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後日譚 愛と生に生きる 後編


ここは魔王城の中心とも言うべき“王の間”。勇者、女格闘家、聖騎士、聖女、賢者の5人が魔王と対峙していた。

魔王を守るべき将軍達の姿はない。全て、勇者達に打倒されていた。


「みな、気をつけろ。迂闊に切れば世界が終わることになるやも知れん。面倒だろうが“例の問い”を引き出すのだ」


伝承に精通している賢者が皆に注意を促す。経験豊富なのはこの賢者だけで、あとの4人はいずれも10代だ。このため賢者は指導役に徹していた。


「まかせとけ! じゃあさっそくいくぜ! バルブレア、いいとこ見ててくれよ!」


勇者は空中に舞い上がり、雷をまとった剣を振るう。


ギィイイン!


勇者の剣が一撃で魔王を切り裂いた。その黒い巨体を斜めに亀裂が走っていく。


『ミ、見事ナ腕前ダ……。余ノ将兵達ヲ悉ク斃スダケハアル』


切られた魔王は、笑みを浮かべていた。


『ダガ、一瞬、遅カッタナ勇者ヨ。余ノ術ハ既ニ発動シタ。

 貴様ラモコノ世界ゴト滅ブ……余ハ討チ倒サレタガ負ケデハナイ…』


勇者達を見下ろす魔王の背後に巨大な魔法陣が出現した。


「ば、馬鹿な?!」


「馬鹿はおめーだよ! だから切るなってあれ程、言ったろこの脳筋! 魔王殺したら誰が禁術を止めれんだよ?!」


「……倒せばいいんだと思っていた。ど、どうしよう?!」


魔王の発動した古代魔法は、次々と新たな魔方陣を生み出し、その魔法陣がさらに多くの魔法陣を作り出す。やがて術は大地に広がり、世界を包んでいこうとしていた。





古代魔法の威力は凄まじかった。増殖する魔法陣は瞬く間に広がり、それは遠く離れたエルフの森にまで届こうとしている。


「あ、あなた!」


異様な波動を感じ取った聖騎士(パラディン)モーレンは夫の弓術師(アーチャー)テナニヤックに声をかけた。既に防御のオーラは全開にしている。


「これは神代の禁呪か?!」


テナニヤックは言葉と同時にエルフ族に伝わる魔除けの(まじない)をかけた。


だが、エルフの森を守る結界もモーレンのオーラもテナニヤックの(まじない)も、魔王が放った禁呪を防ぐことは出来なかった。森はあっという間に魔法陣に飲み込まれていく。


「モーレン、せめてあのコが助かるよう僕達は祈ろう」


テナニヤックを守るようにモーレンが覆いかぶる。その瞬間、増殖する魔方陣が2人を覆った。


!?


目を閉じた二人だったが、破滅も死も訪れることはなかった。


「こ、これは? 空間が歪んでいる?」


テナニヤックが目を開けると増殖する魔法陣は“歪曲を続ける空間”に阻まれ、その動きを止めていた。


「驚いたな。そっくりじゃないか」


秋はテナニヤックを守ろうとする聖騎士(パラディン)を見て驚いた。幾分、歳上に見えるがバルブレアに瓜二つだ。

ステータス表示を見ればバルブレアの両親とある。


「って言うか、お前、案内先間違えただろ? あれ母親じゃないか!」


『あたしの性じゃないわよ。あの禁呪が邪魔したからだわ』


「言い訳はなしだ。それより、後で面倒にならないよう、ここの女神に話つけてこいよ」


『ちょ、ちょっとあんた何する気? まさか……』


「き、君達は一体?」


テナニヤックは驚いて2人を見詰めていた。男の子は人間のようだが、女は“女神”のような波動を放っている。


「分かるわ……」


『「「え?」」』


細い顎に手をやり、しきりに頷くモーレンに、皆が虚を突かれた。


「あなた、うちの娘の思い人でしょ? あの()の好みは分かるのよ(私と同じだし)」


「ちょっと、モーレン? 今はそんな話をしている場合じゃ…」


「いいえ、何かピーンとくるのよ」


「あ、いや、ともあれ、今は先を急ぐので…」


ややこしくなりそうな気配を感じ、秋は二人の周囲に空間防御を固定し、有無を言わさず飛び去る。急ぎ禁呪のもとへ移動せねばならない。


「凄いお母さんでしたね」


「……手強そう」


ミルトンとスキャパの感心する声が聞こえてきた。秋は同意しつつも敢えて口は挟まなかった。


秋が飛び去る姿をモーレンとテナニヤックはじっと見つめている。


「女神と対等に口を聞くとは驚いたな。それに、この禁呪を止める力を人間が持つなんて信じられないよ」


「あの細い腰つきといい……わが娘ながら……なかなかやるわね」


「……君は本当、マイペースだね」





「古代の禁術か。最期に伝説を見ることが出来たのを何と言うべきかのう」


賢者はとめどなく拡大する魔方陣を見て呟いた。


「せ、世界が……終わっちまう」


女格闘家は、力が抜けたのかへたりこみ涙を浮かべていた。勇者も聖騎士も言葉を無くし、膝を屈してしまっている。


その時、ゆらりと空間に歪みのようなものが起こるのを聖女が感じた。


「……あ、あれはなんでしょう?」


空間の歪みから槍のようなものが突きだし若い男が現れた。男は一同を見回し、安心したように頷いた。


「さすが疫病女神だな。いなければ狙いバッチリだ」


『(離れてても聞こえてるわよ)』


「さて、立てるかい?」


秋は女神(バランタイン)の声は無視し、バルブレアへと手を伸ばした。


「え……」


バルブレアは呆けた顔で秋を見つめている。彼女にとって信じられないような瞬間であった。


(魔王を前に膝を屈する我らの前に、さっそうと現れるやも知れぬ)


かつて勇者に語ったバルブレアの言葉だ。それがいま、現実の出来事として目の前で起こっている。


うろんな状態のバルブレアの手を秋はぐっと握り一気に引き起こした。


「ご、強引なのだな」


頬を赤く染めたバルブレアは夢見心地のように呟やいた。秋は笑いながらそのおでこを指先で弾き、“しゃん”とさせた。


「い、痛い! 何をするのだ~」


「あれを止めるのに、もっと力がいる。しゃんとしてオーラで支援しろ」


「わ、わかった!」


何故とは聞かずバルブレアは秋の言葉に従った。身体が震える。待ち望んだ“王子”との確信があるからだ。


「スキャパ、(カース)で抵抗値を下げろ。子供達は手を出さず、いいコにして待っていてくれ」


「……了解した」


「はーい」


姿は秋しか見えないのに、何人もの声が聞こえる。不思議と懐かしいような声だ。


「貴殿のほかにも誰かいるのか?」


「安心しろ、皆、お前の仲間達さ」


「信じるぞ」


そこにこの世界を担当する女神(デュワーズ)が現れた。後ろには女神(バランタイン)の姿も見える。


『人の子よ。何をする気なのです。もはやこの禁呪を解除することは出来ません』


『いやいやデュワーズよ。こやつなら・・・』


女神(デュワーズ)よ。確かに俺の力では、この禁呪を解除することは出来ない」


『ちょ、ちょっとあんた!』


「だが、この世界を守ることなら多分できるぜ」


言うが早いか秋は稽古槍を大地に向けて構える。


「ィエエエエィイイ!!」


喉が裂けるほどの気合を発し、秋は稽古槍を地中深くへと差し込んだ。スキャパの(カース)で大地の密度は緩々になっていた。


「“非破壊属性”をこの星に! そしてこの世界に!」


驚く女神達をよそに、槍を差し込んだ大地の裂け目からオーラが迸った。光とも波とも知れぬその力は、増殖する魔法陣に対抗するようにこの星を覆っていく。


『この神のごとき波動は?!』


『まあ実際、神の加護だしね。それにしても、あんた何考えてんだか。大事なものだったんでしょ?』


女神(バランタイン)は呆れ顔をして秋を見ている。


「そうか。禁呪が消せないというなら“あっても耐えられる”ようにしてしまおうという訳じゃな」


賢者の言葉に秋は頷き、笑みを浮かべる。


「魔法陣が残ったところで禁呪としての効果はもうない。まあ、鬱陶しいかも知れないがな。そのうち誰か賢い人が何か考え出すんじゃないか?」


「ふむ」


「さて終わったし、皆も出てきていいぞ」


言葉が終わらないうちに秋の後ろには、スキャパ、ミルトン、アードベック、イシアンの姿が出現した。ミルトンが秋の道着の裾を引っ張って懐いている。


『ここは例を言うべきなのかな?』


女神(デュワーズ)は戸惑いを浮かべている。


「ああ、別にいいよ。こちらの都合でしたことだ。それに、ちょっとややこしい能力を持った子供達なんで人間の世界で暮らすのは難しい。ここで一緒に暮らしたいんだ」


「……一緒に暮らす」


その言葉に頬を染めるスキャパ。目聡くバルブレアがその様子を見つけ、秋に食い入る。


「貴殿とその娘はどのような関係だ?」


「(おお! 面白くなってきおったのじゃ!)」


いる筈のないプルトニーの声が幻聴として響いた。経験というのは恐ろしい。


「ああ、説明するのが面倒だから、時間ごと記憶をつなげるよ」


秋はバルブレアの頭に手を伸ばした。

だが、その右手に触れられる前にバルブレアはぐっと掴まえた。


「え?」


「それは御免被る。貴殿との関係はこれから一緒に構築したい。例え未来で何があったとしても」


バルブレアはスキャパに向かって挑戦的な視線を送った。





青く輝く緑の星・地球。

その星の上空を幾つもの光が交錯していた。

あの日の破滅の直前だ。


空間操作を用いて秋は全てのミサイルを消し去ってしまった。ミスもあったが時間を戻しつつ何度も修正を行った。


ようやく作業が終了し、秋は道場に通う自分の姿を認めた。

その隣にはバルブレアとスキャパの姿がある。


「おお! あれが元のレンバ殿か! 何故かは分からんが何とも初々しいではないか!」


いつものようにバルブレアは興奮していた。

結局、知りたいという誘惑に負け、記憶をつなげてもらったバルブレアは完全に元の状態に戻っていた。


ふと秋は、到達者と出会った頃を思い出し、自分のステータスに手を加えて外見年齢を12歳に設定した。たちまち秋の姿は12歳の男の子となる。


「おお! こ、これは?!」


「……キュン死する」


まあ、一生懸命手伝ってくれたんだし、これぐらいのサービスはいいだろう。悶える2人を抱えて秋は飛んだ。次はプルトニー達の手助けをしないといけない。


この世界の神とは、世界のルールを設定する存在だ。ある面、全能とも言える。だが、秋はその神への道を選ばなかった。人間の域を遥かに超える力を手にしていたが、それは様々なルールの中での力に過ぎない。


バルブレアやスキャパに引っ張られながらふうふう言っている。そんな状態が楽しかったからかも知れない。


『結局、選べない男ってことかしら。全くもってダメンズね』


「軽率とか増長を司る女神に(たた)られてるもんでな」


挑戦的な笑みを交わし魔界へと飛ぶ。

そこでもきっとややこしい仲間と面倒な冒険が待っているのだろう。


ありがとうございました。


次作、「異世界特区」をはじめます。

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