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インサイダー 〜世界崩壊後にある物語〜  作者: ヤエザワ ルヒト
4/9

人が人を喰う時代に 04

 歩みを進める校舎の廊下、そこに面した窓から朝日が差し込んでいる。

 本当に不思議だ。数年前ならこの光景はいつまで経っても慣れる気はしなかった。

 でも、今やそれが当たり前になっている。

 慣れは危険だとはよく言うが、目の敵にするほどではないかもな。

 多くの人々とすれ違い、時には道を共にし、朝の廊下を進む。

 数個角を曲がり、階段を降りる動作を3回行い、一階へと着く。

 目的地に近づいてきた為か次第に人の流れも多くなり、道が混み合う。

 いくら広い大学とは言え、人口は大学であった当時の比ではない。

 人の流れが遅くなり、廊下を人が埋め尽くさん勢いだ。

 先を行くミズキの姿すらも見えなくなってしまった。

 その時、ふと良い匂いが鼻腔をくすぐる。

 香り高い味噌の匂い。

 こんな世の中でも人々の朝は食事に始まる。

 皆一様に腹を空かせ、今日一日の力を養うため食堂に向かう。

 混雑するのも頷けるというものだ。

 この街の人口の多さから、朝食の内容は豪華とは言えない。

 しかし、この状況下でこそ分かるありがたさというものも、確かに存在しているのだ。

 人の波に揉まれそうになりながらも廊下を行き、匂いをたどるようにして数分。


 空間が開けた。


 視界には、さすが大学と言えるであろう広さの食堂が広がっていた。

 陽光を多く取り入れることができるよう、東側は大きなガラス窓になっている。

 ここはおよそ一万人程度が座れる席が完備され、中にはこの時勢になってから増設された席もある。

 それだけでなく、利用者数は食堂内に入り切る量ではない為、近くの空き教室も食事場となっているほどだ。

 俺のいる人々の流れは、西側にあるカウンターへと列を作っている。

 食事の配膳は、横並びのカウンターに品ごと区分され、そこを列に従って進み、自身のお盆に一品ずつ配られるというシステムである。

 小学校の給食配膳と言えばわかりやすいだろう。

 違いがあるとすれば初めに料金を払うという点だ。

 食堂は際限なく人が流れていくというのに、配膳は実にスムーズに行われている。

 料金を受け取るおばちゃんや配膳するおばちゃんの手捌きがスゴイ。

 しかし、いくら手捌きが凄くとも、街のほぼ全員がここを利用する。

 その為、負担を減らす目的で、選べるメニューというのは設けておらず、朝昼晩とその日のメニューは決まっている。

 それにも関わらず、飽きが来ないように日替わりにしてくれている点は感謝しかない。


 目の前の人々がはけると、少し進んだところに人混みで隠れて見えなかったミズキが俺を待っているのが見えた。

 小走りで近づき、片手で“スマン”のポーズをとる。

 俺が追いついたことを確認すると、「今日はコッチ」と親指である場所を示す。

 ここにはもう一つ、俺らみたいな“仕事”をする奴ら専用のカウンターがある。

 俺らの“仕事”は、街の外に出て食糧以外の必需品や、スクラップの回収。

 この街では、食糧の確保は行き届いていても、家具や消耗品は製造することができないため、常に足りない状況にある。

 ところが、最近は辺り一帯の探索が済んでしまったがゆえに、もっぱら街に近づくインホムの討伐が仕事だ。

 要するに、俺らはインホムひしめく街の外専門の危険な仕事をしている。

 こんな仕事をしているからこそ、他の方々には申し訳ないが、専用のカウンターから歩きながらでも食べることができる簡単なものを提供してもらっている。

 だが、それも仕事の前に限られることだ。

 仕事の無い時間では、同じように列に並ばなければいけない。

「あれ?俺ら今日は遅番じゃなかったっけ?」

 俺は、歩き出したミズキの後に続きながら疑問を投げかける。

 インホム討伐でも、遅番が駆り出されるほどの緊急性があるわけではない。

 よほど急を要しているのだろうか。

「今朝、エイトが夜鷹さんに呼ばれたの。例の“塔”のことで」

 “塔”というワードだけで少しだけだが事情が分かった。

 それほどまでに塔というワード、いや存在は記憶に残っていた。


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