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第十二話 ステータスを振りたいなら好きにするといい。だが強制はよくないな

前回のあらすじ

夏目親子の飼い猫を救ったあと車で学校へ向かった。


 校舎の教室に生き延びた50人が集まっていた。生徒会長の高橋が纏め役となり全員のステータスを聞いていった高橋だが剣道部所属だった刀乃がステータスに手を付けていないという話を聞き驚愕。


 相手のステータスを書き留める事が可能なスキルを持つ書紀にも調べさせ確認をとった高橋はしばし沈黙し考えた。


 ステ振りをせずオークを倒した、そんなことが可能だろうか? と。


 剣道部は男子より女子のほうが強い。これは学校内でも周知の事実だったが、その功績は今答えた刀乃によるところが大きい。個人戦では相手を圧倒し続け大会では一度も負けること無く全国優勝を果たし、団体戦においてもチームを引っ張り顧問以上に適切な指導で欠点を克服させた上で長所を伸ばし全国準優勝にまで導いた。


 団体戦では優勝こそ出来なかったがやはり刀乃自身は一度も負けることが無かった。


 無敗の女剣士とまで称され雑誌やテレビの取材も受け校内でもファンの多い女子であった。


 だが、たとえそれだけの腕を持っていたとしてもオークを倒すなどありえない。それが高橋の考えだ。

 

 ゴブリンならばもしかしたらという可能性もある。ゴブリンのLVは3~5程度でジョブを取っていれば単体なら戦闘経験のない生徒でも対応できなくもない。


 だが、そのゴブリンとて例えば警官が撃った銃弾の2,3発を耐え抜く程度には頑丈だ。


 ましてやオークのLVは10~14。たとえ低めのLV10であってもゴブリンとは比べ物にならない程強い。その強固な肉体は散弾もライフルの弾も軽く弾き返す。


 それを相手に、しかも竹刀などで一介の女子が太刀打ち出来るわけがない。


 つまり、と高橋は改めて刀乃を見やり。


「さては、お前が倒したのは既に弱っていたオークだな? しかもほぼ瀕死状態の死にかけのオークと見た」

 

 そう、判断した。眼鏡を直しながら、刀乃の反応を待つ。


「そ、そういえば俺が相手してたオークが逃げ出してたかも。それが舞の方へ逃げたのかもしれない」


 舞はこれといった答えを返さなかったが、代わりに中腰になり口にしたのは男子剣道部員で部長でもある面堂先輩だった。

 だが、そんなことはありえないことを舞が1番よく知っている。少なくともあのオークは全く傷ついている様子がなかった。


 それにいくらジョブを得てスキルが使えるようになったといっても、今の面堂がオークを追い詰められほど強そうには感じられなかった。


「やっぱりな。そうだと思った。そうでなきゃおかしい」

「は、そんなこったと思ったぜ。結局弱った魔物を横取りしただけってことだ。経験値を得るためにだろうがせこいこった」

「え? でも刀乃さん、ステ振りしてないのよね?」


 呆れたように千堂が言うが、他の生徒が気づいたように刀乃はジョブも取っていなければステ振りもしていない。経験値を稼ぐために瀕死の魔物を狙ったというのは無理があるだろう。


「……あのオークが弱っていたようには見えませんでしたが……」

「まだそんなことを言うのかな君は? まぁいい。別に瀕死の魔物を倒すことが悪いわけでもない。ただ、それでステータスに頼らなくても大丈夫だなどと勘違いされても迷惑なだけだ。何度もいうが我々は協力しあわなければいけない。それはつまりそれぞれがそれぞれの背中に命を預けるということでもある」

「ふん、いけすかねぇガキだがまぁ間違っちゃいねぇな」

「とにかくだ、これから一緒に戦おうというのに武器も持ってないようでは話にならない。それに弱っているとは言えオークにトドメを刺せるだけの腕があるならもしかするといいジョブを選べるかもしれないしステ振り後は戦力として期待できる。さぁ、判ったらさっさとジョブを選びステ振りたまえ」

「嫌です」

「……は?」

「嫌ですと言ったのです。別に皆がジョブを選ぶこともステータスに頼ることも否定しませんが、私はステータスに頼る気はありません」

「……君は――」

「テメぇいい加減にしろよゴラぁ!」


 高橋が呆れ顔で何かを言いかけるが、それより早く千堂が立ち上がり机を派手に蹴っ飛ばした。


 生徒や避難してきた夫婦から悲鳴が漏れる。


「おい刀乃! 勘違いしてんじゃねぇぞ。ちょっと剣道がつよくてもな! ただの人間じゃ化物どころか熊にも勝てねぇんだよ! 判ったらとっととステ振りしろ! 教師命令だ!」

「いやです。それと私はたとえ素手でも熊にも今跋扈している魔物にだって勝ちうる人を知ってます」

「あん? なんだそりゃ? まさかあれか? 映画の中のスーパーヒーローか? ふざけんな! そんなもんはこの世にいやしねぇんだよ!」

「違います。そんな空想上の存在ではなく、先生もよく知る人です」

「あん? 誰だそりゃ?」


 千堂が片目だけ見開き問う。


「……八神 京介くんです。彼ならきっとステータスなんかに頼らなくても魔物をねじ伏せてくれるでしょう」

 

 凛とした態度で答える舞。それに一瞬教室がしーんとなるが。


「は、ははははははは! これはとんだお笑い草だ! お前のいうすごいやつが、あのいけすかねぇ野郎とはな! 全く恐れ入った。何かと思えば、あんな奴、ゴブリンだって倒せるかよ! 大体それ以前にこの場にいやしねぇだろうが! つまり、とっくにどっかでのたれ死んでるってことだ! いや魔物の腹の中か!」


 怒涛の勢いで千堂が喋る。その表情には彼を蔑むと同時に気に入らないという感情がまぜこぜになっていた。


「ふぅ、よりによって彼とは。確かに噂によると腕は立つそうだが、それもあくまでそこいらの不良レベルで考えたらだ。ステータスにも頼らず素手で魔物に立ち向かえるなどと馬鹿らしいにも程がある。大体、千堂教師の言う通り今この場にいない者のことを話しても仕方がない」

「……そうですね。ですが、私は彼の腕を信じています」


 何を言われても折れない舞の姿を面堂が不安そうな目つきで眺めていた。


「とにかく、ジョブはすぐにでもとってほしい」

「何度もいいますがそれはお断りします。それがどうしても気に入らないと言うなら、私がここから出ていきます」

「な!? 君はどうしてそこまで……」

「あ~あ、だめだこりゃ。本当話にならんな。おい高橋、お前は生徒会長だなんだといっても所詮はガキだな。なってねぇ」


 そう言って千堂が立ち上がり。


「おい、何人か手伝え。この女剥いてやっちまうぞ」

「え? ちょ、あんた何言ってるんだ!」


 千堂の突然の変貌に高橋が叫んだ。だが、千堂は特に気にする様子もなく。


「お前はそこでみてればいいさ。こういう小生意気な女は口で言ってもわかんねぇんだよ。だったら体でおしえてやんねぇとな」

「ふざけるな! あんた仮にも教師だろ! 自分が何をやろうとしているのか判っているのか!」

「判ってるよ。だけどさっきも言ったよな? もう生徒だ教師だ言ってられる状況じゃねぇんだよ。法もクソもねぇ。生き残るか死ぬかのサバイバルなんだよ! そんなときにこんなクソ生意気な馬鹿女連れてあるけねぇだろうが。だったら! しつけるしかねぇよな? お前らもそう思うだろ?」


 千堂が生き残った者、とくに男に対して訴えた。全員戸惑いが感じられたが。


「ほら見ろ! 確かに状況は最悪だが、こんな状態でもあんたの言うような蛮行に賛同するやつなんて」

「お、俺もいいのか?」

「だったら俺も……」

「へへ、俺も溜まってたし、それに言うこと聞かないんじゃしかたないよなぁ」

「な!?」

「端的に言って、最低ですね……」


 誰もいないかと思えば、生き残った中の数人の男が立ち上がり、千堂の行為に理解を示した。

 既に股にテントを張ってるような連中も見受けられる。


「そういうことだ。へへ、これで満場一致でこの女を教育する法案が可決されたってわけだ」

 

 千堂に賛同するものはいたが、それはごく一部の話であり、全く満場一致ではないが、この男にとっては細かいことはどうでもいいのだろう。


「ふ、ふざけるな!」


 だが、その中でひとり異を唱えるもの。面堂だ。彼が叫び舞の正面に躍り出た。


「テメぇらの血は何色だぁ! 一人の女子によってたかって恥ずかしくないのか!」

「あの、面堂先輩」

「安心しろ舞、俺が絶対お前を守る!」

「いえ先輩。それは厳しいと思うのでどいていてもらえますか?」

「……は?」

「私のことなら大丈夫です。本当に襲ってくる気ならこの程度なら返り討ちにできますので」

「は、はぁ? お前、この状況でまだそれいうか?」


 舞の自信に面を食らったような顔を見せる面堂と、呆れてものも言えないといった様子の千堂たちである。


「本当クソ生意気な女だ!」

「ジョブも取ってない分際で抵抗できると思ってるのかよ!」

「思ってます。あなた達のような男には負けません」

「上等だ! おい千堂さんよ、さっさと剥いてやっちまおうぜ!」

「ちょ、お前らいい加減にしろ! 俺を無視する

――な!?」


 その時、突如窓側の壁が砕け、窓ガラスが割れた。壁に大穴が空き。黙々と煙が立ち込め――


『グウウウォオオオオン!』

 

 壁を突き破って教室内に飛び込んできた巨大な頭が、全員の耳をつんざくような咆哮を上げた。舞以外の生存者が耳を塞ぎ、中には立っていられることも出来ず床に座り込んだり椅子から転げ落ちる者もいる。


 そんな最中、突如乱入した蜥蜴にも似た頭の持ち主が首を動かし、舞を襲うのに賛同した男たちに顔が向けられた。


「え? あ――」


 一瞬のことだった。首が伸びたかと思えば千堂以外の男はあっさりと食べられ食べかすの脚や肉片が床に転がった。


「ひ、ひいぃいぃいいいい!」

「と、蜥蜴の化物!」

「馬鹿! ドラゴンっていうんだよこれ!」

「と、とにかく逃げろぉおおぉお!」

 

 一瞬にしてパニックに陥る。千堂の体も震えていた。


「何だよこれ、おいこら生徒会長! ここは陣地指定して安全なんじゃなかったのかよ!」

「わ、私の陣地スキルは効果範囲が決まっているんだ! 外から飛んでやってくるようなのは想定されてない!」

「くっ、使えねぇ!」

「書紀! 詳細はわかったか!」

「……は、はい。名前はハイネックワイバーン。LVは……32です――」

学校がピンチに!



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