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第41話 意欲の即興曲

勝鬨で耳にするエイエイ(曳曳)!オー(応)!

曳は引っ張る様だが転じて掛け声となったのだろう

現代も槍を引く(しごく)際はエイと発声する。応じるものはないが


GRRRRRRR!


“龍の腕”の叫び声とも悲鳴ともつかない唸り声が響く。

スキャパの魔法で“蘇生”された“霜の巨人”や探索者達、そしてスケルトンが四方八方から襲いかかり、さしもの“龍の腕”も圧倒されていた。剛腕で2~3の相手を倒そうが、その腕にとりつかれ、槍で突かれ、動くことも出来なくなっていた。やがて地に膝をつきその身を横たえる。磨り潰すような死者達の連続攻撃で、遂に“龍の腕”は討取られることとなった。


だが、蘇った探索者達は勝鬨(かちどき)をあげるでもなく次の指令を待ち身構えている。そこには興奮も勝利の余韻もない。炎に照らされ、ただ静かに目だけを光らせている不気味な光景となった。


「まいったのじゃ。このままでは探索者どもに“敵認定”されてしまう。いや、もう手遅れかも知れんが、“淫乱”にまで敵認定されるのは敵わん」


プルトニーはスキャパを見てもう一度ため息をついた。

あれだけの強敵を倒したというのに一瞥もくれておらん。視界に入らんくらいの雑魚扱いじゃな。大体、これだけ頭に血を昇らせておるというのに、“変態”の方は全くその自覚がないという…。


……ん? 自覚がないじゃと?


「おぬし、結ばれたと言うたが、どう結ばれたのじゃ?」


「おお! 女魔法使い殿も聞きたいか?!」


バルブレアはこの非常時にも関わらず声を弾ませて応えた。言いたくて仕方なかったという様子だ。


「そう、私はレンバ殿を庇って敵の罠に落ち、石になってしまったのだ。もう、一巻の終わりだと思ったぞ。それで、思い切って愛を打ち明けたのだ」


いや、おぬしは毎日、告白しとるようなもんじゃったろ……。

そう思ったが、話の腰を折らないようプルトニーは耐えた。ちなみにバルブレアの話は、出だしから事実誤認しているが、そこまでプルトニーには分からない。


「石になろとするこの身をレンバ殿は強く抱きしめてくれたのだ。 おお! “天にも昇る”とはこのことかと思ったぞ」


バキッ


スキャパの握る骨の槍が2つに折れた。どうやら、バルブレアの話が耳に入ったようだ。

より殺意が高まるかも知れんが、話が気になってしばらくは手も止まるじゃろう。そうなれば儲けものじゃ。そう考えてプルトニーは話の続きを求めた。


「そ、それでどうなったのじゃ?」


「それが、どうにもならなかったのだ」


「は?」


「不思議と石にはならず、私はずっと抱きしめられていたのだ。聞けば一度、私は石化してしまったらしい。それをレンバ殿は、数々の強敵を討ち果たし、遂に私を救ってくれたらしいのだ。そ、そして……」


「そして……」


「そして、混乱して暴れる私の口をレンバ殿が…唇で塞いだのだ。 嗚呼! もう、無理矢理奪われるようで、たまらん。思い出しても燃えてしまう!」


「さ、さすが“変態”じゃ。それでどうなった?」


「? だから、このようにして結ばれたのだ。 もう夢のようであった。 だがレンバ殿は、あれからまともに顔を合わせてくれないのだ。…何故だか分かるだろうか?」


「……え?」


「だから、レンバ殿というか、男心がよく分からなくてな。女魔法使い(ソーサレス)|殿もレンバ殿のことを思っていたのだろう? 先を越した身で申し訳ないとは思うが、ここはひとつ乗りかかった船と思って教授してはくれんか?」


争っておるのは妾ではなくそこで激昂しておる馬鹿女じゃ。プルトニーは心の中で、今日、最大のため息をついた。


「いい大人が結ばれたとかいうから……」


「お、大人がなんだ?」


“大人”という言葉に反応しドキドキしているバルブレアを無視し、プルトニーはスキャパを見て優しく言った。


「“同志”殿、聞いておったのだろう。しょせんはこやつの“自覚”に過ぎん。ほぼ進んでおらんから、落ちつくがいいじゃろう。それより、今の姿を見られたら百年の恋も醒めてしまうぞ」


硬直しているスキャパの瞳から紅い光が失せていた。力が抜けた様子だ。


「して、アドバイスは?」


「……口を開かんことじゃ」





魔物使いのロイグは慌てていた。自慢のタイタンスライムを“虚無の掌”に差し向けたところ、一瞬で千切られてしまったからだ。タイタンスライムは、表皮をとんでもなく硬質化させることができる。魔法はともかく、物理的な攻撃に対しては無敵だ。それが、紙風船のような扱いだった。


「は、早く戻っておいで」


幸いスライムなので、空間ごと削られようが、残っている部分があれば生き残ることができる。

ロイグは早く戻るようタイタンスライムに指令を出す。だが、矢を射かけられた“虚無の掌”は狂ったように暴れ、周辺の空間ごとスライムが削られていく。


「ああ……!」


悲鳴をあげてロイグは膝をついた。もうダメだ。誰も助からない。あんなのに絶対勝てない。そう思って俯いてしまった。


GRRRRRRRRR!


目を開けると、自分の目の前に“虚無の掌”の姿があった。


「ひい!」


思わず悲鳴がこぼれた瞬間、和風鎧に身を包んだ凛々しい娘が現れ、“虚無の掌”に刀を突き立てた。なんと華のある娘だろう。名は蓮華とか言ったか。

そう思った瞬間、ドバッと血飛沫があがり、ロイグは何も見えなくなってしまう。血が目に入りパニックになって声をあげてしまう。

その時、誰かが自分の手を引っ張ってくれているのに気がついた。それを頼りにロイグは少しずつ後ろに這って逃げた。


しばらくすると、涙で目に入った血が流れ、ぼんやりと周囲が見えるようになってきた。


驚いたことに、先程の和風鎧の娘が両手を失い倒れている。なんてことだ!

慌てて自分の手も見てみたが無事だった。いや、何やら半透明の物体がからみついている。


「……俺の手を引っ張ってくれたのはお前だったのか」


人の腕ほどにまで小さくなったタイタンスライムがピョコっと身を折り、ロイグの声に答えた。

こんなになってまで自分を守ってくれたのだ。


「おい、お前は動けそうだな。この娘を頼んでもいいか?」


いつの間にか女暗殺者(アサシン)が現れ、蓮華の止血をしている。こちらも黒髪の美人だ。だが発する雰囲気は刃物のような冷たさがある。迫力があり過ぎて正直、怖い。


「は、はい!」


力強く答えたつもりだったが、震えていて声もよく出なかった。

女暗殺者(アサシン)はトンっと背中を叩く。そして冷たい視線をロイグに注ぎながら立ち去って行った。背中にナイフが刺さっていないか恐る恐る確認したが、何もなく大丈夫だった。


「う……」


呆けていると蓮華が呻き声をあげた。平時なら良からぬ妄想をしそうな色っぽい声だが、それどころではない大怪我だ。止血はされているものの綺麗な顔が真っ青になっていしまっている。どうしよう?!


「だ、大丈夫ですか?」


「かたじけない。 情けない話だがうまく動けぬ。 私の弓を代わりに引いてくれぬか?」


「そんな大ケガしてるのに何言ってるんですか?!」


「全滅するとなれば、そうも言うておれんだろう」


ロイグは驚いた。自分の歳の半分ぐらいだろうに、この娘の精神は実にしっかりとしている。ふらふらとした自分より年上のようだった。気付けばロイグは蓮華に言われたまま、転がっている弓を拾ってきていた。


「やつの注意を引くだけでいい。 味方の活路をつくるのだ」


ロイグは試しに弓を引いてみたが、弦が重すぎてビクともしない。こんな細い身体をしていてどういう膂力をしているのだこの娘は。

その蓮華は小さく震えている。相当痛いのだろう。しばらく考えた挙げ句、ロイグはタイタンスライムを腕代わりに引かせてみることにした。そうしたところ・・・。


キリキリキリ


「おお、器用なものだ。流石は魔物使い殿だな」


蓮華に褒められ思わず赤くなるロイグ。なんだか胸が熱くなる。それが良かったのか、いいアイデアが沸くきっかけとなった。


「そうだ! ちょっと鎧を脱がせてもいいですか? 考えがあるんです」


いきなり鎧を脱がそうとするロイグに驚く蓮華。だが手がないことにはどうしようもない。


「腕をなくした女を手込めにするのか? せめて敵に矢を射てからにはしてくれぬか?」


「涙を浮かべて何言ってるんですか。さっきの女暗殺者(アサシン)が怖すぎてとてもそんなことできませんよ。いいから鎧を脱がせますよ」


「や… あ!」


魔物使いに鎧を剥ぎ取られ、何をされるのかと蓮華は赤くなって声をあげた。




「おうおうおう! これは興奮するねえ! 若い娘を襲うってのはいい趣味してるぜ」


蓮華とロイグの姿を見て中年の男が興奮している。いつの間にか、後衛に混じり死呪士(ブードゥー)の姿があった。


「なあ、あんたもそう思うだろ?」


「あ? いや・・・」


こいつは誰だろう。そんな疑問を持つ盗賊の首に冷たい手が伸びていた。


「なんだ趣味が合わねえな。まあ、どっちでもいいか。もうやっちまいな」


いつの間にか増えていた荷物運び達が、盗賊の首をへし折っていく。その瞳に光はなく、身体には体温もなかった。死呪士(ブードゥー)が生み出したゾンビ達だ。


「おっと! 今回は殺しじゃなかったっけ。ついつい襲われる女を見て興奮しちまったぜ」


アードベッグ(プーカ)は訳が分からず戸惑っていた。いつの間にかゾンビが現れ、大人達を殺してしまった。そして死呪士(ブードゥー)が自分の前に立ちニヤニヤしている。


「ま、おじさんと来てもらおうか」





瘴気のような黒い魔力はすっかり失せ、スキャパの瞳はもとの黒に戻っていた。逆立ちかけていた髪もサラサラのストレートに戻り、幸い角を見られることもなかった。


「この馬鹿者が。危うく魔王退治になるところじゃ。大体、よく確かめもせず、何を逆上しておるのじゃ」


「……すまなかった」


スキャパは大人しくなり、頭を下げた。魔力も普通レベルとなってレイズの効果は失せ、“霜の巨人”達は元の死体へと戻っっていた。大幅な戦力ダウンとも言える。


「よいか、これは“貸し”じゃぞ。わらわの言うことを聞かねば、この“変態”を手にかけようとしたことをバラすからな」


「……分かった。それは勘弁して欲しい」


「ともあれ“同志”殿よ。あのやっかいな“長老”を斃さんといかん。ところがいつの間にかこちらの戦力はぐだぐだじゃ」


プルトニーは戦場を見渡して厳しい表情をした。


「我ら2人のほか戦力は、そこで罠を仕掛けておる女暗殺者(アサシン)ぐらいになったぞ。老戦士、弓使い、魔物使いは生きておるが、ほとんど戦力にならん。この“変態”も腑抜けてしまっておる。それに…」


「……それに?」


「またあの“しつこい”のが来ておる。支援係は全滅じゃ」


スキャパはあからさまに嫌そうな顔をした。


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