第7話 毒骨少女の霊歌1
嫉妬せざる者には恋愛はしえず
古代の哲学者の名言だ
だが相手からすると面倒ではないかね?
オーク、ゴブリン、コボルト・・・。
武装した人型モンスターが群れをなしてダンジョンを進んでいる。進軍しているといった方がいい。
その前に立ちはだかるのはスケルトンの兵士達だ。剣と盾を構え人型モンスターの軍勢に対抗している。
ただ、オークが武器を振るえば、スケルトンは簡単に砕け、ただの骨にもどる。あまり強くなさそうだ。
だが、次々と地面からスケルトンが湧き出し、戦線を維持していた。
スケルトンの後ろには、マントに身を包む小柄な少女の姿が見える。身体にぴっちりとした黒い法衣、長くたなびく白い髪。身体の周囲を骨のプロテクターが旋回し、スケルトンを召喚する様子から、少女が死霊使いであることが見てとれる。
男性死霊使いにありがちな、背の高い細身の体形と異なり、この少女は肉感的で胸も大きい。一般的な死霊使いのイメージと対照的にムチっとした健康美に輝いていた。名をスキャパという。
「レイズ… スケルトン・メイジ」
スキャパが召喚魔法を唱えると、今度はローブを羽織ったスケルトンが6体、現れた。
魔法攻撃を得意とするスケルトン・メイジだ。
その両手が発光するやいなや、炎や雷の魔法がオーク達に襲いかかった。
「GYAAAA!!!」
「GUHUAAA!!」
炎の魔法でオークが焼かれ、雷の魔法でコボルトが感電死する。
大混乱に陥る魔物達の様子に、スキャパの口元には笑みが浮かんでいた。
「……このまま押し切れそう」
だが、その安堵は長く続かなかった。
魔物たちの足元を縫うように小さな白い影が走る。
身長はスキャパのフトモモぐらいまでしかないが、頭部が異様に大きい。その小さな白い身体が発光をはじめる。
「……骨チビ!」
その瞬間、スキャパの足元で大爆発が巻き起こった。
ドドドーン!!!
あたり一面に黒煙が舞い上がる。スキャパの身体はすさまじい爆圧に飛ばされ、石畳をはねるように転がり、あたりに血しぶきが飛ぶ。
「・・・う、あ・・・」
呻き声をあげるスキャパ。全身を激痛が走り、視界が歪む。
フェティッシュと呼ばれるモンスターの自爆攻撃だ。
プロテクターがなければ即死だったろう。
「GIGIH!」
もやが立ち昇るなか、気味の悪い声が聞こえる。
「ち……まだ来るのか。ボーンアーマー」
骨のプロテクターが現れ、スキャパの周囲を旋回する。
意識がハッキリとしてきて魔法は使えるようになったが、体は痺れて動けない。そこに、3体のフェティッシュが迫ってくる。
「く…………」
1体でもこのダメージだ。それが3体ともなると、とても生き残ることはできないだろう。
フェティッシュ達は笑うような表情をつくると、ためらいもなく自爆した。
ドオオオオン。ドン。ドオオオオン。
3つの爆発がほぼ同時に起こる。
先程とは比べものにならない、振動と爆煙が巻きおこった。
「!………………」
思わず目をつむるスキャパ。
だが、いつまでたっても、死は訪れなかった。
「あれ……?」
スキャパが恐る恐る目を開けると、石畳がめくれ上がり、壁のようになっていた。
振り返ると、背の高い男が、石畳を槍で支えている。
これはどういうことなのか。
「しばらく休んでいるといい、じきに回復する」
男の後ろからバルブレアが現れた。スキャパの傍に膝をつくと、オーラを立ち昇らせる。
オーラに包まれると、スキャパの傷が少しずつ癒え、痛みも和らいでいく。
「………これは、聖騎士の癒しのオーラか」
バルブレアはスキャパの姿を不機嫌そうに眺めると、秋に声をかけた。
「さすがレンバ殿! 実に見事なものだな!
こちらは私が手当するので、周囲を警戒して欲しい」
「まさかここで“畳おこし”ができるとは思わなかった……」
秋が槍を引き抜くと、煤で真っ黒になった石畳が崩れ落ちる。
その槍には穂先にあるべき刃がなかった。
木製の槍で石畳を貫き、それを持ち上げたというのか。状況を理解するとスキャパは目を剥いた。
「これは……一体?」
「レンバ殿が貴公の危機を察知し、駆けつけたのだ。
しかし、女人の死霊使いは初めて見るが、実に過激なスタイルなのだな。
これはレンバ殿の目に毒だ」
スキャパの法衣は、爆風でほとんど吹き飛び、黒いビキニのパンクロッカーのような姿となっていた。
大きな胸、くびれた腰、そして豊かなお尻が惜しげもなく披露され、秋は目のやり場に困っていた。
「健康的な死霊使いとは反則ではないかね?」
バルブレアは実に不機嫌そうだった。