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幽霊探索アプリ

作者: モアイ

 宗馬: なぁ、『幽霊探索』ってアプリ知ってる?


 俺のスマホに、LINEの通知が届いた。

 何も不思議なことではない。送り主は、大学の友達の宗馬(そうま)だ。


 大輝: 何それ?


 もう1人の友達である大輝(だいき)が聞き返す。俺は寝起きの目を擦りながら、2人のやりとりを眺めていた。


 宗馬: 今ネットで話題のアプリ

 大輝: いや胡散臭すぎだろ…


 意気揚々とした宗馬に対し、大輝は物凄く気だるそうだ。まあ無理もないだろう。何せ、今は朝の6時半だ。今日は夏休み真っ只中で、尚且つバイトもない日である。少なくとも9時ごろまで寝ているのが日課だ。なのに、宗馬の奴ときたら……。


 大輝: てかお前…何時だと思ってんだよ


 やはり大輝も同じ思いだったようだ。


 宗馬: これでも1時間くらい待ってやったんだぞ?

 大輝: 何時に起きてんだよ。ニワトリかお前は

 宗馬: お前らこそ夏休みだからってだらけ過ぎだろ


 こんな時間からグループで言い合いを始めないでほしい。通知は俺のスマホにも届くんだから。


 “朝っぱらからうるさい”


 俺はたまらず抗議のメッセージを送信する。だが、返ってきたのは素っ頓狂な答えだった。


 宗馬: おお駿介(しゅんすけ)! 早起きだな!


 誰のせいだ。

 と送ってやろうとしたが、指を動かすことすら面倒なのでやめた。


 宗馬: でさー、こっからが本題なんだけど


 まだあるのか。


 宗馬: 今度さ、近くの山に肝試しに行かね?


 肝試しだぁ??

 俺は心の中で呟く。肝試しというのは、所詮女の子と仲良くなりたい奴のためのツールに過ぎない。ましてや、大学生の男3人が固まってやるものではないはずだ。


 大輝: 時間の無駄だろそんなもん

 宗馬: どうせ暇なんだろ? ま、怖いなら無理しなくていいけど


 こいつは……と思いつつも、こんなレベルの低い煽りに乗ってしまう自分を呪った。

 結局のところ、俺や大輝も何かしらの刺激的な出来事を求めてしまう。退屈というものは嫌いだ。だから最初から、断るという選択肢は無いのだ。


 宗馬: じゃあ今日の夜11時に俺ん家集合で


 宗馬はそう言って、一方的に会話を終わらせてしまった。

 勝手な奴め……そう悪態をつきながら、俺は再びベッドに入った。








 満月の明かりに照らされて、雲が白く輝いている。宗馬の車は蛇のように曲がりくねった山道を、ヘッドライトだけを頼りに進んでいた。


「駿介、こっちで合ってるよな?」

「多分な」


 助手席に座る俺が、ナビの役割を果たす。もっとも、道しるべとして使っているのは例の幽霊探索アプリなのだが。


 この『幽霊探索』なるアプリの使い方はこうだ。

 死亡事故や事件、自殺があった場所の地図上に赤い×マークが表示され、これが幽霊出現場所となる。この×マークに近づくと周辺の詳細なマップが出現し、さらに幽霊の居場所がロウソクの記号で表される、という仕組みだ。

 ユーザーの位置情報まで利用しており、この手のアプリにしては異様なほど精巧な出来だった。


「いやーなんかザ・青春! って感じで最高だな!」


 宗馬が調子よく笑うと、後部座席の大輝が顔をしかめた。


「巻き込まれるこっちの身にもなれ」

「素直じゃないなぁ〜大輝くんは」


 俺はスマホを見ながらも、2人の会話に耳を傾けていた。

 宗馬にとってはお化けやアプリなど二の次で、気の合う仲間と思い出を作ることが何より重要なのだろう。

 俺たちは3人とも大学の近くで一人暮らしだったので、(つる)むのには便利だった。胸が熱くなる友情物語なんてない。だが、それでも良かった。好きな時に好きなように絡める仲間というのは、意外と貴重だったりする。


 ――――ピピッ! ピピッ! ピピッ!


 突然スマホから警報音が鳴り出し、俺は飛び上がった。

 慌てて画面を見ると、この周辺の詳細な地図が表示されていた。そして現在地から数百m先には……ロウソクのマークがある。

 車内の空気が、一瞬にして張り詰めた。


「宗馬……この辺だ」


 車を路肩に停車させ、俺たちは木々の生い茂る山の中に足を踏み入れた。


 懐中電灯を手に、“ロウソク”の場所を目指す。俺の体を、冷たい風が吹きつける。全身の鳥肌が逆立ち、息を吸っただけで肺が凍りつきそうだった。

 懐中電灯に照らされた木の枝は、悪魔の手のように見える。無数の葉の擦れる音は、何者かのせせら笑いに聞こえた。

 俺は、×マークと共に書かれていた内容を思い出す。


 “2015年6月ごろ、40代男性が首吊り自殺。”


 最初に見た時は特に何も思わなかったが、この場所を訪れて初めて恐怖が湧き上がってきた。

 このとても重苦しく、得体の知れない何かが絡みついてくるような感覚は、果たして気のせいなのだろうか。

 余裕そうだった宗馬や大輝の顔も、だんだんと引きつっていく。やはり2人も、何者かの存在を感じ取っているのか。ロウソクの場所は、もう目の前だ。


 ギィ……ギィ……


 頭上から異音が聞こえる。まるで、木の枝から重いものをぶら下げたような……。

 ライトを持つ手が震える。誰かが俺のことをじっと見つめているような気がした。

 下から上に、ゆっくりと木を照らしていく。鼓動が高鳴り、背筋を冷たい汗が伝った。本能が、「見てはならない」と何度も警告してくる。それでも俺は何かに導かれるように、視線を上げてしまった。


 そこにあったのは、何の変哲も無い木の枝だった。ライトで照らしても、幽霊らしき姿は見当たらない。ロウソクは確かにこの木を指している。しかし、結果は見ての通りだ。


「……ハッ! 何だよ、何もねーじゃんか!」


 宗馬が馬鹿にしたように笑う。


「だから時間の無駄だって言ったんだよ」


 大輝がつまらなそうに宗馬を小突いた。


「……帰ろっか」


 俺は2人に同調したフリをする。表向きは幽霊がいなくて期待外れだった、という風に装ったが、本心では一刻も早くこの場から離れたかった。

 確かに、五感では何一つ捉えられない。しかし、それとは別の感覚……いわゆる第六感というやつが、人ならざる何かの存在を幾度も訴えていた。


「そーだな。このバカの誘いに乗ったのが間違いだった」

「そんな言い方ねえだろ〜? お前だって最初は楽しそうだったくせに」

「ま、幽霊なんているわけないってことだよ」


 そうだ。いるわけがない。存在するはずがない。この気味の悪い感覚も、気のせいだ。あの妙なアプリに影響されてしまっただけだ。夜に怪談を読むと、無性に怖くなる現象……あれと同じだ。

 俺は必死に自分に言い聞かせる。


「とにかく、早く戻ろうぜ」


 そう言った宗馬は、心なしか焦っているように見えた。


 車が来た道を帰り始めた時、俺はようやっと安心できた。それは宗馬も、大輝でさえも同じだったようで、俺たちは大仕事を終えた後のように深いため息を吐いた。


「……暇つぶしとしては悪くないアプリだったな」


 大輝が冗談めかしく言う。俺と宗馬はほぼ同時に微笑んだ。


「素直に怖かったって言えよ」

「なっ……誰があの程度でビビるか!」


 宗馬が挑発し、大輝がそれに乗る。日常の光景だ。そんな何でもない光景が、今だけはダイヤよりも輝いて見えた。


「それにしても、変なアプリ作る奴もいるんだな」


 そう言って俺はもう一度、スマホでアプリを開いてみる。

 ロウソクの記号は、今もあの場所を指し示していた。











 あれから1週間が経った。

 俺は幽霊探索アプリのことなどすっかり忘れていた。今さっき、同じ名前を目にするまでは。

 俺はいつものように、家にこもってネット掲示板を眺めていた。その時に気になるニュースを見つけたのだ。


 “肝試し中の恐怖……秋田県で集団自殺発見”


 そう題されたニュースの内容は、『心霊アプリを使って肝試しをしていた若者が、首を吊った4人の男女を発見した』というものだった。

 心霊アプリ……俺はそこに引っかかった。それは掲示板の住民も同じのようで、スレッドは『幽霊探索』の話題で持ちきりだった。

 俺はアプリを開き、マップで集団自殺の発見場所を検索してみる。そこには確かに×マークがあり、


 “2017年11月、男女4人が首吊り自殺”


 という詳細が書かれていた。

 俺は1週間前の肝試しを思い出し、もしあそこに本物の死体があったら……と想像する。考えただけでも恐ろしいことだ。ほぼ間違いなく卒倒してしまうだろう。

 幸い、宗馬や大輝もアプリへの興味を失ったらしく、あれ以来肝試しに誘われることはなかった。

 あの時、幽霊自体を見ることはなかった。だが、あの感覚は……現実とは思えぬあの雰囲気は……もう2度と経験したくない。


 ――――もう忘れよう。あのアプリも、近いうちに消してしまおう。


 俺は心の中でそう誓った。










 陽が西の彼方に沈み、月が天高く昇り始めた頃、LINEの通知音が静寂を切り裂いた。俺はベッドから体を起こし、スマホを手に取る。

 こんな時間に何だ。また宗馬がくだらない話題でも持ってきたのか?


 大輝: やばい。なんか凄い体調悪い


 ロック画面にはそんなメッセージが表示されていた。

 えっ大輝? しかも体調が悪いって……。

 大輝がこんなメッセージを送ってくるのは初めてだ。きっと、ただの風邪とかそんな類ではないだろう。


 “大丈夫か? どんな風に体調悪いんだ?”


 俺はLINEを開き、すぐにメッセージを送る。返答はすぐに来た。


 大輝: 寒気がするし……吐きそうなくらい気持ち悪い


 文字だけでも、大輝の辛そうな様子が手に取るようにわかった。


 大輝: あと顔色もなんか変……


 メッセージとともに、大輝の自撮り画像が送られてくる。画像を見た瞬間、俺は目を疑った。

 肌は灰色に変色し、頰はこけ、瞳に輝きはない。それはまるで、死んだ人間の顔だった。

 そして何より信じられなかったのは、大輝の背後にロープが垂れ下がっていたことだ。ロープの先端には、ちょうど人間の頭が入りそうな円が作られている。

 体調が悪いなんてレベルではない。明らかに異常だ。


 宗馬: 大輝、今行くから鍵開けて待ってろ


 宗馬も事態の深刻さを察したらしい。いつもの彼からは想像もできない、極めて重々しい調子のメッセージだ。

 俺は着の身着のままに家から飛び出て、大輝の家に走り出した。


 街灯すらまともに備えられてない路地を、俺は無我夢中で疾走する。間に合わなければ、大輝は死ぬ。何故かそんな確信が持てた。

 それにしても、あの大輝の顔……。まるで、何かに取り憑かれてるみたいだった。

 取り憑かれる……幽霊……そして首吊り……。連想されるのは、1週間前の肝試し。だがそもそも、何故肝試しに行くことになった? 原因は……幽霊探索アプリだ。

 嫌な予感がした。俺はスマホを取り出し、無意識にアプリを開く。


 ――――ピピッ! ピピッ! ピピッ!


 刹那、けたたましい警告音が鳴り響いた。幽霊の存在を知らせるシグナルだ。だが、この辺に×マークなど無かったはずだ。俺は“ロウソク”の場所を探してみる。

 全身に悪寒が走った。ロウソクがあるのは、俺が今向かってる場所……大輝の家だ。


「おい! 駿介!」


 どこかから聞き慣れた声がする。1人の青年が、こちらに走り寄ってきた。


「宗馬!」


 俺は友達の名前を呼ぶ。宗馬の顔は、見たこともないほど鬼気迫っていた。


「あいつ……一体どうしたんだ!?」

「分からないよ! でも、これ……」


 俺はアプリの画面を見せてやった。宗馬の顔から、血の気が引いていく。


「……こんなの、嘘に決まってるだろ! とにかく急ぐぞ!!」


 宗馬の言葉は、俺よりもむしろ彼自身に向けているように思えた。



 俺たちは大輝のアパートにたどり着き、彼の部屋の前に立った。宗馬は今一度、覚悟を確認するように俺と目を合わせた。俺は力強く頷く。

 ほとんど間を置かず、宗馬はドアノブを回した。


「大輝!!」


 家に突入した途端、俺たちは絶句した。

 廊下の先、闇の奥にあったのは、足が宙に浮いた大輝の姿だった。いや正確には、ロープで首を吊っている大輝の姿だ。


「おい嘘だろ!!!?」

「大輝!!!!」


 俺たちは靴を脱ぐのも忘れ、大輝の元に駆け寄っていく。


「駿介! 俺がこいつの体を支えてるから、お前はロープを取れ!」

「えっ……」

「さっさとしろ!!」

「わ、わかった!」


 言われた通り、俺は大輝の首からロープを剥ぎ取る。首元は鬱血し、生きてるか死んでるかもわからない。

 宗馬はゆっくりと、大輝の体を床に寝かせた。続いて手首に触れ、脈を確認する。


「まだ生きてる! 早く救急車を呼べ!」


 俺は震える手でスマホを取り出し、119番に通報する。


『119番です。どうされましたか?』

「あの……友達が首を……首を吊ってたんです……! まだ生きてるみたいなんですけど……」

『落ち着いて。直ちに救急車が向かいます。現在地の住所はわかりますか?』

「はい、えっと……」


 電話の最中、何故か今朝見たニュースのことが頭をよぎった。秋田の森の中で自殺死体が見つかったという、あのニュースだ。

 あれも、よくよく考えれば不自然だ。死体が放置されていたということは、集団自殺については警察すら知らなかったということだ。

 だが、あのアプリには確かに“4人が首吊り自殺”と書かれていた。アプリの製作者は、どうやってそんな情報を知ったのだ?


「駿介! 救急車は呼んだか!?」

「あ……ああ! 大丈夫だ」

「じゃあ、こいつを外に運ぶぞ!」


 俺は宗馬と協力して大輝を担ぎ、外へと足を急がせる。玄関を出ようという時、俺はふと家の中を振り返った。

 その瞬間、全身に電撃のような恐怖が走った。廊下の奥で見たこともない男が、大輝と同じように首を吊っていたのだ。闇に包まれて姿はよく分からなかったが、目だけはギラギラと輝き、恨めしそうにこちらを睨みつけていた。


「駿介! どうした早くしろ!」


 宗馬に呼びかけられ、俺は金縛りが解けたように玄関ドアを強く閉めた。今さっき見た男の姿を、気のせいだと決め込んで。









 大輝の意識が戻ったのは5日後のことだった。

 医者が当時のことを聞いても、「覚えていない」の一点張りだったらしい。

 俺たちは大輝の両親に何度も礼を言われた。当時の状況については色々と説明したが、幽霊探索アプリのことは最後まで言わなかった。言ったところで異常者だと思われるのがオチだろう。

 結局大輝は、しばらく実家に帰ることになった。大輝にとっても両親にとっても、それが一番いいだろう。俺たちが大輝を助けられたのは奇跡だ。だが、奇跡は何度も起こらないものだ。


 大輝が退院する前日、俺たち3人は病室に集合していた。


「いいか? あのアプリのことも、何もかも全部、これで終わりにしよう。今日限りで忘れるんだ。アプリも削除する。約束しろ」


 宗馬の言葉に、俺と大輝は黙って頷いた。


「じゃあ大輝、達者でな」

「またいつか会おうな」

「お前ら……遠くに転校する小学生じゃねぇんだから」


 俺たちは夜が明けるまで語り、笑い合った。恐怖は過ぎ去り、全てが元通りになったと信じて。









 だが俺は、宗馬たちとの約束を破った。

 あのアプリは、今も俺のスマホに入ったままだ。

 大輝が自殺を図った日と前後してネットでは、アプリユーザーによる幽霊の目撃情報が激増していた。それに比例するようにダウンロード数も加速度的に増え、最早歯止めが効かない状況だった。

 人間というのは愚かなもので、自分で恐怖を味わうまでは好奇心に勝てない。もっとも1番の愚か者は、恐怖を味わってなおアプリを削除していない俺自身だろうが。

 そしてここ最近、アプリに奇妙な変化が起こり始めた。×マークに関係なくロウソクが町中に現れ、彷徨うようになったのだ。今や少し外を歩くだけで、何度も警告音が鳴る。何故こうなったのか、だいたい見当はついた。

 一般にアプリというものは、ユーザーからの情報をフィードバックして何度もアップデートを重ね、精度を向上させていく。それは娯楽アプリから専門的なアプリまで、どんなものでも共通だ。おそらく、幽霊探索アプリも。

 幽霊探索アプリにおける「精度の向上」、それが何を意味するのか。それはきっと……。


 ――――ピピッ! ピピッ! ピピッ!


 またか、と俺は思った。

 散歩を始めてまだ1時間程度だったが、これで4回目だ。スマホの画面に、マップとロウソクが表示される。場所は、すぐそこの横断歩道らしい。


「えっ!?」


 俺は目を疑った。

 横断歩道では、黒いロングヘアの女性が信号待ちをしていた。アプリが幽霊として示したのは、確かにその女性だったのだ。まさか今見ている女が、死の世界からの来訪者だというのか? 俺は無性に、女の正体を突き止めてやりたくなった。


「あの! すみません!」


 俺は女性の方に走り、大声で呼びかける。


「えっ……は、はい?」


 女性は目を丸くして振り返った。その雰囲気は至って普通、とても幽霊だなんて思えない。やはり間違いだったか。


「あっ……ごめんなさい。知り合いに似てたもので」


 俺が適当に誤魔化すと、女性は少し怪訝な顔をする。直後に信号が青に変わり、彼女は去っていった。

 俺はもう一度スマホに目を落とす。ロウソクは確かに、女性に追従するように移動していた。まさかあの女性に、幽霊が取り憑いているとでもいうのか。俺は急に怖くなり、足早に横断歩道から離れた。



 このアプリを不気味に思ったことは幾度となくある。それでもアプリを削除しなかった理由……それは、知りたかったからだ。アプリがどのように進化し、世界に何をもたらすのかを。

『幽霊探索』の名は今やSNS上でも拡散され、今後もユーザーは増加し続けるだろう。その分、アプリの進化も早まる。キャリアを次々に増やし、自身も急速に変異していく……まるでウィルスだ。

 このアプリを誰が、何の目的で作ったのか。それを知る術は無い。どこに悪意が潜んでいるか分からない物を、俺たちは無警戒に使い続けているのだ。そして気付いた時にはもう、取り返しのつかない事態に陥っている。


 好奇心は猫をも殺す。俺たちはまさしく猫だった。

 大輝の身に起こったことが、今夜俺にも起こるかもしれない。だが、それでも……。

 それでも俺は知りたかった。この果てしない闇の奥に、何があるのかを。

 好奇心は、時には恐怖にも勝る。このアプリが、他の有象無象と同じように人から忘れ去られ、ただ消えていくとは、到底思えなかった。このアプリはどんどん進化し、いずれ想像を絶する“何か”に変わっていく。何故かそんな確信が持てた。

 大輝の家での出来事は、一生トラウマとして付き纏うだろう。それならばいっそ、トラウマと真正面から向き合う。このアプリがどんな進化を辿っていくのか、この目で確かめてやる。俺はそう覚悟を決めた。


 ロウソクの数は、今日も増え続けている。

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