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インサイダー 〜世界崩壊後にある物語〜  作者: ヤエザワ ルヒト
7/9

人が人を喰う時代に 07

今回は、少々長いかも知れません。ご容赦ください。

「昨夜。塔の見回りを行なっていた“シェルタータウン”のチームの一人が遺体で発見された」

 その言葉とともに、プロジェクターが起動する。

 急に着いた明かりに、俺は目を細める。

 ゆっくりと目を開け、情報を読み取ろうとする。

 思わず目を見開いた。

 眩しい光など意にも返さず。

 そこには、無惨に食い荒らされた死体の画像。

 加えて、現場の地図と照らし合わされた座標。

 それらは塔付近であることを克明に示していた。

 室内がざわめく。

 犠牲はとうに出ていた。

 災厄は既に始まっていた。

 そのどよめきを制すことはせず、彼は続ける。

「チームメンバーは5人。しかし、その内4人の存在は確認できていない」

 画面が切り替わり、顔写真が映し出される。

 行方不明の4人だ。

「作戦概要として現時点では、塔周辺の詳細な調査、及び行方不明4人の捜索を最優先とする」

 4人の顔写真と共に、塔の周辺地図に調査範囲を示す円が敷かれた画像が映し出される。

 半径は約10kmという表示がなされている。

 この広さを見るに、今回も街共同作戦なのだろう。

 しかし−−

「現段階でインホムを発見した場合、速やかにその場を離れ、できるだけ詳細な情報を報告してくれ」

 俺の思っていたことを見透かしたかのように、彼は一層声を大にして言う。

 一人でも身勝手な行動を取れば、チーム全体を危険に晒す。

 それだけではない。

 作戦そのものを崩しかねない。

「無茶をし、情報を得ようとしなくて構わない」

 彼は語気を柔らかに、しかし、響く声で言葉を発する。

「また、この作戦自体今回も強制参加ではない。参加する意志のあるものは、ここに残って欲しい」

 その言葉に、ざわめきが静かなヒソヒソとした声に変わる。

 下を向き、黙りこくる者も見受けられる。

 室内は、これまでにないじっとりとした緊張感に包まれた。

 夜鷹さんは静かにその場の様子を伺っているようだった。

 その中で、誰かが唐突に言葉でその静寂を切った。

「俺!や、やめる。俺は、やめる」

 その言葉とともに男が立ち上がった。

 その途端、男の近くで仲間と思しき人たちの抗議の声が上がる。

 仲間の一人が「どう言うことだッ!」と声を荒げ、男に掴みかかる。

 その間にも、部屋の各地で辞退の声が上がる。

 その度に言い合い、もはや乱闘が始まりそうな勢いだ。

 ただプロジェクターの明かりが、その光景を照らし出す。

 そして、生み出された影たちが会議室を恐怖や怒りで満たしていた。

 その場にいる誰もが恐怖を抱いていることに間違いはなかった。

 俺だって、前回を知っているからこそ心は恐怖している。

 しかし、誰かがやらなくてはいけないことがあるなら。

「人が人を喰う時代にあって、マトモでいるのは難しい」

 鋭い声が会議室を震わせた。

 夜鷹さんの声がその場にいる人々の動きを止めた。

 彼は、息を吸い、それを全て言葉に変えて投げかける。

「でも、私は、君たちに命を捨てる様な真似はさせたくない。この作戦には、大きな覚悟が伴う。君たちは、この世界を戦い抜いてきた猛者だ。だからこそ、マトモであってくれ」

 やがて切実な響きを孕んだ声は、先ほどとは打って変わって静寂の中に溶けていった。

 多くの人が席を立ち、呆然としていた。

 彼は、この場の誰も死なせたくはないのだ。

「私には、全うすべき責任がある。だが、……もう一度言う、君たちは強制参加ではない。意志のある者は、この場に、この会議室に、残って欲しい」

 彼は、その言葉の後、壇上脇の椅子に座り、静かに口を結び人々の動きを待った。

 呆然としていた人々は、やがて動きを取り戻すと、ある者は座り、ある者はこの部屋を後にした。

 席から立ち上がっていた者のみならず、半分がこの部屋を離れていった。

 先ほどよりも明らかに空席が目立つ会議室には、今のところ俺らのチームに加え、数十人しか残っていなかった。

「前、詰めるか」

 未だ充満する緊張感をものともせず、エイトが空席となった前方を指差す。

 軽く伸びをしながら「あいよ」とヨシトウが言ったのをキッカケに、いそいそと未だ暗い会議室の中を移動する。

「ホント、今回大丈夫なの?心配になってきたけど」

 空席を視線で見渡しながら、頬杖ついたミズキが言う。

「どーだかなぁ。ま、よねちゃんも残ってくれたしイケるさ。それに何より、俺ら“は”やれる事をやるだけだ。だろ?トモキ」

 若干青ざめているよねちゃんを気にしながら、ヨシトウは俺に親指を立てる。

 ヨシトウめ。

 間違っちゃいないが、コイツ……反応に困るぜ。

「ったりめぇだろうが」

 ヨシトウの後ろの席にどかっと座りながら、同じく親指を立て言ってみせる。

 やがて、会議室を出ていく足音も止んだ頃には、元いた人数の3割程度しか残るに至らなかったようだ。

 そのまま数分沈黙が訪れた後、椅子に座っていた夜鷹さんは、腰を上げると再び壇上の中央へと歩いていった。

 そして、若干の微笑みをたたえながら彼は口を開く。

「まず、この場に残る決断をした君たちに感謝の意を示したい。……本当に、ありがとう」

 彼は、その場で目を瞑り、上体を下げ、礼をする。

 そして、数泊置き、上体を上げた彼は、顔を真剣な表情に変え、再び口を開いた。

「それでは、只今から作戦の詳細を説明する。質問は最後に受け付けよう」


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