後日譚 愛と生に生きる 前編
何もない空間の広がり。
女魔法使いのプルトニーと秋が対面している、
「いや、ちょっと待て“淫乱” よく考えたら妾、最後、全く活躍しとらんぞ!」
「そうだったっけ? 派手な魔法撃ってたろ?」
「サイクロプス共の先頭を妾が蹴散らし、その死体をこやつが蘇生して操る作戦でな。これがもうどどんと・・・って、聞いておるのか?!
「いや、だからやってたってば。スキャパの再生怪物軍団と死呪士のゾンビ軍団が激突して“しっちゃかめっちゃか”になってたよ」
「ついでに言うなら、スキャパ殿が死呪士に胸を揉まれて、ぶち切れておったぞ。あれは怖かったな」
いつの間にか聖騎士のバルブレアが現れて口を挟む。そして秋の笑い声が木霊した。
「……記憶にない」
名前を呼ばれた死霊使いのスキャパは眉根を寄せている。
「まあ、時間戻したからな」
「……時間を戻したのなら、また対決することになるのか?」
「いや、残念(?)だけどもう蟲毒は破壊済みだ。“終わりのダンジョン”ごとなくなってしまって時間操作が通用しない。仕方なく俺が作った空間にかろうじて留まっている状態だな」
「……良かった。あれは黒歴史としてもう表に出ることがない」
「ん? 何か不満でもあったか?」
スキャパはぶんぶんと首を振った。
「不満はあるぞ! 言っておくが、こやつはおぬしに惚れておる。“変態”にどう迫られておったかは知らぬが、ないがしろにしようものなら妾が許さんぞ」
「(……馬鹿、これ以上ややこしくしないで~)」
「ほほう! これは面白くなってきたな。どうするのだ槍使い殿?」
「二人共貰っちゃえばいいです!」
弓使いの蓮華は興味深々といった態度。リザードマンのミルトンも楽しそうだ。
「なんと? 女子の口からさような声があがるとはな!」
「リザードマンの社会はハーレム型のコロニーを作るのも珍しくないんです」
「そうなのか。まあ、実を言うと私の故国でも妾を囲うのは珍しくない。私は感心せんがな」
「あ、私それ無理です。おじさんなんで、もう一杯一杯です」
魔物使いのロイグは両手を挙げて降参のポーズを取る。その顔を蓮華が下から覗き込んだ。本当か疑っているような視線だ。
やがて蓮華は手をロイグの腕に回し、離れないようにギュッと力を込めた。もうタイタンスライムではなく自前の綺麗な手なので、ロイグの腕を破壊するようなことはない。ロイグはと言えば、やはり年若い女の子に慣れないのか慌てふためき、肩の上のタイタンスライムが揺れてプルプルしていた。
いつまでもハーレム論議が終わらないのに秋が苦笑いを浮かべていると、やおらスキャパが立ち上がって声を張り上げた。
「……外野は黙っていてもらおうか。機をあらためて直接、決着をつけさせてもらう」
「おお! よう言うたな! 妾は応援しておるぞ」
「(……ど、どうしよう?! 居た堪れなくて言っちゃったけど、全く勝てる気がしない……)」
鋭い視線をスキャパに向けたバルブレアもすっくと立ちあがった。やおらギャラリーからは歓声が上がる。そして、バルブレアとスキャパの間で火花が飛びちった。もちろんプルトニーの魔法だ。
『盛り上がっているところに水をさすことになるが、それぐらいにせよ。秋よ、そなたはこれからどうするつもりだ?』
秋の前に女神が現れ、本論へと引き戻す。ギャラリーからは不満のため息が漏れた。
「(え? その口調に戻るの?)」
『(女神として威厳というものがだな…)』
「まあ、ともあれ“直し”に行くよ。色々引っかかっているところをさ。もうダンジョンはないから、ダンジョンに来る前の部分になるけど」
「ああ! 妾は今のままで良いのじゃ。言っておった“魔王退治”は及ばずじゃ」
「大切な理由があったんじゃなかったか?」
「おぬし達を見ていて気が変わった。解決すると余計、面倒になるのではないかと思えてきたのじゃ」
プルトニーは秋、バルブレア、スキャパを一瞥してから目を閉じ腕を組む。青筋を浮かべたスキャパがまたベキっと骨の槍をへし折った。
「ここでは老戦士との良き出会いもあった。あやつの世界を直すのなら、そこに投げ込んでおいて欲しい」
「いや、俺は元の世界に未練なんてないな。逆にあんたの世界を見てみたい」
プルトニーは驚いてオーバンを見詰めていた。
「じゃ、2人は崩壊するずっと前の魔界に送るよ。ほかは希望があるかい?」
「すまないが僕は元の世界を崩壊から救いたい。たくさんの魔物達が泣いているように感じるんだ」
言い出しにくそうにロイグが打ち明ける。魔物の声が聞こえる彼らしい選択だった。
「それは良いことだ。ロイグ殿の親御殿にもタイタンスライムの親御殿にも挨拶したい」
「分かった。後で俺も手伝うよ」
「かたじけない! 秋殿が来られれば100人力だ!」
「僕の立つ瀬がないけど実際そうだな…」
「なんじゃ、妾達にはサービスが悪いのう」
「今のプルトニーの力なら自分で解決できるだろ」
秋の言葉にプルトニーが黙る。結局、行く当てのない女暗殺者もこれを手伝うことにした。正体を隠しているが女暗殺者も魔族なのだ。隠しきれないボディーラインに惹かれた重装騎士は、報われない旅に出る。バルブレアに憧れていたときもそうだが、叶わぬ恋をしてしまう性だった。
『では秋よ、長い旅になりますが“直し”に行きましょうか』
「ああ。ちと遠いんで、ガイドを頼むぜ」
『(私はカーナビではないですぅ)』
女神は微笑みを浮かべると秋を伴い姿を消した。皆も姿を消し、そこには何もない空間だけが広がっていた。
◇
広大な迷宮とも言える深いダンジョン。その最奥の部屋の前に探索者達がいた。
前衛はクルセイダーを中心にバーバリアンと格闘家が左右に並んでいた。後衛には僧侶と祈祷師が控えている。
秋が部屋の奥に視線を向けると「ボス部屋」との表示が目に入った。
さらにステータスを表示させていくと…
出現条件=宝物の持ち去り
出現怪物=悪魔“龍の腕”、悪魔“火花の拳”、下級悪魔10体
…とある。
『また長老! はは、あんたよっぽど縁があるのね』
「大人しい撫子に縁がないのは誰の祝福のせいだと思う?」
秋と女神バランタインは互いに挑戦的な笑みを交わした。
「おっと、じゃれてる間にあいつらが宝箱のまで行ってしまった」
『(もう、じゃれてるなんて……) あらあら警戒心ないわね。絵に描いたような脳筋パーティーだわ』
「あ、一応言っておくけど、お前のモノローグも全部見えてるよ」
『!』
秋は真っ赤になる女神を置いてボス部屋に入った。お宝に集中している探索者たちは秋の侵入に全く気付いていない。
そして部屋内の表示は秋の侵入で表示内容に変化があった。
出現条件=宝物の持ち去り
出現怪物=悪魔“虚無の手”、“龍の腕”、悪魔“火花の拳”、下級悪魔12体
ありゃ、えらいのが出たきたな。
秋が苦笑いを浮かべていると、探索者達が宝を持ち出しはじめた。そうするとデロデロとした音が鳴りはじめ、出口に悪魔が次々と出現した。
おお!
秋は懐かしいRPGでも楽しむようにボスモンスターの出現を拍手で出迎えた。
探索者達はその音で一斉に振り返って驚いた。
そこには見たこともない高レベル悪魔が出現し、それを鎧武者が拍手で出迎えているのだ。鎧武者の後ろには発光する薄着の女まで見える。きっと淫魔とかいう下品な悪魔に違いない。
『んー…。なんだか、とても失礼なことを言われてる気がするんだけど』
「まあ、知らぬが花かな」
秋の目には探索者達の心の声も表示されている。とても女神には言えない罵倒が見えたが、色々と面倒なので伝えないことにした。
「お、お前達はなんだ?!」
凛々しい美人聖騎士バルヴェニーが秋達に声をあげた。どことなくバルブレアに似ている。
「お!」
バルヴェニーの後ろでは、心配そうに聖騎士を見詰めている若い僧侶が見える。少しひ弱そうだが間違いない。彼が“到達者”だ。
秋はすぐさま僧侶タリスの前に移動する。瞬間移動の魔法ではなく、“終わりのダンジョン”で身につけた空間操作の応用だ。
「やあタリス。まあ、はじめましてだな」
「あ、悪魔め! 私の仲間に手を出すとこの戦槌が貴様を砕くぞ」
すぐさまバルヴェニーの声がピリリと飛んだ。その声にタリスの頬には朱がさす。
「いい女だなタリス。…今度は壊されないようお前が守ってやれよ」
秋はタリスの肩を掴みウインクした。
タリスは急に身体が熱くなり大きな力がタリス流れるのを感じた。
『(あら? 吸ったり与えたりする力も身に着けちゃったの?)』
「(いや俺が触れた真理は“時間操作”と“空間操作”だけだ。時間の経過はないけど、ちょっと彼とパーティーを組んでレベルを50ほど上げてきたんだ)」
『(それで記憶だけ戻したのね。無茶するなあ)』
心の会話を交わしているうちに悪魔達がバルヴェニー達に襲いかかってくる。
秋は“虚無の掌”の前に立ち、残りはタリスに任せることにした。
「タリス。落ち着いて魔法を使え」
「え? ええ?!」
タリスは混乱した。何故か目の前の男を自分は知っている。そしてどうしてか分からないけど、自分は白魔法や戦い方を知っているのに気付いた。
「壁!!」
襲いかかる悪魔達を透明な壁が阻んだ。見えない壁は次々と立ち並び、全く身動きがとれなくなった。
GRAAAAA!!!
“虚無の掌”は声をあげると、自慢の腕で透明な壁を切り裂く。
?!?
だがその腕は空間を裂くことができず、ただ空を切るのみであった。
「空間操作だよ。もうお前はただの長老だ」
秋は“虚無の掌”に干渉しその空間を引き裂く能力を打ち消していた。
『いけません!!』
そこに強烈な光を放ちながら女神が現れる。
『その者達は死すべき運命』
『(何、気取ってんのよベル公)』
『(バランタイン!? なんでここに!? あなたの管轄は遠方の…)』
『(ごちゃごちゃ言ってると、隠れて何をコレクションしていたか皆にバラすわよ)』
『(え? え!? 何で知ってんの? ええー??!)』
硬直している女神を見て秋は苦笑いを浮かべた。淫魔が増えたとかの文字が見えたからだ。
「さあ、いけタリス! お前の力で斃してみせろ」
「悪魔祓!!」
カッ・・・!!
強烈な光を放つ球がタリスから発せられる。悪魔祓が生み出した光球はゆっくりと悪魔達に近づき、その存在を祓っていく。
GYAAAAAA!
GHRRRRRR!
タリスの力に押し負け悪魔達は元の世界へと戻されていく。
だが、表示される文字を見ながら秋はしかめっ面をしていた。
「(悪魔達の世界に戻るだと? またプルトニー達に付き合ってたら、再会しちゃうんじゃないだろうか)」
そんな渋い顔をしている秋とは対照的に、バルヴェニーは驚いた表情でタリスを見詰めていた。信じられないといった表情だ。
「あなた、そんな凄い力を隠していたの?」
その熱い視線にタリスは身を震わせた。これっていけるかも??
「ま、今まで黙ってたんだけど。バルヴェニーがピンチだったから」
仲間そっちのけで二人は自分達の世界を築いていた。
まあ探索者にとって“高レベル”というのは魅力と感じる大きな要素だ。脳筋そうだし50レベルも盛っておけば、十分過ぎる効果があるだろう。
『なんか納得してる様子だけど、私達、敵認定されてるんじゃなかったかしら』
「! そうだったな。 じゃあ我々もターンされようか」
『ええ? なんで私まで祓われる設定なんですか? 私、ここの女神なのに!』
『まあ女神やっていると色々体験するのよ。いいから来なさいベル公!』
『ええ! 勝手にこのこ達の死亡フラグまでとっちゃって! 私、怒られる~』
“やいやい”言いながら消えていく鎧武者と淫魔達。仲間割れでもしたのだと探索者達は納得した。悪魔も調伏したし、後の心配はお宝を運ぶだけだ。
「…思い出せないけど、お世話になりました」
タリスはモヤモヤとした思いを抱きつつも、まるで戦女神のように輝くバルヴェニーーを独占していることに満足していた。憧れを遂に手にしたのだ。
…長くなったので前後編です




