100話記念:転生者のお茶会
ある日の事、転生者三人でのお茶会をしてみました。
わたしアリスと、ビアンカ様、使い魔の蝶子さんで。
しっかり盗聴防止装置オンです!
「今回は、前世の名前で呼びあいましょうか。ねぇ? 蝶子さ~ん、いい加減本名教えて!」
猫姿の蝶子さんは、ピクリと背筋を強張らせちゃった。
『姐さん、それ命令だからぁ。もう!』
「あ、ごめん」
つい、うっかり。
『本名はぁ、佐藤健太郎よぉ。ありふれた”佐藤“に”健太郎“よ! ケ・ン・タ・ロ・ウ!! いやー! 太郎なんていかにもじゃなーい! この男っぽい名前にどれだけ煩悶したことか!!』
猫なのに、両前足で頭を抱える蝶子さんの姿はカワイイ。
「心は乙女ですものね」
『心だけじゃなく、体も女になるはずだったのにぃぃぃ!!』
蝶子さんは前世、性転換手術を受けたんだって。日本じゃなく、外国で。
せっかく色んな条件をクリアして手術にこぎつけたのに、術後の感染症か何かで命を落としたらしいのよ。
『せっかく生まれ変わったのにぃ、なんで人間じゃないのぉぉ!? なんでまた雄なのよぉぉぉ!!』
たしたしとテーブルを前足で叩いて嘆きを訴えているけれど、ごめん、カワイイから。
「でしたら、もっと魔法を勉強して、人間の女性に化けられるようにしたらいかが?」
『あら? それステキ! いいこと言うわねぇ、由希子ちゃん』
由希子というのはビアンカ様の前世での名前ですよ。
『でもぉ、わたし、自分では元の姿で大きくなったりぃ、小さくなったりしか出来ないのよねぇ』
蝶子さんと由希子ちゃんから注がれる、期待に満ちた視線。
やっぱりそれってわたしの役目ですか。
『美佐子姐さ~ん、お願い~♡』
きゅるんとニャンコが見上げてくる。ヤバい、断り難い。
どさくさ紛れの姐さん呼びを止めさせたいのに……
『もっとモフっていいわよぉ。ほぉら、肉球だって触り放題~♡』
蝶子さんが膝の上に乗って来て、スリスリっと体を擦りつけてくる。
しかもコロンと仰向けになって、ちょいちょいと前足でわたしの腕を触った。
ゴロゴロ~ゴロロ~と喉を鳴らしたりして……
「分かった! 分かったから!」
だめだ、もふもふには勝てない!
誰だ、蝶子さんをニャンコにしたの!?
……わたしだよ!
「えーとぉ、じゃあ、具体的なイメージが必要です。女の子、もしくは大人の女性? 髪の色とか瞳の色は今のままかなぁ。髪型どうしよう」
大人の美女なら、わたしたちの周辺にずらりといるわ。
スレンダー美女、ボンキュッボン美女、クール系美女、より取り見取り。
じっと見つめていたら、蝶子さんと由希子ちゃんも見つめてしまったので、何か用事だと思った彼女たちが傍に寄ってきてしまった。
「ああ、何でもないわ。ちょっと理想の美を語っていたの」
ビアンカ様が彼女たちを下がらせる。
しかしねぇ、同じ姿にしたら、ちょーっと差し障りがあるかなぁ。
「そういえば蝶子さんて、転生してから何年経つの?」
『そうねぇ、野生にいたから具体的な年月が分からないのよぉ。この国ってあんまり四季がはっきりしていないしぃ……5~6年は経っているとは思うのよねぇ』
「ねぇ、前世で最後に過ごした年って何年か覚えていて? わたくしは20××年よ」
「え! わたしも同じですよ!」
『あらいやだ、わたしもよぉ』
なんと、わたしたちは同じ年に死んだようだ。
ということは……
「蝶子さんも10歳なのかもしれないね!」
「まあ! まだ子供ね」
『中身は27歳よぉ! プラスこの世の10年? やっだぁ! アラフォーじゃなぁい! ねえ、美佐子姐さ~ん』
「そうね!(怒)」
本当のことを言ってはいけないのだ。
みょーんと蝶子さんの口を指で左右に引っ張る。
「10歳なら10歳らしい姿にしましょうか。男の子、じゃなく、うーん、美少女……?」
ふと、ある人の姿を思い浮かべた。浮かべてしまったの。
決して悪気があった訳じゃないから!
イメージ重視派のわたしは、なんとなーくで魔法を使う悪い癖がある。
蝶子さんの顔をぐにぐに揉んでいるうちに、魔力が今思い浮かべている人物へと変身させていった。
むくむくと形を変えて、ニャンコから小型の”虎もどき“になり、そこから形が人間ぽくなっていく。
あー、本当に悪気はなかったのよ?
床で横座りになる、少女か少年か。
髪は肩に付く程度のストーレートヘアの茶髪。肌は黄味がかった白色。瞳は元々の金色。
ただ、完全な人型ではなく、ケモ耳が……ああ、ついうっかり願望が!
尻尾もあるし、『獣人』って感じに仕上がったわ。
しかし、その顔は――
「ええ!? ヘンリー様!?」
「つい、想像しちゃって……」
「あああ、腕~わたしの腕~♡、ちゃーんと五本の指~♡ 脚もすらりとぉ♡ きゃ、ちゃんと女の子よぉ! ねぇねぇ、鏡が見たいわぁ」
自分の体をあちこち確認する蝶子さん。
声もちゃんと女の子の高い声になっている。
「見ちゃダメ!!!」
由希子ちゃんが慌てふためく気持ちは分かる。
一糸纏わぬ獣人の女の子だ。なにか、なにか羽織る物を!
アワアワしていると、こちらもびっくりしていたダリアさんが、ガウンを持ってきてくれた。
着せかけてきっちりと前を合わせる。
わたしたちの気持ちを余所に、蝶子さんはご満悦だ。
確かに可愛いのよ、獣人の美少女は。でも……
「なんだかすごい背徳感!!」
「どうしてぇ? あらぁ、尻尾はそのままなのねぇ。ん? 耳、おかしな所に……これって、猫耳じゃあなぁい!? 姐さんの趣味!?」
つい目を逸らしたわ。
確かに、ヘンリー様にはケモ耳が似合うと思っていたけれども!
勝手にヘンリー様を女の子にした上、裸を見てしまった!
「アリス! 元に戻して!!」
「はいっ!!」
ビアンカ様の怒声にすぐ従った。なにしろ一糸纏わぬヘンリー様もどきだ。
しゅるしゅるしゅるとニャンコ姿に戻ってわたしはホッとした。
『ええ~~~! もう少し人型を堪能したかったのにぃ!』
「蝶子さんごめん、違うのにするから。あーでも、知ってる顔だと、やっぱり背徳感があるかも」
それからまた、人型をイメージして変形しても、具体的な顔を思い浮かべなかったから、顔だけ魔獣のままになった。
違う、これじゃない。
「やっぱり、顔を具体的にイメージしないと難しいです。そういえば蝶子さん、かつての自分の顔を思い浮かべてみたらいいんじゃない?」
『ダメよぉ。わたしの想像通りには出来ないのぉ! 主の姐さんがこうしたいってイメージを持たないと無理なのよぉ!』
「誰か画家さんに、蝶子さんのイメージを絵を描いてもらいたい!」
「ご紹介しましょうか?」
『ええ~、そこまでしなくてもいいわよぉ』
急に意見を引っ込めた蝶子さんに首を傾げた。
でも、画家とのやりとりが面倒くさいとか、金銭的な問題とか心配したのかな? とその時は思ったのよね。
でも違った。
蝶子さんは形状記憶出来るんである。
一度変身したものに、わたしが具体的にイメージしなくても同じモノに変身出来る、それを失念していた事を後日後悔するはめになった。
蝶子さんがメイドのララさんを口説いて、味方に引き込んでいたことを知らずにいた。
ある日、わたしの制服を着た”ヘンリー様モドキ“が学園内を歩いていた、そういう目撃情を聞いたので。




