第44話 闇の最終楽章2
「何故騙されるのか」これは遠い昔から続くテーマだ
解決する筈もないのだが度々取り上げられ大騒ぎになる
真似できないが騙されても気にしない生き方を選ぶ者もいる
「しかし槍使い殿。決戦に臨むというに、その出で立ちでは心もとないな。私の鎧を着けてはどうだ?」
敵の総攻撃を前にして蓮花は秋を気遣う。実質的な中心は秋だと判断したらしい。
その蓮花は手から腕、背中までタイタンスライムが密着し、外骨格かアシストスーツのようになっていた。
「そのなりでは鎧は着れないよな。せっかくだし着させてもらおうか。一度は鎧を着てみたかったし」
秋が身に着けている槍術は僧兵が編み出したものだが、鎧兜を身に着け合戦で使用することを前提としている。甲冑の重さに耐えるため腰を低くし、槍裁きで相手を制するのだ。
「あいにく兜はないが面頬をつければ、立派な武者姿となるであろう」
蓮華が道着に袴姿の秋の後ろに回り、脛当をつけ、胴は脇楯を当て腰ひもを結び、下から上へと順に鎧を装着していく。
最初はその様子に妬いていたバルブレアだったが、秋の武者姿が見たいのか大人しく様子を見詰めていた。
「おお! なんと凛々しいのだ これはたまらん!」
装着が終わった秋が振り返ると、肩を守る大袖が光を反射し、若武者姿を際立たせていた。
「…………」
バルブレアはいつも通りに興奮を隠さない。スキャパは言葉が出ない様子だった。
「どれ、みなの反応は上々じゃな。さて……妾はこれから、死霊使い殿にひとつ魔法をかけるぞ」
意味深な視線をスキャパに送りつつプルトニーは大仰な仕草で魔力を集め出した。
「しばらく形相や口調が変わってしまうやも知れんが、魔法のことゆえそういうものだと思うて欲しい」
「(……な、何を言い出すのだ?!)」
「(大丈夫じゃ、妾の魔法ということにしておけばよい。おぬしの力を発揮せねばあの数に対抗できぬ。想い人も死ぬぞ)」
「(……本当にバレないか?)」
「(……おっと! 言い忘れておったが口調は明るくするのじゃぞ? 別人になりきれば大丈夫じゃ)」
「(……ちょ、ちょっと待て!)」
「さあ、魔法をかけるぞ! 魔族の力をそなたに授けん! 紅き瞳よ!!」
プルトニーの魔法で周囲に炎の魔方陣が形成された。仕方なくスキャパはこの魔方に合わせ、魔族の力を解放する。
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瘴気のような黒い魔力が膨れ上がり、その奔流がスキャパの長い髪を逆立たせる。瞳は紅く輝き、頭部には山羊のような角が現れていた。
「おお!? さきほどの死霊使い殿の力は女魔法使い殿の魔法によるものであったか! さもあろう、これは凄い魔法であるな!」
バルブレアは予想通り、目をキラキラさせながらスキャパの変化を見詰めている。問題の秋はというと腕を組んでその様子に感心していた。
「なんだ凄いじゃないか」
騙せたかどうかは分からない。だが、プルトニーはそれで押し切る気満々だった。
「さあ、先ずは妾からじゃ。隕石招来!」
プルトニーの魔力が空に集中すると、一瞬おいて真っ赤に燃え上がる隕石の姿となった。
「食らうがいい」
さらに大きくなった隕石がオークの群れに直撃する。轟音とともに炎と土煙が舞いあがり、大地はグラグラと揺れた。
「ほれ死体じゃ。存分に使うがいい」
プルトニーが言うが早いか、隕石の衝撃で飛び散ったオークの死骸が何十も空から降ってきた。
「蘇生!!」
プルトニーの黒い魔力が触れると空中を飛ぶ死体は一斉に蘇り、意志を持たない戦士となった。さらにはスケルトンも次々と召喚され、まるで魔王軍のような一団を形成していく。
「(だめじゃだめじゃ、もっと可愛く明るく言わんか!)」
「(ええ~?!)」
プルトニーは楽しそうに笑みを浮かべ少女のような小さい身体を震わせた。
◇
「おおう! あれはムチムチじゃないか。これはいい眺めだな!」
死呪士の視線は沸き出すように増える死霊の軍団ではなく、ムチムチしたスキャパのボディーラインに注がれていた。ほとんど千切れた法衣はまるで黒いビキニのようだ。死呪士でなくても男の視線は釘付けになるだろう。
「そんなにムチムチっていいの?」
「プーカにはまだ早いだろうが、そりゃあいいもんだぞ! もう少し大きくなったら、おじさんがいい店へ連れていってやるぜ」
「きっとだよ。楽しみにしてる」
プーカが右手をあげると巨体が進軍を開始する。大きな単眼に青い肌。サイクロプスの群れだ。
「おっとプーカ! あのムチムチには手を出すなよ。おじさんの得物だからな」
「ごちゃごちゃになったら誰が誰だか分からないよ」
「それもそうだな。うーむ」
死呪士は腕組みしたまま首を傾げて真剣に悩む。“到達者”に出番は最後だと言われているのだ。
「ま、あれは俺への褒美なんだし、先に掠めとくかな。潰されちまったら“こと”だ」
ゾンビ達を残し、死呪士は死セル勇者だけを連れて姿を消す。プーカはさして気にした様子もなくサイクロプスに目を向けた。その目つきは暗示にかかっていたあの時の状態に戻っていた。
「ごちゃごちゃになるだろうなあ」
◇
女神は微笑を讃えたまま秋を見詰めていた。最終決戦を前にトーガを揺らすその姿は、まるで神話のシーンのようでもあった。
「(それ、いつまでやるの?)」
『(これが女神として普通なんですぅ。地だと思っているのが仮の姿なんですぅ)』
「(女神“デュワー”とか女神“ベル”とかはもっと“まっとう”に見えたぞ)」
『(そうやって男はみな騙されるんですぅ 見る目ないなあ! みな簡単に騙されるんだから)』
「(まあそれはいいや。問題は、勝利したら終了。負けても終了ってことだよな)」
『(何をもって終了かはともかく、このダンジョンも世界も終了よ)』
「(ふむ。それであいつは何で時間制限を設けたんだ? 時間なんて関係ないだろう?)」
『(案外、盛り上がるからじゃないかしら。競争が激化すればそれだけ強い毒になる筈だわ)』
「意外とお前、役に立つんじゃないか?」
秋の横柄な口調に周囲が驚き騒めいた。
『(ちょ、あんた声に出てるわよ!)』
秋は気にした様子もなく笑顔で親指を立てる。そして蓮華を振り返って言った。
「ありがとう蓮華。ここで子供達を守っていて欲しい。そして、残すところ1分になったら合図の矢を飛ばしてくれ」
「うむ。思いきり輝く矢を放とう。最期の瞬間までみなが全力を尽くせるよう」
秋の若武者姿に頬を染めつつバルブレアが肩に触れる。
「レンバ殿。いよいよだな」
「ああ。気の短い連中は既に魔法を撃ち始めているがな。さて、頃合いのようだし2人で突撃しようか。皆には支援をお願いする。少々、数が多いが気にしても仕方ない」
「おおよそ1000対50といったところかの。こりゃ笑うしかないわ」
プルトニーの呟きに“到達者”が笑みを浮かべて答える。
「いいや100000対50なのさ」
次回、最終話 光と調和の交響曲




