プロローグ
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「約束通り一人でやってくるとはいい度胸じゃねぇか!」
「俺は売られた喧嘩は買う主義だからな」
今どき珍しいぐらいの白い特攻服姿の男が、一人の少年に向け睨みを効かせていた。
一方少年はただの学生服といった出で立ちであり、男や彼を取り囲むいかつい連中をどこか冷めた目で見ている。
「フン! お前のそういう余裕ぶったところがきらいなんだよ! おいテメェら! 準備はいいか!」
「「「「「「「「おお!」」」」」」
特攻服を来た男が声を上げると、周りの連中も倣うように鬨の声を上げた。全員、男のような特攻服であったり、作業員風であったり、上半身裸で筋肉をみせつけていたりする。
顔の下半分を防塵マスクのようなもので覆っているものもいれば、モヒカンであったり紫色の髪であったりその様相は多種多様だ。
そしてその手には思い思いの武器が握られている。それはあるものは鉄パイプであったり、あるものは金属バットであったり、あるものは木刀や釘バットであったり、中にはナイフ、日本刀、匕首、丸太、更に火炎瓶や硫酸入りの瓶、リベレーター(3Dプリント銃)などを持参しているものもいた。
「はっは、どうだビビったか? 俺の号令で今日ここに100人以上が集まった。それもこれも全てテメェをぶっ殺したいという理由でな!」
「そうか。だったらとっととやってみたらどうだ? 御託ばかり並べていてもいい加減野良犬がキャンキャン吠えてるみたいでかっこ悪いぞ?」
「テメェ、余裕ぶってられるのもいまのうちだけだ! ここは視界の広い廃工場だ! 隠れる障害物もねぇ! つまりテメェを全員で囲んで余裕でボコれるってことだ! いくぞテメェら!」
「「「「「「「「おお!」」」」」」
全員が一斉に動き出した。宣言通り、彼を一方的にボコボコにしてやろうと考えているようだ。
しかし、少年はやれやれ、と面倒臭そうにため息を吐いた。とはいえ、確かに普通に考えたら状況は芳しくない。
特攻服の男が言うようにここは曠然とした廃工場。これといった遮蔽物も無ければ逃げ道も用意されていない。
だが――少年にはそんなこと関係がなかった。
「ふん! ふん! ふん! ふん! ふん!」
「ぎゃふん!」
「ばふん!」
「ぐふぉ!」
「おべっし!」
少年が拳を放つと、圧倒的に有利なはずの男たちが次々と明後日の方向へ飛んでいった。まるで紙ペラのようであり、遠目から見ている分には中々に壮観であろう。
だが、この中のリーダーである特攻服の男には信じがたい光景であったに違いない。
「ば、ばかな! こっちのほうが数が多くて武器だって持っている! しかも取り囲んで全方位から一斉に攻撃してるんだぞ!」
「ふん、馬鹿が。例え全員で取り囲もうが、一斉にこようが、一度に掛かってこれる人数は最大でも4人。こんなこと今どき小学生でもわかる」
少年は語る、戦いにおける絶対勝利の法則を。勿論こんなことは実現がもし可能であればの机上の空論でしかない。
だが、少年は見事にそれをやってのけた。有言実行、初志貫徹、八面六臂――様々な言葉が彼の姿に重なるが、それでいてどれもしっくりこなかった。
なぜなら彼は最強すぎた。彼の名前は八神 京介。この日本に生を受け、3歳にして武道の申し子とまで称されし八神流捌合拳の正統後継者。
そして知る人ぞ知る地上最強のただの高校生――それが彼なのである。
「ち、畜生……テメェ、絶対次あったら殺――す……」
「そうか。だったら次はもう少し手応えのある奴らをつれてくるんだな」
頭はそのまま気を失って倒れ、それを認めた京介はその言葉だけを残して廃工場を去った。彼が去った後には、徹底的に打ちのめされた100人のむさくるしい男が転がっていた。
「……なんだ、結局3分も持たなかったかのか」
廃工場からでて河原沿いの道を歩きながらつまらなさそうに京介は呟いた。もっとも実際は3分どころか30秒も過ぎていない。
「全く余計な時間を食った。完全に遅刻だな」
京介は現在高校生であり、当然平日は高校に通う必要がある。ただ売られた喧嘩は買うのが信条なので、時折朝から迷惑な連中に付き合って遅刻してしまうことがあった。
急ぐか、と京介は脚を早める。本気を出せば1分もかからないが、普段は常識の範囲内での行動を心がけているため、急ぎ足で20分程かかることだろう。
「む?」
その時だった、京介は肌にビリビリするものを感じとる。何かが来る。そう判断した。
――ズウウウウゥウウゥウゥウゥウウウン!
直後だった、大気に強烈な重圧が加わり、地の底から響き渡るような共振音が鳴り響く。
刹那――地面が撥ねた。この日本が龍の上に存在するとしたなら、突如目覚め発狂して暴れまわっているような、それほどまでの揺れ、地震だ。
大きな地震が日本を、いや、違う、同時刻の全く同じタイミングで世界中を巨大地震が襲ったのである。
「……止んだか――」
揺れが収まるまでに掛かった時間は10秒程度であった。そこまで長くはないがかなり大きかったので被害は相当でたと思われた。
京介は念の為スマホを取り出し、情報を見ようと試みる。尤も、地震直後ではまともに見れない可能性もある。
「むぅ、電波が届いてないのか?」
しかし、電波状況を知らせるアンテナのアイコンにはバッテンがついてしまっていた。どうやら地震の影響で基地局に障害が発生したようだな、と京介は判断する。
サイレンの音があたりから聞こえてきた。これだけ揺れたのだから当然なのかもしれない。
そう考えた京介であったが――
――地球との融合開始。
――世界のシンクロ開始。
――地球上の全生命体にステータス権限解放。
――ステータスと唱えることで確認できます。
――ジョブ選択権が与えられました。
――ジョブを選択することで新たな技能や魔法が解放されます。
――ステータス画面を開きジョブを選んでください。
ふと直接京介の頭の中に、機械的なメッセージが入り込んだ。
「なんだこれは?」
京介は顎に手をやり一考した。周囲の気配を探ってみるが、今の所変わったものは感じられない。
「……よくはわからんが、【ステータス】がどうだと言っていたな」
それは何気ない一言であったが、どうやら京介が口にした台詞が引き金になったようであり、目の前に半透明のステータス画面が展開された。
――ジョブが未習得です。
――どれか選択してください。
――ジョブを取得することでスキルや魔法が開放されます。
また脳内に機械的なアナウンスが流れてきた。京介は不快そうに眉を顰めつつ、自分のステータスをまじまじと眺めた。
「なるほどジョブという項目が空欄だな。ここから何かを選べというのか」
――ジョブを選択してください。
「ふむ、なるほど。判った。ならば早速ジョブを――と、こんなものいるかぁああぁあぁあああああぁあ!」
まるで納得したような顔でうなずいた京介であったが、直後、彼は目の前に展開されたステータス画面にむけて拳を突き出した。それは見事なまでの正拳突きであり。
――パリィイイイィイイィイィイン!
なんとステータス画面が粉々に砕け散ったのである。
「ふん、俺は人に何かを強要されるのが1番嫌いなんだ」
パンパンっと手のホコリを落とすようにし、満足気に京介は語った。
「大体こんないかにも怪しいものに引っかかる馬鹿がいるものか馬鹿め」
確かにあまりに唐突なことであり、怪しいことは確かであった。
京介からすればステータスもオレオレ詐欺も似たようなものであり、訝しむべき案件だったのである。
「……よくわからんが、とりあえず学校へ行くか」
スマホを確認したが、やはり電波は届いていなかった。何かが起きているのは肌で感じていたが、とりあえずどんな形であれ学校へ行っておくほうが無難かもしれないと判断したのである。
その時だった、離れた場所から大きな爆発音が届く。川を挟んだ向こう側からなようだ。ちょうど駅前にあたるところかと思われる。
すると黒煙がモクモクと上がり始めた。爆発音は断続的に続き、車同士の激しくぶつかりあう音も聞こえた。
何か異様なことが起きているのは確かなようだった。何より――
(妙な気配が増したな……)
それは、京介の近くにも発生していた。明らかな敵意がうずまき、そして河原の地面が次々と盛り上がっていき、地面から奇妙な化物が姿を見せた――
圧倒的ステータスの破壊!
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