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5時計塔の伝説

例えどんなに小さな傷でも、受ける側の受け取り方で、それは癒えぬ呪いになる。



時計塔の番人に声を荒げてから数日。フェズの様子がおかしい。自分への接し方は変わらないけれど、お客さんへの対応が少し乱暴だし、物思いにふける様子をよく見る。

原因はやはり、時計塔にあるのだろう。けれど、彼と話した事の中に、思い当たるような情報は無かった。

どうしたら彼は元気になるだろうか。考えるけれど、いい案は浮かばない。思い悩みながら店の方の掃除をしていると、いつものように明るい空気を纏ったコルースさんが現れた。


「やあ、イデル君。元気かい?」

「コルースさん、フェズはまだ寝ていますよ」

「いや、今回は依頼じゃあなくてね。ちょっとここらに用事があったから、ついでに寄ってみたのさ」

「そうですか」


納得して、掃除の続きを開始する。しばらくして、コルースさんがじっと自分に視線を向けていることに気がついた。


「……なんですか」

「いや、いや。君はまた、ヴァルフ君とは違った意味で他人に興味が無いんだねぇ」

「……。」

「ヴァルフ君が居るとわからないが、こうして二人になると、キミがヴァルフ君以外に興味が全く無いのが良くわかる。……実に、面白いね」

「そうですか」


また、掃除を再開しようとして、ふと気づく。このヒトなら、彼の様子がおかしい理由も知っているかもしれない。フェズを“ヴァルフ”と愛称で呼んで怒られないコルースさんなら。


「……あの、フェズ、時計塔に行ってから様子がおかしいんです。何か、知りませんか?どうしたらフェズが元気になるのか」

「時計塔に?じゃあ番人に会ったのかい?」

「はい」

「……ああ、それは……。まだ彼には酷だろうねぇ……。」

「イデルは、何をしてあげられるでしょうか?」

「おや、聞かないのかい?何を知っているのか」

「気になるけれど、フェズの言葉で聞きたいから」


コルースさんがいやに愉しげに笑う。


「いいね、いいね。気に入った。ワタシがいい事を教えてあげよう」

「はあ」

「彼が時計塔の番人を嫌うのはね、自分の罪を思い出すから。彼の中にはまだ幼い少年が居座っているからね。彼は時計塔を、というよりも、『時計塔の伝説』を嫌っているんだ」

「……時計塔の伝説……?」

「彼に聞いてみるといい。どこまで話すかは知らないけど、伝説は教えてくれるだろう。言葉にして紡ぐと、自然と自分の中でも見つめなおせるモノさ。少なくとも、多少は楽になるだろう」

「!ありがとうございます、コルースさん!さっそく今日、聞いてみます!」

「いや、いや。いいよ。気に入った子のためだからね。――ああ、もう時間だ。ワタシはこれで失礼するよ。じゃあね、イデル君」

「またのお越しを、コルースさん」


コルースさんを見送り、フェズの寝室に様子を見に行く。


「……フェズ……?」


そこにあったのは、空のベッド。

慌てて家中を探すけど、彼の姿は無い。裏口の鍵が開いていた。外へ行ったのだろうか。今まで、自分に何も言わずに出かけた事なんて無かったのに。いつもの彼ならともかく、いつもと違う様子の彼を思い出して、不安になる。

「……フェズ……!」

彼を見て安心したくて、薄暗い道を明かりも持たずに駆け出した。



―――――――――――――――――



目が覚めたのは、もう夕方と言える時刻だった。下に降りれば、箒で床を掃く音が聞こえる。イデルが掃除をしているのだろう。ふと、棚に飾ってあった万華鏡に目を止めた。手に取って覗き込めば、しゃらしゃらと音を立てて、煌めく石が景色を変える。


“それがお前の相手か?楽しみだ、お前とその子はどんな踊りを魅せてくれるのか”


「……っ!」


番人の声が聞こえた気がして、辺りを見回す。そんな訳ない。あいつは塔から出て来ない。わかっていてもじっとしていられなくて、イデルに何も言わずに家を飛び出した。

そのままあてもなく歩く。何処をどれくらい歩いたのか、聞こえたざわめきにふと目を向けると、何やら賭け事が行われているようだ。

時折、こういう集まりが開かれる。自分たちの賭けるモノを持ち寄って、好きなゲームで賭けをする。近付けば、どうやら一人勝ちしている男がいるらしい。そのまま通りすぎようかとも思ったが、男の後ろに並べられた品の一つを見て、気が変わった。男の前に出て、勝負を申し出る。賭けるのは、手に持ったままだった万華鏡。価値を説明すれば、男は自分の戦利品全てを賭けると言う。自分の後ろのモノ達の価値を知らないらしい。口元に浮かぶ嘲笑を隠しながら席につく。勝負の内容は、ポーカー。……俺の、得意分野だ。



―――――――――――――――――



フェズを探して、闇雲に知っている道を走る。息があがって、喉が痛い。走っているつもりが、のろのろと歩くことしかできなくなった頃、大きなざわめきが聞こえた。目を向けると、そこにはフェズの姿。安心して、もう歩けないと思った足を動かして近付く。その時、怒鳴り声が響いた。


「――い、イカサマだ!お前、なんかズルしてるだろう!」

「していないが」

「してるだろう!じゃなきゃ、連続でロイヤルストレートフラッシュなんて決められるかよ!」

「カードは得意なんだ」

「こういうのは得意不得意なんて関係ねえだろう!」

「イカサマってのは、アンタがやったみたいに、隠したカードを混ぜたり、こっそりカードを入れ換えたりする事じゃあないのか」

「な、オレはそんな事……!」

「大体、イカサマしちゃあいけないなんてルールは無いぜ?ここは影の国。賭け事のイカサマも、上手く影に隠せば合法だ」


その言葉に、周囲のヒト達が幾人か深く頷く。

その男はそれ以上何も言えなかったようで、やけをおこしたように「わかったよ、もう好きなだけ持っていけばいいだろう!」とわめいて、乱暴に背後の戦利品であろうモノをフェズに差し出した。


「全てはいらない、これだけでいい」


乱暴に出された中から二つ何かを取ると、フェズは男に背を向けた。男は顔を真っ赤にしていたが、これ以上醜態は晒せないと思ったのか、何も言うことはなかった。

ざわめく人混みを掻き分けて、あっという間に人通りりの少ない道に行ってしまったフェズを追いかける。


「フェズ!」

「!……イデル?お前、何でここに……」

「フェズ、気づいたら居なかったから……、探してた」

「……悪い、心配かけたな」


これ以上沈んだ顔をして欲しくなくて、ふるふると首を振る。それがわかったのか、ふ、とフェズは苦笑して、イデルの頭を撫でてきた。


「……それ、何?手に持ってる……。」

「ああ、これか?さっきの戦利品だよ。こっちのオルゴールは聖魔法がかかっているんだろう。聖魔法のかかった道具は希少だからな、欲しくなった。……あと、これは、」

「……髪飾り?」

「そう、お前によく似合うと思ってな、瞳の色とおなじ澄んだ紫だから、思わず足を止めてた」


静かに言う彼の瞳は静かで優しい瑠璃色で、出かけたら少し楽になったのかも知れない、と嬉しくなった。……どちらからともなく手を繋いで、細い月の下、暗い道を歩く。


「……ねえ、フェズ。時計塔の伝説って、何?」

「……、誰かに聞いたのか?」

「コルースさんに……。」

「ああ、あいつは俺が子供の頃から知っているからな。……そうだな、別に面白い話でも無いが」


曰く、満月の夜、陰りの時計塔で、真実の愛を交わす二人が特別な音楽に乗せて踊り、その愛が時計塔に認められれば、永遠に近い不老長寿になるという。特別な音楽とは、満月と新月の真夜中に小さく塔から流れる曲のことらしい。


「……俺の両親は、それを実行して死んだ。闇に呑まれて、何も残さず」

「!」

「愛が認められなければ、闇が集って挑戦者を呑み込む。……は、バカらしい。なにが真実の愛だ。永遠の愛などあるものか。何をもって真実とするのか、その定義すら曖昧なのに、なにが愛を認めるだ」


苦々しげに呟く彼の横顔は、まだ何か隠しているように思えたけれど、それ以上にとても苦しそうな、哀しそうな顔をしていたから、握った手に力を込めて、何も言わず、ただ寄り添う事しかできなかった。



塔が見下ろす月夜を歩く。君の心も、月に陰る。

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