第二話 ステータスで得るもの
前回のあらすじ
京介が魔物に襲われていた母娘を助けた。
「くそ、なんなんだあの野郎は、バケモンかよ……」
意識を取り戻し、特攻服の男、角田 巌は呻くように言った。
バケモンと称したのは当然、さっきまで集団でボコろうとしていた京介のことである。
そして巌は全員を叩き起こし、仁王立ち状態で怒鳴った。
「テメェらこんだけいてやられるとはどういうつもりだ! 舐めてんのか、あぁん?」
舌を巻くようにして責め立てる。巌は暴走族の頭だ。そしてここにいる連中は全員同じ族のメンバーでもある。
警察の厄介になることも多かったチームだ。京介との因縁も町中で暴走行為を繰り返していた時、横断歩道を渡っていた婆さんを轢きかけ、邪魔だクソババァ! と怒鳴り散らした瞬間、通りがかった京介にボコボコにされたことが理由でもある。
勿論悪いのはどう考えても巌たちであり、完全な逆恨みだが、理不尽とは言え彼らには彼らなりのルールがあり、高校生一人に舐められたままではチームとしての示しがつかなかった。
尤も、今度はチーム全員で挑んだにも関わらずやはり手も足も出ずズタボロにされてしまったわけであり、もはや示しも何もない状態だが。
「ヘッドだって、やられてたじゃないっすか」
「あん?」
「ヒッ! すみません……」
恨めしそうな目でつぶやくモヒカンを巌が睨みつける。モヒカンは首をすくめておとなしくなった。
「とにかくだ、このまま舐められたままじゃチームとしての――」
その時だった、廃工場を激しい揺れが襲う。
「じ、地震だ!」
「デカいぞ!」
「ひぃいいぃい、かーちゃーん!」
チームのメンバーが恐れおののく。巌も腰が引けた状態で揺れが過ぎ去るのを待った。
そして揺れが収まり、ホッと胸をなでおろすメンバー達。確認を取るが怪我をしたものは誰もいなかった。
相当揺れたし、一部の天井や壁、床に亀裂が走りはしたが、とりあえず建物が崩落する心配はなさそうである。
「全く、なんだってんだ……」
頭を押さえ、愚痴るようにつぶやく。
その時だった、彼らの脳内に謎のメッセージが届いた。そのメッセージはしばらく続き、機械的な声が完全に止んだ後、メンバーの数名が歓喜の声を上げた。
「すげー! マジだ! まじでステータスが見れるぞ!」
その声を皮切りに次々とステータスを確認し始めるメンバー達。巌もわけがわからなかったがステータスと唱え半透明な画面を出した。
どうやらこの画面は基本自分だけに見えるものなようだ。ただし、許可を出せば他の人間も見えるようになる。
ステータス
名前 角田 巌
種族 人間
レベル1
戦闘力0
敏捷力0
生命力0
魔導力0
技術力0
精神力0
残りSP6
残りLP0
ジョブ
選択してください
スキル
魔法
称号
画面の内容は巌にはどれもピンとこなかった。だがそれぞれの項目について知りたいと思うと、簡単な説明が頭の中に流れてくる。
・レベル
経験値を溜めることで上昇する強さの基準。レベルが上がることでSPとLPを得る。
・戦闘力
SPを振ることで攻撃に関する威力が上昇する。
・敏捷力
SPを振ることで体がより軽快に動くようになる。
・生命力
SPを振ることでより死ににくくなる。自然治癒力も向上する。一部のスキルは生命力を必要とする。
・魔導力
SPを振ることで魔力を蓄えられるようになり容量が増えていく。
・技術力
SPを振ることで手先が器用になる。一部のスキルの成功率などにも影響する。
・精神力
SPを振ることで心が強くなる。精神に影響するスキルの効果をあげ耐性がつく。魔法の制御にも関係する。
・ジョブ
職業。選択することで様々なスキルを取得できるようになる。LPを振ることでジョブのLVを最大5まで上げることが可能。
・スキル
特殊な技能。各種スキルにLPを振ることでLVを最大5まで上げることが出来る。
・称号
行動に応じて得られる異名。何かしらの効果が付随する。
これがステータスに関する説明であった。これを見るにとりあえずジョブを選択しないと何も始まらないようでもある。
巌はとりあえず選択できるジョブを表示させてみた。ウィンドウが切り替わり数種類のジョブが表示される。
・ファイター
基本職の一つ。武器の扱いに長ける。
・アウトロー
基本職の一つ。無法者。悪事をはたらく事で経験値を得る。
・バンデット
基本職の一つ。山での追い剥ぎ行為に長ける。
次々表示されるジョブにろくなものがないな、と嘆息する巌だ。ファイター以外は犯罪の匂いしかしない。
だが、一番下のジョブにその目が止まった。
・ドレインローグ
ユニーク職の一つ。非常に珍しいジョブ。レベルを上げることで様々なものを吸収し奪えるようになる。
「ユニーク? なんだかよくわかんねぇが珍しいものなようだな……」
ならば、と巌はジョブにこのドレインローグを選択。するとSPの他にLPも残り3と表示された。
「だけど、これでどうすれってんだ……」
他のメンバー達は子どものようにはしゃいでいるが、巌はこれを使ったからと何があるんだ? と訝しく思っていた。
だがふと、もしかしたらこの力があれば、あの野郎にも復讐できるかもしれないと頭を切り替える。
(それならやっぱ戦闘力は必要だな。生命力もよくわからないが、丈夫に慣れるならとっておいて損はねぇはずだ。魔法、は更によくわかんねぇし……)
こうしてとりあえず思うがままステ振りを終える巌であり。
ステータス
名前 角田 巌
種族 人間
レベル1
戦闘力2
敏捷力0
生命力4
魔導力0
技術力0
精神力0
残りSP0
残りLP0
ジョブ
ドレインローグLV1
スキル
吸収LV2
称号
吸い尽くすもの
画面を眺め、こんなものかと納得する巌である。生命力に多く振ったのはやはり京介に一方的にやられたことに起因するのであろう。
だが、これで本当にあの野郎が倒せるだろうか? と首をひねる巌であったが、その時、突如空間に裂け目が出来る。
信じられない光景であった。まるで映画かなにかを見ているような気分になるが、何より驚いたのはその裂け目から狼が何匹も飛び出てきたことだ。
「ひっ、なんだこいつら!」
「犬? いや、これ狼じゃね?」
「馬鹿言うなよ、日本にはもう狼なんていないはずだろ?」
周囲からそんな声が聞こえてくる。そしてその中の一人が叫んだ。
「違う! こいつらは魔物だ! 俺は鑑定を取ったからわかる! ハングリーウルフっていう異世界の魔物だよ!」
その解説に周りが騒然となる。だが――
「ビビるこたぁねぇ! 俺たちはステータスを手に入れたんだ! ジョブだって付けただろ? こんなやつに負けるわけねぇよ!」
一人の男が声を上げた。その姿に巌は眉をひそめた。そいつはチームでは副長を任せている。だが、最近は巌に異を唱えることが多かった。
「それに俺は最初から上位職のバーバリアンを選ぶことが出来た! こんな犬っころに負けるか!」
そう言って副長が果敢に魔物に挑みかかっていく。京介をやるために唯一斧を持参した男でもあった。
中々に危ない奴だが、それとジョブの効果もあって次々と魔物をたたっ斬ていく。
触発されて他の連中も戦闘を開始した。巌は一歩出遅れる形となるが、鉄パイプで2匹の魔物の頭をかちわり、LVが2に上昇した。
「副長すげー!」
「たった一人で半分を倒したぜ!」
「俺なんて1匹やるのが精一杯だったぜ」
戦闘が終わり称賛される副長を見ながら巌は、チッ、と舌打ちする。
そんな巌にドヤ顔を向け。
「あれれ~? うちの頭ともあろう御方が、たった2匹しか仕留められなかったんですか~? もしかしてビビっちゃったかな~?」
副長は明らかに調子に乗っていた。ムカムカしてきた巌だったが、ふとステ振り途中でスキルの説明を見ていなかったことに気がつく。
吸収
触れたものから生命力を吸収する。吸収量はLVによって変化する。魔法を魔力として吸収することも出来る。触れたものが死体の場合能力も一緒に吸収される。
(こいつは……)
巌は改めて周囲を見回す。当然だがハングリーウルフの死体が数多く転がっていた。
巌は自分が殺した魔物の死体に手で触れてみる。すると、死体が消え、何かが流れ込んでくる感覚を覚えた。
ステータスを見ると、明らかにステータス値が変化していた。咬撃と威嚇というスキルも追加されている。
それを認め、ニヤリと巌は笑みを深めた。
「うん? なんだよ頭とあろうものが死体漁りか? だっせんな――」
「うるせぇよ」
「え?」
ハングリーウルフの死体を吸収することで巌の敏捷力は上昇していた。試しに副長に向かって疾駆してみると、信じられないほど速さが上がっており、副長も目を丸くさせた。
そしてその副長の頭を容赦なく鉄パイプで叩き潰した。
「……え?」
近くにいたメンバーの一人が怪訝な声を上げた。だが、巌は容赦なくその男も鉄パイプで殴り殺しこうしてその場にいた全員を片付け、次々と死体を吸収していくのだった――
この先、どんどんザマァしていきます!乞うご期待!