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【短編】「引きこもり」【ホラー】

作者: 634

初投稿です。

日常をテーマとしたホラー短編を書いていきたいと思います。

よろしくお願いします。

 今日で何日目だろうか。


 主婦の富田康江は、いつものルーティンをこなす。

2回建てのこじんまりとした我が家の二階の一番奥の部屋の

ドアの前に、朝食・昼食・夕食を届けることがここ数年の

日課となっている。


 テレビで見たことはある。

 

このように、部屋のドアの前にご飯を置き、我が子が外に出てこない、引きこもりという存在を。


-まさか自分の息子がそうなるなんて-


 富田家の一人息子、洋一郎は、何不自由なく育ってきた。

私立の名門成葉大学にすすみ、大手の銀行「国政銀行」へと就職した。

彼はエリートコースを順風満帆に進んでいく予定だった。


しかし洋一郎の唯一の欠点は挫折を知らずに育ってきたことだった。


勉学に励み、部活動のサッカーではエースストライカーとしても

活躍してきた。


何不自由なく、勉強、スポーツ共に文武両道のお手本のように成長

していった。


-このまま社会人へ-


 国政銀行へと入行した洋一郎を待ち受けていたのは、激務はもちろんのこと、

同僚は国立大学を首席で卒業した者、体育会系で全国で結果を残した

根っからの体育会系の者、そんなメンバーが揃いも揃っていた。


ノルマのプレッシャー、上司からの容赦ない激、どんどんと自分を追い越していく

同僚。


洋一郎は普通の高校で一番、大学もそこそこの私立大を普通に卒業、サッカーも

部活内ではエースだったが、一歩社会へ出ると、自分が普通、平凡いやそれ以下

の人種である劣等感に悩まされた。

国政銀行へ入行できたのも、運が良かっただけなのだろうか。


いつしか、周りと自分を比較し、そして仕事もまともにこなせなくなってしまった。


洋一郎にとって、初の挫折だった。


入行7ヶ月で、洋一郎は国政銀行を後にした。


まだ若い、まだ次がある。


そう言い聞かせ転職先を探すものの、また同じようなことになるのではないか・・・。

次もまた・・・この転職先で本当に大丈夫なのか。


と、洋一郎の余計な悪いプライドが邪魔をし、社会への再復帰へ時間がかかった。


22歳で社会を離れた洋一郎は、高校大学の同級生にも会えず、外に出ることも

ままならず、


いつしか俗に言う「引きこもり・ニート」へと堕ちていき、現在26歳となった。


無職・富田洋一郎 26歳。社会人経験は7ヶ月。


 父親の富田雄浩は一流商社の部長をしており、国政銀行を退行した日から、洋一郎

とは口を聞いていない。見放したというべきか、関わりを避け続けている。


 母親の康江と洋一郎を繋ぐ唯一の接点は、食べ終わったご飯の皿が部屋の前に置かれてることで沈黙の

コミュニケーションを保っている。

 

息子がまだ生きている。なんとか社会復帰できないだろうか、今は息子を信じるしかない・・・

変に刺激して事件でも起こしたら・・・と思うと、ご飯を運び片付けることで、息子が動く時を

待つしかなかった。


 ある日、康江はいつもどおり自宅から電車に乗ってパート先へと向かっていた。

自宅から程近くにJRも走っているが、彼女は交通費の節約のため少し歩いた先にある

東陽線というローカル線を利用していた。東陽線の方がJRよりも30円安くパート先

に行けるのだ。


 電車にゆられながら一息つくのが彼女の唯一の安らぎの場所となっている。

パート先の弁当屋では接客から調理から、動き回る日々を送っていた。


 それが彼女の毎日のルーティンである。


 パートが休みのある日のことだった。パート先の店長から昼過ぎに連絡が入った。

急遽夕方から夜のシフトの欠員が出たので出勤して欲しいとのことだった。


 康江は、その日特に予定もなかったのそれを了承した。

少し早いが、洋一郎への晩ご飯の支度をし、彼の部屋の前に置いておいた。


 彼女が東陽線の駅に着くと、何やら電車のトラブルなのか運転見合わせの表示がされていた。

パートまでの時間はまだ余裕があったので、彼女はJRで通うことにした。



 東陽線電車のトラブルは人身事故であることをJRの構内のアナウンスで知った。振替輸送の

為かJRは混雑していた。康江はパート先での仕事を21時までこなし、その後運転の再開した

東陽線に揺られ帰路に着いた。


 洋一郎の部屋の前には晩御飯を食べ終えた皿が置いてあり、ため息混じりにそれを片付けた。

「私は何やってるんだろう・・・」と、ため息に混じってひとりごとが溢れた。


 リビングで夫の帰宅を待ちながらニュースを見ている。いつも見ているローカル番組のニュースだ。


-続いてのニュースです。今日夕方東陽線にて人身事故が発生し、身元が判明しました。

 近くには遺書があり富永洋一郎さん26歳-遺書の内容は人生に先が見いだせなくなった・・・-



 康江はドキっとした。息子??ふとリビングの電話を見ると留守電が28件入っている。いずれも

警察からの着信だった。


 でも、

 でも、

 晩ご飯食べたお皿片付けた・・・

 

 晩御飯を作ったのはパートに行く前・・・


 人身事故があったのはパートに行く前・・・


 「ガタッ」


二階の奥の部屋のドアが開いた。


トン トン トン


階段を下りてくる足音がする。




誰が、今、私の後ろにいるの-

読んでいただいてありがとうございました。

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