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インサイダー 〜世界崩壊後にある物語〜  作者: ヤエザワ ルヒト
9/9

讃歌 01

 流れる雲、未だ午前中の青空の下、巨大な塔をボーッと見上げる。

 大学街を出発した俺らは、現在、4階建の屋上に陣取って偵察に臨んでいた。

 4階建の建物にいるにもかかわらず、それよりも圧倒的な高さをもつ塔にいつも圧迫感を覚える。

 人の住まなくなった廃墟たちは、植物によって侵食されていたり、あるいは一部倒壊していたりするものがほとんどだ。

 付近にいくつかある高層ビルは、今にも崩れそうな重低音を響かせながら、やっとのことでそびえている様だ。

 柔らかい風が俺らの髪を揺らし、わずかに混じった砂埃が目に入った俺は、目を擦る。

「インホム、思ったよりうろちょろしてるぜ。まだ塔から距離はあるのにな」

 ため息をつきながら隣にいるヨシトウが双眼鏡を目から離す。

 やれやれと言った様子で、俺にそれを渡すと「お前も見てみろよ」と言う。

 存分に目を擦った俺は、それを受け取り、除く。

 歩道、車道、路地や屋内。

 確かに、まばらではあるがインホムはあちらこちらを動き回っている。

 それらを辿るように視線と双眼鏡を動かす。

 そして、それらが多くたむろしている場所に目がいった。

「地下道入り口に数体いるな。あっちは避けるか?」

 双眼鏡を覗きながら俺が言うと、それに対しエイトが聞き返す。

「地下道……。駅につながっているあそこか?」

「そうそう」という俺の返答と共にエイトも自身の双眼鏡を覗く。

「あそこには補給地点があるはずだったな。もう随分と使われていないが。行方不明者もそこに逃げ込んでいるかもしれない」

 会議室に残り、受ける事になった任務はこうだ。

 おおまかなものは夜鷹さんが初めに言っていたように、行方不明者の捜索で間違いはない。

 それと同時に、塔の周辺状況の偵察、少量のインホム討伐が主な任務になる。

 ただし、インホム討伐に関しては、会議室で議論した結果によるものだ。

 インホム討伐肯定派によれば、街に近い場所のインホムを減らす事により、その後の作戦の安全性を高める目的、だそうだ。

 エイトが深く息を吐き、双眼鏡を下げる。

「次は地下道かぁ。確かに闇雲に探すよりは……、か」

 軽く伸びをしながらヨシトウは立ち上がる。

「俺も賛成だけど、中はもっといるだろ。インホム」

 きっとこの場の誰もが分かっているであろう疑問を俺はエイトに投げかける。

「だろうな。俺らは良いが、あの2人には無理強いできない。進路を決めるのは聞いてからだな」

 そう言った後、エイトは自身の片耳に手を当てた。

 耳に付けているのは、白いワイヤレスイヤホン。

 その中心にある“MB”という水色に光るマークを触る。

 軽い電子音がしたのちにエイトが口を開く。

「ミズキ、よねちゃん。向かう場所を相談したい。屋上に来てくれるか?」

 2人からの返事があったのだろう。少しの間を置いてもう一度マークを触る。

 通信特化型イヤホン“Message・Bottle”

 俺らのチーム、ここにいないチームメンバーが作ったサポートシステムだ。

 開発者曰く、それをつけている人物を頭に浮かべるだけで通話ができるヨ、らしい。

 どういった原理かまったく分からない。

 と、階段の方から二人分の足音が聞こえる。

 取手をつかむような音がした後、キィという音を出しながらアルミのドアがゆっくりと開いた。

「この建物に異常はなし。それに、行方不明の痕跡なし」

「使えるようなものも何も無かったです」

 ミズキは、屋上に入ってくるのと同時、階下の状況を手短に言った。

 その後ろからひょこっと顔を覗かせてよねちゃんが続く。

 男三人衆が屋上で偵察と進路を決めている間、ミズキとよねちゃんには階下の探索を任せていた。

 痕跡が残念だが、異常なしなのは良いニュースだ。

 もっとも、こんな危険な場所に入り込む野盗などは相当肝が座った火事場泥棒なのだろう。

「そんで、目的地は?」

 屋上の周りの風景を見回しながらミズキはエイトに聞く。

「ああ。一旦こっちに来てくれ」

 エイトに続いて、俺たちは柵の方へと進む。

 柵に近づき、全員が動きを止めると、エイトは柵に手をかけ、自分が使っていた双眼鏡をミズキに渡す。

 俺も、手に持っていた双眼鏡をよねちゃんに渡す。

 よねちゃんは「ども」とにっこり笑って受け取ると、目に当て、一帯をキョロキョロし出した。

「今いる場所から南東にある地下道の入り口が見えるか?」

 俺たちが柵に対して一列に並ぶようにして見る中、ミズキとしばらくキョロキョロしていたよねちゃんは頷くなどそれぞれ反応を示した。

 それを受け、エイトは続ける。

「あの中を探索しようと思ってる。その前に、正面のインホムを片付けなくちゃいけなくなる。どう思う?」

「……なるほどね。あそこはガスマスクとかの予備があるし、立て篭れる場所もある。可能性はありそう」

 そこまで言うと「私は良いけど……」と付け加え、ミズキはよねちゃんの方に顔を向ける。

「よねちゃんの気持ちを尊重したいかな。アイツらも鬼じゃないだろうし。聞かせてくれる……?」

 肩をすくめ、ミズキは後ろの男三人を親指で指し、言う。

 だろうし、って何だよ。鬼じゃないよって言ってくれよ。

 よねちゃんは少しの間もじもじして俯いていたが、バッと急に前を向き口を開いた。

「ボ、ボクは大丈夫、だと思います。“私の”は強い方だって聞いてるので……」

 引きつった笑顔でパタパタと両手を振りながらよねちゃんは応える。

 その後、わずかな沈黙が流れる。

 無理している。確実に。

 よねちゃんの実践経験は無いに等しい。

 ましてや、元々人だった者たちを殺すことなど気分がいいわけはないのだ。

「でも、やっぱりまずは一帯の汚染状況を知らないと……ですねっ」

 そんな強がる彼女を見て、何も言えずにいる中。

 ミズキは頷き「……ありがとう」と言うと、エイトがやった様にMBに指を触れさせ、しゃべりかける。

ここに居ない人物に。

「アリア、起きろ」

 直後、小気味のいい電子音の後に全員つけているMBのマークが青く光る。

 続けてやや気だるげな、しかし透き通った声が小さく聞こえた。


「……ナニ……?」


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