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われら第六遊撃隊  作者: ふぁいる
6/12

護り人

第六遊撃隊の三人には個室が与えられていた


その個室は相応のお金を払えばいくらでも改築してもらえるという場所


最初こそ何も無い、休むだけのような部屋だったが遊撃隊として活動してそこそこ、三人の部屋は個性溢れる部屋へと変貌していた



「メシアー、邪魔するよー」

メシアの部屋に訪れたのはメリッサ、日は落ちかけているが本日の三人の予定は夜の見回り、出発前の集合場所として今回はメシアの部屋のようだ


「どうぞ、入ってくださいませ、紅茶の準備をしますわね」


「さんきゅー」


廊下とリビングの間に扉は無く

玄関からリビングの一部が見える構造だ


…いわゆるキッチンなしワンルームなのでリビングの区切りが正確ではないが


メシアが窓際で椅子に座り紅茶を飲む様子は夕焼けも相まって高貴なお姫様のようだ



「…メリッサ?どうかしましたか?

ほら、座ってくださいまし?紅茶が冷めてしまいますわ」



「あぁ、すまねぇ…ってティーパックかい!」

目を奪われた様子から立ち直ったメリッサがメシアとは机を挟んで反対の椅子に座る



「しょうがないですわ、親とは離別してますもの、贅沢は敵ですわ」

紅茶に目線を落としながら、メシアは一瞬悲しそうな顔をする



「もと領主の娘が言うとなんか…なんだかなぁ…」


「…ですが、いえ、えっと、今日は街の巡回でよろしかったですわよね?」



「あぁ、ドロシーがさっき依頼書になってるのを持ってきた、目は通したよ…ドロシーは?」


「そこのソファで寝てますわ、見させてもらいますね」


ペラリと二枚で構成された依頼書

本日の依頼は中身も薄いようだ


そこのソファ、メシアの部屋にソファは一つしかないためメリッサはそちらを見る


ドロシーはソファに横になり足を投げ出してスヤスヤと寝息を立てている

…いつもの人形は心做しか苦しそうに抱かれている


「いつ来てた?」


「えっと、依頼書の発行がこの時間…隊長の字ですのであまり信用ないですが、なら、メリッサさんに渡して直ぐですね、シャワーを浴びて仕事まで寝ると横になりましたわ」


見れば確かに、ドロシーのクセのあるねずみ色の髪はしっとりと濡れていた




「本日は…第一炎撃隊も第五撃滅隊もいないのですね…何か大きな魔物が出た…のでしょうか」


「まぁ、そっち系だろうな、撃滅隊がいないってのはねぇ」



他愛も無い会話が続いていく


「あれ?部屋の位置高くなった?」


「えぇ、夕日が完全に落ちきる瞬間が見えますわ、最後の光はキラキラと光って、街並みの光がスぅっと消えていくのがとても幻想的ですの」


「ほえぇ、…いくらくらい?」


「それを聞くのは野暮ですわ、ご自分で確かめてくださいまし、ほら、日が落ちますわよ」


陰に落ちていく様は、確かに幻想的なものだった



「おぉ…私もそうしようかな」


「メリッサの部屋は星空が見える高さですのでそのままでいいと思いますけど…屋根を取り払うより付ける方がかかりますし、この景色ならまた見にこればいいですわ」


「…うん、そうしようかな、さてじゃあ行く?」


「そうしましょう」


ドロシーをぺちぺちと起こして三人は日の落ちた夜の街に出ていく



…ちなみにだが

三人の部屋はメシアとメリッサの部屋は隣り合わせで、廊下を挟んで反対にドロシーの部屋がある

同じ階層だが、ドロシーの部屋は地下だ、温度はいつも一定になっている


三人は不思議快適な雷の街専門部隊ライフを送っているようだ





雷の街は夜になると賑わいがはっきりと別れる


住居地域は明かりも落とし静かな夜となる

酒場などのある商業地域はらんらんと明かりが輝いている

地下の闘技場は更なる賑わいを見せているが…本日は地上の見回りだ


ちなみに闘技場の客席側はドロシーが拒否している、どうしてもな時は頼まれているが


地上でも闘技場の様子が大画面のモニターに映し出されているので騒がしいことに変わりはない



「お!メリッサちゃん!次はいつ出るんだい?メリッサちゃんに賭けるからよ!頼むぜ!」


「一杯どうだい!ん?腕?あぁ、お仕事中かい、こりゃ失礼」


「メリッサちゃん達が見回りとは珍しいな!お仕事頑張れよ!」



メリッサはそこそこに闘技場で小銭を稼いでることもあり酒場で飲んでいる人達からよく話しかけられていた


巡回中の部隊の人には遠距離連絡が出来るという魔道具を付けている

雷の街の人たちも理解しており、メリッサはお酒ではなく串焼きを貰っていた


「あ、それは貰うんですのね…」


メリッサはいつもの格好、メシアは地味目なドレス、ドロシーは黒フード付きマントをすっぽりと被っている


地味目なドレスとはまぁ、色や装飾品の有無だけで目立たない訳では無いが、いつものことではある


メシアも串焼きなどを差し出されてはいるが受け取りは拒否しているようだ

ドロシーは二人に隠れてコソコソついてきている



巡回する三人は街の人と話しながら、たまに同じ巡回の仕事の第三風撃隊と直接話をして確認したりしていく




「今日はパフォーマンスの日じゃ無いのかな?」

メリッサがふと呟く


「ふぁ…ぐ…」

フラグ、と


「そうですわよ、どうせ部隊長の手回しで今日もパフォーマンスになりますわ…」


三人の言うパフォーマンスとは、前触れなく突然中型の魔物が襲いかかってくることだ


以前は街の人を襲わないクマやひたすら逃げるヘビだったり…仕事が増えることに変わりはない


そして騒ぎが起きれば盗人がたいてい炙りでる


雷の街は来る者拒まず去るもの追わずな為…噂では盗賊団がいるとかいないとか

上は狙ってるのかどうか知ることではないが、結果的に治安は良くなってる…らしい



これが毎度三人が巡回中の日に限って確実に起きる

そしてその報告書を笑いながら部隊長のセーラが確認するのだ


うーん、あやしい



そういう訳でそのうちに三人はなるべく派手に立ち回ることで逆に盗人が動きやすいようにするのだ


だからパフォーマンス



「ぎゃおぉっ!」


「ほら、お望み通り来ましたわよ、掠れた鳴き声…弱ったワイバーンですわ」


ザワザワと街の人たちも襲来したワイバーンに気がつく

酒場の集まる中央に飛んできたため人口密度も多い


風撃隊も腕の遠距離連絡の腕輪に話しかけているが…


「まぁ、予定通りですわ、メリッサ、盗人の方は任せますわね」


「おっけ、ドロシー、なるべく派手で」


「うぅ…わった…」




ワイバーンに対して屋内、酒場に引っ込む人達と裏腹に二人が残っていた


「属性攻撃してこないですわね」

「ぬるぃ…」


ドロシーが人形を上に投げる


「ドールメイク!…光…辰…こうたつ?…たっつん!」

ドールメイクする度に名前の変わる人形は置いといて…



投げられた虎の人形が光に包まれ姿が変わっていく

その大きさは中型とはいえ大きい、翼を広げたワイバーンよりも大きくなっていく


その体は蛇のように細長く、しかし短い前足後ろ足がある

角のようなものと二本の髭?

どうやって形を保っているのか雲を所々身にまといながら現れた


龍だ





「黒いフードの子が龍を召喚したぞ!」

「ワイバーンなんかにオーバーキルすぎるぞ!」

「あいつぁドラゴンじゃねーのか?龍ってなんだよ!」

「ギルドの図書館いってこい!学がたりてねぇーぞ!」

「おい、ちらっと見えたフードの子めっちゃ可愛い!ねずみ色の髪の毛の子だ!彼女にしたい!」

「召喚士すげー!やっちまえー!」

「いけー!」「酒が進むぞー!」



メリッサの予想以上の人形を出した為に想像以上に賑わいを見せる街の人達

「…ドロシーなんてもん作ってんだ、って誰だドロシーの顔見たやつ、記憶消すぞコラ」


ドロシーは光龍の雲の上に立ち、ワイバーンと同じ高さまで昇っている


どういう仕組みかその雲にはメシアも立っている


そして光龍は光の槍を無差別に振りまいていた

下に届く寸前で消えているので街に被害は出ていないがモロに受けているワイバーンは先程から助けを呼ぶ鳴き声を出している



ドロシー達はあえての放置か、ワイバーンに仲間を呼ばせるようだ



「はぇーすっごい…あ、盗人…みんな上向いてるから目立つなぁ…もはや馬鹿だろ…」

メリッサは仕事を再開したようだ





「ど、ドロシー!?あのワイバーンを一撃で沈めれないんですの!?仲間を呼ばれてしまいますわ!?」


「むり、ライトスピアとライトブレスしか出来ない、ブレスは街に被害が出る」


普段と違い堂々として、はっきりと言い切るドロシーにメシアは惚けた顔をする


「…メシア?」


「あ、いえ、初めて出会った時を思い出しまして…カッコイイですわ」


フードはダメージの無いライトスピアのせいでめくれ、マントは風が吹き荒れるようになびいている

術者の為ダメージはないが無差別攻撃は仲間も巻き込みかねない魔法だった



ギャアギャアと喚いていたワイバーンに他のワイバーンが集まり始める


光龍は変わらず宙に留まりライトスピアを撒き散らしながら

その様子を見ているだけだ


集まってきたワイバーンも端からライトスピアの餌食にはなっていくが、全て討伐まではまだかかりそうだ



「メシア…えへへ」

カッコイイと言われ

ふにゃっと笑うドロシー

先程までの毅然さは感じられない



「ドロシー…あっ、メリッサが三…四…何人も捕まえていますわ、こちらを見て丸を作ってますわ…降りて風撃隊にも討伐を手伝ってもらいましょ」


「無理、光龍出すと落ちるしか出来ない」


唖然とするメシア


「使い勝手を改善してくださいまし…そうですわね…」


ちょっと考えたあと


「わたくしだけ降りますわ、ドロシーは安全に解除する方法を考えてくださいまし」


「わかった」


そう言うと雲からスっと落ちるメシア


「シールドバッシュ」

地面スレスレで唱えたそれにより

グワンと音と共に着地する


「おー、見事」

メシアの元に駆けてくるメリッサ

どうする?と話を初める


「ワイバーンを殲滅して終わりですわ」





集まった風撃隊と共にワイバーン達は撃ち落とされた

ドロシーがドールメイクと叫ぶと光龍は光に包まれ姿を消す

そして足元に現れた青紫の羊にドロシーがぼフッと落ちた


「ドロシーっ」「大丈夫ですか!?」


青紫の毛に包まれてスヤスヤと眠るドロシー

駆け寄った二人は顔を合わせて苦笑いだ




「あっはは!それで盗人のおまけでワイバーンの十二匹の討伐と!」

深夜にも関わらず大きな声で笑う部隊長のセーラ


副部隊長のバンシーは盗人とワイバーンの処理に回っている

また、ドロシーも人形と共にそちらにいるらしい



「笑い事じゃないってぇ盗人もここぞとばかりに動き回って…大変だったんだぜ…です…」


「そうですわよ…ドロシーの何故かいくらでも乗せれる羊がいないと運搬途中で逃げられていたかもしれませんわ」


「はいはい、弾んどくから、相応以上に出しとくから、ドロシーを休ませないとね、いや、もう寝てるのか」


「そうだね」「寝てますわ」


「ドロシーどんどん成長するな…一回、いや…」


「どうかしましたか?」


「いや、ハンコ押し終わったよ、お疲れ様、あとはバンシーのサインだけだから部屋に戻っていいよ、お疲れ様」


「お疲れ様ー!」「お疲れ様ですわ」



第六遊撃隊、本日の夜の見回りは予定以上の活躍で終わったようです



「…そういえば、なんではぐれワイバーンが街中に沸いたんだ?」

セーラが部屋で一人呟いていたとかなんとか

次回は15日です

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