引き籠りを止めたマディソン
ユリア嬢がシルヴァ家に来た頃のマディソン少年のお話です。
短いです。
シリウスが引き籠った原因の令嬢が、我が家に滞在する事になった。
僕には関係のない話だ――と思っていたのに。
「ユリア様を運動させなければなりません。マディ、あなたが補助してあげなさい」
「なんで!」
「どうせ暇でしょう?」
母上の命令には逆らえない。
というか、グダグダと引き籠っていた負い目がある。
仕方なくユリア嬢の散歩に付き合うことを承諾したけれど、その前に会ってしまった。
よりにもよって、問答無用の断髪の場で。
母上の姿がよほど恐ろしかったのか、ユリア嬢はよろよろと倒れてしまう。
――なんて弱っちい!
ずっと病気で臥せっていたせいか、すごく痩せている。僕でも軽々と抱き上げられた。
改めて散歩に付き添ってみたけど、歩くのが物凄く遅い。
うっかり追い越しそうになるから、かなり気を使って歩幅を調整しなければならなくて、ただ歩くだけですごく疲れた。
とにかく体力がない。気も弱い。それに謝り癖があるみたいだ。
すぐに謝られるとちょっとイラッとする。
でも、学園復帰することを羨ましがられるとは思わなかった。
自分でも分かっているつもりだった。
恵まれているんだと。
傑出した魔導師である父上と、同じく、もしくはそれ以上とされる従兄弟のシリウスと常に比較されてきた。
兄上だって同じだったはずなのに、荒れた様子は記憶にない。
どうせ僕は3属性しか持っていない。
そう言うと、2属性しかない同級生には「恵まれている」と詰られた。
逆に「3属性なんだ。ああ、でもそれだけあればまだマシだよね」とか、憐れむ言葉にもイラついた。
ハノーヴァ侯爵家の親族なのに四大属性を持たない事をけなされ続けた。
1歳上のシリウスと外見も似ていたからか、余計に比較され続けた。
上ばかり見ていて、心無い中傷に傷ついて、自衛のために殻に閉じこもったんだ。
なのに、ただ学べることが羨ましいと言わんばかりのユリア嬢の言葉に、これまでの自分を振り返る。
けなしてきた相手は、たいして魔力の強くない相手がほとんどだった。
なんだ。嫉まれていただけか。
一つ踏ん切りがついて、学園の下半期から復学を決めた。
父上からは無言で頭を力強くわしゃわしゃと撫でられ、母上からはニヤリと笑われ健闘を祈られた。
意味わかんないけど?
久しぶりの学園は緊張した。
新学期の為に全員が講堂に集い、学園長の挨拶があった。
その中で、かつての同級生たちと目が合ったけど、睨み返してやった。
こっちが謙らなきゃならない理由なんてないからな。
これも武装の一つ。
そして1歳年下の4年生の教室に行くと、季節外れの転入生がいて、僕以上に緊張しているのを見た。
ファリス学園から編入してきたのは、アリス嬢の従兄で文官コースを選択するそうだ。
それは大変だろうな、と他人事ながら思う。
通常、特待生として転入してくるのは魔導師コースの生徒なんだ。
特待生でもなく、文官コースへの途中編入……僕だったら引き籠り案件だよ。
なんだか本当に自分は恵まれているんだなと実感できた。
そうして1週間、週末に家に帰ったら、母上とユリア嬢が笑顔で迎えてくれた。
数日ぶりに会ったユリア嬢は、少し血色が良くなり、薄茶色の髪にも艶が出て来て元気そうだ。
「学園はいかがでしたか?」
「『特別コース』でさ、シリウスにしごかれたよ。何なのって感じ」
ニコニコと僕の話を聞いてくれるユリア嬢。
なんだかな、これも悪くない。
夜、寮へ戻る時、「また来週」と言って別れた。
毎週末帰る。それがいつの間にか励みになっていた。
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