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勇者先生と駄女神シリーズ

数百の異世界を救ったおっさんだけど、勇者活動禁止されたから女神と追放スローライフしたいです

作者: 白銀天城

 異世界召喚。それはロマンの塊。

 勇者として召喚され、様々な冒険を経て魔王を討つ。

 俺もかつて勇者として呼ばれ、毎日を戦いと冒険に費やしていた。


「ふんふん~っと」


 そして飽き始めた。あまりにも救い続けてしまったから。

 ファンタジー・ホラー・VRMMO・SF・スーパーロボット・現代・異能バトル・戦国・三国志・邪馬台国・悪役令嬢・乙女ゲームと見境なく異世界を救った。


「よっほっ」


 そして数千の異世界を救い続け、遊び尽くした結果、女神の上位陣から勇者活動を禁止された。他の勇者の成長を阻害しちまうんだと。

 そこから適当な異世界を一つ決めさせられ、事実上の追放処分となり、隠居してスローライフを送ると相成りましたとさ。

 だもんで昼に起きて飯なんぞ作っている。


「よーし昼飯完成」


 二度寝に最適な温かい日差しの差し込むこの世界は、剣と魔法のファンタジー。

 そこに魔導の力で便利な設備があるという、まあよくある話さ。

 だからこそいい。長いこと勇者をやった俺の隠居先に相応しいじゃないか。


「おや、ちょうどいいタイミングだったかな」


 同居している女神クシナダが帰ってきた。

 外見だけ見れば十代後半から二十代前半。

 長く艶のある黒髪と、宝石よりも綺麗な瞳。そして圧倒的なスタイルの良さ。

 女神というのは、どいつもこいつも外見だけは最上級レベルだ。


「おう、今できたところだぞ」


「いい匂い。今日のご飯はなーにかな?」


 純粋に飯を楽しみにしている顔だ。

 こいつ妙に子供っぽいところがあるからな。


「もと勇者特製ベーコンエッグとコーンポタージュだ!」


「驚くほどに普通だね」


 言いながら料理を運ぶのを手伝ってくれた。

 絶妙に気がきくやつだ。この異世界を紹介してくれたのもこいつだったりする。


「ちなみに夜はハンバーグカレーだ」


「本当にそういうの好きだねえ」


「そうだ、いい天気だしテラスで食うかい?」


「もう並べちゃったよ?」


「へーきへーき」


 一階のテラスへ料理と一緒に転移。

 座標オート指定で安全安心のオリジナル魔法だ。


「これでよし。食おうぜ」


「先生もだいぶアドリブで生きるようになったね」


「このフリーダムさがスローライフよ」


 木製のテーブルとイス。家も二階建ての大きなログハウス。

 晴れると大きな湖と、遠くの山がよく見える。

 なんとも心が癒やされるじゃないの。

 穏やかな気持で食事を始める。


「ん~やっぱり先生のご飯は美味しいよ。流石勇者」


「もう勇者じゃないっての」


 クシナダはいわゆる駄女神だったが、俺が冒険しているうちに鍛えてやり、立派な女神にしてやった。

 そうしたらいつの間にか先生と呼んでくるようになったのだ。


「食ったらどうするかね」


「二度寝でもしてみたらどうかな? 今なら女神がお側にいますよ?」


 涼しげで澄んだ風を感じながら、ゆっくりと予定を考える。

 こういう時間は貴重だ。そして新鮮で、ちょっとわくわく感があります。


「仕事人間ってわけじゃないが、やっぱり勇者歴が長いとどうしていいかわからんな」


「ごめんなさい。私も反対したんだけど、女神界の上層部にお硬い連中がいてね」


 女神界。異世界を救うため、女神を派遣する。女神だけの上位世界だ。

 そこの許可が降りるまで、勇者活動を禁止してくれと言われちまった。


「先生ほど異世界のために戦い続けた人なんていないっていうのに、薄情極まりないよ」


「仕方ないさ。魔王が減ったら勇者も困るんだろきっと」


 途中でパーティーメンバーと魔王・邪神をどれだけ倒せるかレースとかやって、ネトゲのレアモンスターのように乱獲した結果、異世界から魔王・邪神が激減してしまったことも一因だろう。


「別にお前を責めちゃいないさ。こういう時間も楽しいよ」


「そう? それじゃあちょっと男女がするようなことでもしてみようじゃあないか。はいあーん」


 卵とベーコンの刺さったフォークをこちらに向けてくる。

 妙なことをしたがるものだ。


「はいはい。これでいいか?」


 まあ結局食うけどな。うむ、うまい。次は醤油かけて食うか。


「ううむ、カップルっぽくないねえ」


「カップルじゃないからだろ」


 クシナダは俺の元生徒であり、この異世界を教えてくれた。

 住みやすい場所を紹介もしてくれた。恩はあるが、別に恋人ってわけじゃない。


「相変わらず伝わらない……難儀なお人ですよ」


「やることないな。そのへん散歩でもするか」


「この前温泉街に行きたいって言っていたね。二人でどうです? 温泉旅行」


「遠出ってスローライフなのか?」


 あんまり世界各国旅してしまうと、それこそ勇者時代と変わらない。

 できる限り隠居生活が望ましいだろう。


「スローライフじゃない気がする。俺の求める理想から離れていくような……スローライフとはなんだ……?」


「無理に追い求めて押し潰されそうじゃないかな?」


「おそるべしスローライフ。おのれスローライフ」


「もうスローライフ言いたいだけでしょう」


 何の中身もない会話でございます。

 こういう無駄でだらけた時間もきっとスローライフだ。

 いい加減くどいな。


「んじゃ湖にでも行って釣りを……」


 突然家に影がさす。天を見上げれば、一面暗雲である。

 洗濯物干してんのに邪魔だよ。


「服が乾かないだろ」


「いやいや先生。凄い悪しき魔力だよ」


「知ってる」


 敵が存在することは確認済みだ。

 ついでに湖の中心から飛び出た、黒い柱が雲を作っていることも理解した。


『グハハハハハハ!!』


 でっかくて汚い男の笑い声だ。明らかに品がない。


「あちゃあ……もう復活したのか。先生の邪魔しないでほしいのに」


「復活?」


「ここ、綺麗なのに誰も近づかないでしょ? 土地も安く手に入ったし」


「いわくつきか」


「大正解。大昔になにか封印して、伝承だけ残っていて気味悪がられたんだって」


 そういう場所なら誰も来ないから、ゆったりした日常を送れると思ったらしい。


「女神の勘も外れるんだな」


「これは申し訳ないねえ。あとでなにかお詫びをしましょうか。先生は何がいいですか? むしろ私に何をさせたいですか? さあ恥ずかしがらずに言ってみよう!」


「ゆっくり考える。っていうか風強いな」


 森が荒れるだろ。渋々家に結界を張る。

 雲がどう考えても出過ぎ。遠くの国まで行ってるだろ。


「しょうがない、倒すか」


「行ってらっしゃーい」


 クシナダに見送られ、湖の畔までやってきた。

 なんか全長三百メートルはありそうな、黒くて悪魔っぽくて、手がいっぱいあるやつがいます。いかにも悪役っぽい。頭の二本のツノとかそれっぽいです。


『ついに! ついに復活を果たしたぞ! 勇者の末裔よ! この世界を暗黒に染め、今度こそ我が力に……』


 なんか言っているが、とりあえず無視。

 まず雲が邪魔だな。

 軽く右手を振って全部消し飛ばす。これで洗濯物の心配はなくなった。


『む……何だ貴様。どうやって我が暗黒雷雲を消した?』


 雷雲かよ。森が燃えたらどうすんだか。迷惑なやつ。


「直球で聞く。悪いやつなんだよな?」


『何も知らぬ無知な人間よ。完全復活した我の魔力によって朽ち果てる、第一号となるが良い』


 悪いやつでいいんだよなこれ。右手に集まる魔力も邪悪なものだ。

 湖が渦巻き、強風で森がやばい。


「だから……」


 光速でジャンプして敵の上に移動。

 ツノを片方掴み、晴れ渡った空へ投げる。


「森を壊すなって」


 そこへ軽く右ストレートぶっこんで爆裂させた。

 これで魔王も邪神も死ぬ。不死身だろうが概念的存在だろうが殴れるし、殺せる。


『ぬっふえあああぁぁぁぁ!?』


 これでよし。あとは適当にのんびりしていよう。


「お疲れ様。先生は勇者をやめても邪神と縁があるねえ」


「どういうことだ?」


「この世界の資料を探したらあったのさ。魔王ガルズを生み出した邪神だって」


 ガルズはこの世界の魔王だったはず。現地勇者が倒す相手だ。


「そうか、殴った感じそれっぽかったしな」


「それを感じるのは先生だけだよ」


 渡された資料を見てみる。ごく普通の中堅邪神だ。


「邪神ベッギャルグ。ほぼ概念的存在であり、完全消滅は不可能。勇者が封印するも、百年に一度復活してしまう。魔力および戦闘力七百五十兆。異能数九十京だって。これといって長所がない個体だね」


「殴れば死んだしな」


「それは先生だからですよーだ」


 概念とか殴りたいなーと思って殴れば消せる。

 復活とか言っていたので、二度と蘇生できないように殴り殺した。


「とりあえず湖の生き物は蘇生させて、森を復元して、よし帰るか」


 こんなもん土地の時間巻き戻せばいいだけだ。

 邪神関係だけぱぱっと魔力で調べて、復元させずに消していく。

 晴れ渡る空。綺麗な湖。よしよし、戻ったな。


「さて、こっから全力でだらだらしてやるぜ。戦っちまったぶんを取り戻すぞ」


「スローライフに生き方を束縛されつつあるねえ」


 とりあえず寝るために家へと瞬間移動。

 手洗いうがいを済ませ、なんとなく二人でソファーに寝っ転がってうだうだする。


「よし、いい感じだぜ俺。今時間がスローな気がする」


「根本的にずれているなあ……」


 そこで誰かの声がする。妙だな。ここには人が寄り付かないのに。


「すみませーん! 誰かいませんかー!」


 女だな。成人女性じゃないだろう。

 まだ住んで一週間ちょっとだが、ここに客なんて初めてだ。


「クシナダ、ここ人来るのか?」


「いえいえ、そもそもこの家があることを知っている人間なんていないはず」


「ごめんくださーい!!」


 さっきから誰かが玄関のドアを叩いている。うるさい。

 がっつり二度寝決め込んでやろう。


「だーれーか! ……あっ」


 完全にドアの壊れる音がした。

 俺のスローライフを邪魔する不届き者め。

 仕方がないので玄関まで瞬間移動。


「はいはい、どちらさんですか」


 そこに立っていたのは絶世の美少女。

 水色の長い髪と、十代後半程度の見た目。

 白を貴重とした服で長いスカート。本人を上品に見せている。

 直感でわかった。こいつ女神だ。


「あの、元勇者様に会いに来ました! 今どちらに?」


 こうして俺の理想の生活は、おかしなものへと変わっていく。





「えーとりあえず元勇者ってのは俺だ」


 仕方がないのでドアの時間を戻し、リビングで話を聞くことにした。


「え……?」


 ものすごく驚かれた。

 目を見開き、疑いの眼差しへと移行する過程をはっきり観察できたぞ。


「まあそういう反応だよねえ。見た目普通のおじさまですもの」


「いいんだよそれで。で、わざわざ女神が訪ねてくる理由ってなんだ?」


「わかるのですか?」


「勇者だって言ったろ。そこはいいから話を進めてくれ」


 いちいち面倒な会話なんてせずにすっ飛ばす。

 こちとらゆったり生活したいんだ。早く帰らせよう。


「私はこの世界に派遣された女神、アカリです。元勇者様に助言をいただきたくて、これ、女神界の実家で取れたりんごです。よろしければどうぞ」


 かごの中に新鮮なりんごがいっぱいある。

 二十個くらいあるな。一個もらって食ってみた。


「おぉ、うまいじゃないか!」


 みずみずしさと繊細な甘味や酸味があって気に入った。

 そういや昼飯にデザートなかったな。ちょうどいいや。


「あ、おいし。いいねこれ。あとでパイにしてあげるよ」


「よし、話を聞こう」


 りんごのお礼をしてやらないとな。

 アップルパイも楽しみだ。クシナダは俺に負けず料理がうまい。


「勇者パーティーがピンチなんです。なので元勇者様に助言をいただきたく……」


「あー元勇者ってのもアレだな」


 呼ぶにも長いし、もう勇者じゃないのに肩書に縋るみたいで嫌だ。


「今はただのおっさんだ。勇者はおやすみ」


「ではなんとお呼びすれば?」


「じゃあアキラで」


 前によく使っていた名前だ。多分本名だと思う。

 もう本名とかぼんやりしている。名字は完全に忘れた。


「ではアキラ様で。その、そちらの女性は女神……ですよね? この世界担当はわたしのはずですが」


「ああ、私は先生についてきただけ。ここで同居している女神のクシナダ。よろしくねアカリちゃん」


「はい、よろしくお願いします」


「じゃあ要件を聞こうか」


「その、まだ新米女神で……お告げがうまくできなくて……」


 女神が勇者にする助言のことか。

 少し古いゲームのオープニングをイメージすればいい。

 勇者に向けて『聞こえますか? 私は女神。どうか世界を』的なやつだ。


「まだ力の弱い勇者一行は、王都から近い場所へ順番に行ってもらうことにしたんです」


 まあそうなるわな。

 序盤は雑魚狩りと、易しめのダンジョン。これはゲームでも異世界でも一緒。


「一番近かったダンジョン、難攻不落の超巨大迷路でもう二日も勇者たちが迷っていて」


「しょっぱなに行かせるもんじゃねえだろ!」


「階層は一階だけなんです。地下もなくて、陽の光も入ります」


「よっぽど広いのかな?」


「はい。70キロ四方の巨大迷路で……」


「行かせんなやそんなもん!」


 迷うに決まってんだろ。ああもうこいつ駄女神だ。

 俺も何度となく遭遇し、旅をしっちゃかめっちゃかにする存在。

 最近爆発的に増えている、ダメダメな女神。


「地図見て誘導してやれ」


「迷路が特殊なのか、一日に一回、十分しかお話できなくなっちゃいました」


「ああもう……帰還魔法とかないのか?」


「まだレベルが低いパーティーですから」


「マジで何で行かせた?」


「勇者様ですから、そのくらいはできるだろうと」


 勇者という言葉に期待かけすぎたか。

 新米女神なら稀によくあることだ。


「ですから、なんとか最深部まで案内してあげたいと」


「帰してやれって! 死ぬぞ勇者!」


「最深部に伝説の剣があるんです。それがないと魔王が倒せません。それに先程、全世界に向けて邪神の魔力が溢れ出しました」


 ん? 邪神? なんかさっき聞いたようなワードが飛び出しましたよ。


「邪神はどこかへと姿を隠しました。まるでこの世界から存在そのものが消えたかのように。もう一刻の猶予もありません。なんとしても勇者様の手で邪神を倒さなくては!!」


「ああ、うん……そう……だな」


「魔王だけでなく邪神が復活した今、勇者が邪神を倒し、その記録を女神界に報告し、この世界に新たな英雄譚を記録するのです!」


 やばい。あれ俺が倒しちゃダメなやつだったのか。

 そういうの先に言って欲しいです。いかん勇者の役目を奪っちまった。

 勇者活動禁止中なのに倒してしまったぞ。なんとか誤魔化すしか無いな。


「なので最深部に刺さっている伝説勇者ソードを持ち帰る必要があります」


「名前だっさいなおい」


「なんと伝説の勇者の剣なんです!」


「名前でわかるわ!」


「流石は元勇者様です!」


 俺は馬鹿にされているのだろうか。


「ふっふっふ……なんだか愉快じゃないか。協力してあげましょ先生」


「アキラ様はお強いのですよね?」


「まあそれなりに」


「ならしばらくの間だけでも、勇者パーティーに同行していただけませんか?」


 そうくることは読めていた。だが認めん。認めるわけにはいかんのだ。


「悪いが絶対に家から出ないぞ。最低でもこの湖がある敷地から出ない」


「どうしてですか?」


「スローライフっぽくないからだ」


 また勇者に逆戻りじゃないか。勇者活動は禁止。なので同行できんしな。


「先生はね、スローライフという言葉の呪縛から開放されていないんだ」


「呪縛? 呪いですか?」


「ある意味ね。面白いだろう?」


「よくわかりません」


 だろうね。俺もよくわからん。だが必ずやり遂げてみせる。スローライフを。


「まあいいさ。家から全部やるだけだ」


 指先に小石サイズの小型監視衛星を錬金術で作り出し、宇宙へと転送。

 あとは自宅の液晶テレビに魔力で繋げて、勇者を監視。

 これでいい。極めたら魔法も科学も似てくるというだろう。

 両方極めればごっちゃにして使えるのさ。


「勇者ってこいつらか?」


 迷宮の、おそらく安全な場所なのだろう。泉のある場所。

 そこにお疲れ気味の三人組が映し出された。


「あ、そうですそうです!! 凄い! なんですかこれ!!」


「気にするな。こいつらがこの世界の勇者か。なるほど、才能はありそうだな」


 ざっくり検査魔法発動。

 女勇者はオールマイティ。長い金髪と武術でもやっているのか引き締まった身体。

 魔法使いの女はとんがり帽子とローブのテンプレ。回復と攻撃魔法の両刀。

 暗殺者風の男は黒装束に紺色の髪。口元を布で隠した忍者かな。武器を色々持っている。


「素質はありそうだな」


「ええ、大切に育てたいですね」


「どの口が言っているのさアカリちゃん」


「帰すにも敵は増えますし、剣の神秘パワーで倒すのがよろしいかと」


 勇者の剣が気になったので、この世界の真理をぱぱっと読破。

 世界誕生からの色々をざっと読めば、ほぼすべてが理解できる。

 次回も検索できるように最適化してと。


「性能こんなもんか。普通だな」


 空中に立体映像を出す。テレビは勇者を監視するために使おう。


「こんなに緻密な……これだけの情報、どうやって集めたのです?」


「真理を全部読んだ」


「はい?」


「真似してはいけないよ。女神でも精神が耐えられないからね」


 ぱぱっと最短ルートを表示。巨大迷路は伊達じゃないと理解した。


「勇者の剣は……まだ遠いな」


「ではそこまでの最短ルートを……」


「いや帰してやろうって。また来ればいいんだし」


 まだ入り口からそう遠くはない。

 今なら戻れるはず。


「それは気まずいですよ」


「お前が気まずかろうが命を大事にいこう」


「いえその、入り口付近を見れますか?」


 言われてちょいと見られるようにしてやる。

 なんかやたら人がいる。横断幕とかありますよ。

 勇者様伝説の剣おめでとうとか書いてある。


「すでにみなさん歓迎ムードです」


「うっわ気まずいなこれ!?」


 これ失敗して帰れねえだろ。

 絶対がっかりされるやつじゃん。


「勇者様誕生記念カレーとか配ってるねえ」


「勇者で商売する気満々だな」


「こんな状況なので、なるべく取らせてあげたいんです」


 しょうがねえ最終手段だ。

 ダンジョン内に俺の魔力を染み込ませ、世界の記録を画面に出す。


「何をする気ですか?」


「ダンジョンの構造ごと全部作り直す」


「はい?」


 勇者たちのいるフロアの先を広い中継地点へ。

 その先を伝説の剣エリアへと書き換える。

 この程度なら容易い。魔法と世界改変能力で楽勝だ。


「よし完了。あとは剣取らせて帰らせよう」


「…………凄い……何をしたのかすらわかりません」


「この人を基準にしてはいけないよ。本来の勇者はもっと弱いから」


 あとはこいつにお告げで誘導してもらえばいい。

 ついでに剣の性能をもっと詳しく見ておくか。


「…………ん? なんか弱くないか?」


 画面に伝説の剣を出し、性能も見せる。

 どう考えても弱いぞこれ。スペックが落ちている?


「度重なる激闘で、その力が弱まっているのでしょう。今回で魔王を倒し、邪神を完全封印する必要がありますね」


「ああうん……そうだな」


 言えない。邪神倒しちゃいましたとか言えない。

 とりあえず現地勇者がんばれ。


「ただ四天王には、全身ミスリルでできた、通称ガッチガチのガッキンという敵がいまして」


「そのまんまだな。多分切ろうとしたら折れるぞ」


「どうするの先生?」


 あんまりにも弱いんで、適当に上昇ステータスだけ見て終わり。

 これは勇者のスペックというより、剣の質が悪い。

 幸いまだ勇者は剣を見たことがないし、能力も知らないだろう。


「よし、勇者が休憩している今がチャンスだ」


「チャンス?」


「俺たちで新しい剣作っちまおう」


 でっかいツボを部屋の中央に召喚。

 これにぶっこんでいこう。


「えぇぇ!? 伝説の剣ですよ!?」


「へーきへーき。そういうのめっちゃ見てきたし、使ってきたから」


 どうせなら豪華なやつをプレゼントしよう。

 別次元のアイテム倉庫に眠っているものをじゃんじゃんツボに入れる。


「オリハルコン、ミスリル、玉鋼と……今エクスカリバー何本あったっけ?」


「まだ二十本くらいあるよ」


「んじゃ五本くらいぶっこもう」


 異世界にはなぜかエクスカリバーが多い。

 武器集めに凝っていた頃、腐るほど持っていた。

 実際放置しすぎてカビが生えたので何本か捨てたし。


「あと賢者の石を十個くらい入れて……」


「あの……どれも世界の秘宝レベルなんですが……」


「倉庫で腐らせるよりはいいだろ」


「本当にいいんですか?」


 ものすごく申し訳無さそうな顔をしているな。

 そんなに大したもんじゃないし、安心させてやろう。


「問題ない。この程度いくらでも量産できる」


 試しに無から純金と賢者の石を錬成してやる。

 錬金術はずっと昔に覚えた。これで金策の必要がなくなるのだ。


「うえええぇぇぇ!?」


「先生、リモコンの電池切れてるよ」


 チャンネル変える要領でダンジョンを見ていたクシナダが言う。


「そうか、じゃあそれも入れよう」


「どうして!?」


「剣でテレビのスイッチ入るようにしようぜ」


「それ電池じゃなくてリモコンの特性ですよね!?」


 はい悪ふざけが始まっています。楽しくなってきちゃったからね。


「先生、上質な昆布が冷蔵庫にあったよー」


「よし、それも入れよう。他の剣とは一味違う感じが出るな」


「本当に味変わりますけども!?」


「昆布が入ったら、あと必要なのは……」


「まず昆布が邪魔ですよ?」


「そば粉でいいかな」


「完全におそば作ってますよね!?」


 だが待って欲しい。うどんが食べたい人もいるかも知れない。


「うどん派に配慮したいな」


「もうネギ切ったよ」


 クシナダが刻みネギを手際よく用意してくれている。

 しかもどんぶりまで用意して。


「なんでおそばに寄せていくんですか!?」


「剣から出たら食費困らないだろ」


「怖いですよ! 衛生面どうなってるんですか!?」


「よし、綺麗に維持できる魔法かけておこう」


 絶対に汚れないし傷つかない魔法をプラスだ。

 これで他の武器は必要ない。


「昆布はやめましょう。伝説の剣がくさかったら嫌ですよ」


「ううむ……そうか」


「先生、ネギどうするんだい?」


「軽くそばでも作るか」


「あとにしてください」


 そうは言っても、あとはもう煮込むだけ。

 時間さえ経てば勝手に剣のできあがり。


「このツボ……どうなってるんですか? マジックアイテムですよね?」


「ソシャゲっぽい異世界救った時にな、便利だから持ってきた」


 いらないアイテムとか、材料入れたら煮込むだけ。

 キャラの強化とか進化とかそういう感じのアレだ。

 錬金ツボとかあるだろ。強化品が出てくるので便利よ。


「よーしできた」


 陽の光を反射して輝くロングソード。

 偉そうな彫刻も入れて、絶対に壊れない細工もした。

 聖なる力に満ちた剣だ。


「お、それっぽいじゃないか。いいセンスしてるよ先生」


「だろ?」


「凄いです! かっこいいです! こんな剣見たことありません!」


 アカリも大はしゃぎだ。ご満足いただけたようで何より。

 あとは剣を転送して、それっぽい台座に突き刺して完成だ。


「おぉー伝説の剣っぽいぜ」


「それっぽいねえ」


「何の伝説もないですけどね」


「それを言っちゃあおしまいよ。さ、お告げでもしてやってくれ」


「はい!」


 アカリの体が薄く光り始め、現地勇者たちへの通信が始まった。

 勇者たちは木陰で休憩中。疲労の色が強く出ているな。


「勇者よ、聞こえますか? 女神アカリです」


『女神様!』


『今日のお告げは何かしらね?』


 あっちの声もテレビから聞こえるようにした。

 でないと不便だからね。

 ちなみにアカリの声以外はあっちに聞こえない。


「お元気ですか?」


「元気なわけねえだろ」


「疲れているようですが、水分と睡眠はちゃんととっていますか?」


「とれない原因がアカリちゃんだよ」


『女神様、私たちはまだまだ元気です』


 勇者は笑っちゃいるが、疲れているのが丸わかりだ。

 さっさとお告げとかしてあげなさいと促す。


「その先の部屋が聖剣の間です。剣を抜いたら帰りましょう」


『え、もっと先なんじゃ……』


「あああああええっと……」


 こちらに助けを求める視線。

 いやそんな目で見られましても。


「アカリがなんて言ってたのか知らんし、適当に言っとけ」


「き……気のせいです!」


「よりによってか!?」


『そうですか、気のせいなら仕方がありませんね!』


 あ、ピュア枠だこの子。

 清純派勇者ですね。ちょっと応援したくなってきた。


「先生、おそばできたよー」


 クシナダが三人分のそばを持ってくる。

 アカリの話を聞いて、剣作っていたらもう夕方を過ぎそうな時間だ。


『では女神様、この先のお部屋ですね?』


「はい、そこからずぞぞぞぞ。あっちゅい!? まっすぐ行ってすぐ聖剣がはふ……はふ……すみません揚げ玉もっとあります?」


「食いながらしゃべんな!!」


 こいつなんで普通に食ってんだよ。まず神託をなんとかしろや。


『あ、あげだま?』


「ほらもう勇者ちゃん困ってるじゃないか」


「すみません次の部屋です。剣を抜くには試練がありますので、頑張って勝ち取ってください」


『はい! ありがとうございました!!』


 なんとか助言はできたようだ。

 これで落ち着いてそば食える。

 ネギと揚げ玉と温玉の入ったそばは、あっさり目の味付けながら実に美味い。


「また腕を上げたな」


「花嫁修業バッチリということだよ」


「美味しいです! おかわりください!」


「お前は遠慮しろ」


 こいつ三杯目食ってやがる。人の家でどんだけ食う気なんだよ。


『さあ、次の部屋へ行きましょう』


『ああ、剣を手に入れてようやく、本当の出発でヤンス』


 ヤンスキャラだー。もう絶滅しかかってるぞ。

 外見完全にクール系イケメンなのに。


「よーしよーし。ひとまずこれで剣はゲットだな。それじゃあもう夜になるし、さっさとアカリは帰って……」


「ねえ先生、さっきアカリちゃんが試練とか言ってなかったかい?」


「ん? そう……いえ……ば」


 なんか言っていた気がする。

 勇者の勘が告げている。まだ面倒事が残っていると。


「おいアカリ? アカリどこ行った?」


「ふわあぁ……お呼びですか?」


 ソファーでがっつり横になって寝る体勢だ。

 その毛布はどこから出した。


「いやうちで寝ようとするなよ」


「大丈夫です。お泊りセット持ってきましたから」


「泊まる気かてめえ!?」


「お腹がいっぱいになると眠くなりますよね」


 しまったこいつ駄女神だ。俺の平穏を崩す悪魔である。

 駄女神が急激に増えて大変アレなことになったからな異世界。


「アカリちゃん、剣に試練があるとか言っていたよね? それはどういうことかな?」


「試練……試練……あっ!! そうです! 試練の精霊とか番人的な感じのアレですよ!」


「落ち着いて話せ。どういうことだ」


「勇者が剣を抜こうとすると、ダンジョンと剣が共鳴して、精霊っぽい強い敵が出るんです」


「先に言えよ……」


 そこまで性能見てなかった。そういうお約束イベントもある世界なのね。


「どうするんですか!? もう部屋入って剣抜いちゃいましたよ!!」


 画面内で大喜びしている勇者一同。

 なんだか昔を思い出すわあ。


「先生、どうするの?」


「仕方ねえ。試練の精霊も作るぞ!」


「えええぇぇぇぇ!!」


 こうなりゃこれしかない。

 要するに勇者が満足すりゃいいんだ。

 あと試練を超えたという事実。


「こいつらが休憩中にささっと……」


『さあ、急いで帰りましょう!』


「急ぐみたいだよ」


「ええい時間止めてやるわ!!」


 世界の時間を止める。

 これで動けるのは俺とクシナダとアカリのみ。


「はい時間止めました。アカリ、試練の敵ってどんなのだ?」


「うわあぁ……本当に時間が止まってる…………こんな高度な魔法を詠唱もなしに……」


「何百番煎じだそのリアクション」


「先生なら何千いってないかい?」


 ありすぎてどれがどれだか思い出せん。

 全部ごっちゃになるよ。最終的にな。


「アカリ、試練」


「あっ、そうでした! えーっと、あの……あれですねあの……大きいですきっと!!」


「雑だな!?」


「こう、がおーっていう感じですね。わたしの勘では」


 両手を上に上げてがおーっとか言っている。

 これは本気なのかふざけているのか判断に迷う。

 だって本人真顔だし。


「つまり! その……わかりません! でもめげません!」


「めげろ。反省し続けてくれ」


 絶望的な状況の中、クシナダから助け舟が出る。


「前の勇者はどんなだったんだい?」


「その人に適した強さの精霊っぽいファンタジーな物が出るという風の噂です」


「なるほど。オリジナルで作ってもバレねえなこれ」


 これは好都合だ。まさにケースバイケース。

 今回が特殊な魔物でも問題なし。


「よしじゃあ案はあるか?」


「そうだねえ……精霊さんのように美しくしないかい?」


「大きくてかっこいいモンスターがいいです!」


 見事に合わない意見が出たな。


「勇者の試練ですから、かっこいいモンスターにしましょうよ」


「そこは剣に合わせて神聖さを出していこうよ」


「昆布入れようとした剣ですよ?」


「そこを突かれると痛いね」


 二人の話をまとめよう。

 ドラゴンとかはやめておくとして、あまりザコっぽい見た目も禁止。


「こういうのどうだ? 剣のガーディアンをイメージした」


 三メートルくらいの黄金の鎧だ。

 年季の入った木のような表面で、中身は空っぽ。

 胸に赤く大きな宝石を入れてある。それが核だ。


「ゴージャスですね!」


「それっぽくできていると思うよ。流石先生。いいセンスだ」


 好評っぽいのでこれでいこう。

 出口に転移させて、時間の流れを戻す。


「よし、ファイトだ勇者」


 あとはテレビで見ていよう。剣の力を活かせば勝てるはず。


『あら? あんな鎧ありましたっけ?』


『どうやら試練というやつでヤンスな』


「で、あの金ピカはどうやって戦うんだい?」


「俺が操作する」


 テレビにゲームのコントローラーつないで操作します。

 これならほどほどに手加減もできる。


『う、動きましたよ!』


『敵でいいのよね?』


『まさか原生生物ってこともないでヤンスよ』


 戸惑っているが、戦闘態勢は取っているな。

 んじゃもっとわかりやすくしてあげよう。


「説明不足だな。よしクシナダ、アフレコしろ」


「んん? どういうことかな?」


「赤い宝石から声が出るようにする。ほいマイク」


 マイクスタンドをクシナダの前に召喚。

 これであとは俺が操作する。


「先生がやればいいじゃないか」


「俺は操作する側なの。はいよろしく」


「こんなアドリブでいいのでしょうか?」


「いいんじゃね。スイッチそこな」


「えー、あ、あ、コホン。よし。聞こえるか勇者よ」


 クシナダはこういうの意外と乗ってくれるのだ。

 ちょっと太めの声で話している。


『喋った!?』


「我は剣を抜くものへの試練。帰りたくば力を示せ」


『やるしかないでヤンスよ!』


 戦闘開始。

 勇者の攻撃を移動ボタン二回押しでダッシュ回避。


『速い!?』


「ぼーっとしてると怪我するぞー」


「動かねば怪我をするぞ! フハハハハ!!」


 攻撃ボタン1で左腕に取り付けられたビームガン発射。

 ギリギリ見切って回避できる速度のはずだ。


『きゃあ!?』


『変わり身の術!!』


 勇者をかばった忍者。直撃したビーム。

 だがそこにあるのは丸太のみ。


「へえ、やるね。咄嗟に庇う精神も気に入った」


『忍者さん、ありがとうございます!』


『あんたらボケッとしてんじゃないわよ! フレイムシュート!』


 黄金ロボに大火球が迫っている。

 今度は攻撃ボタンその2。右腕からビームブレード登場。

 スパッと火球を一刀両断。


『うっそなにあれ!?』


「フハハハハ! その程度か勇者よ! いささかがっかりだぞ!」


 クシナダさんノリノリである。

 なんかストレス抱えてらっしゃるのかな。


「アカリ、ついでにアドバイスとかしてやれ」


「はい! 勇者よ、危ない! 右です!」


『え、右? きゃあ!!』


 右に飛んでビームにぶつかる勇者。

 そりゃそんな指示出せばそうなるよ。

 ビームは人体が消し飛ぶほどじゃないので、勇者は生きている。


『今回復するわ!』


「あああぁぁぁ右ってそっちじゃなくて、わたしから見てですすみませんんんん!!」


『そっちってどっちでヤンスか!?』


「どっちですかアキラさん!」


「俺に聞くなや!! 弱点とか言ってやれ」


「弱点ってどこですか!」


「フハハハハハハ!! 滅べ滅べ! このまま何もできずに死んでゆくのだ!!」


「クシナダうっさい!!」


 現場大混乱である。

 鎧操縦の手を止めてしまうほどに。


「胸の赤いコアが弱点だ。勇者の力を開放して、剣で斬れ。それで勝てる」


「わかりました! 勇者よ、攻略情報ゲットです!」


 そして戦闘再開。

 適当に威嚇混ぜながらのビーム連打。

 近寄ってきたら回避しつつ剣で応戦でいい。


『くっ、こいつすばしっこい!』


『作戦通りに行けば勝てるでヤンスよ』


『忍者さんの案を信じます!』


『忍法大爆煙!!』


 さて煙に包まれる勇者パーティ。

 ここからどう出るかな。


『フリージングドライブ!!』


 魔法使いにより鎧が膝まで凍りついている。

 まず足を止めたか。


「ぬうう! 小癪な人間どもめ!」


『今です!!』


 煙から勢いよく上空へとジャンプする影。

 勇者だ。上からコアを狙う作戦だろう。


「甘いわ! 足を止めた程度で我に勝とうとは!」


 クシナダの言う通り。

 まだ両腕がある。ビームと剣で対応できる。


『両腕が動くと思ったのが、運の尽きでヤンスよ』


 ボタンを押しているのに腕が動かない。

 よく見ると、鎧の影にクナイが刺さっていた。


『忍法影縛りの術』


「おおおぉぉ! やるな忍者!」


 ヤンスキャラじゃなきゃ心底かっこいいぞ忍者よ。

 作戦立案もこいつっぽいし、重要なポジションなのか。


『剣よ! どうか私に力を!! えええええぇぇぇぇい!!』


 そして深々とコアに突き刺さる勇者の剣。


「見事だ勇者よ……だが我を倒しても、第二第三の我が」


「いねえよ。完全に今回限りだよ」


「グアアアアアァァァ!!」


 鎧は光の粒子となって消えていった。

 これにてゲームクリアだ。


「おめでとうございます。剣の精霊が消え、帰りは安全な一本道になりました。あなたたちの勝ちです!」


 これは事前にそうなるようにしておいた。

 頑張った勇者パーティに、せめてものご褒美だよ。


『やりました!!』


『やったー!!』


『やれやれ、なんとかなったでヤンスね』


 勇者一行は疲れているが充実した顔だ。

 そのまま歩けば床の効果で回復もできるから、外に出る頃には完全回復している。


『勇者様だ!』


『勇者様が剣を!』


『伝説の剣を手に入れたんだ!!』


 外でカレー食っていた人々の大喝采。

 あんたら心配する素振りゼロだったよね。


「ま、これで一件落着だな」


「うんうん、アフレコちょっと楽しかったし、いいことをしたねえ」


「今回は本当にありがとうございました!!」


 元気いっぱいに頭を下げてくるアカリ。

 これでお別れとなると、少し寂しい気もするが、まあそれは仕方がない。

 世界の平和のためにがんばれよ。


「気にするな。新鮮で楽しかったよ。じゃあここからはアカリと勇者だけで……」


「これで残すは賢者の杖と究極の忍具ですね!」


「………………はい?」


「その後は四天王もいますし、魔王城に入るための宝玉探しや、移動手段の手配もありますし、まず四天王の城にある結界を破る方法がよくわかりませんけど、頑張っていきましょう!!」


「いやいやいやいや、やることそんなあんの!?」


 思った以上にお使いイベント山盛りの世界らしい。

 めんどくっせえ。絶対協力しないぞ。


「なので、これからもよろしくお願いします!!」


「いや帰れよ!!」


「まったく、先生はすーぐ女神に好かれるんだから」


「好かれてんのかこれ!?」


 アカリが俺にすがりついてくる。泣きながら。

 やめろ服が汚れるだろ。


「一緒に勇者をお助けしましょうよ~!!」


「断る! お前もう帰れ!」


「いーやーでーすー! わたしもここに住みたいですー! 美味しいご飯とエアコンがいいです!」


「それが本音かてめえ!!」


「ふふっ、ここも賑やかになりそうだね」


「俺の……俺の静かなスローライフがああぁぁ!!」


 俺のスローライフは始まったばかりだ。

 だというのに、俺はどこで間違えたのだろう。

 誰か、俺に真のスローライフというものを教えてくれ。


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