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103 お祭り開始 9

 ニルドーフはなにか伝えたいことがあるのかとシャムシールを抜く。


『レオダークについて話していたので俺が知っていることを伝えておこう』


 ジョミスの言葉を聞いて、ニルドーフは身近なところに情報があったのに気付く。

 ジョミスのことを忘れていたことで、魔物を身近で見た動揺が自分の内にまだ残っていたのだと思い知らされる。


『レオダークは魔物をまとめる役割を担っていたようだ。カリスマというよりは力で従えていたのだろう。レオダーク自身が持つ力も上位に位置するものだった』

「戦ったことは?」

『一度だけ。魔物やモンスターを率いてとある国を襲いにきたんだ。それを知った俺たちはリューミアイオールに運んでもらい、レオダークの近くに下ろしてもらった。トップを潰せば、統率を失い楽になると考えたんだ。リューミアイオールや兵たちが戦っている間、俺たちはレオダークと戦い、傷は負わせたが倒すには至らなかった』

「まあ倒せていたら現代で名前が出てくることはないからな。それにしても意外な名前が出てきたな。黒死竜と協力関係にあったとは」


 城の文献にはリューミアイオールの名は出てこなかった。


『人間に手を貸していたわけじゃない。バズストと友人になっていたんだ。それで移動の手伝いをしてくれていた。普段から魔物やモンスターと積極的に戦っていたわけじゃない』


 バズストがいなくなったあとも人間と交流をしていれば、文献に名が出てきたのだろう。だがそんなことはなく、接触しようとした人間は皆返り討ちになり、人に敵対する存在とみなされて忌避されるようになった。その流れでリューミアイオールの名も消えていった。


「今でも協力を得られるようなそんな約束をしていたりしないのか?」


 バズストがそんな約束をしてくれていたらラッキーだと思いながら聞く。


『そういうのは聞いていない。むしろ人間に協力はしないだろう。バズストが命を賭けて魔王を封印することを止めたのはリューミアイオールで、推進したのは人間だ。その時点で関係に距離が生じている。その後バズストの遺言が守られていないことも把握しているだろうから、さらに距離は離れているだろう』

「魔王復活に備えろという遺言だったか」

 

 ナルスが確認するように聞くと、ジョミスは肯定する。


『友人の言葉が守られず忘れ去られている。それは俺でもショックなことだった。バズストと一緒にいることを楽しんでいたリューミアイオールならばなおさらではないかと思う』

「人間を積極的に襲うことがないのは、リューミアイオールの情けなのかもしれぬ」


 ナルスが言った。


『単純にどうでもよいと見放しているだけかもしれぬよ。話をレオダークに戻そう。衝突は一度のみ、その後は最終戦でもぶつかることはなかった。俺たちバズストの仲間はファルマジスと戦い、レオダークは軍を指揮して人間の軍とぶつかっていた。そしてバズストによる封印が成功し、レオダークは仲間と一緒にどこぞへと去っていった』

「行方知れずで、なにをしていたのかさっぱりだ」

『あれらがやることといえば魔王の復活ではないかな。そのために長年かけて動いていたのだろう』


 ニルドーフは神殿から知らされた神託を思い出す。

 こうして魔王の配下の名前が出てきた以上、魔王復活は信憑性が出てきた。

 竜に呪いを受け、庇護も受けた者。それを本格的に探すべきかと思う。

 神託を疑うつもりではないが、それでもまだ時間的余裕があると考えていて、しっかりとは探していなかったのだ。


「今もレオダークが生きていることをどう思う? デッサは不思議がっていたそうだけど」

『魔物にも寿命があるらしいとは聞いたことがある。本当かどうかはわからん。名前だけを使って利用している魔物がいるのか、俺のようになんらかの方法で存在しているのか』


 続いて外見や戦い方はどういったものなのかニルドーフは聞いて、ジョミスは答えて再び鞘に戻る。


「レオダークやカルシーンたちの情報は父上に伝えて各地へと知らせるようにしてもらいましょう。そのためにももう一度話を聞かせてもらえますか」


 疲れているところ申し訳ないですがと言うニルドーフに、ナルスは気にするなと首を振り話し出す。

 話を終えて、今回一番手柄を上げたのはファードだが、貢献という面ではデッサだろうなとナルスは言う。


「デッサの劇物と時間稼ぎがなければ今頃どうなっていたか」

「そのようなものを準備していたということは魔物の出現を読んでいたのでしょうか」

「あらくれ対策だと言っておったよ。それに魔物出現を読んでいたのなら、防具もしっかりと身に着けておったはず」

「たしかにあの時のデッサは武器しか持ってませんでしたね」


 それに魔物出現を読んでいたら、町長などに伝えていたはずだともニルドーフは思う。それができるだけの伝手はある。


「今回の件で魔物以外に必ず伝えなければならないとすればそれは魔力循環だろう。魔物と戦いにおいて有用な技術。デッサという若者ですら魔物の攻撃を耐えられるようにする。時間がないため簡単にしか聞けなかったが、詳細をしっかりと聞いておきたい」

「王都に帰る時期を少し遅らせて、ファードに聞きにいきましょう。しかしデッサが言っていた奥の手がそこまでの代物だったとは驚きです」

「わしも予想外だった。順当に大会が進めば優勝はファードだったろうな」


 ファードがロッデスとの戦いで魔力循環を使えば、ロッデスは過剰活性を使っていただろう。しかし過剰活性で魔物と互角にやりあえるほどの力を得ることは無理だ。技術と経験と力が合わさって、ファードがロッデスに勝っていただろうと推測できる。


「俺もそう思います。思い出してみればカルシーンと戦ったパルジームも最後に使っていたような気がしますね」

「言われてみればそうだな。魔力循環を使い魔物と対等に戦うにはファードくらいまで鍛え上げる必要があるということか」


 パルジームの負けは、魔力循環があれば魔物に勝てるというわけではないと示している。だからといって評価が下がるわけではない。

 これまでにない新技術で、有用ということはファードが実証している。


「少し不安があるとしたらカルシーンが魔物の中でどれくらいなのかということですか。あれで下の方とか考えたくはないのですが」

「現代では魔物との戦闘経験が少なく資料も少ないからな。なんとも言えん」


 その返答を聞き、ニルドーフは別の魔物とも戦ったデッサに話を聞いてみたいと思いつく。

 帰る前に会いに行こうと予定をさらに増やす。

 部屋がノックされる。入ってきたのはギデスの部下だ。

 会場でなにが起きたのか話を聞きたいとギデスがナルスを呼んでいるということだった。


「先生はお疲れでしょうし、俺が行ってきます」

「すまんが頼めるか。わしはひと眠りさせてもらうよ」


 長い話し合いになるとさすがにきついため、ナルスはニルドーフの提案をありがたく受け入れる。

 ニルドーフとナルスとギデスの部下は一緒に部屋を出る。

 自室に戻っていくナルスを見送り、ニルドーフは執務室へと向かう。


「ニルドーフ様をお連れしました」

「ニルドーフ様? 呼んだのはナルス殿だったのだが」


 少しばかり驚いた顔でニルドーフを招き入れる。


「先生は休ませたくてね。話を聞いているから俺が代わりにきたというわけだ」

「そうでしたか。ありがとうございます」


 ニルドーフにソファを勧め、ギデスは対面に座る。

 そしてニルドーフは会場でなにが起きたのか最初から話し出す。

 ギデスは最初から最後まで静かに聞き、ほうっと溜息を吐く。


「なんとか撃退できましたか」

「そうらしい。魔物が暴れて死者少数は幸運といえるのだろうな」


 ニルドーフもギデスも複雑そうだが、被害の少なさに運の良さを感じている。

 

「ええ、本当に。しかし今年はいろいろと起きてなにがなんだか。二度目の魔物出現となると、この町に私の知らないなにかがあるかと疑ってしまいます」

「大ダンジョンなんてものがあるのだし、最奥に人間の知らないなにかがあっても不思議ではないな」

「そうでしたね。となると魔物の狙いは大ダンジョン?」

「さてな。目的を口にしなかったからわからんよ。しかしダンジョン目当てなら大会に参加する意味がわからない」


 以前のモンスター出現はまだダンジョン絡みだ。しかし今回はダンジョンから離れていて、会場が騒がしくなったときダンジョンに動きがあったという報告はなかった。


「一応ギルドに調査依頼をして、ダンジョン内を調べてもらいます」

「異変があれば城にも報告を頼む」

「承知しております。魔物に関してはひとまずここまでとして、午後からの予定について話しましょう。神殿で行われる祭りの締めに参加することになっていましたが、いかがなさいますか。魔物騒ぎでお疲れであれば不参加でもよろしいかと」

「俺はそこまで疲れていないから参加する。妹はわからんな。その後にパーティが行われるのだったな。そちらは不参加かもしれない。ほかの貴族たちもこの騒ぎだから早めに帰還するかもしれないし、その準備で不参加になりそうだ。大会に出た者たちもいつもは呼ばれるのだろうが、今回は疲れていて不参加だろう」

「パーティを中止にした方がいいかもしれませんね」

「この騒ぎの情報を求めて参加する者もいそうでな。一応は続行してくれ。俺も参加することにしよう。人が少なければ早めに引き上げることにする」

「そのように進めます。私からは以上となりますが、ほかになにか話していないことはありますでしょうか」


 ニルドーフは思考するように視線を下げる。


「……そうだな魔物と戦った者たちは労わってやってくれ。国からも報いるつもりではあるが、城に帰ってからの話になる。ひとまずこの町から褒美などを頼む」


 承知しましたとギデスは頷いた。


「こんなところか。ここからは雑談になる。大会は途中で終わってしまったが、このような場合は優勝者を後日決めるのだろうか」

「過去豪雨で延期になったことがあるようです。そのときは本人たちが望んで祭りが終わったあとに試合が行われたようです。このあと続行の意思があるか確認してみます」

「ファードが優勝するのは間違いないだろうが、戦ってみたいという者がいるかもしれないな」

「私は魔物との戦いを見ていないのでわかりませんが、断定できるほどですか」

「ああ。現時点では世界最高峰かもしれない。世の中どんな達人が隠れているのかわからないから断言できないが、五本指には入るのではないかな」


 今のファードに勝てるとしたら、蓄積された経験と技術を凌駕できるセンスをもった天才くらいだろう。

 ニルドーフが知るかぎりではそのような天才の所在は聞いたことがない。

 もう少し雑談を続けたニルドーフは、神殿に行くまで部屋で過ごすことにして戻っていく。

 ギデスは各所への連絡を取るため、部下を動かし、書類を作っていく。


 夕方になり、住民の多くが町を出る。

 町の外では、神殿による感謝の花奉納が粛々と進む。

 神殿から町の外へと運ばれた多くのドライフラワーは数ヶ所にわけられて置かれている。

 そのドライフラワーのすぐそばに大きな焚火があり、そこに感謝の花が放り込まれていく。

 あっという間に燃え尽きて灰となり、新たに放り込まれる。

 このときだけは祭りの喧騒はなく、誰もが静かに焚火を見る。

 燃え盛る炎を老いも若きも見守り、火の粉が天高く舞い上がって、夕焼け空に消えていく。

 見守る皆がその火の粉にのって祈りが届くように願っていた。例年ならば収穫の感謝と来年の豊作を願うのだが、今年は魔物が現れたこともあって平和を祈る者が多かった。

 一時間かけてドライフラワーは全て燃やされる。

 炎が消える前に、地主長が祭壇を模した焚き火を前にして祈りを捧げる。

 感謝の言葉をゴルトークに捧げ、祈りが終わると神官が鐘を叩く。コーンとよく響いたそれを聞いた別のところにいた神官たちが同じように鐘を叩く。

 これは祈りの終わりを知らせる音であるとともに祭りの終わりも知らせる鐘だ。

 鐘が鳴り終わるまで人々は目を閉じて祈り、鐘の音が聞こえなくなると最後のひと盛り上がりだと歓声を上げて町に帰っていく。

 昼の不安を晴らすように盛大な声が夜遅くまで町から聞こえていた。

感想と誤字脱字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔力循環が国の上の方に伝わっちゃいそうですねー 習得の難度や適正はかなり高そうですが習得者増えるかなあ
[一言] 秘の一族さんに話を聞くついでに『竜に呪いを受け、庇護も受けた者』についても心当たりがないか確認するんだニル様!! デッサ目線では呪いしか受けてないから『知らない』って答えてくれるぞきっと
[一言] リューミアイオールは、何故デッサにはアクションを起こしたんだろうね? その内明らかに成るかな。
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