プロローグ
商店街の大通りからちょっと行って、1つ目の角を左曲がったら、
少し歩いた所にある、赤いポストを目印に、右へ曲がる。
細い路地を通って突き当たりを左。
そうすると昔ながらの引き戸に磨りガラス。
筆で書かれた【捜し物承り〼】のチラシ。
看板には少し消えかかった【皇古書堂】の文字。
え?本屋じゃないのか?
もちろん本屋さ。古い書籍が沢山。
それなのに捜し物?探偵なのか?
いやいや。ただの古本屋さ。
でもね?
そこではきっと見つかる。
古いもの、失くしたもの、まだ見ぬ夢の逸品も。
君の【捜し物】を見つけてくれるから。
初夏。
とは思えぬ猛暑に見舞われ、
サウナと化した店内にはお客はおらず、
外から雪崩のように降りかかるセミの鳴き声にもうんざりし始めた昼過ぎ。
この店の店主、白藤王史は今にも溶けそうな面持ちでカウンターに突っ伏し、
「あぁ…エアコンねぇ…客もいねぇ…なんなら売上上がってねぇ…。
オラこんな店ぇ…嫌だァ…。」
なんて下らないことを独り言で呟く程度には限界が来ていた。
ここは商店街から外れた細い路地の隅に建つ【皇古書堂】。
知る人ぞ知る隠れ家と言えば聞こえはいいが、
実際のところは客のいない寂れた古本屋だ。
そんな店がなぜ潰れないのか?
その疑問は彼女の来店できっと解決するだろう。
ほら、皇古書堂の寂れた引き戸が、ガラスを鳴らしながらガタガタと開いた。
「すいませーん…捜し物をお願いしたいのですが。」