少年。絶望する。
ミナスという魔法が存在する世界。
そんな世界で生きる少年ーーアースは今日初めてモンスターを斬る。
僕の妹であるエリーも今日初めてモンスターを倒す。
僕は剣を、妹は杖を持って爺と一緒に森の奥へ向かった。
緑豊かな森はどこまでも続いているように錯覚する。動物たちが鳴いている。足元から伸びる草は僕と同じくらいある。
茂みを掻き分けると、少し平らな野原があり、2匹の"ホーンラビット"が野草を食べていた。
"ホーンラビット"は額に20cm程の1本の角がある、白い体毛がある、碧色の瞳の兎型のモンスターだ。
大きさは小型犬くらいで、素早いのが特徴だ。
チャンスだ!今なら斬れる!
そう思った僕は1匹の"ホーンラビット"を襲撃した。
1匹をがこちらに気づいたが、逃げる前に剣を左斜め下に下ろし"ホーンラビット"を倒した。
隙だらけの僕をもう1匹がその角で貫こうと迫る。素早いのが特徴なだけあって、対応が遅れる。
「ーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」
1匹討伐した事で気を抜いていた僕は命の危機を感じた。
その時、エリーの声が森に響く。
「エアカッター!!!」
風の刃を標的に向かって撃つ呪文だ。杖を両手で持った彼女を緑色の光が包んでいた。その光は、エリーの魅力を引き立てる。
エリーはある日風の魔力に突然目覚め、日々この魔法の練習をしていた。
その日々の努力が実り、"風の刃"によりもう1匹も切り刻まれた。
そして、女の甘美な声が脳内で響く。
<ミナスの祝福ーーステータスを授与>
アース・ランドルト
攻撃 20
防御 10
敏捷 15
幸運 20
爺によると、同世代の子供の平均は10らしい。中々の高ステータスだ。
一点を除いては…
魔力 0
魔力だ。僕には魔力がなかった。
魔力というのは、火、水、風、土と4種類ある特別な力。
魔力を消費するだけで、大規模な爆発や洪水、嵐、地震を起こせる万能な力だ。突然使えるようになったり、条件を満たすと使えるようになったりするなど、よく分からない力だ。
僕は絶望した。どこに向ければいいのか分からない苦しみが、胸を締め付ける。夢が、遠いところに行ってしまう気がした。
ほぼ同時にエリーにもステータスが授与された。
<ミナスの祝福ーーステータスを授与>
エリー・ランドルト
攻撃 5
防御 8
敏捷 8
幸運 15
魔力 25
攻撃と防御はやや平均に劣るものの、魔力の適性は目を見張るものだった。
魔力の無いことに2人は気にすることはないと言ってくれたが、重い気持ちが軽くなることはなかった。
それでも笑顔を作り、初討伐を喜んだ。
鉛のように重くなった足で僕は家に帰ることとなった。