人が人を喰う時代に 02
2022/10/10 加筆修正しました
けたたましい音、雑音で半ば条件反射的に飛び起きる。
掛け布団を跳ね除け、後ろを振り返る。
そこには、いくつものデジタル、アナログを問わない目覚まし時計の数々。
未だに鳴り続けるそれらを片っ端からから止めていく。
全ての目覚ましを止めたところで俺は動きを止め、肩で息をする。
……こうでもしないと起きられないから困る。
体中が汗だくだ。
寝巻きのTシャツが体にこびりついている。
この汗は暑さのせいか、それともあの夢のせいか。
全開にした窓から風が吹き込み汗を冷やす。
西に面した小さな窓からは朝など入って来ず、カーテンだけが大きくはためいている。
立ち上がり、嫌がる様なカーテンを端にまとめ上げる。
空には、雲がまばらな晴天が広がっている。
鳥のさえずりさえ聴こえれば完璧なこの清々しい朝だと言える。
しかしながら、それとは真逆であると言って差し支えないほどに、この世は平和とはかけ離れていた。
何よりも、窓の外、遠くに見える人の気配を一切感じない壊れたビル群がこの世界の有り様を静かに物語っていた。
2055年7月20日、真夏日。
世界中の社会システムが崩壊し、無法となっておおよそ5年が経つ。
俺が14の時に世界の社会システムは崩壊した。
初めは、ただの集団蜂起だとニュースでは報道されていた。
次第にニュースで取り上げられる数は多くなったが、そのどれもが最近の労働問題に関連づけるのみで、世界が滅ぶ様な危機感など微塵も感じられなかった。
だがある日、ある町が暴徒の波に呑まれた。
町は、“生ける屍に占領された”。それが最後に聞いた一番マトモなニュースだった。
いつの間に日本のみならず世界中の各地で発生する大ごとに変わっていた。
混乱が混乱を呼んだ。無関係な人々が争いを起こした。町が一つ一つ呑まれて行った。
暴動、混乱、生ける屍。それらによって、事実、緩やかに蝕まれるように社会システムは崩壊した。
それでも、相も変わらずこの世の中は続き、人々は生き続けている。
しかし、世界人口の約6割を失った世界は依然のような活気は無く、壊れ、人の住まなくなった町には、生ける屍、現在はInfectis homines略してインホム(Inhom)と呼ばれる様になったそれらだけが残された。
誰が言い始めたかわからないその名は、まだ情報社会としての機能を失っていなかった混乱初期にインターネットを通して世界中に広まっていき、この「日常」に定着した。
未だにその名の情報源は定かではないが、今の所は“研究者”らが名付けたとされている。
俺の友人は、学名をつけて人間とインホムを区別したいんだろう、と言っていた。
現在では、インホムに関して様々な研究や調査がなされている。
例えば、通常の銃火器ではほとんどダメージを与えることができない、一定数の群れを成して行動している、などが挙げられる。
それら研究成果は、この世界で生きるための必須知識を明確化する足がかりとなった。
しかしなんにせよ、抵抗しなければ奴らに喰われる。それが現在の実状だ。