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ヒーローなんていない  作者: サク
没落殿下と毒の花
40/73

折れるセシリオ

大変ご無沙汰していてすみません。

なんとか完結までもっていきたくて、やっと更新しました。

時間はかかるかもしれませんが、少しずつ投稿していけたらなと思っています。

もしもここまで読んでくださっている方がまだいらっしゃるのならば、とっても嬉しく思います。

ありがとうございます!

 

「ヴィヴィ、君はまたなんてことを……」


 部屋を出た途端に非難しようとしてきたセシリオの唇を、咄嗟に指で抑える。その眉間にはまだ皺が寄っている。


「……。ラディアーチェ家の令嬢が首を突っ込むような問題じゃない。君はこっちで大人しくしておくべきだ」

「もちろん、首を突っ込むつもりはないわよ。でもだからといっておいてきぼりはごめんだわ」


 指を離すと幾分かトーンダウンした口調に戻ってくれたが、それでもセシリオはまだ憤慨しているみたいだった。


「監査官でもない君がなぜそんな危ない真似をしないといけない」

「そうね。それは確かにそうよ。ただ私は、いつも忙しいあなたとゆっくり旅行に行きたいだけ!」


 セシリオが驚いたようにちょっと目を見開いた。


「だって王太子殿下のポケットマネーでセシリオと二人っきりでラヴィラに旅行に行けるのよ? なんて魅力的なお誘いなんでしょう!」

「ヴィヴィ、あのな……」


 セシリオが呆れたように半眼になる。


「それに殿下からのお願いとあれば、誰にも気兼ねなく行ける。おまけにセシリオが不在の間の領地立て直しについて、殿下に遠慮なくご助力願い出ることができるのよ? せっかくだからこれを期にとびっきり優秀な執務補佐官を派遣してもらいましょうよ!」

「君ってそういうところはやたらと頭の回転が早いよな……」


 セシリオは深いため息をつくと、茶化すような雰囲気をしまい込んで、真剣な顔をした。


「それでも君を連れて行くのはやはり反対だ。ヴィヴィにはもう二度と危険な目に遭ってほしくない」

「セシリオ……」

「それに、君とアーダルベルト殿下の関係はもう終わった」

「そうね」

「彼はもう殿下ではないし、君はその婚約者でもない。ヴィヴィエッタ・ラディアーチェはもう()()()()()()()()()婚約者だ。なぜまた彼に関わらないといけない」


 セシリオの言う通りだと私も思う。

 ラヴィラ男爵の目を逸らすためとか、私は擬似餌か。


「でも、ここ最近あなたはずっと忙しくて中々会えなかったし、正直に言うと私、寂しかったの」


 寂しかったの。

 その言葉を口にした途端、セシリオが目に見えて怯んだのがわかった。


「これってせっかく二人でゆっくり過ごせるチャンスなのに」

「それは、そうだが……」

「あなたと二人で見るローザネラの山嶺は、それはまあ雄大なのでしょうね。そしてそんな厳しくも美しい自然の中、澄んだ湖畔で過ごすピクニックデート!」


 想像するだけで、ワクワクが止まらない。


「正直、ソーニャの花なんてどうでもいい。あなたが無事で、心穏やかに過ごせるのならなんだって。今回は王太子殿下が難しいことはなんとかしてくれるって言っているんだし、そもそもこれは王家の問題なんだから首を突っ込むつもりもない。私はただセシリオと旅行に行きたいだけよ」

「それなら俺だって」


 セシリオはようやく迷うような表情をその顔に浮かべた。


「だけどもう二度とこの件には関わりたくないし、ソーニャの花なんて代物、視界にも入れたくない。ましてや君を傷つけた奴に自ら会いに行くなんて、考えただけでもゾッとする」

「ラヴィラ男爵に会いに行くのは私もゾッとするけどね!」


 二人顔を見合わせて、それからどちらからともなくプッと吹き出した。


「……今度はどうか無茶しないでくれ」

「もちろん、しないわ」

「約束してくれるか?」

「ええ、約束する」

「絶対に?」

「湖畔にシートを引いて寝そべったりは無茶に入る?」

「行儀は悪いが、問題ない」


 セシリオの表情がようやく和らいでくる。


「ヴィヴィはなにもしなくていい。お願いだからくれぐれも大人しくしていてくれ」

「うんうん、わかった。なにもしないわ」

「本当だな?」

「私のことはセシリオが一番よく知ってるでしょ? そんなにお節介でお人好しに見える?」


 セシリオが小さく笑った。


「もちろん見えるよ。なんてったって君は俺を掬い上げてくれたんだから」


 天然でこういうことを平然と言うからたちが悪い。

 不意打ちに熱を持った頬を悟られまいと顔を背けた。








 ラヴィラ領へは流石に今すぐというわけにもいかず、ある程度領地再建の引き継ぎを済ませてからの出立となった。

 王太子殿下にもしっかりとお膳立てをしてもらっての旅なので、先方の了解も得ているし完全に旅行気分だ。

 前回のように、特になにかを成さなければ進退窮まるというわけでもないので、今までと比べて随分と気楽だった。

 セシリオと久しぶりに他愛もない会話を交わしながら、行く先々でゆっくりと休憩をとりつつ馬車を進めていく。

 つけてくれるといった王太子殿下の騎士たちは別行動で、基本は隠密で行動するということだった。


「ヴィヴィ、見てくれ」


 今日泊まる予定の町で馬車が停まると、先に降りたセシリオが珍しくはしゃいだ声を上げた。


「なにか祭りをやっているみたいだ。せっかくの機会だ、少しだけ様子を見に行ってみないか」


 楽しそうに瞳を輝かせたセシリオに手を引っ張られる。

 たまたま私たちが到着した日が祭りの日だったのか、町の中は鮮やかな飾りで飾り立てられていて、広場のほうからは陽気な音楽が流れていた。


「セシリオ、露店もあるみたい」


 町の広場へと着くと様々な工芸品や食べ物を扱う店が並んでいる。そのうちの一つに目を奪われた。


「ねぇ、セシリオ。こっちに来て」


 それはアクセサリーを売っている露店だった。様々な色の天然石で飾り立てられたアクセサリーたちが、所狭しと並べられている。

 普段もっと高価な貴金属類をこれでもかと見慣れているはずなのに、祭りの雰囲気に当てられたからだろうか、それとも隣にセシリオがいるからだろうか。

 それらはとんでもない宝物のように、キラキラと輝いて見えた。

 そしてそうやってたくさん並べられているアクセサリーの中でもある一点に目を惹かれて、私は自然と手を伸ばしていた。

 それは蔦が絡む様を指輪に模した、小さな可愛らしい指輪だった。ところどころに小さな花が咲き、その花の真ん中には淡い白がかった青紫の石が嵌め込まれている。そしてその指輪にはもう一つ、まるで左右対称になるようにデザインされた大きめのペアの指輪があった。

 まるで二つの指輪をくっつけるとハート型になるようなロマンチックなそれに、思わずうっとりと見惚れる。

 そんな私をセシリオは微笑ましげに眺めていたが、不意に露店の店主へと声をかけた。


「すまない、こちらをいただけるか」


 露店の店主はセシリオをじっと眺めたあと、無言で値札を指し示す。

 私がなにを言う間もなく、セシリオは言われるがままに硬貨を差し出し、あっと言う間にそれらを買ってしまった。


「セシリオ」

「高価な装飾には負けるかもしれないが、せっかくなんだ。愛しい君に贈らせてくれ」


 旅の思い出を象徴するだろう、二人だけのお揃いの指輪。

 セシリオは私の前にしゃがむと、さっそく指輪を嵌めてくれた。そっと持ち上げられた手に、まるで大切なものを慈しむかのようにそろりそろりと嵌められていく。

 まるで夢のようなひとときだった。


「君がつけてくれないか」


 見上げてきたセシリオから熱っぽくそう囁かれて、ぼうっとした頭のままにコクリと頷く。

 彼から受け取った指輪は私のものより一回り大きくて、それを躊躇いもなく左手の薬指に押し込むと、セシリオは嬉しそうに破顔した。

 お互いの手を寄せて、指輪を近づけてみる。まるで寄り添う恋人たちの象徴みたいな、ハート型。

 ぽわぽわ漂う幸福感にただただセシリオと見つめ合っていると、唐突に引き裂かれるように後ろから声をかけられた。


「失礼、お嬢さん、忘れものですよ」


 ……忘れもの?

 謎の声に一気に現実へと引き戻される。眉を顰めて振り向いた先。後ろにいた人物に思わず目を眇めた。









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