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インサイダー 〜世界崩壊後にある物語〜  作者: ヤエザワ ルヒト
6/9

人が人を喰う時代に 06

 会議室と銘打たれたプレートが貼られた扉を開け、部屋に入る。

 カーテンが中途半端に閉められた薄暗い部屋の壇上には、頭髪の長い男性が難しい顔をしながら壇上を行ったり来たりしていた。

 俺が、暗い部屋に目が慣れず瞬きをしていたところ、それに気づいた彼が軽く手を振るのが目に入った。

 俺は部屋の奥に進みながら、それに応え、会釈する。

 壇上に立つ男性こそが、夜鷹(ヨダカ) 信彦(ノブヒコ)さん。

 いわゆるこの街の“代表者”であり、俺の悪夢のことを知っている人物の一人でもある。

 彼は、この街の運営や他の街との交易、そして、俺ら探索班の指揮系統すらも担っている。

 とはいえ、彼はそんな重要職についていながらも驕らず、フレンドリーである為、この街の人々から大いに信頼され、好かれている。

 普段から、にこやかな笑みをたたえながら人々に接する夜鷹さんだが、今日に限ってはその表情に曇りを感じる。

 塔を早々に対処しなければ、この街は消えることになる。

 それを夜鷹さんも大いに理解しているはずだ。

「アンタ、急に急ぎすぎ。……みんな、どこにいるかわかる?」

 さらに部屋の中に進もうとしたその時、追いついたミズキが背後から俺の肩を軽く叩きながら言った。

「……と、言われてもなぁ」

 そこそこ広い会議室の中では、俺らのチーム以外も集まっている様だった。

 しかし、全てのチームではない様だ。

 おそらく、朝番のチームはもうすでに通常の仕事に向かっているのだろう。

 会議室の席に座る者たちは、皆一様に不安がったり、そんなことはお構いなしに談笑していたりする。

 すると、席に座っている探索班たちの中にこちらに手振る人物を見つけた。

 小さく「あ」というと、ミズキが俺の視線に気づく。

 チームメンバーを見つけた俺とミズキは、その主がいる席へと歩いていく。

 自分達に近づく人影に気付いたのか、仲間の3人のうちエメラルドグリーンの髪の男と手を振っていた褐色肌の女の子は俺らに向かって手をひらひら振って挨拶する。

 俺らもそれに応え、返す。

 そして、仲間のもうひとり、ブロンド髪の男は組んでいた腕をそのままに、それ薄く瞑っていた目を開いた。

「きたかトモキ。ミズキも。この状況、思っていたより芳しくなさそうだ」

 口を重たく開きながら、彼、幡宮(ハタミヤ) 瑛人(エイト)は、会議室を見渡しながら言う。

 エイトは俺らのリーダーであり、これまた同い年の友人だ。

 冷静沈着で戦闘ではリーダーとして指示を出したり、自身も戦闘したりする。

 俺らのメンバーは、俺とミズキ、エイトに加え、この場にいるエメラルドヘアー男は吉籐(ヨシトウ) 誠司(セイジ)、褐色肌の健康そうな女の子、米澤(ヨネサワ) 天寧(アマネ)、通称よねちゃん。

 ヨシトウは俺らのチームの一員であり戦闘員。

 且つ、俺の幼馴染だ。

 俺が住んでいた町がインホムに呑まれた時に、俺はヨシトウと一緒にこの“街”に逃げてきた。

 よねちゃんは俺らの2個下で、この探索班と親の自営業の手伝いを兼業している。

 そして、普段は滅多に人前に姿を見せないチームメンバーがもう一人いるんだが……。

「確かに、前回と比べて明らかに戦力不足よね」

 ミズキがエイトの意見に賛同する様に応える。

「しょうがねぇさ。4ヶ月前は悲惨だった。大勢抜けても無理はねぇよ」

 後頭部で手を組みながらヨシトウが言う。

 周りを見渡せば、4ヶ月前の掃討共同作戦の時より明らかに人員が少ない。

 朝番のチームは通常の仕事に出ているということもあるだろうが。

 前回の作戦後、心折れた数人かが探索班を辞めている。

 相当な痛手であることは、誰もが理解している。

「うぅ……。やっぱりそんなヤバい奴なんだ……。塔って」

 若干青ざめた表情でよねちゃんがヨシトウを見る。

「大丈夫…とは言い切れねぇけど、少なくとも夜鷹さんが危ねぇ橋渡る作戦は立てないと思うぜ」

 ヨシトウは組んでいた手を解き、身振り手振りを加えながらよねちゃんをなだめる。

 こんなピリピリした空気に加え、強大な脅威を前に不安でいっぱいになるのは無理もない。

 それに、前回の作戦の時、よねちゃんはまだ探索班ではなかった。

 4ヶ月前は、ただ自営業の店員として働いていた彼女に気張れと言う方が酷だ。

 いくら安定した暮らしになったとは言え、塔が存在し続ければジリ貧だ。

 街と街とを繋ぐ公道、この街が培ってきた数々、その全てが消える。

 あの塔は、おそらく。

 いや、生きている。

 そうとしか思えない。

 でなければ、毎日の見張りを掻い潜り、誰かが修復したとでも言うのだろうか。

 完全に塔を破壊しなくては。

 ともすれば、殺さなくては。

 会議室が、おおよそ最後の出席者を向かい入れたところで、室内に静寂が訪れた。

 ややあって、壇上に立つ長髪の男に視線が集中する。

 その視線を受け、夜鷹さんは軽く咳払いを一つ。

 俺を含め出席者は皆、その先の彼の言葉を待った。


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