面倒な初夜
「君って処世術とか苦手でしょ」
自宅での晩酌中、彼女は徐に話し始めた。
「君と同居して2年になるけど出会ったときから全く表情が変わらないもん。ちなみに顔のじゃないよ、心の表情。」
「誰でも心の仮面を付け替えながら生活していると思うけど、君の場合はめちゃくちゃ分厚いのを使いまわしてる感じ。」
「例えるならRPGでスキルを極振りする感じだね、君は面倒がって剣のスキルしか上げてない。だから君は槍使いにも弓使いにも剣で挑むしかないわけ。」
「たまたま私に対しては相性抜群だったからこうして一緒に暮らしているわけだけれど世の中にはいろんな奴がいるからね」
「いじめっ子が大人になっても上手くいく事例が多いのも同じ話だと思うんだよね。あいつらは先生に対しては上手く媚びるし弱い同級生に対しては徹底的に攻撃する。小さい頃から相手に合わせて武器を持ち替える訓練をしてたわけだし、世の中に出ても戦って行ける。」
「別に君にいじめっ子になれって言ってるわけじゃないよ。ただ君も少しは要領よく生きてみない?って言ってるの。」
「幸い君はまだ若いんだよ。こういうのは歳をとっちゃうと中々習得できなくなるからね。」
一頻り話すと彼女はベランダに行きタバコを吸い始めた。
「せっかく副流煙気にして外出たのに君まで出てきたら意味ないじゃん。」
そういう彼女は少し嬉しそうだった。
「ごめんね、長々と説教くさい話しちゃって、どうも歳をとると話をしたくなっちゃうみたい。」
「君とこれからどれくらい一緒にいるか分からないけどさ、私はもっと内側の君を見られたらいいなと思ってるの。」
「だからさ、今日一緒に寝よ?」
翌日は遮蔽物から漏れる雨音で目覚めた。
隣にいる君は見守るように僕の顔を見ている。
「肌を重ねてみたけど私は君に近づけたかな」
僕は毛布の下でモゾモゾと君を抱きしめる。
彼女は「なら良かった」といい二人はもう一度眠りについた。