11 戦い方の模索 前
宿に戻ると、そろそろ食堂が開くと従業員から教えてもらえて、入口近くで待つ。
ベーコンエッグなどを食べて部屋に戻り、ダンジョンに潜る準備を整える。
宿を出て、教会に向かうとポーションを購入しようとしている冒険者たちが売店の前にいた。
そこに修道士たちがやってくる。ポーションが入っていると思われる大甕を運んでいた。
売店が開かれて、次々と冒険者たちが動いていく。
修道士たちは慣れた様子で、ポーションとお金の受け渡しを行い、冒険者たちをさばいていく。
俺もポーションを一本買って、ダンジョンへと向かう。
ダンジョンに入り、一階を通り抜けて、二階で噛みネズミを探す。一体でいる噛みネズミと戦い、昨日の復習を行っていく。
魔力活性を使った攻撃も試してみて、三体倒したところで一度戦いを終える。
「うん、好調。一対一なら問題はなさそうだ。このまま二体の噛みネズミと戦ってみるとしよう」
複数との戦いは一対一とは違ったものになるだろうし、必要な経験だろう。
できれば複数戦の経験を今日中で終えて、明日からはハードホッパーに挑みたい。
二階では噛みネズミは一体でいることが多かった。たまに見かけたほかの冒険者も複数人で一体を囲んで叩いていた。
三階でもそうなんだろうかと思いつつ、移動する。
三階で噛みネズミを探すと、複数でいるそれらを見つけることができた。
目的の複数との戦闘ができると一人で頷き、二体でいる噛みネズミを探して挑む。
(複数でいると連携とかしてくるかもしれないし、まずは回避しつつの観察だな)
二階で覚えた噛みネズミの動きを参考に、二体の攻撃をかわす。
(噛みネズミは連携とかしないみたいだ。それぞれが勝手に攻撃してくる)
回避してこちらから攻撃しようとしたらもう一体が攻撃してくるなんてことがありそうだし、攻撃の機会は減りそうだ。
時間をかけたくないなら被弾覚悟でいくしかないな。
複数相手に慣れることを優先したいから、ここは時間をかける方向でいこう。
回避して攻撃ということを繰り返して、三十分近くかけて二体の嚙みネズミを倒すことができた。
戦いが終わり一息ついて落ちている魔晶の欠片を拾う。激しく動いていたわけじゃないからばてて座るこむほどではない。
(思った以上に時間がかかった。ほかの噛みネズミが参戦してこなかったのは運がよかったなー)
実際に戦ってみると一対一より手間が増えるのがよくわかる。三対一とかだとさらに大変なんだろう。
(時間を短くするにはどうしたらいいかな)
休憩ついでに、効率よく倒す方法を考える。
すぐに思いついたのは俺の手数の少なさ、与えるダメージ量の二つだ。
仲間がいれば、攻撃回数が増える。でも経験値が減るからそれはなしだ。時間をかけるとそれだけ戦う回数が減るから、今のところは人数を増やしても効率は変わらないかもしれない。でもこの先戦いに慣れたら、状況が変わってくるかもしれない。
一人で攻撃回数を増やすには、モンスターの動きをしっかりと把握することだろう。ゲームほど決まった動きをするわけじゃない。それでもある程度はパターンがあるのは、これまでの戦いでわかった。よく観察して確実に隙となる行動のときに、俺の攻撃を叩き込めるようにしたらいいのかもしれない。空振りが減って、体力の温存にも繋がると思う。
ダメージ量を増やすには、レベルアップ。もっといい武器を使う。弱点を正確につく。この三つだろう。
レベルアップはいつするのかわからない。デッサの記憶を探っても急に強くなったとかそういった意識はない。知識が正しければレベル2になっているはずだから、急激な変化を実感できるわけじゃないんだろう。レベルアップによる上昇量が少ないのか、モンスターを倒していれば常に緩やかに上がっているのか。
レベルアップは置いとくとして、武器の交換について考えてみる。木剣よりいい武器は重いだろうから、今使っているこれを振り回し続けても疲れないようにならないと使えないと思う。一撃の威力が上がってもすぐにへばるようなら使い物にならない。つまりはレベルアップが待たれるということに戻る。
そういえば一時的に筋力とかを上げる護符とかあったか。あれを使えばダメージ量の上昇は見込める。探してみるのもいいかもしれない。
最後に弱点を正確につくということだけど、これは観察と技量の問題だろう。
弱点がどこかわかっていても、モンスターの動きに不慣れで攻撃を外すこともあるだろうから、正確に当てられるように動きを見切る必要がある。
(結論としては買い物をするか、今後も努力を重ねていこうぜということなんだろう)
そこまで考えて、いや違うと否定した。
それは普通に成長していく方法だ。俺に求められているのは常人よりも早い成長。
じっくりと基礎を固めて進んでいくのは大事なのだろうけど、それでは時間切れになる可能性がある。
(今俺が普通と感じていることよりも、一歩前に進むことを常に意識する必要があるんだろうな)
となるとハードホッパーと戦うか。複数相手に慣れるといった経験を積むことも大事だけど、先に進んで経験値を得ることも大事。
(四階に進もう。複数相手はまた明日やればいい)
ハードホッパーに関して考えながら下層へと向かう坂道を探す。
道中噛みネズミを見かけたが、それは避けて先に進む。
そうして見つけた坂道を下り、四階に入る。
さすがに初めて戦うハードホッパーを複数相手する気はないので、一体でいる個体を探す。
(突進要注意。頭から突進するから頭部は硬い。後ろ足も力が強いから蹴られると危ない。柔らかい腹を攻撃できればいいけど、それは難しいから背を叩く。ゲームでの弱点は魔法攻撃だったはずだから、今はどうしようもない)
対応を考えていると、十メートルほど先に一体でいるでかいバッタをみつけることができた。
外見は触覚が短いショウリョウバッタだ。大きさは情報通りに五十センチはなかった。
(よし、戦うぞ)
いつでも回避できるように構えて、少しずつ近づく。
ハードホッパーも近づく俺に気付いて、顔をこちらに向ける。
双方の距離が五メートルくらいになると、ハードホッパーの体が若干沈む。
(来るか)
突進の前兆だと思い、横に移動した途端、俺がいたところをハードホッパーが通り過ぎた。
投げられたドッジボールより少し速いくらいだろうか? 突進するということを知らなかったり、油断していたら避けきれずに当たっていただろう。
速度はドッジボールでも、重さはドッジボールなんか比にならない。当たればかなりのダメージが予想された。当たり所が悪ければ、駆け出しなんか死んでしまうかもしれない。センドルさんたちが痛い目を見ると言っていただけのことはある。
あの小ダンジョンでオオケラとミニボアに遭遇したのと同じ緊張感が湧いてくる。
武具のおかげでグリーンワームや噛みネズミでは感じなかった命の危機だ。
力んで動きが固くなりかけたのを深呼吸して解す。
(油断していたつもりはないけど、一層気合を入れていこう)
そんなことを思っていると、ハードホッパーが再度突撃してくる。
それを避けて観察する。
(着地して後ろを向いているからといって近づくと蹴りがとんでくるかもな)
攻める機会は振り向きかけたときだろうか。
まずは焦らず、ハードホッパーとの戦い方を探る。
ハードホッパーは突進だけが攻撃方法だが、フェイントも使ってきた。
突進に見せかけて軽く地面を蹴って、着地してから俺が避けた方向へと再度跳ねてきた。
ゲームではそんなことをしなかったし、センドルさんたちも言ってなかったから、フェイントをしかけられたときは焦った。なんとか体を動かし倒れ込んだ俺のすぐ近くを、ハードホッパーが通り過ぎていった。
心底ほっとしつつも心臓がどくどくとうるさく、冷や汗が流れた。
そんな経験をしながら攻撃もしていき、ハードホッパーの背中に五回攻撃を当てて、倒すことができた。
「なんとか倒すことができた」
ふーっと息を吐いて、魔晶の欠片を拾って壁を背にして座る。
ひやっとした場面があり、肉体的疲労だけではなく精神的疲労もあって休憩を欲した。
「複数でこられると対応できないな。避けそこなったら、確実にそこからどんどん崩れていく」
噛みネズミはまだ痛いですむけど、ハードホッパーは動きが鈍るだけですんだらラッキーだろう。
一撃でももらったらまずい戦闘はやりたくない。でも強くなるためにはここで躊躇っているわけにはいかない。躊躇えばそれだけ強くなるのが遅れて、死が近づく。
でもその死を怖がって、焦って無茶な戦闘をやるのもうっかりミスで死にそうだ。
「予定通り噛みネズミで複数戦に慣れて、ハードホッパーは一体のみでいこう」
今後も強くなりたい焦りと死の恐怖に挟まれて戦っていくことになるだろうか。ストレス解消できる趣味とかをみつけないと精神的に潰れかねないぞ。
前世だったらゲームとか娯楽が溢れていたから気分転換に困らなかったけど、こっちはそういったもの少ないからな。新しく趣味を作った方がいいのかもしれない。楽器でも触れてみるか?
「退屈ではない生活ができそうだけど、もっと余裕ある暮らしがしたいよ」
強くなるだけじゃ、いずれ潰れる。余裕ある暮らしを目指すと呪い殺されかねない。
気にかけることややることが多い。
こんな生活に追いやった、前世の記憶を取り戻す前の自分を一発殴りにいきたいよ、まったく。
休憩を終えて、また一体でいるハードホッパーを探して四階をうろつく。
たまにほかの冒険者たちをみかける。一人で戦っている者はみかけなかった。あとネットを使って戦っている冒険者もいた。
ネットで完全に動きを封じられるわけではなさそうだったが、動きが鈍ったところで全員でいっせいに叩いてあっという間に倒していた。数がいるとあっとう間に倒せて羨ましい。
儲けや経験値は人数割りだから、あちらからすると丸儲けのこっちの方が羨ましいかもしれない。いや安全面を考えると羨ましがられることはないか。
そんなこんなで合計三体くらいのハードホッパーを倒して、今日の探索を終えることにする。
帰るだけの体力は残してある。たぶん昨日よりは早い時間に終わったと思う。
モンスターとの戦いを避けて地上に出る。夕日が沈む直前といった時間だった。
「今日は魔晶の欠片を売ろう。護符を見たいし道具屋だな」
魔晶の欠片は大きなギルドや冒険者関連の店で売ることができると、センドルさんたちから聞いている。役所でも売れると言っていたけど、わざわざそこに行くよりギルドとかの方が近いそうだ。
駆け出し用の道具屋を教えてもらっているし、そこに向かうことにする。
宿への帰り道を少し遠回りする形で歩き、カニシン堂と書かれているらしい看板の出た店に到着する。
「まだ閉まってはなさそうだ」
俺のように用事のある冒険者が出入りしている。
店に入り、カウンターに数人の冒険者が並んでいるのを見て、先に護符を探そうと店内を見回す。
ロープや小鍋といった日常でも使えそうなもの、魔晶の欠片ではなく油を入れるランタンやその油、雨避けのマント。そういった品が並び、その中に額に入った護符があった。
近づいて見てみると説明が書かれたメモもあったけど、文字が読めないんで意味がない。
目的のものがあったことだけを確認して、カウンターにいる冒険者の最後尾に並ぶ。
順番が来て、魔晶の欠片をカウンターに置く。
店員は専用の計測器に魔晶の欠片を置いて、お金を準備する。
「こちらが買い取り金額です」
昨日今日の稼ぎでだいたい一日の生活費に少し足りないくらいかな。ダンジョンの浅い部分だと冒険者は暮らしていけそうにないな。
山でお金を拾ったり、センドルさんたちに竜の石を売ったおかげで生活していける。
護符やポーションを買うし、しばらくは赤字続きになりそうだ。
「どうも。護符を買いたいけど、文字が読めないんだ。説明してもらいたいけど大丈夫?」
「客の対応が終わるまで待ってもらうことになるけど、それでもいいなら」
「わかった」
俺の後ろにも客がいるしな、それは仕方ないだろう。
商品を見て暇を潰すことにしてカウンター前から移動する。
三十分ほど経過し、店の外が暗くなって客足が途絶える。
感想ありがとうございます




