揺らすが力無くされるがままだ。

 脈を確認するとまだしっかりと生きていた。


「あとでお金をもらおう」


 シーミンはそう言いつつ手持ちのポーションを取り出して、男の体勢を仰向けにすると少しずつポーションを飲ませていく。

 十五分かけてポーションを飲ませて、再度揺らすが起きる様子はない。

 

「背負って移動するのも面倒だし、もう少しポーションが馴染むまで待っていようかな」


 少し眠れば多少体力も回復して起きてくるだろうと思う。

 男が起きたときの反応を想像し小さく溜息を吐くと、シーミンは壁を背にして座る。

 夕飯はなにかななどとぽけーっとしながら待っていると、男が短く声を漏らした。

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― 新着の感想 ―
[一言] コア破壊の恩恵ってパーティー単位でも受けれるんですね
[一言] 擦り付けられたと思ったら助けも間に合いましたか シーミンってーと聖堂で見た子でしたっけ なんでまたダンジョンにいるのやら
[一言] おおっと、モンスタートレイン。 ワザとではなかったようだが、たまらんなぁ 絶体絶命のピンチに救世主現る うーん、死体回収屋みたいな感じ?
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