第6話 強奪生演奏
男は度胸、女は愛嬌
とんでもない嘘つきがいたものだ
古典文学の頃から器量は正義だぜ
「レンバ殿、いかがした?」
頭を抱える秋の顔をバルブレアが覗き込む。
「!」
いや、近い近い!
息がかかる程の距離に飛びのく秋。
その様子にバルブレアは眉をしかめた。
「さように警戒されるとは心外だな。
このバルブレア。恩人を害することは誓ってないぞ」
「あ、すいません。そうじゃないんです。
・・・・・・女性に慣れてなくて」
バルブレアは意外そうな顔をした。
「はて、レンバ殿ともあろう美丈夫が、これはまた面妖な。
上背は高いし、男前だ。
槍の腕を知らずとも女人がほっておかんだろう」
・・・男前?
はて・・・??
秋は混乱した。
まあ、この世界に当てはまるのか分からないが、中世ヨーロッパは人種にもよるが身長が低かったらしい。
180cmあり、武道で鍛えている秋だ、(美)丈夫と呼ばれるのは分からなくもない。
だが顔はどうか。
いささか西洋人っぽい凹凸のある顔ではあるが、バランスが良いと思ったことはない。
モテた記憶もない。
まあ、男子校&男子校的な環境ばかりで女を見ることもあまりなかったが。
思うところがあって、秋はバルブレアに確認した。
「ちなみにバルブレアさん、私の顔のどこがいいのでしょう?」
「なんだ、それを言わせたかったのか?
決まっておろう、貴公の鼻は素晴らしく魅力的だ。
聖騎士として“いかん”とは思うのだが、ついつい貴公に目がいってしまうのだ」
「あ、やっぱり・・・」
目の小さな日本人と異なり、目が大きいのが珍しくない西欧では、美のポイントが鼻になると聞いたことがある。
異世界人に来たらイケメンになっていたとか、そういう訳ではないらしい。
少し残念な気持ちになりつつも秋は、ニヤニヤと恥ずかしそうにするバルブレアを見て、まんざら悪くないと思うのであった。
「無礼であったら申し訳ないので先に謝っておく。
女人に免疫がないというのも良いものだな。
軽薄な女が貴公に手を出しておらんというのは、清潔感があって実に良い」
一言も童貞とは言っていないのだが、
何やらバルブレアさんの妄想は止まらなくなっているようだ。
まあ、間違ってないんだけどね。
すっと秋に手を伸ばすバルブレア。
「何もしないから、逃げないで欲しい」
バルブレアは秋の肩を掴み、距離を測るようにゆっくりと近づく。
「いや、バルブレアさん、絶対何かする気でしょう」
「何も悪いことはせんよ。悪いことは・・・」
これまでとは目つきが変わっているバルブレアに秋はたじろぐ。
突然の未体験ゾーンの出来事だ。ドキドキするような甘い感覚ではなく、秋は混乱状態にあった。
ドドーン。
バルブレアの顔が迫ってきたとき、遠くで爆発音が響く。
「バ、バルブレアさん、またにしましょう!
何か爆発音が聞こえます!」
「そうなのか? 良い雰囲気になってきたと思っていたのに、それは残念だな」
バルブレアは不満そうな表情をしつつも、秋から離れ、音の方を振り返った。
秋にとっては、ダンジョンの異変より、バルブレアのアプローチの方が脅威であった。