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第十六話 ステータスの一つや二つ、拳一つで壊れるものだ

前回のあらすじ

ろくでもない教師をぶっとばした

※誤字脱字報告や感想を頂きありがとうございます。


「ステータスを壊した、だと? そんな馬鹿な事があるものか!」

「そうは言ってもな。壊してしまった物は仕方ない」


 高橋は両目を見開き、京介の姿を上から下まで観察するように見た。彼の発言があまりに常識外れであった為、到底信じられないといった様子だ。


「書紀! ステータスはどうだ?」

「そ、それが……」


 高橋が書紀を振り返り回答を求める。彼女には相手のステータスを記し本に残しておけるスキルが備わっていた。


 だが、書紀はどこからともなく取り出した本を眺め、なんと答えていいのか、と迷っている様子。


「どうした? 答えてくれ書紀!」

「……わ、わかりました。その、できないんです。ステータスを書くことが、八神くんのステータスを書くことが全くできないんです」

「なんだ、と?」


 高橋の黒目が揺れた。馬鹿な、と二の句が続く。愕然とした様子で立ち尽くす。


 勿論、書紀のスキルも万能というわけじゃない。相手がLVの高い隠蔽スキルを持っていたら偽物のステータスを筆記してしまう可能性もあるし、鑑定した結果が上手く書ききれず?で埋まってしまうことだってある。


 しかし、たとえそうであったとしてもこれまで全く書けなかったことなどはない。どんな結果であれこのスキルを行使すれば筆は動くはずなのだ。


 だが、それが全く反応しなかった。こんなことは初めてであり、そしてそれこそが京介がステータスを破壊した証明とも言えた。


 そう、ステータスを破壊した以上、京介にはステータスそのものがない。京介の中からステータスという概念が消えたと言っても過言ではないのだ。


 その結果、いくら鑑定を試みてもステータスを記すことは出来ない。元々ないものは書きようがないからだ。


「ステータスを書き出すことが出来ない以上、私としては、信じがたいことですが……」

「……言いたいことは判った。ありがとう書紀」

「どうやら理解してもらえたようだな」


 2人のやり取りから京介はそう判断した。これで煩わしい誤解も溶けそうだと安堵する。


「ま、い? 舞! お前生きていたのか!」


 剣道着姿の少年が声を上げ、舞へと駆け寄っていく。一旦高橋からその男に視線を移す京介。

 確か剣道部の面堂だったなと思い出すが。


「……何の御用でしょう?」

「何のって、冷たいじゃないか舞。あ、もしかしてさっきのこと怒っているのか? その、あれは本当に済まないと思っているんだ。あんな状況で俺もどうかしてたんだ」

「は? お、おいお前何を言ってるんだ! そこの舞って子を見捨てたばかりか後ろから攻撃して竜の囮にした癖に!」


 気を失っている妻の看病を続けていた男が面堂に文句を言った。表情から察するに相当鬱憤が溜まっていたのだろう。


「う、うるさい黙れ! お前だって何も出来なかった癖に偉そうに抜かすな!」


 な!? と抗議した彼が絶句した。面堂は舞以外の人間に対しては何も悪いことはしてないと思っているようだ。


「やれやれ、さっきから聞いていれば、随分な醜態ぶりを披露しているな」

「お、お前、京介ェエエェエェ!?」

 

 同じ学校だけに京介も面堂のことを知らないわけではない。ただ、彼の剣道は京介の心を動かす程のものではなく、それゆえにただ生徒の一人として知っている程度である。


 ただ、それでも今の面堂が文字通り面倒な存在であることはひと目見て理解できた。


「八神……いいんです。貴方にまで面倒を掛けたくはない」

「面倒を掛けているのはこの男だと思うがな」

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」

「おい、いい加減にしろ面堂。お前ちょっとおかしいぞ?」


 面堂の様子に高橋は怪訝そうに眉を顰めた。彼はそもそも面堂が舞に何をしたのかを見ていない。


「うるせぇ! 生徒会長だからって調子に乗ってんじゃねぇ! この状況じゃそんなもの関係ないんだからな!」


 面堂は竹刀を振り回して周囲を威嚇した。竹刀とは言え、サムライのジョブの恩恵により強化され切れ味はちょっとした刀と大差ない。


「京介ェエエエェエ! お前が、元はと言えばお前が舞をたぶらかしたのが悪いんだ! そうでなければ俺は舞を見捨てたりしなかった!」

「お前の言っていることは俺には何も理解ができんな。大体さっきの話だと貴様は刀乃を身代わりにして逃げ出したのだろう?」

「うるせぇ! だからそれはお前が全てわりぃんだよ! お前がいなければ舞は俺の物だった!」

「お話にならんな。そもそも人を物扱いしている時点で程度が知れる」

「黙れ黙れ黙れーーーー! 調子に乗りやがって。お前のその根拠のない自信が前から気に食わなかった! 勝負しろ京介! そして俺がお前に勝利して、舞の目を覚まさせてやる!」


 血走った目で叫ぶ。面堂は完全に独りよがりな思考でもって京介に勝負を挑んできた。それを見ていた舞がひどく悲しい顔で彼に訴える。


「……やめてください先輩。それでも貴方は同じ部活の先輩だった。これ以上惨めな姿は見たくないです」

「違う、違うよ舞。本当に惨めなのはそこにいる京介って馬鹿だ! 大した実力もない癖に勘違いしやがって!」


 京介を指差し、怨嗟の篭った声で怒鳴り散らす。彼はもう止まりそうにない。


「俺が勘違い、か。まぁいいだろう。そこまで言うのなら相手してやろう」

「相手してくださいだろうが! 先輩に対する口の聞き方も知らんのか貴様は!」

「悪いが俺はお前のような男を先輩に持った覚えなどないものでな」


 京介が完全に見下すようにして言った。それが面堂の気持ちを更に逆なでる。


「だったら、お前の体に刻み込んでやる! 五体満足でいられると思うな!」


 そして面堂が京介に突っかかっていた。鋭い突きから始まり、面打ち胴、そして小手と絶え間なく攻め続ける。


「どうだ! 手も足も出ないだろう! 言っておくがこれをただの竹刀だと思ったら大間違いだぞ! 俺のジョブであるサムライには切れ味抜群というスキルもある! その効果で俺の竹刀は鉄でもぶった切れるのさ!」

「……それがスキルか」

「そのとおりだ! 更に剣術LVも3まであげたことで俺の剣の腕は剣豪と呼ばれた侍でも舌を巻くほどになってる!」


 語りながらも攻撃をやめない面堂。一方京介は全ての攻撃を既のところで躱していた。それは見ようによっては非常に危なっかしくも思えるかもしれない。


「お、おい。あれ、京介、ヤバいんじゃないか? かなりギリギリに見えるぞ」

「え? 京介さん大丈夫かしら?」

「――大丈夫。逆ですよ。あの避け方が腕の差を歴然と表しているのです」

「うにゃ~ん(あんなの赤子の手をひねるのより簡単そうにゃん)」


 妻の側に寄り添う彼や加奈子は不安そうだったが、舞とクロは全く違う見方をしていた。彼女は京介も認める剣士である。故に常人には見えないものが見えているのだろう。クロにしても猫又の転生体だ。まだ一緒にいた期間こそ短いが、京介の実力がとんでもないことはよく判っている。


「京介ぇ、いいことを教えてやる。今の俺のLVは15、この意味がわかるか?」

「15だと? あいつ俺と同じLVにまで成長していたのか……」


 高橋が怪訝そうに言った。彼の知っているステータスとは少々異なっているようだが。


「さぁな。お前の攻撃からは何も思うことがない」

「はは、それだけ腕に差があるってことさ! 剣道3倍段、聞いたことぐらいあるだろう? それだけ素手の相手よりも剣道の方が有利ってことだ。そしてつまるところ、お前が俺に勝つには最低でもLV45は必要ってことだ! だがこの短期間でそこまでLVが上がるとは思えん! どうだ絶望したか? 今更謝っても許す気はないけどな!」

「くだらん」

「……何?」


 面堂の斬撃を避けながら京介は軽く言い捨てた。


「随分と自信があるようだから相手してみたが、ステータスにLVなどと、底が浅いにも程が有る」

「は、言ってろ! 所詮は負け犬の遠吠え!」

「負け犬か。果たしてそれはどっちのことかな?」


 京介が面堂を小馬鹿にするように返した。面堂は明らかに気分を害している。


「そんなものお前に決まってるだろうが! 現にお前はさっきから防戦一方だ!」

「ふむ、そうか。ならそろそろ反撃の一つでもみせるとしよう」

「は、やれるもんならやって、ガハッ!」

 

 面堂が挑発したその瞬間だった。うめき声を上げ面堂の体が浮き上がり、数メートルほど飛んだ後、地面をゴロゴロと転がった。


「ペッペ! な、何だ! 何が起きた!」


 口に入った砂利を気持ち悪そうな顔で吐き出す面堂。彼には何をされたか全く理解できていないようであるが、顔を上げ京介の姿を見てその目が驚愕の色で染まった。


 なぜなら京介は親指で中指を弾いた状態のまま、彼を見下ろしていたからだ。それはつまり、今の反撃がデコピンによるものであったことの証明でもあった。

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