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102 お祭り開始 8

 フリクトが去ったタイミングで兵たちが姿を見せた。

 外に医者を連れて来ているので、診てもらってくれとその場にいる全員に言いながら怪我人を運ぶ手伝いを始めた。

 ファードさんはミナに支えられたまま医者のところに向かう。


「デッサ、歩くのが辛いなら肩を貸すぞ」


 グルウさんが近寄ってきて聞いてくる。


「歩くくらいならできますよ。ほかの人を手伝ってやって」

「わかった。でも無理はするなよ? 心配になるくらい激しい攻撃を受けていたんだから」


 そう言って兵の手伝いをするため離れていった。

 今日はもうこれ以上無理をしろって言われてもさすがに断るなぁ。

 そんなことを思いつつ外にいるという医者のところに向かう。物資を置いていたテントに医者たちがいて、冒険者たちの診断をしていた。診察を終えて空になった椅子に座る。

 

「診察ですか?」

「はい。歩くと体全体に痛みがはしるんです。ハイポーションで治してもこの状態なんで診てもらおうと思って」

「すでにハイポーションを使っていると」


 医者は目を丸くして俺の体に触れていく。そのとき近くで別の医者に診てもらっていた冒険者が俺を診てくれている医者に話しかける


「そいつはしっかりと診てやった方がいいぜ。魔物の激しい攻撃にさらされた奴だ。正直こうして起きて受け答えできているのが不思議なくらいだ」

「ハイポーションを飲むまではどういった状態でした?」


 医者がその冒険者に俺について聞き、冒険者は真剣な顔で答えていく。

 そうさせるほどに耐えていたときの俺はひどかったらしい。

 話を終えた医者は俺に向き直り、再度問診から始めていく。


「頭痛、吐き気、ふらつく、視界が曇るとかありますか?」

「いえそういったものはないです。歩くと痛いだけ。あとは浸食の影響か怠い」

「目を見せてください」


 目そのものや瞼の裏を見たあとは、口の中を見て、体全体をゆっくりと押していくといったことをやって診察が終わる。


「痛みはハイポーションでも治療が及んでいない部分の影響でしょう。それ以外に現状特別異常はないようです。ですが時間が経過して出てくる症状もあるので、少しでも異常を感じた場合はすぐにここに来てください」


 渡されたメモに住所が書かれている。


「ハイポーションで治りきらない時点でかなり深刻なダメージを受けたということです。どんな症状が眠っていてもおかしくはありませんから、少しくらい平気と思わず必ず診察を受けにきてください」


 わかりましたねと念を押されて、頷きを返す。

 

「ああ、そうだ。薬をもらったんですが、飲んでも大丈夫でしょうか」


 ハンカチに包んでいた丸薬を医者に見せる。


「体の治癒能力を強化する薬だそうです」

「これを見ただけでは判断できませんね。ですがそういった魔法薬があると聞いたことはあります。見た目もこれに近いものだったはず。少し削ってもいいですか」

「はい、どうぞ」


 医者は丸薬をピンセットで掴み、紙の上に置くと針でごく少量削る。削った分を小皿に移し、水滴をぽたぽたと落とす。

 水に溶かした丸薬を一滴、なにかの紙に落とす。


「これは毒があると変色する紙です。色が変わらないということは毒ではない可能性が高いです。ほかに不利益をもたらす薬に反応する薬なんかもあります」


 言いながら小瓶から薬を出して調べていく。そして数分で調査を終える。


「本格的に調べられたわけではありませんが、ここで調べられるかぎりでは自白剤といった不利益をもたらす効果はありません。不安に思うなら飲まないという選択をしてもいいと思います」

「ありがとうございます」


 医者がおかしなところはないって言うんだから飲んでも大丈夫そうだ。痛みが続くなら飲もう。

 診察を終えて宿に戻るため町に入る。

 朝の祭りの賑わいとは違う、不安そうな雰囲気が町に満ちていた。

 聞こえてくる会話は、また魔物が現れたことへの疑問、いなくなったことに安心するもの、まだ潜んでいないかという疑惑といったものだ。

 祭りを楽しむという雰囲気ではなく、この雰囲気のまま祭りが終わるのかもしれない。

 最終日にとんだことになったもんだと思いつつ宿に戻り、ベッドに寝転ぶ。

 そのまま昼寝でもしようと目を閉じた。


 ◇


 会場から出たナルスも診察を受けて、過剰活性の反動以外に異常なしという結果を受けて、ギデスの屋敷に戻る。

 長年生きていれば多少は過剰活性を制御するコツも掴んでいて、動けなくなるということはなかった。

 数日は激しい運動を控えた方がいいが、歩く程度なら問題はない。

 念のため杖をついてゆっくりとした速度でギデスの屋敷へと帰る。

 ギデスの屋敷は、慌ただしく兵が出入りしていた。

 それを横目にまずはニルドーフたちの無事を確認するため彼らの部屋に向かう。

 部屋の前にいる兵に顔パスで通してもらい、部屋に入る。


「先生! ご無事でなによりです」


 ニルドーフが立ち上がり、心底ほっとしたように言う。


「兵から魔物が退散したと聞きましたが、被害までは聞けておらず心配していたのですよ」

「死者は少ないながらも出て、重傷者多数だ」

「こういってはあれですが、魔物が暴れて死者少数というのは運が良かったのでしょうね」

「うむ」


 頷きながらナルスはどっこいしょと椅子に座る。大きく息を吐き、背もたれに体重を預ける。


「ずいぶんと疲れているように見えますが」


 普段は見せない様子に、それほど魔物との戦いは激しいものだったのかとニルドーフは思う。


「久々に過剰活性を使ったのでな。いやはや老骨にはこたえるわい」

「やはり先生も戦ったのですか」

「戦ったというほどのことはやっておらんよ。手伝いだけだな」


 ナルスはカルシーンとの戦いを最初から語る。

 ニルドーフの表情が変わる。心配と不安がわかりやすいほどに現れている。


「デッサは無事なのですか!? 一人で時間稼ぎなど無茶がすぎるっ」


 利用価値のある人物を失うことではなく、友として心配する思いが先に立ったのだ。


「無事じゃよ。手も足も出ずに好き放題されていたが、ハイポーションで治療したあとは意識もはっきりしていたし、自身の足で動いていた」


 そうですかとほっとした表情になるニルドーフ。

 話を聞いていたペクテアは表情を曇らせたまま口を開く。


「私からすればあの魔物はとても怖かった。それが怒った状態は想像できないくらいに怖いのだと思います。どうしてデッサ様は魔物の前に立つことができたのでしょうか」


 わからないとペクテアが言う。


「あの場にはデッサ様より強い方が多かったはず、それなのにデッサ様が時間稼ぎする必要はあったのですか?」

「彼より強い者が多かったというのは事実ですな。しかし激怒したカルシーンから放たれる威圧感にほとんどの者が動けなくなっておったのです。動けたのは一握り。それを見て自分ならまだなんとかできると思い動いたのでしょう。そうしなければ負けると確信も抱いていた」

「それだけで死ぬかもしれない時間稼ぎを行えますか? たしかに負けたら大きな被害はでるでしょう。ですが動けるのなら逃げて隠れれば自身の命は助かります。そうする人もいるのではないですか」

「そこらへんは本人に聞かぬとわからないことですな。デッサは逃げなかった、そして目的を果たした。今言えるのはその事実のみです」


 ペクテアの中でデッサのイメージが固まりだす。

 格上に命を賭けて立ち向かうことができる人物。己の目的を優先し、貴族の命令に従わない。すなわち我が強く勇気ある者。

 王侯貴族が間違ったことを行えば、躊躇わず噛みついてくる人物。革命が起きたとき、その先導に立つ者。

 それが今のペクテアが抱くデッサのイメージだ。

 そのイメージを兄に伝える。

 ニルドーフは苦笑した。


「革命とはまた。俺が彼に抱くイメージではそれはないかな。王侯貴族が非道を行えば、さっさとどこぞへ行くのではないかな。やるとしたら被害者を助ける感じかな」

「それならば今回も逃げていたのではないでしょうか」

「魔物相手だからじゃないか? 人間相手の厄介事には関わらないけど、魔物なら多少の無茶はする」


 革命を行うというなら、王侯貴族の動向はしっかりと把握する必要がある。しかしデッサのスタンスは王侯貴族から距離をとると聞いている。距離を取ればそれだけ情報は手に入れづらくなるだろう。

 デッサは税金などの知識がある。政治方面に強いかはわからないが、多少なりとも経営などに知識のある人物が不確かな情報で革命へと動くとは思えないのだ。

 ニルドーフの評価を聞いて、ペクテアの中でデッサのイメージが再び不確かなものへと変わる。


「少し前に抱いたわからなくて怖い人という評価が合っているような気がします」


 そう言ってペクテアは話の腰を折ったことを詫びて、静かに話を聞く態勢に戻る。


「付き合いが長くなればもっと別の感想を抱くかもな」


 俺もそこまで付き合いが長いわけじゃないがと言いつつ、ニルドーフは話をカルシーンとの戦いに戻す。


「ファードたち上位陣が戦っても劣勢だったということですが」

「うむ。身体能力が違いすぎた。ファードの奥の手だけだと負けておったかもしれん」

「昔話や記録を見ると、英雄の時代の人々は魔物と互角とまではいかずともまだ抵抗できていたみたいです。魔物が強くなったということでしょうか?」

「逆だろう。平和な時代が続いて、我ら人間が昔ほどには強さを求めておらず弱くなっている」

「ああ、なるほど。現代でも争いはありますが、昔ほどには切羽詰まっていませんからね。魔物たちが暴れ出すと力を求める人が多くなるかもしれませんね」

「今後も魔物たちは暴れると思っていますか?」


 ペクテアが思わずといった感じで口を開いた。


「すでに二度動いている。三度目がないと楽観視はできないな」

「わしもそう思いますぞ。デッサの話ではカルシーンが口に出したレオダークという魔物は、魔王の側近だったようです。そういった存在が動いているということは組織だったものと考えていた方がいいでしょう」

「レオダークの名は俺も文献で見たことがある」

「デッサはいまだ生きていることを不思議がっていた。ニルドーフはそこらへんについてなにか情報を持っておるかの」

「魔物の生態に関しての情報は持っていませんね。誰がどこでなにをやったのか。持っている情報はそこらへんです」

「王族も知らないことをデッサは知っておるということになるが」

「城の書庫にはいろいろな情報がありますが、求めるすべての情報があるわけではありません。我らが知らないことを市井の者が知っていても不思議ではありませんよ」


 流派の奥義や秘儀に関しての情報は城にありませんよとニルドーフが例を出すと、ナルスは納得したように頷いた。

 ニルドーフは秘の一族について話すことなく誤魔化せたと表情を変えず、内心安堵の息を吐く。

 そのとき部屋に置いていたシャムシールが小さく揺れる。ジョミスの方だ。

感想と誤字脱字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] デッサの名前がドンドンスルーできない存在へとなっていってますねー ニル様の誤魔化しはいつまで通用するかなあ
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