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ヒーローなんていない  作者: サク
田舎貴族と本当の私
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選びようのない三択

 

 エヴァルド・ダリアの件で一つ嬉しい誤算だったのは、ダリア公爵家自体がこの婚約の話にあまり乗り気でないことだった。

 格下の、跡取りでもない、ましてや殿下のお下がりである私をわざわざ娶らなくてもいいのではというスタンスなのか、躍起になっているのはエヴァルドだけのようである。喜んでいいのか悪いのかといったところだが、取り敢えずダリア家からの圧力はかかっていないようでほっとする。

 社交シーズンも始まって、王都には段々と領地から貴族たちが集まり始めている。

 いつもはシーズンの終盤にちらりとしか顔を出さない兄が、父の命令で渋々王都の屋敷へとやってきた。


「お兄様、お久しぶりです」

「ああ、ヴィヴィエッタ」


 ホールへと入ってきたのはスラリとした背の高い美青年、アルフォンソ・ラディアーチェ。王宮執務で忙しい父に代わり、領地経営のほとんどを担っている次期ラディアーチェ侯爵で、私の兄だ。

 ラディアーチェ一族特有の漆黒の髪に、暁の空のような複雑な色味を持つ紫の瞳は妖艶で、その姿は我が兄ながら目の毒になるようだといつも思ってしまう。

 ――ついでにその立ち位置からしていかにも攻略対象っぽいのだが、彼にはすでに妻もいて、領地には産まれたばかりの幼子もいる。

 これでニコレッティ嬢にうつつを抜かしたりなんかしていたら、心の底から嫌悪感を拭いきれなかった。兄が欠片もニコレッティ嬢に興味を示さなくて良かったと内心ホッとしている。

 兄は緩くウェーブがかった髪をうっとうしそうにはねのけながら、不憫なものを見るような目で私を見た。


「お前、婚約解消したの?」


 兄よ、久しぶりに会った妹にかける第一声がそれか?

 黙り込んだ私に兄は容赦なく追撃してくる。


「あれだけ『アーダルベルト殿下の婚約者』たるもの、とか言ってたお前がなんで?」


 口の端がヒクヒクするが、答えようがない。……これでいて悪気がないというのだから、どうしようもない。この見目の良さがありながらなかなか婚約者が決まらなかったのも頷ける。


「まだ王都に来たくなかったのに……」

「すみません、お兄様。手間をおかけしますわ」

「……まぁ、いいけど。可愛いお前のためだからね」


 兄はブチブチ言いながらも乱暴に頭を撫でてきた。


「エセ潔癖王子のことなんか忘れて早く次見つけなよ。はい、これ」


 手渡されたのは幾つかの釣書だ。


「ちなみに僕のオススメはこれだね」


 目に入ったエヴァルド・ダリアの文字に、私は見なかったことにしてそっと釣書を閉じた。








 殿下から新しい婚約者候補の釣書が届いたのは、あの怒涛の夜会から十日ほど経ったころだった。前回とは違って三通ある釣書には、それぞれの肖像画も添えられている。

 殿下の人選に期待を込めて、恐る恐る開ける。

 まずはルチアーノ・リナルディ。

 リナルディ伯爵の三男で近衛騎士見習いをしている。肖像画の中の彼は人懐っこい笑顔を浮かべていて、まだ年若いあどけなさが残っている。所謂青田買いになるのか?

 将来性を見込むのなら、この方か。

 次はイグナシオ・コンティルン。

 コンティルン伯爵その人で、ナイスミドルなオジサマだ。若いころは社交界きってのモテ男だったそうだが、確か奥方が早世されて以降、独身を貫いてなかったか? 

 跡継ぎももういるし、なんだかロランディ伯の二の舞になりそうな地雷臭がぷんぷんするんだけど。これはちょっと……ないな。

 早々に釣書を閉じて次にいく。

 そして、この方は……まぁ。

 思わず目を瞠ってしまった。殿下もよく釣書を手に入れたもんだ。

 セシリオ・ヴェルデ。

 彼はアルファーノ公爵家の長男にあたる方だが、継承権を自ら放棄され、今は母方の子爵の姓を名乗っている。

 彼は社交シーズンになっても王都に出てくることもなく、貴族との交流もほとんど絶ってヴェルデ領に引き篭もっているらしい。

 そうか、殿下はこの方を引き摺り出してきたか。うーん……これは殿下、仕組んだかな?

 私は便箋を取り出すと、口上もそこそこに用件を手短に書き、封蝋を施した。そして鈴を鳴らし呼び寄せた従者に、にっこりと笑ってそれを手渡す。


「これをアーダルベルト殿下に。至急でお願い」


 よく訓練された従者は、顔色一つ変えることなく「承知いたしました」と恭しく受け取る。礼をして立ち去っていくその背中を見ながら、私は早くもこれからの予定の事を考え始めた。








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