3夜月の風
ハルスからの言葉どうり両親からは何も言われることがないままに部屋に戻ることが出来たのに、部屋を見渡せば懐かしい気持ちと、つらい思いが私の中に沸き起こる。
いまの年齢ぐらい確か10歳で、部屋は僅かな明かりが灯るランタンに質素な部屋は寂しくもベッドと机、白いカーテンだけあってクローゼットも古くて、いつ壊れてもおかしくないものだった。
私なんて外見だけは綺麗に見せて品物を売るために作られ着飾り、どんな風にして相手が気にいるように教育し言われるがまま作られていく淑女人形だった。
内側じゃなにもない、からっぽの私。
それが未来にあの子が現れてからは、ぐちゃぐちゃになって壊されていく、人形でいられないほどに....。
感情なんて、ただ愛されれば側に湧き起こるのだと思っていた。ハルスが死んで、心などなくなったと思っていたのに少しでも彼に愛されたくて抗い、醜い感情が湧いて彼女に利用され.......最後には。
ズキッと痛みが腹部に感じ、刺されていないはずなのに忘れられない感覚が蘇る。
自分が死んで、彼女の憎しみの表情が今でもくっきり目蓋の裏に刻まれているから。
暗い部屋からは月明かりが差し込み私の髪を照らす。
外を眺めて思う、何故私はまた再び人生をやり直しているのだろうと。
あの時に人生は終わったはずなのに。
「.......何故ですか神様。」
誰も答えてくれるわけではないけれど、月を眺めて思う疑問、だけど不意にハルスの顔がよぎる。
私が唯一無二に信頼できて味方でいてくれた人。
あと6年後にあの事故で死んでしまう未来。
そして...あの事故の真相が実は作為的に引き起こされた。
ハルスを守れなかった出来事は今でも忘れられないもの。
窓を開けて風にあたり夜空に浮かぶ星屑の煌めきが月の明かりをより濃く光り、風が淡く注ぐように頬を撫でていく。
気持ち良いだけの風、前は何も感じる事なく不快だったものが不思議と今日だけは暖かい気持ちが心を染み込んでいくような感覚に身を預けていた。
夜空に浮かぶ星をハルスも眺めていた。
彼女が今日珍しくも表情が出て僕に甘えてくれたことに、嬉しくもありもっと頼りにしてくれたらと強い願望が芽生える。
縋りつくように僕の胸にしがみつく姿は、いつも見ることのない表情。
寂しくも儚げで、泣く姿は不謹慎にも綺麗だと守りたいと強く感じさせるものだった。
「いや守らないとだよな。」
幼なじみで大切な女の子、君は僕が絶対に守るから。
決意を固めたとき、僕の頬に淡く注ぐ風が吹いて空へと向かって飛んでいく夜月の風が月に吸い込まれるように吹き、まるで風が応援しているようだと感じていた。
そんな時に前方より、もう1人の幼なじみであるアルディスが僕を発見して駆け寄って来ている。
「おーいハルス、こんなとこで会うなんて珍しいじゃん!」
ニコニコと爽やかな顔に幸せそうな雰囲気は、いつ見ても好青年っぽくて不愉快だが、ねっから性格は良いのもあってつるんではいる。
「.....ちょっと用があって来たからね。」
「ふーん、まあ...どうせサンゼリカを気晴らしに連れてったんだろうけど、気をつけろよ。」
「わかってる。だから今日、釘を刺しに行ってきたんだよ。」
僕の発言にアルディスは、ふへーマジかよって顔をしているも僕の背中をバシかって一回叩いてきやがった。
「よくやったよ! 何を言ったまでかは知らんが良い方向に進むといいよな。」
「いかせるさ、初めて甘えてくれたサンゼリカのためにもね。」
絶対に君を守る。