10 大ダンジョン初挑戦
朝が来て、ダンジョン用の衣服に着替えていく。木剣がなければ工事現場にいそうな姿だ。
財布と空の水筒をリュックに入れて、木剣と帽子は小脇に抱えて、食堂に入る。
実家の朝食よりも豪勢な食事を終えて、宿を出る。
宿近くの井戸で、水筒に水を入れたあと、屋台で昼食用のパンを買って両方ともリュックに入れた。
ダンジョン入口に近づくと武装した人が多くなる。ダンジョン内で過ごすつもりか、大荷物の人たちもいる。
ほとんどは二人組から五人組で、俺のように一人というのはほぼいない。
ダンジョンにそのまま入っていく者も少ない。戦い慣れた人たちはダンジョンそばの建物に入っていく。
そこは転移を使える魔法使いがいる建物らしい。センドルさんたちは転送屋と呼んでいた。
転移の魔法で地下深くへと送り届けてくれるところだ。
ゲームだとダンジョン入口にある水晶のような柱で好きな階に行けるようになっていたが、この世界だとそんな便利なものはなかったんだろう。
転送屋を使うと五階刻みで地下へと潜ることができるそうだ。
ここはしっかりと転送屋のサポートが受けられるから五階刻みでいけるが、中ダンジョンだと人材不足で十階と二十階のみ行けるというところもあるんだとか。
転送屋を横目に、俺のような駆け出したちと一緒にダンジョン入口に向かう。
駆け出しと一口にいっても恰好は様々だ。革鎧などをしっかり身に着けて慣れた様子の人もいれば、武器のみを手にして緊張した様子で挑もうとしている人もいる。さすがに武具なしで入ろうとする人はいなかった。
大ダンジョンの一階は、小ダンジョンと似たものだった。明かりになるようなものがないのに、通路は暗くない。
慣れた感じの冒険者たちは迷いのない足で奥へと進んでいく。彼らについていけば二階へと行けるんだろう。
まずはグリーンワームと戦ってみることが目標なので、彼らのことは気にせずいい加減に道を決める。
周辺から誰の足音も聞こえなくなり、さらに進むと前方にうぞうぞと床をゆっくり移動する大きな芋虫をみつける。
「ゲームで見たものと同じだな」
まずはいっきに近づいて頭部を叩いてみよう。
右手に木剣を持って、グリーンワームへと駆け寄る。その足音でグリーンワームは俺に気付いたけど、対応するには遅い。
こっちに向けられた頭部へと木剣を叩きつけた。バスケットボールのような感触が木剣を通して伝わってくる。
ゲピッと悲鳴なようなものをあげてグリーンワームは体をうねらせる。
「もう一度だ!」
胴体への一撃でもグリーンワームは倒れず、さらにもう一回攻撃してグリーンワームは消えていった。
その場には魔晶の欠片が残り、倒せたことに若干達成感を得る。
「推定弱点を叩いて、さらに二回攻撃が必要か」
できるだけ頭部を狙えばどうなる? あとは魔力活性した状態で攻撃もしてみよう。雑魚とされるこれの攻撃は防具越しだとどれだけ痛いのか。
確かめることがたくさんあるな。次々行こう。
グリーンワームを求めて一階を歩き回る。
五回ほど戦闘を行って、戦いに関して知りたいことを知っていく。
弱点のみをつけば、現状二回の攻撃で倒すことができた。このことから弱点をつくことは大事とわかる。
魔力活性した攻撃では、頭部への一撃で致命傷を与えることができた。頭部ではなく胴体へ攻撃した場合は、二回の普通の攻撃を追加することで倒すことができた。
ついでに今俺が魔力活性を行える回数は三回だとわかる。四回目の魔力活性を行おうとしてもなにも起きなかったのだ。
「最後にわざと攻撃を受けて、昼ごはんにしようか」
そろそろ腹が減ってきた。食事を終えたら二階に下りて、噛みネズミに挑戦してみよう。
うろついている間に二階への坂道もみつけてある。
そうして見つけたグリーンワームに先制攻撃をせず、近づいて攻撃を待つ。
グリーンワームは体を横に振って、頭部ごと俺の足にぶつけきた。
ブーツに当たって、服越しに強めに叩いたくらいのダメージだ。それに加えて浸食のダメージらしきものもあった。痛みはなく、衝撃のみで気にならない。
「ミニボアよりも弱いな」
感想を言いつつ木剣を使わず蹴りで攻撃して、グリーンワームを倒す。素人の蹴りだと六回攻撃が必要だった。
「あっちは三階のモンスター、こっちは一階のモンスター。その違いもあるんだろうなー」
グリーンワームは雑魚。数回の戦闘でその確認を終える。同じ一階に出てきたオオケラが同じ強さなら、もしかしたら倒せたかもしれない。
武器と防具の必要性もしっかりと確認できたし、もうグリーンワームと戦う必要はない。
その場に座ってリュックから水筒とパンを取り出す。
「安心できる水と食べ物があるのはありがたいよな」
センドルさんたちから聞いたが、ダンジョン内の水は飲むことができ、煮沸消毒する必要がないんだそうだ。
飲めない場合は匂いや色がおかしく、無色無臭でも粘性があったりしてすぐに飲めないとわかるらしい。
つまりあのとき悩んだのは時間を無駄にしていただけということになる。
ゲームではそういったことはわからなかった。この世界をゲーム主体で考えるのは危ないということだと思う。
モンスターの弱点も実際に攻撃してきちんと確認しないと、思い込みで攻撃したらまったく効果がでないで動揺することになるかもしれない。
どんどん強くなる必要があるけど、そこらへんの確認を怠るとリューミアイオールではなくモンスターに殺されることになりそうだ。
そんなことを考えつつ食事を終えて、立ち上がる。
「さて行くか」
噛みネズミはわざと足を噛ませて叩くのがいいんだったな。
動きも速いということだし、油断せずにいこう。
二階への坂道を進み、グリーンワームを避けて噛みネズミを探す。
通路の先から誰かの話し声が聞こえてくることがあり、そこで戦闘をしている人たちがいた。
噛みネズミを相手していて動きを眺めていたかったが、見ていると怪しまれそうだ。変に絡まれるのも面倒なので引き返して別の道をいく。
「いた」
小型犬サイズのネズミが通路の真ん中にいる。
通路の先や壁にほかの個体がくっついていないことを確認して近づく。
「キキ」
俺に気付いた噛みネズミは小さく鳴いて接近してくる。あっという間に距離をつめてきた。
動きの速さも小型犬と同じくらいかもしれない。
とりあえず攻撃を当てられるかの確認だ。
「せいっ」
掛け声とともに木剣を振り下ろす。
噛みネズミは小さく鳴いて横に避けた。
続けてもう一度木剣を振ったけど、同じように避けられた。相手するのが初めてということもあるんだろうが、今の俺だと当てられないっぽいな。
となるとわざと噛ませてからの攻撃しかない。
足以外を攻撃してこようとしたら避けるため、左足を前に出して警戒しながら噛みネズミの動きを待つ。
すぐに嚙みネズミは動いて、前に出した左足に噛みついてくる。
「っ」
痛くはあるけど、我慢できない痛みじゃない。浸食のダメージも同じだ。
ギューッと噛んでくる噛みネズミへと、両手で逆手に持った木剣を突き出す。
木剣の切っ先が無防備な嚙みネズミの背中へと当たる。刺さることはなかったが、それでもしっかりとダメージを与えたようだ。
嚙みネズミは悲鳴とともに足から口を放す。
ふらついている今がチャンスだろう。剣を振り下ろすと、避けようとはしたものの攻撃は当たり、さらにもう一度しっかりと力を込めた攻撃で倒すことができた。
「丈夫さはそれほどじゃないって聞いたとおりだな。動きと噛みつく力の強さに注意しよう」
魔晶の欠片を拾って、ブーツの確認をする。
噛んだ跡が残っている。同じところを噛まれるとブーツを貫いてくるかもしれないかな?
一応ブーツを脱いで、足の確認もする。圧迫された部分が若干赤くなっていた。
「触っても痛みはないし、動かしても同じ。ポーションはまだ使わなくていいな」
ブーツをはいて、次はどう戦おうかと思いながら噛みネズミを探す。
強くなるだけならわざと噛みつかせて倒していけばいいが、それだと攻撃を当てたり回避の練習ができない。
ハードホッパーに痛い目をみないためにも、倒すのではなく動きに慣れる方向性で行こう。
戦い自体に慣れていないんだから、モンスターの動きに慣れるのは大事なはず。
時間に余裕はないけど、今は基礎を重視する時間だと思いたい。ここで焦らず頑張ることで、この先順調にいく……といいなぁ。
時間を無駄にしていないかと不安を抱えつつ、噛みネズミを探して戦っていった。
真剣にかつ心底集中したおかげか、最後の戦闘では二回に一回は、噛みネズミに攻撃を当てることができるようになった。噛みネズミの動きに慣れたおかげでもあるんだろうけど、一日の成果が嬉しかった。
攻撃を避ける方は、避けることのみに集中すれば可能だった。避けてからすぐに攻撃するというのは難しい。回避と攻撃がスムーズにいかない。
その回避と攻撃に間にできた隙をつかれて、何度か噛みつかれている。ポーションを飲んだから体のどこかが痛いということはない。
ほかにしたミスは攻撃と回避に集中して、壁にぶつかるといったことだ。これが外なら問題なかったが、ダンジョンの通路という限られた空間だと、壁にも気を付ける必要があった。
明日は学んだことを糧にして午前に経験を積んで、午後は先に進むことにしよう。
噛みネズミとグリーンワームから奇襲されないように注意しつつ地上を目指す。
(疲れて歩くのもだるい。明日からは帰ることも考えて体力配分しないとなー。ゲームも疲労度はあったけど、現実はやっぱりゲームより気を配ることが多い)
外に出ると、日が暮れていた。西の方がほのかに明るいので、日が沈んだばかりなのだろう。
(戦闘に集中して、時間の流れがわからなくなっていたな)
夕方頃には引き上げるつもりだったのだ。
魔晶の欠片を売るのは明日でいいやと考えて、宿へと急ぐ。
宿の食堂からは賑やかな話し声が聞こえてきた。
(腹減ったし、俺もさっさと夕食を食べよう)
部屋にリュックと帽子と木剣を置いて、食堂に向かう。
よく動いたからなのかご飯が美味い。食事に満足して、従業員にお湯を頼んで部屋に戻る。
着替えて、ベッドに寝転んでのんびりしていると、お湯が届いた。
体をふいて、髪を洗って、パンツなども洗っているうちにお湯は冷めた。
「体をふくだけじゃさっぱりしない。そのうち銭湯を探して入りに行こう」
そんなことを思いつつ、タライを廊下に出す。
あとはもう寝るだけとなって、あくびが出てきた。
もうやることがないと自覚したら一日の疲れが顔を出してきたようだ。寝るには早い時間だけど、このまま眠気に身を任せたくなって、ランタンの明かりを落とす。
部屋の外から小さく聞こえてくる誰かの話し声を聞きながら、すぐに意識は沈んでいった。
翌朝、昨日よりも早めに起きることになった。窓を開けると東の空が白み始めて、そろそろ朝という時間帯だった。
疲れが残っているかなと体を軽く動かしたところ、ちょっとした筋肉痛のみで異常はなかった。ポーションのおかげかもしれない。
(さすがにこの時間はまだ朝ごはんは無理かな。身支度整えて軽く散歩でもしようか)
財布と鍵と手ぬぐいを持って、静かに宿を出る。
従業員は起きているみたいで、厨房から調理の音が聞こえてきたりしていた。
井戸水で顔を洗い、さっぱりとして町をのんびりと歩く。
宿以外の店はどこもしまっている。娼館とかならあいているかもしれない。
そんなことを思いつつ、なにかの依頼で早めに町を出る冒険者たちとすれちがい、パン屋から漂う焼けたパンの匂いに誘われるようにそちらに足を向ける。買うつもりはないけど、なんとなく足が向いた。
「あら」
「あ、ども」
ハスファがいた。パンが入った籠を持って、こちらを見てくる。
おはようと挨拶されたので、おはようと返す。
「デッサさんもパンを買いに? でもまだお店は開いていませんよ」
「俺は早くに起きて散歩していたら、いい匂いがしてこっちに歩いてきただけ」
「そうでしたか」
「そっちは店が開いてなくても買えるんだな」
「はい。お店のご厚意で、開店前に買わせていただけるんですよ」
教会の人間ってことで、少しは優遇されているってことかな。
「そうだ、聞きたいことがある」
「なんでしょうか」
「ポーションを買いたいんだけど、朝のいつくらいから販売されるんだ?」
「えーと、朝を知らせる鐘が鳴るんですよ。その少しあとから販売されますね」
時計がないから正確な時刻はいえないよな。
答えづらいことを教えてくれたことに礼を言うと、パン屋からシスターが出てくる。彼女もパンの入った籠を持っていた。
「ハスファ、帰りましょう」
「はい。では私はもう行きますね。良い一日を」
「そちらも」
ハスファは一礼し、同僚と一緒に去っていった。
俺も宿に帰るかと歩き出す。
感想と誤字指摘ありがとうございます




