第十三話 魔物の襲来、間に合うか京介!
前回のあらすじ
学校にハイネックワイバーン(LV32)が出現した。
「畜生! 最悪だ!」
高橋が思わず気持ちを吐露する。絶望的な状況だった。書紀が判定した魔物のステータス。
LV30超えはまだ学校での戦闘しか経験のない高橋にとっては未知数だ。
そもそも高橋のLVは14であり、それでもこの中では1番LVが高い。この中にはまだLVが2桁にも届いていないのがいる。まして一人はジョブもなく全くステ振りをしていない。
「無理ゲーすぎるだろ……」
教室内は完全に恐慌状態だ。ハンニバルのスキルを行使し落ち着かせてもいいが、そのためにはまず自分が気持ちを落ち着かせる必要がある。
だが、無理な話だ。高橋にはこの状況をどう切り抜けていいのかが思いつかない。このLV差ではハンニバルで取得した支援スキルも意味をなさない。何より多くのスキルは陣形を取ることが必須である。
だからこそ先ずは全員に協力意識を持ってもらう必要があった。気持ちがバラバラでは陣形など組めたものじゃない。
(こうなったら仕方ない。先ずは自分たちを優先にして――)
「か、会長……」
高橋は必要な人間だけで逃げようとそう考えた。だが、その中で1番重要な書紀がワイバーンに目をつけられてしまった。
最悪だ! そう高橋は考える。彼の有するハンニバルは指揮官系のジョブであり、パートナーとして必須なのは相手の能力などを看破できうるスキルの持ち主。
故に本を出し見た相手の能力を書き留めるライブリアンのジョブを得た藤宮 書紀をここで失うわけにはいかないのである。
(だが、どうする!)
高橋には相手を直接攻撃できるようなスキルがない。かといってがむしゃらに突っ込んでも死ぬだけだ。
どうしようと、頭を悩ます高橋だが――目の前でハイネックワイバーンの顎門が開かれ、涎が教室の床にぼたぼたとこぼれ落ちた。
書紀は恐怖のあまり言葉を失い、ガタガタと歯を鳴らし更に床を濡らしていた。
既にワイバーンの開かれた顎門は書紀の頭に覆いかぶさっていた。
「やぁあああああ!」
だがその時、舞の面打ちがワイバーンの顔に直撃。その行為でワイバーンの首が下がり、書紀の頭が解放された。
「会長! 早く彼女を!」
「え? あ、あぁ! 藤宮さん早くこっちへ!」
高橋が手を伸ばし、藤宮の腕を掴んで引っ張った。そして舞へと声を上げる。
「刀乃、君はどうするんだ!」
「私がここで時間を稼ぎます。皆さんは早く逃げてください!」
「え? いや、でも――」
「早く! 行って! 早く!」
高橋とのやりとりの間も、舞とワイバーンの攻防は続いていた。舞の面を受けたワイバーンは、完全にその矛先を彼女に向けてしまったのである。
このハイネックワイバーンはどうやら首を引っ込めたり伸ばしたりを自由自在に行えるようで、首の動きだけで柔軟に攻撃を加えてくる。
その上ワイバーンは教室にも胴体を入り込ませてきており、もう間もなく全身が収まりそうなのである。
「す、すまない刀乃!」
結局高橋は舞に言われたとおり、書紀を連れて教室を出た。ちなみに千堂は教師でありながら真っ先に逃げ出していた。問題は、あと3人教室に残っていることであり。
「お二人はどうされましたか?」
「つ、妻が腰を抜かしてしまって」
「うぁあああん、もう嫌だ! 死ぬの! 私たち皆ここで死ぬのよ!」
どうやら妻とやらは腰を抜かしただけではなく錯乱状態にも陥っているようだ。男はなんとか連れて逃げたいようだがパニックを引き起こしている人間を連れて逃げるのはかなり大変である。
そしてもう一人、何故か残っている面堂。
「先輩! 何してるんですか!」
「それはこっちの台詞だ! なんで舞がこんな無茶をする必要がある! そんなことより一緒に逃げよう!」
「駄目です。こいつを今食い止められるのは私だけです。先輩は元気ならそこの2人に手を貸してやってください!」
「馬鹿言うな! あんな2人より俺には君のほうが大事なんだよ! そうだ、あの2人を囮にして逃げよう! 可愛そうだけど動けないならせめて餌になってもらってその間に逃げるんだ!」
「な、なんてことを……」
「うるさい! 自分の奥さんも管理できないお前が悪いんだろ!」
「いい加減にしてください! 先輩も馬鹿なこといってないで、その2人に手を貸して!」
遂にハイネックワイバーンの胴体の3分の2が入り込んだ。ここまでくると教室内の行動範囲も限られてくる。
舞はそれでも器用にワイバーンの噛みつき攻撃を避け、カウンターで竹刀をあてていく。だが、このレベルの相手となると流石に竹刀では無理がある。ダメージも通らない。
真剣があれば決して負けないが、流石に校内で真剣を手に入れるのは不可能であり、出来ることと言えばなんとかワイバーンの注意をひきつけ、3人の逃げる時間をかせぐ程度だ。
「舞……よ、よしわかった! 君がそこまでして残るというなら俺も残る!」
「そんなのはありがた迷惑です。正直言えば邪魔です!」
「え? え? いや、俺いま結構男を見せたかなと思ってるんだけど?」
「そんなことはただの独りよがりです。私のことを本気で心配してくれると言うなら、先輩は早くその2人を連れてここから逃げてください! 私だって余裕があるわけじゃないんです!」
舞が断言し、早く3人で逃げるよう促す。冷たいようだが、正直相手を気遣う台詞を選んでいるような状況ではない。
命が掛かっているのだ。本人がいくら助けになりたいといったところで面堂の実力ではこのワイバーンには全く歯が立たない。
むしろ下手に前に出てこられてても守らないといけない人間が増えるだけだ。
「さぁ、もういいでしょう? 早く!」
「好きなんだよぉおおおお!」
「……」
面堂が叫んだ。それは明らかな告白だが、はっきりいってタイミングが悪すぎた。
「舞、俺はお前が好きなんだ! それぐらい気づけよ! だからお前をここで失いたくないんだ!」
「……先輩、今その話は」
「聞かせろよ! 俺はお前に勇気を出して告白したんだから、お前がどう思ってるか聞かせろよ!」
正直勇気を出すべきタイミングも方法も状況も全てがずれているとしかいいようがない。なにより舞は目下ワイバーンと交戦中である。
当然だが面堂が勇気を出して告白を行ったからといって、ワイバーンが動きを止めるわけがないのである。彼が返事を待っている今も、舞はワイバーンの噛みつきや尻尾を避け、その度に天井が崩れ床が割れ壁が裂かれていっているのである。
だが、彼の様子を見るに答えを聞かないと納得してくれそうもない。
「……もうしわけありませんが先輩の気持ちにはお答えできません」
「……え? それって俺を振るってこと?」
「そう取っていただいて構いません」
「な、なんでだよ! 俺たち上手くやってただろ! それなのになんでだよ! 理由を言えよ! あ、さてはお前! さっき話してた京介のことが好きなのか? だったらやめろよ! あんな何考えているかわかんないようなやつ!」
「いい加減にしてください! 私は心から尊敬出来るような人でないとそういう気持ちにはなれないのです!」
戦闘中にも関わらずあまりにしつこく、更に京介にまで飛び火したことで流石の舞も語気が強まった。厳しい口調で拒否の意志を示すと、肩を落として面堂がぶつぶつと呟き始めます。
「とにかく、私のことは諦めてください。それよりそこのおふたりを早く!」
「……判ったよ。そんなに助けたければ、お前が囮になればいいだろう! 三段切り!」
面堂を促す舞だが、何を思ったのか面堂が舞に向かってスキルを行使。背後からの三連撃を振り向き様に受け止めていく。
「先輩何を!」
「うるさい! お前なんて魔物に食われてしまえ!」
面堂は何を思ったのか舞にむけて三段切りを繰り出し、かと思えば踵を返して一目散に逃げてしまった。しかもあの2人は結局助けずにだ。
「グウウアアアアァアアア!」
「しまった!」
そして気がつく。先輩の攻撃に一瞬でも気を取られてしまい、ハイネックワイバーンへ対応しきれないことを。舞の竹刀がその牙の犠牲になった。根本から食いちぎられては、もうこれで戦うのは不可能である。
「グルルルルゥ」
首が上がり、舞を見下ろしてくる。その目は俺の勝ちだ、と宣言してるようでもあった。
事実、竹刀をなくした舞には対抗できる手段がない。
こんなところで終わるのか、と唇を噛みしめる舞であり、遂にハイネックワイバーンの頭が動き、その顎が上下に大きく開いたわけだが――
「八神流捌合拳・閃空烈脚!」
「――ッ!?」
なんと外から飛び出してきた男、八神 京介の飛び蹴りがハイネックワイバーンの頭蓋を捉え、そしてワイバーンの巨大な頭が完全に砕けたのであった――
京介参上!