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17星が一つ、地に流れた

今宵も時計塔は夜に陰る。



ランプの明かりが眩しい真夜中、店の前で空を見上げる。今夜はいい星夜だ。

ぱたぱたと支度を終えて出てきたイデルと手を繋ぎ、夜の街を歩き出す。

ひとけの無い静かな夜道は、いつもにぎやかな様子を知る者からするとまるで別世界だ。その静寂に音を落とす事を躊躇うように、特にどちらも口を開く事はなかった。その沈黙が優しく穏やかだからだろう。


ふと、小さな通りにはしゃぐような声が響き、淡い光が波打った。誰かが発光石か何か落として遊んでいるんだろうか。


「楽しそうだね」

「そうだな」

「前にフェズがやってくれたよね。イデルもまたしたいなあ」

「帰ったらやるか?」

「いいの?」


やった、と笑うイデルもどこかはしゃいだようで、初めての体験を楽しみにしている事が分かる。

繋いだ手をゆらゆらと揺らして、薄暗い夜空を見上げた。


しばらく歩くと、同じように手を繋いだ二人組と行き逢った。


「おや、こんばんは」

「こんばんは!」

「あなた方も時計塔に?」

「ああ、そちらもか?」

「ええ。久しぶりに影の国に帰って来たから」

「外の国に行っていたんですか?」

「はい。見目が変わらぬというのは、やはり影の国以外では目立ちますな」


そう言って笑う男の頬には、うっすらとした鱗と、俺と同じ雫型のアザ。


「失礼ですが、種族を訊いても?」

「ああ、私は竜人族でしてな、妻は人間族です。ずいぶんと年が離れているものですから、婚姻した当初はさんざんからかわれました」

「竜人族……!初めて会いました」


年が離れていると言っていたが、見た目はどちらも結婚適齢期の男女に見える。竜人族は長命種故に老化が緩やかだ。そのせいだろう。


時計塔の前に行く所があると言う二人とはすぐに別れ、また静けさが道に戻る。


「ねえフェズ」

「なんだ?」

「あのヒト達、不老長寿になってから五百年くらい経つんだって」

「へえ、そうか」

「イデル達も、五百年後も一緒にいたいね」


不老長寿は不死ではない。怪我や病に強くはなるが、それらの要因で死ぬ可能性もある。イデルはそれを案じているんだろう。だから俺はイデルの手を握る手に力を込めた。


「いるさ、一緒に。何百年経っても、死のその先も。ずっと一緒だ」

「うん」


イデルの手にも力が入り、その顔には笑顔が咲いている。

なんとなく照れ臭い気持ちになって、少し足を早めた。



―――――――――――――――――



時計塔に着くと、複数の人影があった。どこも二人一組で、時計塔の周りを囲むように立っている。


「おや、ヴァルフ君にイデル君。しばらくぶりじゃあないか!」

「コルースさん!」

「お前も来ていたのか」

「もちろん!そうそう、ワタシの伴侶を紹介しようじゃないか!この子がワタシの自慢の伴侶だよ!名前は秘密さ、呼んでいいのはワタシだけだからね」

「……よろしく……」

「よろしくお願いします!」

「よろしく。……意外と独占欲が強いな、コルース」


コルースと同じように、鳥を模した仮面と体格を隠すコートに身を包んだ伴侶とやらは、コルースとは対照的に大人しい性格をしているようだ。まあ、コルースが人一倍騒がしいから、丁度良いのかもしれない。


「独占欲が強い訳ではないよ!ただ伴侶が好きすぎるだけさ」

「そうかよ。のろけか」

「その通り!」


軽いやり取りをやっている間に、時計の針が進む。ざわざわと会話を楽しんでいた者達もそれぞれの伴侶と手を取り合った。もちろん俺とイデルも。

カチリ。針の音が響くと共に、先日ぶりの音楽が塔から流れる。その音楽に合わせて踊り出した。


楽しげな笑い声と音楽が夜空に響く。今夜は新月。闇が多くなりヒトの出歩かない夜は、不老長寿の者達が集まって塔の下で舞い踊る。

神話にあるように、神を慰めるように華やかに、皆楽しげに軽やかに。


世代も種族も違う者達が集まり、思い思いに踊るさまを神はどんな気持ちで見ているのだろうか。イデルの笑顔を見ながら思う。

少しでも慰められていたらいい。俺にとってのイデルのような存在を奪われた神。せめて見る夢が優しいものであるように。


今夜は番人の姿も見えない。結局、番人の正体とは何なのだろう。神話に登場したもう一つの存在を思い出して、頭を振った。いずれ知る時も来るだろう。わざわざ力を使って調べても面白くないか。


ふわりふわり、光が舞う。満月の下踊ったあの日のように。蛍火のような淡い光は、幻想的な景色を映し出す。

くるりくるり、舞い踊る。誰もが笑顔で楽しげに、優しい瞳で伴侶を映して。


「ねえ、フェズ」

「ん?」

「また来月も来ようね」

「ああ」

「その次もだよ?」

「ああ」

「ずっと一緒にいようね」

「ああ」


かわりばえの無い日常の中、優しい光を探し集めて。何十年でも、何百年でも、ずっと隣に。

“ずっと”なんて夢物語も、語り続ければ現実になる。きっと、何百年経とうと、俺の隣にイデルがいると信じられる。

それは、時計塔の伝説を成功させたからとかいう理由ではなくて。きっと、俺自身の想いと、イデルが向けてくれる想いを信じているから、そう思えるんだろう。

その感情が真実かどうかは、その感情に付けた名前を信じきれるかどうか。それもまた、一つの考え方として、いいんじゃないだろうか。

イデルを抱き締めて、空を仰ぐ。楽しげに笑うイデルと共にくるくると回りながら、星の瞬く夜空に笑った。



時計塔が時を刻む。その真上で、一際鮮やかに輝く星が一つ、強く瞬き地に流れた。

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