第八話 念仏でも唱えていろ、お前らに比べたらゾンビの方がまだ可愛げがある
前回のあらすじ
化物を倒し機動隊の隊長を助けた。
京介達は駐車場にたどり着いた。加奈子の話によると車は地下3階にとめてあるらしいが。
「エレベーターが止まってるみたいね……」
「この状況なら仕方がない」
「どうするの~?」
「階段からいくしかないかな……」
3人はエレベーターで降りるのを諦め、扉を開けて駐車場内の階段から下っていくことを決める。
「俺が先に開けよう」
念の為、というより何かを察したのか先ずは京介が扉を開けた。
「ヴァアァア……」
「キャーーーー!」
すると、開けた途端何人かのゾンビが京介に手を伸ばしてきた。加奈子の悲鳴が上がる。だが京介は全く動じることなく、鉄拳と蹴りでゾンビの頭を粉砕していった。ゾンビは死んだ。
「もう大丈夫だ。ただ、中にはまだこの手合がウロウロしているようだから気をつけた方がいい」
「は、はい!」
「何か怖い映画みた~い」
加奈子は出来るだけ京介から離れないよう心がける。娘の陽子の手もしっかり握りしめるが、陽子はあまり恐怖を感じていないようだ。
勿論普段であればこんな状況とても耐えられるものではないだろうが、京介が一緒にいる安心感の方がはるかに強いようである。
一方京介は京介で夏目親子に注意を促したものの指一本ふれさせるつもりはなかった。
駐車場内はゾンビで溢れかえっていた。全てここで死にゾンビと化した人々なのだろう。そう考えると倒すのをためらってしまいそうだがそのあたり京介はわりとドライでもある。
迫るゾンビは全て容赦なく排除した。尤もこれは氣を扱える京介だからともいえる。ゾンビは動き回ってこそいるが元の人間としての面影などは欠片も残っていない。それは氣の流れを見れば一目瞭然なのである。京介からしてみればゾンビなど木偶がラジコンのように動かされてる程度にしか感じられない。
だからこそ容赦なく破壊できる。命あるものを何かに突き動かされるように襲ってくるゾンビを排除しつつ、地下への扉を抜けて先ず地下1階に向かった。
本来ならこのまま地下3階まで降りられるといいのだが、地下2階に向かう階段は天井や壁が崩れて塞がってしまっていた。
勿論京介ならこの程度軽くどかすことが出来るが、夏目親子は一度崩れた階段を降りるのは精神的に不安を感じるかも知れないと、駐車場内を通りゾンビを片付けながら別の階段で地下2階へ向かう。
そのルートもやはり瓦礫に邪魔されてそのまま地下3階には降りられなかったので地下2階の駐車場を通り別の階段を目指すわけだが、その途中に奇妙な化物を発見する。
『ギシシシシイイイイィイ――』
「な、な、なんですかあれは……」
「何か気持ち悪~い……」
頭の中を引っ掻き回されているかのような気分になる不気味な声だった。京介は特に何も思うところはなさそうだが、夏目親子の表情は歪んでいる。
「……どうやらゾンビの原因はアレにありそうだな」
「え? そうなんですか?」
「あぁ、あの中で生気が渦巻いている」
まさに京介の言うとおりだった。彼らの進行方向上に鎮座し立ちふさがった化物はドゥームという名の魔物である。獣のような四肢を持ち、頭に関しては芋虫を思わせる形状で、長い首の先は巨大な口になっていた。
この魔物、狙った獲物を殺した後、死体に残っている魂を喰らう性質がある。そしてドゥームに魂を喰われた死体がゾンビと化すのだ。
「これは、流石に逃げたほうが……」
「問題無い」
「問題、ない?」
「そうだ。今片付けてくる」
「お、お兄ちゃん、死んだら嫌だよ?」
「大丈夫だ。安心してていい」
京介が陽子の頭を撫でると、えへへ~と嬉しそうに笑った。その様子に何故か彼なら大丈夫、と思えてしまう加奈子であり。
『ギィィイィイイイシイイシイシシイイ!』
「耳障りな声で鳴くやつだ」
ドゥームの声は喜んでいるようでも興奮しているようでもあった。すると、首の部分が波打ち、何かが開きっぱなしの口に流れ込んでいく。
そして間もなくして、ドゥームが口内から何かを飛ばしてきた。それが魂から得たであろう力の塊。喰らった魂をエネルギーに変えるドゥームはその力を攻撃に転じる事ができる。
その力は強大だ。あたった場所は飲み込まれたように消滅してしまう。しかもドゥームはそれを同時に8発飛ばしてきた。見た目が髑髏のようなソレは、ある程度相手を追尾する力もある。多少LVを上げた程度でどうにかなるわけでもない。
「カァアァアツッ!」
だが――それも京介には通用しなかった。なんと京介が一喝するだけで、放たれたソレが全て掻き消されてしまった。
「……?」
ドゥームは傾げるように首を動かした。なぜ獲物が無事なのか、理解が出来ないのだろう。そして怪訝に思っている間に京介は目の前に迫っていた。
その長い首が動いた。こうなったら直接京介を食ってやろうとそう考えたのかも知れない。ドゥームの口には鋭い歯がびっしりと生え揃っている。こんなもので噛みつかれたら溜まったものではない。
「京介さん!」
「お兄ちゃん!」
夏目親子が叫ぶ。目の前で京介の上半身が巨大な口に飲み込まれたのだ。心配に思うのは当然だ。
「問題無い」
『ギギギィ……』
だが、京介は無事だった。寧ろドゥームの動きが完全に止まっていた。京介を喰らおうとしたその状態でだ。京介の腕が逆にドゥームの口を掴んでいた。鋭い歯も京介の皮1枚通すことが出来なかった。
京介は腕の力を強め、その口を上下に押し広げていく。
「随分と食べたようだが、それもここまでだ」
『――ギッ!?』
刹那、ドゥームの口から胴体までが一気に引き裂かれた。これで終わった。あまりにあっけない最期だった。
すると朽ちたドゥームの体内から、次々と浮遊体が上昇していく。
「……おばけさん、お兄ちゃんに感謝してるよ」
「陽子……」
「そうか、なら良かった」
これでドゥームが食べた魂は全て解放された。それを見届けてから近くにあった扉を抜け目的の地下3階へと足を進める。
「……酷い」
「うぅうう……」
地下3階も、やはり多くの死体で溢れかえっていた。ゾンビもチラホラ見受けられたが、それらは京介が排除していく。
だが、ゾンビと化してない死体も多かった。問題なのはその中には魔物に殺されただけではないものも多く存在したことだ。
ある死体はお腹に銃創が残っていたし、ある死体は眼や全身に小さな矢が無数に突き刺さっている。
明らかに弄ばれたと思われる亡骸も多く見られた。
「これを、魔物が?」
「……それだけではないだろう」
京介の言葉に加奈子が眉をひそめた。その意味が理解できないわけではない。それに彼らは既に一度人間に襲われている。河原で出会った少年たちに――だが、まさかここまで、と信じがたい気持ちで一杯だった。
「お~い、まだかよ」
「せっかく動かせそうな車が見つかったってのによ」
「……それ、私の車――」
「あん?」
加奈子の記憶を頼りに、駐車場を進む3人。間もなくして加奈子は止めてあった車を見つけるが、そこには4人の柄の悪そうな若者がいて、何故か加奈子の車をいじくり回している。
すると、4人が立ち上がり、声を上げた加奈子や陽子と京介を見て、喜びの声を上げた。
「おいおい、この車の持ち主かよ!」
「渡りに船とはこのことだなぁ」
「しかも女の方、結構いけてるじゃん」
「いやいやかなりの上玉よ。おっぱいも大きいし」
「……お前ら、そこで何をしている?」
「え? あぁこれね」
加奈子をいやらしそうな目で見てくる若者達。誰何する京介だが、短髪で髪が段々になるように刈られた革ジャンの男が京介に近づいてきて。
「まぁあれだ車と女は奪う。男は、いらねぇ」
乾いた音が6回鳴り響いた。加奈子が悲鳴を上げた。男の手には拳銃が握られていた。どこで手に入れたのかは定かではないがオートマーグという名称の自動拳銃だった。
それを問答無用で抜き、京介の体に6発打ち込んだのである。
「おいおい、弾のやついきなりかよ」
「男には容赦がないよな」
「全く、野郎でも少しは玩具になるんだからさぁ」
若者たちはニヤニヤしながらそんな言葉を口にする。
だが、その直後だった。
「ヒッ、い、いてぇ! いてぇええよおおおおぉお!」
なんと悲鳴を上げたのは拳銃を撃った方である弾という男だった。転がるように倒れ、血の滲んだ腹部を押さえながらうめき声を上げ続ける。
その様子に、残った若者たちは怪訝そうな顔を見せた。なぜ、拳銃を撃った方の仲間が転がって悲鳴を上げているのか理解が出来ないのであろう。
だが、京介にとって拳銃の弾丸など何の問題にもならなかった。彼は撃たれた拳銃の弾丸を全て指で弾き、余すこと無く男の腹に返してやったのである。しかも指で弾かれたことでより勢いが増している。結果、男は自分が撃った銃で自分自身を傷つけることになったのである。
「な、なんだお前は!」
「……これからぶちのめす連中に答える必要がない。精々念仏でも唱えておくんだな」
次回、制裁!