第一話 改変された世界で、奴は肉体一つで立ち向かう
前回のあらすじ
ステータスを破壊したところで何かが出現した。
※第一話をプロローグと繋がる形に変更しました。
「ギギッ」
「グェッ!」
「ギヒヒ……」
ステータスを破壊した京介の目の前に出現したのは緑色の肌を有す魔物であった。尤も京介の認識は物の怪や妖怪のたぐいか? といったところでもある。
だが、ふむ、と何かを思い出すような顔を見せ。
「そういえば、妹がやっていたゲームにこんなのがいた気がしたな。確か名をゴブリンといったか」
背丈は小学生高学年ぐらい。肌は緑色、そして小鬼を彷彿させる小さな角。
これらは確かに京介の妹がプレイしていたゲームに登場するゴブリンに酷似していた。尤も京介は自らゲームを自分の手でやることはなかった。もっぱら妹のプレイしている姿を後ろから眺めることが多かったからだ。
「どちらにせよ、敵意があるのは確かか」
ステータス画面を自ら破壊した京介はスキルなどを手に入れることは出来なかった。だが、武道家として培ってきた経験と勘はそれらを補ってあまりあるほどである。
構えを取り、3体のゴブリンと対峙した。京介の歩数で8歩分ほど離れた位置にゴブリン共はいる。
ゴブリンは特に武器になるものは持っていなかったが、河原に落ちている石を拾い始め、京介に向けて投げつけてきた。
一見馬鹿らしくもある攻撃だが、その投擲速度はかなりのもので、石とは言え一般人であれば当たりどころによっては死ぬ可能性もあった。
尤も、それはあくまで一般人ならばだ。武道の申し子とまで称された京介には通じず、腕を一振りするだけで全ての石を掴み取ってみせた。
「「「ギャギャ!?」」」
「ふむ、投擲か。確かにそのやり方は間違っていない。いつの時代も圧倒的に有利なのは遠距離からの一方的な攻撃だ。だが、投げ方がなってなかったな」
京介はキャッチした小石を指でつまむようにした後、ゴブリンに向けて親指で次々と弾いていく。
指弾として放たれた小石は、ゴブリンの頭蓋を次々貫いていき、3体のゴブリンはあっという間にその命を散らしていった。
「思ったよりも大したことがないな。これなら羆の方がまだ手応えがあった」
以前とある村で尋常でない被害を及ぼす巨大な羆が現れ、マタギでもとても話にならないと相談を受けたことがあった。
その際に京介が出向き、そして見事素手で巨大な羆を打倒したことがある。その後羆は美味しく頂いたが、それだけの力を持つ京介であればゴブリンを倒す程度のことなど造作も無いことなのである。
「さて、いくか」
京介は当初の予定通り、学校へ向かうことにする。現状を少しでも知るためだが。
(ずいぶんと変わった連中が増えたな)
感覚を研ぎ澄ませ、周囲の状況を探りながら移動する京介だが、周囲の空気は異様なものにつつまれていた。
特に殺気の量が凄まじく、平和な日本というイメージが完全に一変していた。色々なところから悲鳴が飛び交い、爆発や衝撃音がひっきりなく鳴り響いている。
「きゃ~~~~!」
「い、いやぁああ! 陽子! 陽子~~!」
その時だった、学校に向けて疾駆する京介の正面に一人の女性の姿。そして悲鳴は上空から届いた。
見上げると、巨大な鷲と、その鉤爪に捕らえられた幼女の姿。
なるほど、と女性と幼女を交互に見やる。どうやらこの2人は母娘のようだと判断する。陽子というのはいま大鷲に捕らえられどこかへ連れ去られようとしている幼女の名前だろう。
「はっ!」
京介は地面を蹴り上げ、大鷲のいる高度まで跳躍。
「さて、その子は放してもらうぞ」
大鷲は翼長で50m近くある巨大な鷲であったが、その頭にデコピンを喰らわせただけで、大鷲(正確にいえばルクという名前の魔物)の頭を砕いてしまった。
頭を失ったルクは当然そのまま落下を始め、捕まっていた幼女も悲鳴をあげるが、その直後ふわりとした感触に包まれた。幼女の身は京介の腕の中にあった。
「怪我はないかな姫君?」
「え、あ、はい!」
にこりと微笑む京介に、頬を染める陽子。お姫様抱っこされたまま、綿毛のように軽やかに地面に着地。ほぼ同時に巨大なルクが地面を凹ませた。
「陽子! 陽子!」
「あ、ママ」
息せき切って駆けつけたママに対して、娘の陽子はどこか夢心地といった様子も見受けられる。
母娘が無事再会出来たことを認め、京介は陽子を下ろし地面に立たせてやった。
何故か陽子はそれに不満を覚えたようでもあったが、直後彼女の母親が京介に何度も頭を下げてきた。
「ありがとうございます。本当にもう、なんとお礼を言ったらよいか……」
陽子の母親が京介にお礼を述べた。先程まで娘が連れ去られ取り乱していたが今は落ち着きを取り戻したようだ。
「たまたま見かけたからお助けしたまでです。でも、無事で良かった」
「お兄ちゃん凄くかっこよかった!」
陽子は三つ編みの髪をふりふりさせながらテンション高めに語気を強める。その小さな手は京介の手を掴んだままだ。
「この子がこんなに懐くなんて……」
陽子の様子に母親はずいぶんと驚いているようだ。普段は人見知りがあるのかもしれない。
「それにしても、この町は一体どうなってしまったのでしょう? 突然怪物みたいのが現れてしまって、携帯電話も発信できないし、どうしてよいのか……」
「その様子だと、やはりこんなのが色々と出没しているのですね」
「うん! 何かこわい妖怪さんみたいのがいっぱいい~~っぱいでてきたの!」
陽子が身振り手振りをまじえて説明してくれた。こういう時の子どもは表現力豊かである。
「あの、え~と……」
ふと、陽子の母が京介を見ながら言葉に詰まった。雰囲気的に名前を教えたほうがいいかもしれないと判断し。
「八神 京介といいます」
「京介さん、ですね。私は夏目 加奈子で今手を握っているのが娘の陽子です」
「よろしくね京介お兄ちゃん!」
「うん、よろしくね」
ウキウキした顔で陽子が挨拶してきた。その姿を微笑ましく思う京介であり。
「あの、ところで京介さんはこれからどちらへ? 私たち実はこれからどうしていいかわからなくて……」
加奈子からは明らかな不安が感じられた。一見するとおっとりとした和風美人といった面立ちの加奈子の顔に影がさす。
「俺はこれから通っている高校に向かうつもりです。今の状況ならもしかしたら学校が避難場所になっているかもしれない」
京介の通っている高校は校舎も頑丈で災害時の避難場所にも指定されていた。今の状況を考えれば多くの人が集まっている可能性も高い。
「それなら、私たちも同行してよろしいですか?」
「お願いお兄ちゃん! ママも不安みたいだし……」
「あぁ、そうだね。判った一緒にいこう」
特に迷うこと無く京介はこの母娘と行動をともにすることをきめた。別に困ってる人間を全員助けようと思うほど正義感にあふれているわけでもないが、目の前で困っている人がいれば手を差し伸べる程度のことはする。
「ところで、2人にもあの声は聞こえたのかな?」
「あ、はい」
「うん! 頭の中に流れてきたの!」
どうやら機械のアナウンスのような声は京介以外にも聞こえてきたようだ。雰囲気的に地球上のあらゆる生物に届いている可能性があるだろう。
「実はステータスというのも確認したのですが、何か怖くてそれ以上のことは何もしてないんです」
「陽子ちゃんも?」
「うん! ママが勝手に触っちゃいけませんっていうからいじってないよ」
妥当な判断だな、と京介は考える。こんな怪しいもの、何の検証もなく頼るわけにはいかないだろう。
「京介さんはステータスはどうされましたか?」
「うん? あぁ俺はすぐに破壊した」
「そうですか破壊ですか、え? 破壊!?」
「さて、それじゃあ急ぐとしようか」
驚く加奈子だったが、京介があまりに平然としているので――
(え~と、聞き間違いかしらね……)
そう判断し、そして娘とともに京介の学校へ向かうことにするが。
「ところで京介さん。実は私たち車で来ていて駅前の駐車場に止めていたのですが、途中で寄る時間はありますか?」
車か、と京介は一考。ただ学校へ行くだけなら自分の足で行ったほうが早いが、2人も一緒にいくなら乗り物はあったほうが便利だ。
「それなら、まずは駅前の駐車場に向かおう」
「は、はい! ありがとうございます!」
「お兄ちゃんと一緒~」
こうして3人は一先ず夏目親子が乗ってきたという車を取りに駅前に向かうのだった。
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